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「失望させてしまってすみません。……でもその代わりに、僕に英雄を生む手伝いをさせてください」
「…………え?」
彼女は振り返って僕をまじまじと見つめた。
「? 何を言っているのだおぬしは?」
すっかりいつもの通りに戻ったアダムも、僕の頭の上で両足をパタパタと動かした。
「僕はもう、この世界で何も知らなかった頃のようには生きられない。だから、僕を外の世界へ連れて行ってください。そこで見たこと、聞いたこと、感じたことを本にします。おとぎ話か日記か、分からないような不思議な本を」
「あの曾々祖父の真似をしようと言うのか!?」
ナイトウォーカーは首をかしげていたけど、アダムはアスキリオさんと直接会話しているだけあって、すぐに分かったようだった。
「僕はあの日あなたに会ってなかったら、ここまで絶対に来てなかった。故郷の町で死ぬまで真実を知らずに生きていた。英雄を生むには、そのためのきっかけが与えられなきゃいけないんです。
危険だからと消されてしまうかもしれないけれど、でも人間の誰か一人の手に渡ってくれれば、心に残れば、不思議に思えば、疑問に思えば、知りたいと思えば。それはきっと、いつか必要とされる英雄を生み育てる糧になる。
……そう思いませんか?」