三左はトグロ捲く蛇のようにぐるぐると祈祷所の中を飛び回った。
新しい身体を求めて透や雅人に襲い掛かり、彼らの身体がすでに入り込めない状態にあることを知ると怒り狂って獣のように咆哮した。
一左の身体には結界が張られ戻ることもできない。行き場をなくした三左がふと扉の方に目をむけると、この状況でに何を血迷ったか、修の魂が外へと出て行くのが見えた。
三左はこれをチャンスとばかりに修の身体めがけて突進した。
「いけねぇ。修さんの身体が…。」
雅人が叫んだ。
「結界を張れ!大至急!」
透も大声を上げた。
急ぎ結界を張ろうとする雅人の力を弾き返し、三左はそのまま魂の抜けたその身体を奪い取った。修の身体に邪悪な魂が宿った。
しんと静まり返った祈祷所の中に三左の勝ち誇った笑いだけが響いた。
「やったぞ!とうとうやった!修の身体を手に入れたぞ!」
三左は狂ったように笑った。
「見ろ!この身体を…若くて美しい…。至高の芸術品だ…。おまえらなど屁のようなものだ!
でかいばかりで優雅さのかけらも無い木偶の坊や女のように華奢なガキとは大違いだ!」
三左は笑いが止まらなかった。他の身体ならともかくも絶対に手に入るまいと思っていた修の身体がいとも簡単に手に入ったのだ。
「あいつ。頭来るなあ。ちょっと前まで俺の身体狙ってたくせに。」
雅人が憤慨したように言った。
「まあまあ。おまえじゃ修さんには絶対適わないってことさ。…って僕もかよ!
僕は体型的にはそんなに変わんないぞ!」
透がむくれた。
どこかで修がくすっと笑ったような気がした。
途端、二人めがけてうねるような衝撃波が迫ってきた。すんでのところで笙子が楯になり、三左の攻撃を撥ね返した。
「何してるの!馬鹿なこと言ってないで三左を攻撃するのよ。」
二人が意識を集中する間もなく三左は立て続けに攻撃してきた。それはまだ目覚めない一左にも、一左を庇う黒田にも、そして次郎左にも容赦なく浴びせられた。笙子は、黒田が一左の回復に専念できるように三左との間に入って戦っていた。
「わしの正体を知っているおまえたちを皆殺しにしてしまえば、わしは修としてこの紫峰を支配できる。
紫峰だけではない。これから先は外の世界へも出て行ける。この身体さえあればな。」
三左のような化け物が外の世界を荒らしまわるようになったら、世の中とんでもないことになる。透も雅人も何とか態勢を立て直したいのだが、力の差があり過ぎて思うようにならない。
「雅人。あいつ。なんかパワーアップしてねえ?」
間断なく飛んでくる衝撃波を辛うじて避け、弾きしながら透が言った。
「当然さ。いままで祖父ちゃんの身体だったから無理が利かなかったんだ。
修さんの身体ならパワー全開。何も抑える必要ないし。」
取り敢えずは攻撃を避けるしかないと雅人は考えた。下手に攻撃して修の身体を破壊するようなことになったら大変だと思った。
二人が不思議だったのは身体を乗っ取られた修の魂が近くにいるはずなのに、何もせずにただ傍観しているということだった。頭を掠めたのは『修はひょっとしてわざと身体を明け渡したのではないか?』という疑問だった。
『何を考えているんだ?修さん。』
黒田は黒田で四苦八苦していた。三左の攻撃をかわしながら、一左の意識回復を図ろうとするが、まるで植物状態にでもなったように反応がない。
いままで何度も信号を送ってきたのにそれすら感じられない。
「次郎左叔父。まさかもうだめなのでは…?」
さすがの黒田も不安を隠せなかった。何しろ一左は高齢だ。
「いいや。一左は生きておる。微弱だが俺には命の灯が感じられる。」
たとえ蘇ったとしてその力を存分に発揮できるような状態かどうか。そのことも黒田にとっては心配の種だった。
ますます激しさを増す攻撃にふと子どもたちを見れば、案の定、何とか三左の攻撃を避けてはいるものの反撃を躊躇している。
そのためか笙子は黒田たちを庇う一方で二人を手助けしなければならなかった。笙子の反撃が三左の入っている修の身体をも痛めつけるたびに二人の困惑はさらに大きくなった。
「透!雅人!真面目に反撃しろ!」
黒田は怒鳴った。
「だって修さんが…!」
「修さんを殺しちゃうよ!」
二人は悲痛な声を上げた。
「覚悟の上のことだ。修の意志を無駄にするな!」
黒田は再び怒鳴った。二人は顔を見合わせた。
『覚悟の上…って。』
透の脳裏にある光景が浮かんだ。それは前修行のときの一番つらい思い出だった。
『もしも私が悪鬼となったら…私の魂を消滅…。』修のあの言葉…。
透の身体が震え出した。
「雅人…雅人。修さんは死ぬ気だ。」
「僕たちに…殺せと…?」
雅人も膝がガクガクしてくるのを感じた。
『本気かよ!それでわざと三左に…。自分の身体を檻にしたのか!』
二人に向かって修が微笑みかけたように思えて辺りを見回した。
一瞬を付いて三左の衝撃波が二人を弾き飛ばした。
「透!雅人!大丈夫か?」
黒田が駆け寄った。二人はぶつけた痛みに顔を顰めながらも起き上がった。
「そういうことなら…。」
透が言いながら申し合わせるように雅人を見た。透の表情が険しくなり、その瞳が獲物を狙う獣のように輝いた。
「やったろうじゃないか!」
雅人が頷いた。大きな身体から子どもっぽさは消し飛んで、いままさに戦わんとする軍神の様を呈している。
「宗主の責任とやら…を。」
その言葉に黒田は戸惑った。二人とも修の考えている以上に成長している。
それは親としては喜ぶべきなのだろうが。後は一刻も早く一左に目覚めてもらうより他ない。
「狙いはあくまで三左の魂のみ!」
「できるだけ短時間でいくぞ!」
二人は同時にGOサインを出した。
次回へ
新しい身体を求めて透や雅人に襲い掛かり、彼らの身体がすでに入り込めない状態にあることを知ると怒り狂って獣のように咆哮した。
一左の身体には結界が張られ戻ることもできない。行き場をなくした三左がふと扉の方に目をむけると、この状況でに何を血迷ったか、修の魂が外へと出て行くのが見えた。
三左はこれをチャンスとばかりに修の身体めがけて突進した。
「いけねぇ。修さんの身体が…。」
雅人が叫んだ。
「結界を張れ!大至急!」
透も大声を上げた。
急ぎ結界を張ろうとする雅人の力を弾き返し、三左はそのまま魂の抜けたその身体を奪い取った。修の身体に邪悪な魂が宿った。
しんと静まり返った祈祷所の中に三左の勝ち誇った笑いだけが響いた。
「やったぞ!とうとうやった!修の身体を手に入れたぞ!」
三左は狂ったように笑った。
「見ろ!この身体を…若くて美しい…。至高の芸術品だ…。おまえらなど屁のようなものだ!
でかいばかりで優雅さのかけらも無い木偶の坊や女のように華奢なガキとは大違いだ!」
三左は笑いが止まらなかった。他の身体ならともかくも絶対に手に入るまいと思っていた修の身体がいとも簡単に手に入ったのだ。
「あいつ。頭来るなあ。ちょっと前まで俺の身体狙ってたくせに。」
雅人が憤慨したように言った。
「まあまあ。おまえじゃ修さんには絶対適わないってことさ。…って僕もかよ!
僕は体型的にはそんなに変わんないぞ!」
透がむくれた。
どこかで修がくすっと笑ったような気がした。
途端、二人めがけてうねるような衝撃波が迫ってきた。すんでのところで笙子が楯になり、三左の攻撃を撥ね返した。
「何してるの!馬鹿なこと言ってないで三左を攻撃するのよ。」
二人が意識を集中する間もなく三左は立て続けに攻撃してきた。それはまだ目覚めない一左にも、一左を庇う黒田にも、そして次郎左にも容赦なく浴びせられた。笙子は、黒田が一左の回復に専念できるように三左との間に入って戦っていた。
「わしの正体を知っているおまえたちを皆殺しにしてしまえば、わしは修としてこの紫峰を支配できる。
紫峰だけではない。これから先は外の世界へも出て行ける。この身体さえあればな。」
三左のような化け物が外の世界を荒らしまわるようになったら、世の中とんでもないことになる。透も雅人も何とか態勢を立て直したいのだが、力の差があり過ぎて思うようにならない。
「雅人。あいつ。なんかパワーアップしてねえ?」
間断なく飛んでくる衝撃波を辛うじて避け、弾きしながら透が言った。
「当然さ。いままで祖父ちゃんの身体だったから無理が利かなかったんだ。
修さんの身体ならパワー全開。何も抑える必要ないし。」
取り敢えずは攻撃を避けるしかないと雅人は考えた。下手に攻撃して修の身体を破壊するようなことになったら大変だと思った。
二人が不思議だったのは身体を乗っ取られた修の魂が近くにいるはずなのに、何もせずにただ傍観しているということだった。頭を掠めたのは『修はひょっとしてわざと身体を明け渡したのではないか?』という疑問だった。
『何を考えているんだ?修さん。』
黒田は黒田で四苦八苦していた。三左の攻撃をかわしながら、一左の意識回復を図ろうとするが、まるで植物状態にでもなったように反応がない。
いままで何度も信号を送ってきたのにそれすら感じられない。
「次郎左叔父。まさかもうだめなのでは…?」
さすがの黒田も不安を隠せなかった。何しろ一左は高齢だ。
「いいや。一左は生きておる。微弱だが俺には命の灯が感じられる。」
たとえ蘇ったとしてその力を存分に発揮できるような状態かどうか。そのことも黒田にとっては心配の種だった。
ますます激しさを増す攻撃にふと子どもたちを見れば、案の定、何とか三左の攻撃を避けてはいるものの反撃を躊躇している。
そのためか笙子は黒田たちを庇う一方で二人を手助けしなければならなかった。笙子の反撃が三左の入っている修の身体をも痛めつけるたびに二人の困惑はさらに大きくなった。
「透!雅人!真面目に反撃しろ!」
黒田は怒鳴った。
「だって修さんが…!」
「修さんを殺しちゃうよ!」
二人は悲痛な声を上げた。
「覚悟の上のことだ。修の意志を無駄にするな!」
黒田は再び怒鳴った。二人は顔を見合わせた。
『覚悟の上…って。』
透の脳裏にある光景が浮かんだ。それは前修行のときの一番つらい思い出だった。
『もしも私が悪鬼となったら…私の魂を消滅…。』修のあの言葉…。
透の身体が震え出した。
「雅人…雅人。修さんは死ぬ気だ。」
「僕たちに…殺せと…?」
雅人も膝がガクガクしてくるのを感じた。
『本気かよ!それでわざと三左に…。自分の身体を檻にしたのか!』
二人に向かって修が微笑みかけたように思えて辺りを見回した。
一瞬を付いて三左の衝撃波が二人を弾き飛ばした。
「透!雅人!大丈夫か?」
黒田が駆け寄った。二人はぶつけた痛みに顔を顰めながらも起き上がった。
「そういうことなら…。」
透が言いながら申し合わせるように雅人を見た。透の表情が険しくなり、その瞳が獲物を狙う獣のように輝いた。
「やったろうじゃないか!」
雅人が頷いた。大きな身体から子どもっぽさは消し飛んで、いままさに戦わんとする軍神の様を呈している。
「宗主の責任とやら…を。」
その言葉に黒田は戸惑った。二人とも修の考えている以上に成長している。
それは親としては喜ぶべきなのだろうが。後は一刻も早く一左に目覚めてもらうより他ない。
「狙いはあくまで三左の魂のみ!」
「できるだけ短時間でいくぞ!」
二人は同時にGOサインを出した。
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