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ポガチャルのWツール制覇を考える(11)

2024-07-16 10:21:41 | ツール・ド・フランス
 ツール・ド・フランス2週目の最後を飾るピレネー2連戦。1回戦はポガチャルの勝利でヴィンゲゴーとのタイム差も2分近くまで開きました。第14ステージではUAEチームが完璧ともいえるアシストを見せ、ポガチャルの直感も加わり、アダム・イエーツの前待ちからヴィンゲゴーを振りちぎった。
 どうやらこれはチームの作戦では無かったようで、アダムは「いつものように集団先頭を牽引しようと思ったらタデイが「アタックしてくれ」と言ってきたので、「何っ?!」と思わず聞き返してしまったよ(笑)」と勝っているのです。チームの作戦はあくまでもヴィンゲゴーマークでタイム差を縮められないことで、チャンスがあればアタックもあるというものだったはず。そのチャンスをポガチャルが本能で作り出してしまったのです。

 ピレネーの2戦目は名峰プラトー・ド・ベイユ(距離15.8km/平均7.9%)の登りゴールで、世紀の名勝負が繰り広げられました。逃げとの差を2分33秒でプラトー・ド・ベイユを迎えた先頭集団はヴィスマが積極的にハイペースで引き、登り早々でUAEのアシスト達が次々と千切れていきました。総合4位のアルメイダもポガチャル等の集団から遅れて行きます。もう、ポガチャルのアシストはアダムだけ。ヨルゲンソンが速いペースを刻む集団は6名に。残り10kmでヴィンゲゴーが初めて先にアタックするもポガチャルはシッティングのままぴったりマーク。後続をどんどん引き離して行きました。

 ヴィンゲゴーは長い登りなら自分の方に分があると考えたのか、全く振り返ることなく走り続けます。あっという間に逃げたメンバーに追いつくと、それに食らいつけたのはカラパスだけでした。東京オリンピックの金メダリストのカラパス。昨年はエースをまかされながら初日の落車でリタイヤしてしまった悔しさを今年は力に替えているように見えます。前日のベン・ヒーリーといい今年のEFは絶好調で、並みの選手が相手ならステージ連勝していても不思議ではない走りなのですが、今年のビッグ2の強さは異次元です。
 淡々と前を牽き続けるヴィンゲゴーが残り5.4kmで初めて後ろを振り返った瞬間にポガチャルがアタック。これまでのようなキレのあるアタックではなかったものの、ヴィンゲゴーとのタイム差は徐々に開いて行きました。この日ゲストの小林海選手が「ちょっとジャブを打ってみようとしたら、差が開いてしまったのでは」と言っていましたが、流石全日本チャンピオンだと思わせてくれました。初日の新城幸也選手といい、14ステージの留目選手といい、世界を知る選手たちのコメントは一味違います。

 単独になったポガチャルは10%近い勾配をフロントアウターで脚を回し続けていました。結果、これまでのマルコ・パンターニのプラトー・ド・ベイユの登坂記録(43分28秒)を3分半更新(39分58秒)してしまうのです。この記録は1998年にパンターニがジロとツールのWツールを達成した年の記録でした。
 パンターニはピュア・クライマーで、山だけでタイムギャップを作り出しジトやツールを勝っていったのですが、ポガチャルやヴィンゲゴーはTTも速いオールラウンダーなのです。ヴィンゲゴーも1分8秒遅れでしたから、彼もパンターニの記録を更新しているのです。最初の5kmはアシストのハイペースでの牽引があったものの、残りの10kmはこの2人、最後の5kmはポガチャル単独でこの記録ですから、まさに異次元の端だったといっていいと思います。
 この走りで、グルペット集団もタイムアウトギリギリでなんとかゴールすることになってしまいました。ツールの最多勝利数の新記録を作ったカベンディッシュは疲労困憊で何とか次の週も走ることができました。
 昨年は2週目を終え、マイヨジョーヌはヴィンゲゴーでポガチャルは10秒差の2位でしたが、今年はポガチャルがマイヨジョーヌで2位ヴィンゲゴーとのタイム差は3分9秒。昨年は休養日明けのステージでタイムを大きく失ってしまったポガチャルですが、同じ失敗はしないはずです。むしろバッドデイはヴィンゲゴーの方に来るかもしれません。
 小林海選手が言っていたことで印象に残るものがありました。それは「ポガチャルはジロをツールの調整に使っていたのでは」というものでした。確かにジロの前半でポガチャルは何かを試そうとしていたように感じ、このブログでもそう書いています。小林選手はそれを「あまりコンディションを上げずにジロに入り、前半から積極的に動いて、調子を上げて来たのでは」「ジロからツールまでに練習で使える時間はあまりないので、今使える時間をジロで使ってしまって、その後はしっかり休養に当てツールに入ろうと考えていたのでは」といった感じを受けたと言っていましたが、ジロを調整に出来ているのだとすれば、Wツール制覇の理想形でしょう。
 それが事実だとすれば、これまでこんなことを実践した選手は勿論、考えたことがある選手もほとんどいなかったはずです。今は亡きパンターニの心境は想像することせんが、パンターニが母国最大のレースを調整に使うとは考え辛い。こんなことを考えるとすればポガチャルしかいないのではと思ってしまうキャラではあります。
 順調に見えたポガチャルのスケジュールもツール開幕2週間前に新型コロナに感染して崩れてしまいました。1週目は慎重に走らざるを得なくなったのではないでしょうか?2週目に入っても補給を誤ってゴールスプリントでヴィンゲゴーに屈することになったのです。ただ、これで気持ちが切り替わったのでしょう。「ミスをすれば負ける」ことを再認識しスイッチがオンになったポガチャルはやはり強かった、ピレネーの山頂ゴールを連勝しヴィンゲゴーに2分半ほどのタイム差を築くことに成功します。
 昨年のことを考えるとポガチャルの3週目を不安視する声があるのも事実ですが、今年は怪我明けはヴィンゲゴーの方で、アシストの力もポガチャルの方が上なので、3分を越えるタイム差は大きいと思います。ヴィンゲゴーという存在がなければポガチャルはあっさりツール5連覇を成し遂げていたはずです。ただ、ヴィンゲゴーというライバルがポガチャルをより強くし、この歴史的なステージを作り上げたのでしょう。
 休養日の記者会見で「レース後に自分も出力値を確認したらクレイジーな数字が並んでいたよ。特にヨルゲンソンの牽引からヨナスがアタックした時の数値は、僕の選手人生で最も高いものだった」と語ったポガチャル。昨年の個人TTではヴィンゲゴーが「サイコンが壊れていたのかと思った」というほどのパワーで走り切っていた。この二人が真剣にバトルをすると異常なまでのパワーが記録されてしまうようです。
 ヴィンゲゴーも怪我が無くクスを欠くことがなければ3連もあったはずですが、この二人の個の力差は本当に紙一重です。今日からの3週目はアルプスに入り、最後に距離のあるTTが待っています。今日の第16ステージは最後の平坦コースになるので、総合勢は動かないでしょう。ただ、獲得標高が4000mを越える第19・20ステージは頂上ゴールの厳しいもので、最終日が個人TTと見所満載です。
 第15ステージでヴィスマが全力で挑みかかったステージで逆にタイム差を付けられたヴィスマに新たな戦術が残っているのかが見所でしょう。ただ、最後はポガチャル対ヴィンゲゴーのマッチアップがどうなるかでしょう。このまま指を加えてマイヨジョーヌをポガチャルに譲る気はヴィンゲゴーとヴィスマには無いはずです。ただ、ここで二人が脚を使い過ぎるとTTでエヴェネプールにしてやられる可能性も残されていますが、アルプスでエヴェネプールがどこまで耐えきれるかがカギになるでしょう。
 ここまで来ればどちらがツール3勝目を挙げるか、ポガチャルのWツールはあるのかではなく、この二人の熱いバトルを最後まで見届けたいと思うようになっています。僕自身パンターニの1998年の走りは見ていませんが、彼の登坂記録を破ったポガチャルとヴィンゲゴーによる新しい歴史の幕開けを目撃できることは間違いないでしょう。 
 




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