本文詳細↓
「ええ、そうね。彼を守ってあげることはできなかった。残された家族の慰めと、未来の標として海図だけはなんとか送り届けられたけど」
「……ああ、そうだ。僕はそのおかげで今ここにいる。どうして僕は消されなかったんだ? 僕だって知っていた。この世界がおかしなことを」
「それは君がこの天の火を掲げていたからよ。これは、私が落とした魔法の火。これがブロッケンたちに、君を私だと誤認させた。いくら私が疎まれていても、突然攻撃なんてされないわ」
「……だからひいひいおじいさんは消されてしまった。天の火がなかったから。僕は借りられた。だってフィレモンがそうしろって言ったから。僕はフィレモンを知っていた。夢の中でそう聞いたから。ああ、そうだ、アルディオス、シャンシャリアン、エストアム。僕の知らない名前。人間が住む街の名前。全部、外の世界の街の名前だったんだ。あの夢も、あなたが?」
「それはもしかして、他種族と相席できる夢のことかしら。だとしたら、私は何も知らないわ。その夢については、私も聞きたいぐらい。けど、だから君はこんなにも早く、無事にここに来てくれたのね。やっぱり君は、英雄にふさわしい人なのよ」
英雄。
『おめでとう。君はまたひとつ、英雄の高みへ登った』
仮面の魔術師の台詞がふいに蘇った。
「……アダム」