落語「まめだ」。
まめだ、とは仔狸の意。
京セラドームの会場内にコンサートのときなど店出ししてる「まめだ」というお稲荷屋さんのお稲荷さんは、
屋号のとおり、ちんまりとした可愛いお稲荷さんで、
わさび入りのがわたしは好きー。
【あらすじ】
大部屋役者の右三郎は、ある秋の日、道頓堀の芝居小屋からの帰り道、急な時雨に会い、
芝居茶屋で傘を借りる。
その傘をさして歩いていたところ、急に傘がずしっと重くなる。
すぼめてみるが、傘には特に異常はない。
再びさすと、また急にずしっと重くなる。
まめだ(仔狸)が悪さしてやがる、と気づいた右三郎は、
次に傘がずしっと重くなったとき、傘をすぼめず、そのままとんぼ返りしてみたら、
どこかに何かがたたきつけられたような音がして、「ギャンっ!」という声がしたかと思うと、黒い犬みたいなものがダーッと走って逃げて行った。
ところでこの右三郎、母親と二人暮らし。
母親は「元祖・びっくり膏」という打ち身によく効く軟膏を売っており、
その売り上げと、右三郎のお給金で、つつましく暮らしている。
まめだに悪さされた翌日、右三郎が家に帰ると、母親が膏薬と銭箱を前に考え込んでいる。
売り上げを勘定したら、一銭足りないという。
びっくり膏は貝殻に入れてあって、ひとつ一銭。
減った在庫の数×1銭が売上高で、間違えようもないのだが、何度数えても一銭足りず、銭箱に入れた覚えもない銀杏の葉が一枚入っているという。
次の日も、右三郎が芝居を終えて家に帰ると、膏薬の売り上げが一銭足りない。
一銭足りずに、銀杏の葉が一枚入っている。
そして、前の日もその日も、近所で見かけたことがない陰気な子供が膏薬を買いに来たという。
そういうことが何日か続いたあと、
右三郎が帰ると、やはり母親は考え込んでいる。
「もう、ええ加減にしいな、もおー。また思案してんのかいな」
「どう考えても不思議な」
「不思議なことあらへんがな。銭が一銭足らいで、銀杏の葉が一枚、入ってんのやろ」
「いや、今日はな、ゼゼがちゃんと
「…、不思議ななあ」
あくる日、近所の寺で、仔狸の亡骸がみつかる。
仔狸の亡骸は、体のあちこちに、貝殻を貼り付けていた。
貝殻は、右三郎の母親が商うびっくり膏。
あの時雨の夜、右三郎の傘から転がり落とされて怪我したまめだ。
打ち身に効くびっくり膏を買いに行ったまではよかったが、
畜生の悲しさ、使い方がわからず、体のあちこちにそのまま貼り付けただけだったため、
治るものの治らず、弱って死んでしまったらしい。
哀れさに、右三郎はお寺のお
右三郎と右三郎の母親とお寺の住職がまめだの亡骸に手をあわせていると、
境内を秋風が吹きぬけ、銀杏の落ち葉がまめだの亡骸に吹き寄せられる。
「おかん、見てみ。狸の仲間から、ぎょうさん香典が届いたがな」
【分岐点】
近所でみかけない陰気な子供が買いにきだしてから、
びっくり膏の売り上げが一銭足りず、かわりに銭箱に銀杏の葉が一枚入っているようになって、数日たった頃。
【贋作・まめだ】
その日は台風が来ており、雨風は激しくなる一方で、
右三郎は芝居小屋には行ったが、その日は興行はとりやめとなり、
小屋の補強などを手伝っただけで、昼前に右三郎は家に帰る。
家の近くで、こんな雨風の日だというのに、粗末な絣の着物を着た陰気な子供がとぼとぼ歩いている。
「おい、お前か? 毎日うちに膏薬買いに…」
と右三郎が話しかけた途端、飛び上がって逃げ去ろうとするのを、慌てて捕まえ、
こいつが犯人かとそのまま右腕に抱きかかえて家に帰り、
「おかんっ、毎日膏薬買いにきよる陰気なガキってこいつやろっ」
「…いや、買いにくるんは、まめだやのうて、人間の子供」
「そやからこいつ…、って、うっわーっ! まめだやんけーっっっ!!!」
抱きかかえたときは間違いなく人間の子供だったのに、いわれて見てみれば腕の中にいるのはまめだ。
毛皮はぐっしょりと濡れそぼち、体のあちこちにびっくり膏の貝殻が貼りついていて、ぐったりしている。
これ、あの晩のまめだや。
おれのせいで怪我してもうて、それで毎日びっくり膏買いにきよって、
そやけど畜生の悲しさ、膏薬の使い方がわからんと、貝殻のまんまあちこち貼り付けてよったんや。
気づいた右三郎とその母親はまめだの体を拭いてやり、貼り付いた貝殻をはぎとって、
打ち身の部分の毛を剃って、びっくり膏を塗りつけ、温めてやりながら、寝ずの看病をする。
なんとかまめだの命は助かり、
そのまま右三郎の家で養生させてもらい、
やがて人間の子供の姿に化けて一緒に夕餉の膳を囲めるまで回復する。
「よかった、ちゃんと治ったなあ」
「……びゅ」
「お前にも、親も兄弟もおるんやろ? 心配してはるで。
そこまで治ったらもういけるやろ」
「…みゅびゅ」
何度も何度もお辞儀して、まめだは右三郎の家を出て行く。
が、再びふたりきりになった母子ふたりの夕餉、右三郎の母親はしきりに寂しがる。
が、次の日、右三郎が家に帰ると。
「おかん、ただいまー。腹減っ……」
「おかえりー。あ、まめちゃん、ご飯粒ついてるでー。そうそう、そこそこ」
「…ぶびゅ」
母親とまめだが仲良く晩ご飯を食べていた。
「まめだ、お前、なんでおるねんーっ!」
人の姿には化けられても、人の言葉はちゃんと喋れないまめだから、
根気よく根気よく戻ってきた理由を聞きだしてみると、
家族はまめだが元気な姿で戻ってきたのを大喜びしたけれど、
狸界の掟で、受けた恩は七倍返ししないといけないと、恩返しに戻されたという。
再び、右三郎の家で寝起きするようになったまめだ、
家でこまごまと母親の手伝いをしていたが、
ある日、右三郎がなんか忘れ物をして、母親に頼まれて芝居小屋にそれを届けにくる。
ところがその日、子役が急に麻疹にかかり、小屋では代役を探していた。
で、まめだが急遽代役を務めることになる。
子役だてらにとんぼを切ったりするような子役が出てくる芝居って、あるのかな?
ともかく、そのときかかっていたのはそーゆー芝居で、まめだは見事につとめおおせるのだ。
というわけで、子役の麻疹が治るまで、まめだが代役を勤めることになる。
人間に化けているとはいえ、本体は狸、身の軽さは尋常ではない。
まめだが舞台に出るというので、右三郎の芝居は滅多に見にくることがない母親も、いそいそと見物にきて、母親がきているのでまめだもさらに張り切って、ABC-Zの塚ちゃんばりのアクロバットを披露してしまったりなんかする。
元の子役の麻疹がそろそろ治って復帰するかな、くらいの頃。
まめだが出番前になんだかそわそわしている。
「どないした、まめ」
「…おや、みる、きゃく」
「え、家族が見に来てるんかっ?!」
「びゅ、びゅ、ん、ん」
「え、あのへんたれ、ぜんぶお前の親兄弟いとこにはとこにおじおばじじばば…。
えらいこっちゃ、木戸銭箱が銀杏の葉だらけ」
これ、誰か、聴かせてくんねーかなーーーー。
右三郎の幼なじみの娘さんとかも出して、
右三郎の母親と一緒にまめだ可愛がったりしたら、もっと華やかな噺になると思うんだー。
あ、でも、元の噺、
右三郎は大部屋役者だけど、その同輩とかはぜんぜん出てこなくて、
市川右團次の弟子っていう設定も、まめだを怪我させることになるとんぼ返りの伏線にしか使われてないのよね。
わざわざ幼なじみの娘さんとか出さなくても、
まめだが代役決まってから、
仲のいい同輩にまめだの素性を尋ねられたり、
まめだの活躍に目をとめた右團次が登場したりしたら、
ぱあっと賑やかな噺になるよね、うん。