安倍首相が送り込んだ経営陣の発言が今話題になっています。口火を切ったのが籾井勝人氏。自分の会長就任の挨拶で「政府が右ということを左というわけにはいかない」といったことに始まり、会長を推薦する経営委員の百田尚樹氏や長谷川三千子氏が好き放題を言っています。中立の立場であらねばならぬはずが、とんでもない発言・・・・・
このことをファイナンシャル・タイムズがニュースとしている翻訳がありましたので転載します。
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安倍首相の介入でNHKの姿がぶれる
フィナンシャル・タイムズ(翻訳gooニュース)2014年2月5日(水)23:55
(フィナンシャル・タイムズ 2014年2月4日初出 翻訳gooニュース) ジョナサン・ソーブル東京支局長
もう何年も前からその人たちは、日本の公共放送NHKの門前でいつもやかましく騒いでいた。いろいろな右翼の末端組織が、公共放送の内容がリベラルに偏向しているとメガホンを通して抗議していたのだ。
自分たちこそが日本の愛国精神を守っているのだと自認する人たちは、いつもなにかしらNHKの放送に怒っている。NHKがもつたくさんのテレビやラジオのチャンネルを通じて放送される何かが、彼らの逆鱗に触れるのだ。それは戦争ドキュメンタリーだったり中国報道だったり。時には韓国のメロドラマでさえもが。
それが今ではこの人たちは、国の最高権力者を味方につけている。安倍晋三首相は(「日本のBBC」としばしば呼ばれる)NHKの役割をめぐって、激しい論争に火をつけてしまったのだ。保守派の安倍氏は日本の文化や教育に関わる組織・制度を改変しようとしていて、NHK経営委員会人事はその一環だという見方もある。
首相のこうした動きは先月末、裏目に出たように見えた。昨年12月にNHKの新会長に選ばれた元ビジネスマンの籾井勝人(もみい・かつと)氏がその発言の中で、第2次世界大戦中の日本軍による女性への性的虐待を大したものではなかったかのように扱うという、日本の保守派としてあまりに相変わらずの失態を重ねたのだ。
さらにこの発言と同じくらい物議を醸したのが、NHKの報道姿勢に関する籾井氏の発言だった。バランスのとれた報道がNHKの正式な責務であるはずなのだが、新会長はそれとプロパガンダをごっちゃにしているかのようなことを言った。NHKの国際放送において「政府が右ということを左というわけにはいかない」と述べたのだ。
この発言を受けてNHK内部からも、政府の不興を買うかもしれない報道を管理職たちが抑え込もうとしているとの指摘が相次いだ。NHKラジオで経済コメンテーターを長年務めていたエコノミストの中北徹東洋大教授は先週、番組を降板。教授によると番組で原発問題を取り上げようとしたところ、2月9日の東京都知事選に向けて原発の話は止めてほしいと言われたのだという。
原発問題は安倍氏の率いる自由民主党にとって気まずいテーマだ。2011年の福島第一原発事故を受けて国民の多くが原子力発電に警戒感を抱いている中で、自民党は原発継続を指示している。
元NHK記者で1990年代に研究者となり、NHKと政治家の関係についての著作もある川崎泰資氏は、何か言えばどうなるか分からないという空気が今のNHKの中にはあり、それが自己検閲につながっていると指摘する。
イギリス人のピーター・バラカン氏は、NHKや民放ラジオに番組をもつ日英バイリンガルなラジオパーソナリティーだ。バラカン氏も最近、東京都知事選が終わるまで原発に関する発言を控えるよう2つの番組のディレクターたちに言われたと、民放ラジオで発言。原発の話題を控えるよう指示したのがどの放送局のディレクターかは、明らかにしていない。
公共放送が政府の規制監督機関に圧力をかけられるのは、NHKだけの話ではない。オーストラリアの保守派を率いるトニー・アボット首相は先週、公共放送ABCが「地元チームに対する愛情」に欠けていると批判。似たような話でおそらく最も有名なのは、BBCによるフォークランド紛争報道を愛国的でないと批判した当時のサッチャー政権だろう。
NHKではもっと最近のBBCと似たような問題も起きていた。NHKは義務的に払われる受信料を財源としているが、職員による横領など身内のスキャンダルでも評判を落としていたのだ。そしてNHKの報道内容は保守や右翼だけでなく、リベラルや左派からも批判されていた。たとえば原発事故の際には、国民に警戒感を抱かせたり政府に恥をかかせる情報は放送を控えていると思われていた(今回騒ぎとなった籾井氏の発言についても、NHKが自ら報道するまでに3日かかった)。
しかし何よりNHKを揺るがしてきたのは、右派から向けられる政治的な敵意だ。安倍氏は以前にもNHKと対立した経験がある。朝日新聞によると首相は2005年、別の自民党政治家と共にNHKに圧力をかけ、戦時中の「慰安婦」に関するドキュメンタリーの内容を変更させた。同紙によるとNHKは、旧日本軍の「慰安婦」強制連行と性的虐待について昭和天皇に責任があるとする市民団体の「模擬裁判」の映像を、安倍氏らの要請を受けてカットしたという。安倍氏はこれを否定している。
安倍氏は昨年、複数の仲間をNHKの経営委員に任命したことで、籾井氏の会長就任の道筋をつけた。安倍人事で任命された経営委員たちの物の見方は、日本でまともとみなされる保守思想の限界を試す内容だ。経営委員のひとりで作家の百田尚樹氏は週末、都知事選の右翼候補のため公然と応援演説をした。その中で百田氏は、日本軍が南京で中国の民間人を大量虐殺した事件は「なかった」と断定。戦後の東京裁判は、広島などで連合軍が行なった日本人の「大虐殺」を「ごまかすための裁判だった」と述べた。
同じく安倍人事で経営委員となった長谷川三千子氏は新聞のコラムに先月、女性の社会進出が出生率を低下させたとして、女は家で育児をするのが「合理的」だと書いた(長谷川氏自身は大学教授として働きながら子供を育てた)。
籾井氏の発言が批判の嵐を巻き起こしたのを受けて、安倍氏は国会で先週、「籾井会長はじめNHK職員のみなさんには、いかなる政治的圧力に屈することなく中立公平な放送を続けてほしいと願う」と述べた。
安倍氏はさらに、日本の教育現場はリベラルすぎるという考えの持ち主で、そこにもまた手を入れようとしている。教育改革のため首相が設置した諮問機関・教育再生実行会議は、各地の教育委員会の弱体化を提案。これまた保守派が毛嫌いする日教組の組合員が教育委員会には大勢いるからだ。そこで首相の諮問機関は各都道府県の教育長の任命権を首長に直接与え、教育委員会の弱体化を提言している。
さらに安倍政権は先月、日本の領土問題についてより愛国的な論調での指導がされるよう、学習指導要領解説書を改訂した。新しい解説書には、領有権が争われている3カ所の島々(ロシアが実効支配する北方領土、韓国が実効支配する竹島、日本が実効支配するが中国と台湾が領有権を主張する尖閣諸島)について「我が国の固有の領土」と明記されている。
Finacial Times
このことをファイナンシャル・タイムズがニュースとしている翻訳がありましたので転載します。
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安倍首相の介入でNHKの姿がぶれる
フィナンシャル・タイムズ(翻訳gooニュース)2014年2月5日(水)23:55
(フィナンシャル・タイムズ 2014年2月4日初出 翻訳gooニュース) ジョナサン・ソーブル東京支局長
もう何年も前からその人たちは、日本の公共放送NHKの門前でいつもやかましく騒いでいた。いろいろな右翼の末端組織が、公共放送の内容がリベラルに偏向しているとメガホンを通して抗議していたのだ。
自分たちこそが日本の愛国精神を守っているのだと自認する人たちは、いつもなにかしらNHKの放送に怒っている。NHKがもつたくさんのテレビやラジオのチャンネルを通じて放送される何かが、彼らの逆鱗に触れるのだ。それは戦争ドキュメンタリーだったり中国報道だったり。時には韓国のメロドラマでさえもが。
それが今ではこの人たちは、国の最高権力者を味方につけている。安倍晋三首相は(「日本のBBC」としばしば呼ばれる)NHKの役割をめぐって、激しい論争に火をつけてしまったのだ。保守派の安倍氏は日本の文化や教育に関わる組織・制度を改変しようとしていて、NHK経営委員会人事はその一環だという見方もある。
首相のこうした動きは先月末、裏目に出たように見えた。昨年12月にNHKの新会長に選ばれた元ビジネスマンの籾井勝人(もみい・かつと)氏がその発言の中で、第2次世界大戦中の日本軍による女性への性的虐待を大したものではなかったかのように扱うという、日本の保守派としてあまりに相変わらずの失態を重ねたのだ。
さらにこの発言と同じくらい物議を醸したのが、NHKの報道姿勢に関する籾井氏の発言だった。バランスのとれた報道がNHKの正式な責務であるはずなのだが、新会長はそれとプロパガンダをごっちゃにしているかのようなことを言った。NHKの国際放送において「政府が右ということを左というわけにはいかない」と述べたのだ。
この発言を受けてNHK内部からも、政府の不興を買うかもしれない報道を管理職たちが抑え込もうとしているとの指摘が相次いだ。NHKラジオで経済コメンテーターを長年務めていたエコノミストの中北徹東洋大教授は先週、番組を降板。教授によると番組で原発問題を取り上げようとしたところ、2月9日の東京都知事選に向けて原発の話は止めてほしいと言われたのだという。
原発問題は安倍氏の率いる自由民主党にとって気まずいテーマだ。2011年の福島第一原発事故を受けて国民の多くが原子力発電に警戒感を抱いている中で、自民党は原発継続を指示している。
元NHK記者で1990年代に研究者となり、NHKと政治家の関係についての著作もある川崎泰資氏は、何か言えばどうなるか分からないという空気が今のNHKの中にはあり、それが自己検閲につながっていると指摘する。
イギリス人のピーター・バラカン氏は、NHKや民放ラジオに番組をもつ日英バイリンガルなラジオパーソナリティーだ。バラカン氏も最近、東京都知事選が終わるまで原発に関する発言を控えるよう2つの番組のディレクターたちに言われたと、民放ラジオで発言。原発の話題を控えるよう指示したのがどの放送局のディレクターかは、明らかにしていない。
公共放送が政府の規制監督機関に圧力をかけられるのは、NHKだけの話ではない。オーストラリアの保守派を率いるトニー・アボット首相は先週、公共放送ABCが「地元チームに対する愛情」に欠けていると批判。似たような話でおそらく最も有名なのは、BBCによるフォークランド紛争報道を愛国的でないと批判した当時のサッチャー政権だろう。
NHKではもっと最近のBBCと似たような問題も起きていた。NHKは義務的に払われる受信料を財源としているが、職員による横領など身内のスキャンダルでも評判を落としていたのだ。そしてNHKの報道内容は保守や右翼だけでなく、リベラルや左派からも批判されていた。たとえば原発事故の際には、国民に警戒感を抱かせたり政府に恥をかかせる情報は放送を控えていると思われていた(今回騒ぎとなった籾井氏の発言についても、NHKが自ら報道するまでに3日かかった)。
しかし何よりNHKを揺るがしてきたのは、右派から向けられる政治的な敵意だ。安倍氏は以前にもNHKと対立した経験がある。朝日新聞によると首相は2005年、別の自民党政治家と共にNHKに圧力をかけ、戦時中の「慰安婦」に関するドキュメンタリーの内容を変更させた。同紙によるとNHKは、旧日本軍の「慰安婦」強制連行と性的虐待について昭和天皇に責任があるとする市民団体の「模擬裁判」の映像を、安倍氏らの要請を受けてカットしたという。安倍氏はこれを否定している。
安倍氏は昨年、複数の仲間をNHKの経営委員に任命したことで、籾井氏の会長就任の道筋をつけた。安倍人事で任命された経営委員たちの物の見方は、日本でまともとみなされる保守思想の限界を試す内容だ。経営委員のひとりで作家の百田尚樹氏は週末、都知事選の右翼候補のため公然と応援演説をした。その中で百田氏は、日本軍が南京で中国の民間人を大量虐殺した事件は「なかった」と断定。戦後の東京裁判は、広島などで連合軍が行なった日本人の「大虐殺」を「ごまかすための裁判だった」と述べた。
同じく安倍人事で経営委員となった長谷川三千子氏は新聞のコラムに先月、女性の社会進出が出生率を低下させたとして、女は家で育児をするのが「合理的」だと書いた(長谷川氏自身は大学教授として働きながら子供を育てた)。
籾井氏の発言が批判の嵐を巻き起こしたのを受けて、安倍氏は国会で先週、「籾井会長はじめNHK職員のみなさんには、いかなる政治的圧力に屈することなく中立公平な放送を続けてほしいと願う」と述べた。
安倍氏はさらに、日本の教育現場はリベラルすぎるという考えの持ち主で、そこにもまた手を入れようとしている。教育改革のため首相が設置した諮問機関・教育再生実行会議は、各地の教育委員会の弱体化を提案。これまた保守派が毛嫌いする日教組の組合員が教育委員会には大勢いるからだ。そこで首相の諮問機関は各都道府県の教育長の任命権を首長に直接与え、教育委員会の弱体化を提言している。
さらに安倍政権は先月、日本の領土問題についてより愛国的な論調での指導がされるよう、学習指導要領解説書を改訂した。新しい解説書には、領有権が争われている3カ所の島々(ロシアが実効支配する北方領土、韓国が実効支配する竹島、日本が実効支配するが中国と台湾が領有権を主張する尖閣諸島)について「我が国の固有の領土」と明記されている。
Finacial Times
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