マスコミが城崎を取り上げだしたのはそれからしばらく経ってからだった。
家出した人の居場所を超能力で捜し当てたとかで俄かに注目を浴びだした。
名が売れ出すとあっという間にワイドショーなどの寵児なった。
マスコミが関わってきたことから紫峰も藤宮もさらに警戒を強めた。
透たち五人は殊更、城崎との接触を避けるよう心がけた。
透たちは久々に黒田のオフィスに集まった。
いつもと違うのはそれぞれ今付き合っている女性が同席していることだ。
透たちを直接口説き落とせないと判断した場合、城崎はその交際相手を的にして説得に乗り出す可能性もある。
今おかれている現状を女性陣にも知っておいてもらう必要があった。
年長の悟は同じ藤宮の京子、晃は赤澤の知美、透は貴彦の娘春花、隆平も同じく貴彦の娘夏海、雅人は岩松の真貴…それぞれ高等部の同級生や上級生である。
別に意図したわけではないが、五人とも慣習に従って同族或いは両一族の中から選んでいた。ひょっとしたらこれも危機回避教育の結果かもしれないが…。
「城崎はきっとまた僕らに接触してくる。
彼が近づいてきたら必ず障壁を張って他の者には知られぬようにすること。
何処からどんな情報が流れていくとも限らないんだから…。 」
いつもなら悟が仕切るところだが今日は珍しく透が仕切っていた。
「末端の連中は僕らのことを良くは知らない。
マスコミ受けするために嘘八百並べることだってあり得る。 」
「僕ら自身を護るのはそれでいいとして、末端の連中をどうするかだね。 」
悟が言った。同族とはいえ、ほとんど顔も知らない者たちである。
「しばらくはほっとくしかないよ。
自分で痛い目に合わないと分からないだろうからね。
城崎が失脚するまではこちらの話には耳を傾けないだろうし…。
僕らが動くのはそれからでいいさ…。 」
雅人が答えた。
「私もそう思うな。 下手に動けばこちらの身が危なくなる。
どうするかは状況を見て判断するしかないよ。
先走りして失敗すれば、宗主に迷惑が掛かるだけだからさ。 」
真貴もそれに同意した。
「説得だけでも出来ないかしら? 同世代なんですもの。 」
知美が言った。みんな一斉に首を横に振った。
「無理! 完全に城崎の考えにのめり込んでるんだから。 」
晃が答えた。
「でも…いざって時は助けてあげないと…それが上の役目だから。 」
隆平が遠慮がちに言った。
「宗主の計画の邪魔に成らない程度にね。 」
夏海が付け加えた。
「そうね。 足を引っ張ることだけは避けたいわ。 」
春花が夏海の言葉を受けた。
「わたくしは真貴さんと雅人さんの意見に賛成です。
その場の状況をよく見極めることが大切だと思いますわ。
どう動くにせよ…早まったことをしてはなりません。
そうですわね? 悟さん。 」
京子が悟に同意を求めた。
「そうですとも…京子さん。 」
悟は満足げに答えた。
両族の宗主がすでに配下の者たちを差し向けて問題回避に乗り出している以上、それを無視した勝手な行動は慎まねばならない。
ずるいようだけれどもしばらくは成り行きを見ながら身にかかる火の粉だけを払い落としていった方がいいと意見がまとまった。
「しばらく間があったけれどまた時々ここで会うことにしよう。
とは言ってもみんな忙しくてそうそう全員が集まれないだろうから、連絡をより密にしないといけないね。 」
そう言うと透は携帯を取り出した。
「何もなければ、『今晩は』だけ…報告があればその内容を一日に一度送信するよ。 悪いけど女の子たち送信してくれる? アドレス教えて。 」
みんなお互いに送信しあってアドレスを記録した。
毎日挨拶一言でもいいからできる限りメールし合うことを約束して黒田のオフィスを後にした。
仕事から帰ってくるなり食事もしないで眠ってしまった修の様子を見に笙子はベッドルームにやってきた。
修はぐっすり眠っていてとても起きそうになかった。
「可哀想に…よっぽど疲れているのね。 お腹空いてるでしょうに…。 」
「お屋敷じゃきっとよく眠れないんですよ。 あの人がいるから。 」
後ろからエプロン姿の史朗が言った。
笙子はキッチンへ戻ってきた。
「鈴さんのこと? うふふ…そんなことで眠れない人じゃないわ。
それより…問題は例の男の子ね。
ずいぶん有名になってきたらしいから油断できないわね。
親御さんはどうなさってるのかしら…? 」
「西野さんが探ってます。 藤宮の方でも動いてるんでしょ?
ねえ気にならないんですか? 返しちゃえばいいのに…。
笙子さんがだめって言えば済むことじゃないですか。 」
史朗は笙子を馬鹿にしたような長老衆のやり方が気に喰わなかった。
笙子だって内心面白くないだろうにずっと黙ったままだった。
その気になりさえすれば笙子にはすぐにでも長老衆を黙らせる権限を持っているのに未だに反撃しないのが不思議だった。
「史朗ちゃん…やきもちなの? 大丈夫よ。
修は手を出さないわ。 私がそうしなさいって言わない限りはね。 」
笙子は艶っぽい笑みを浮かべた。
「別に僕が焼いてるわけじゃありません。 雅人くんとも話したけれど…いくらいい人でもやっぱり不自然だから言ってるんです。 」
史朗は憤慨した。笙子はますます微笑んだ。
「そうねえ。 でも…史朗ちゃんや雅人くんのように一途な愛があれば自然に逆らっちゃっても何とか成ったわけでしょ?
修なんともなかったものね…。
もっと抵抗するかと思ったけど案外平気だったわね。 」
笙子にそう言われて史朗は赤くなって黙った。
「冗談よ。 ふたりとも何年もかかってやっと想いを遂げたんじゃないの。
修だって受け入れるのに抵抗がなかったわけじゃないのよ。
唐島のことがあるからよけいにね。
ふたりのこと本当に好きだから真剣に考えて決心したんだと思うわ。
だから慌てなくても大丈夫よ。鈴さんのこともどうすべきかちゃんと考えてるわ。
私も様子見の最中なの。 」
笙子は不満げに俯いている史朗の首を抱き寄せた。
史朗は思わずベッドルームの方を見た。
いつものことながら笙子は修がいようがいまいが平気でモーションをかけてくる。
修に見られる度に史朗は心臓が止まる思いなのに笙子は気にもしていない。
聞くだに悩ましい音や声を修がどう感じているのかは分からないが、史朗の本音としては修の目の前で自分に触れるのは極力避けて欲しかった。
案の定しばらくすると修がふらふらとキッチンの方に起きだしてきたので史朗の全身が凍りついた。
「修。 ご飯は? 」
そういう体勢じゃないだろう…と史朗は思うのだが、まるでかまっちゃいない。
「いらない…。 」
修も修で居間で戯れるふたりの姿には眼もくれず、水を飲むとお休み…と言いながら部屋に戻っていってしまった。
「笙子さん…お願いですから…もう修さんの前では…。
いくら公認でも…ひどすぎるもの。 僕…本当はつらくて…。 」
ぼそっと呟くように史朗は本音を吐いた。
「ごめんね。 史朗ちゃん。 そうよね。 こんなとこ見られたくないわよね。
修の恋人になっちゃったんだものね。 」
そういう話じゃないっての…と史朗はまた思った。
このちょっとずれ気味の夫婦に魅了されて離れられない自分も自分だけれど…。
岩松の家の近くの小高い所から見える夜景は結構綺麗で雅人と真貴は時々車でここにきて過ごした。
あれほど雅人の母親のことを貶していた岩松の長老も、雅人が後見の跡取りとなった瞬間から態度を変え、しかも近い将来、修の片腕として財閥を動かしていくひとりに成ると知ってからは下へも置かぬ扱いだった。
真貴との付き合いには何の障害もなく、かえって奨励されているようで薄気味悪かった。
「なあ…雅人…。 笙子さんがあんまり浮気するから、修ちゃんがあんたに走ったってのは本当? 」
真貴は雅人にはずけずけとものを言う。
「あほか。 関係ないよ。 笙子さんはいつでも修さんの女神さまだ。
めちゃ仲いいぜ。 」
雅人はそう言って笑った。
「まあ…あんたのことだからきっと修ちゃんを襲ったな。 驚いただろうなあ。
眼に浮かぶわ。 」
真貴が機嫌よくからからと笑った。
「図星。 さすが真貴…。 だけどおまえのことは襲った覚えはないぜ。
ちゃんと礼儀を尽くしました…つうか…僕の方が襲われたようなもんさ。」
真貴がまたからからと笑った。
「雅人…嫌だったら別れてあげるよ。 ん…? 」
雅人は苦笑した。そういうところ笙子さんにそっくりだ。
「おまえはきっと紫峰の女大将になるよ。 僕はそれが楽しみさ。 」
真貴は温かくて優しくて強い女だ。
紫峰の基盤を固めるのに相応しく大きな心の持ち主でもある。
雅人は紫峰家の柱となる自分の真貴との将来を秘かに思い描いていた。
次回へ
家出した人の居場所を超能力で捜し当てたとかで俄かに注目を浴びだした。
名が売れ出すとあっという間にワイドショーなどの寵児なった。
マスコミが関わってきたことから紫峰も藤宮もさらに警戒を強めた。
透たち五人は殊更、城崎との接触を避けるよう心がけた。
透たちは久々に黒田のオフィスに集まった。
いつもと違うのはそれぞれ今付き合っている女性が同席していることだ。
透たちを直接口説き落とせないと判断した場合、城崎はその交際相手を的にして説得に乗り出す可能性もある。
今おかれている現状を女性陣にも知っておいてもらう必要があった。
年長の悟は同じ藤宮の京子、晃は赤澤の知美、透は貴彦の娘春花、隆平も同じく貴彦の娘夏海、雅人は岩松の真貴…それぞれ高等部の同級生や上級生である。
別に意図したわけではないが、五人とも慣習に従って同族或いは両一族の中から選んでいた。ひょっとしたらこれも危機回避教育の結果かもしれないが…。
「城崎はきっとまた僕らに接触してくる。
彼が近づいてきたら必ず障壁を張って他の者には知られぬようにすること。
何処からどんな情報が流れていくとも限らないんだから…。 」
いつもなら悟が仕切るところだが今日は珍しく透が仕切っていた。
「末端の連中は僕らのことを良くは知らない。
マスコミ受けするために嘘八百並べることだってあり得る。 」
「僕ら自身を護るのはそれでいいとして、末端の連中をどうするかだね。 」
悟が言った。同族とはいえ、ほとんど顔も知らない者たちである。
「しばらくはほっとくしかないよ。
自分で痛い目に合わないと分からないだろうからね。
城崎が失脚するまではこちらの話には耳を傾けないだろうし…。
僕らが動くのはそれからでいいさ…。 」
雅人が答えた。
「私もそう思うな。 下手に動けばこちらの身が危なくなる。
どうするかは状況を見て判断するしかないよ。
先走りして失敗すれば、宗主に迷惑が掛かるだけだからさ。 」
真貴もそれに同意した。
「説得だけでも出来ないかしら? 同世代なんですもの。 」
知美が言った。みんな一斉に首を横に振った。
「無理! 完全に城崎の考えにのめり込んでるんだから。 」
晃が答えた。
「でも…いざって時は助けてあげないと…それが上の役目だから。 」
隆平が遠慮がちに言った。
「宗主の計画の邪魔に成らない程度にね。 」
夏海が付け加えた。
「そうね。 足を引っ張ることだけは避けたいわ。 」
春花が夏海の言葉を受けた。
「わたくしは真貴さんと雅人さんの意見に賛成です。
その場の状況をよく見極めることが大切だと思いますわ。
どう動くにせよ…早まったことをしてはなりません。
そうですわね? 悟さん。 」
京子が悟に同意を求めた。
「そうですとも…京子さん。 」
悟は満足げに答えた。
両族の宗主がすでに配下の者たちを差し向けて問題回避に乗り出している以上、それを無視した勝手な行動は慎まねばならない。
ずるいようだけれどもしばらくは成り行きを見ながら身にかかる火の粉だけを払い落としていった方がいいと意見がまとまった。
「しばらく間があったけれどまた時々ここで会うことにしよう。
とは言ってもみんな忙しくてそうそう全員が集まれないだろうから、連絡をより密にしないといけないね。 」
そう言うと透は携帯を取り出した。
「何もなければ、『今晩は』だけ…報告があればその内容を一日に一度送信するよ。 悪いけど女の子たち送信してくれる? アドレス教えて。 」
みんなお互いに送信しあってアドレスを記録した。
毎日挨拶一言でもいいからできる限りメールし合うことを約束して黒田のオフィスを後にした。
仕事から帰ってくるなり食事もしないで眠ってしまった修の様子を見に笙子はベッドルームにやってきた。
修はぐっすり眠っていてとても起きそうになかった。
「可哀想に…よっぽど疲れているのね。 お腹空いてるでしょうに…。 」
「お屋敷じゃきっとよく眠れないんですよ。 あの人がいるから。 」
後ろからエプロン姿の史朗が言った。
笙子はキッチンへ戻ってきた。
「鈴さんのこと? うふふ…そんなことで眠れない人じゃないわ。
それより…問題は例の男の子ね。
ずいぶん有名になってきたらしいから油断できないわね。
親御さんはどうなさってるのかしら…? 」
「西野さんが探ってます。 藤宮の方でも動いてるんでしょ?
ねえ気にならないんですか? 返しちゃえばいいのに…。
笙子さんがだめって言えば済むことじゃないですか。 」
史朗は笙子を馬鹿にしたような長老衆のやり方が気に喰わなかった。
笙子だって内心面白くないだろうにずっと黙ったままだった。
その気になりさえすれば笙子にはすぐにでも長老衆を黙らせる権限を持っているのに未だに反撃しないのが不思議だった。
「史朗ちゃん…やきもちなの? 大丈夫よ。
修は手を出さないわ。 私がそうしなさいって言わない限りはね。 」
笙子は艶っぽい笑みを浮かべた。
「別に僕が焼いてるわけじゃありません。 雅人くんとも話したけれど…いくらいい人でもやっぱり不自然だから言ってるんです。 」
史朗は憤慨した。笙子はますます微笑んだ。
「そうねえ。 でも…史朗ちゃんや雅人くんのように一途な愛があれば自然に逆らっちゃっても何とか成ったわけでしょ?
修なんともなかったものね…。
もっと抵抗するかと思ったけど案外平気だったわね。 」
笙子にそう言われて史朗は赤くなって黙った。
「冗談よ。 ふたりとも何年もかかってやっと想いを遂げたんじゃないの。
修だって受け入れるのに抵抗がなかったわけじゃないのよ。
唐島のことがあるからよけいにね。
ふたりのこと本当に好きだから真剣に考えて決心したんだと思うわ。
だから慌てなくても大丈夫よ。鈴さんのこともどうすべきかちゃんと考えてるわ。
私も様子見の最中なの。 」
笙子は不満げに俯いている史朗の首を抱き寄せた。
史朗は思わずベッドルームの方を見た。
いつものことながら笙子は修がいようがいまいが平気でモーションをかけてくる。
修に見られる度に史朗は心臓が止まる思いなのに笙子は気にもしていない。
聞くだに悩ましい音や声を修がどう感じているのかは分からないが、史朗の本音としては修の目の前で自分に触れるのは極力避けて欲しかった。
案の定しばらくすると修がふらふらとキッチンの方に起きだしてきたので史朗の全身が凍りついた。
「修。 ご飯は? 」
そういう体勢じゃないだろう…と史朗は思うのだが、まるでかまっちゃいない。
「いらない…。 」
修も修で居間で戯れるふたりの姿には眼もくれず、水を飲むとお休み…と言いながら部屋に戻っていってしまった。
「笙子さん…お願いですから…もう修さんの前では…。
いくら公認でも…ひどすぎるもの。 僕…本当はつらくて…。 」
ぼそっと呟くように史朗は本音を吐いた。
「ごめんね。 史朗ちゃん。 そうよね。 こんなとこ見られたくないわよね。
修の恋人になっちゃったんだものね。 」
そういう話じゃないっての…と史朗はまた思った。
このちょっとずれ気味の夫婦に魅了されて離れられない自分も自分だけれど…。
岩松の家の近くの小高い所から見える夜景は結構綺麗で雅人と真貴は時々車でここにきて過ごした。
あれほど雅人の母親のことを貶していた岩松の長老も、雅人が後見の跡取りとなった瞬間から態度を変え、しかも近い将来、修の片腕として財閥を動かしていくひとりに成ると知ってからは下へも置かぬ扱いだった。
真貴との付き合いには何の障害もなく、かえって奨励されているようで薄気味悪かった。
「なあ…雅人…。 笙子さんがあんまり浮気するから、修ちゃんがあんたに走ったってのは本当? 」
真貴は雅人にはずけずけとものを言う。
「あほか。 関係ないよ。 笙子さんはいつでも修さんの女神さまだ。
めちゃ仲いいぜ。 」
雅人はそう言って笑った。
「まあ…あんたのことだからきっと修ちゃんを襲ったな。 驚いただろうなあ。
眼に浮かぶわ。 」
真貴が機嫌よくからからと笑った。
「図星。 さすが真貴…。 だけどおまえのことは襲った覚えはないぜ。
ちゃんと礼儀を尽くしました…つうか…僕の方が襲われたようなもんさ。」
真貴がまたからからと笑った。
「雅人…嫌だったら別れてあげるよ。 ん…? 」
雅人は苦笑した。そういうところ笙子さんにそっくりだ。
「おまえはきっと紫峰の女大将になるよ。 僕はそれが楽しみさ。 」
真貴は温かくて優しくて強い女だ。
紫峰の基盤を固めるのに相応しく大きな心の持ち主でもある。
雅人は紫峰家の柱となる自分の真貴との将来を秘かに思い描いていた。
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