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……いま、人間は誰も英雄を求めてない。それは、コスモス色の女の子が消された時に知っています」
「人間以外の全てが、この《世界》を今の楽園のままであることを望んでいる。それを邪魔しようとしたからその子は消されてしまった。他者の都合で消えてしまった命に怒りはないの? いずれやってくる混乱に君の親しい人やその子孫が巻き込まれることが怖くないの?」
すっと、知らず知らず握りしめていた拳を指差された。
「それはまあ……怒りも、漠然とした不安もあります。でも、求められてもいないのにあらゆる障害を切り拓いて行動するなんて真似、僕にはできません。僕の、そんな命をも焦がすような情熱は、あなたとの再会に全て向けてしまいました」
口に出すと少し気恥ずかしくて、照れ隠しのような曖昧な笑みがこぼれた。
「……そう、そうなのね。君は、恵まれ望まれた運命を拒もうというのね」
顔を深く伏せられ、影になって表情はうかがえない。でも、声は震えていた。それは憤りだろうか、それとも嘆きだろうか。
ナイトウォーカーは立ち上がり、僕に背を向けた。
このまま見送れば、《世界》の扉は閉じられ、二度と僕の前で開かれることはないだろう。だって僕は彼女を助けてあげられないから、彼女もこれ以上僕に関わる理由はない。でも、勝手だけど、僕だってあなたにそんな顔をさせたいわけじゃないんだ。