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『ヨミガエルガール・ジャスティス』➆Stress

2021-06-09 06:00:24 | ヨミガエルガール・ジャスティス

『ヨミガエルガール・ジャスティス』➅祈りfeat.

 

 

 わたしは大豪村で15歳まで通信武闘を習っていた。

 大豪村で育ったわたしは両親がいなかった。その代わり孤児院があり、そこでジュニアハイスクールまでの生活をおくった。親代わりの人はいたけど、この村ではとくにやることがなく通信武闘の稽古に打ち込んでいた。

 そんな生活の中で年に一回行われる通信武闘大会。わたしはその通信武闘大会に出場することにした。

 通信武道の初段試験も兼ねた大会。わたしはこの大会ではジュニアハイスクール部門で負けなし。そして有段者になると年齢制限がなくなる。わたしはこの大会が唯一のストレス発散の場でもあった。

 試合当日、組み合わせが決まった。相手はわたしより大人だった。

「はじめ!」

「やあーー!!」

「やあーー!かかってきなさい!」

「こちらこそですーー」

 わたしは大人相手に怯まなかった。

 そして通信武闘で稽古した技を相手に披露した。

「くらえ!!」

 試合は一進一退を繰りひろげた。わたしは渾身の力を相手にぶつけた。

「やめーー!!両者引き分け」

「ふうーー」

「お互い礼をして‥‥‥」

「ありがとうございました」

「ありがとうございましたですーー」

 1引き分け2勝でわたしは初段試験に合格した。ジュニアハイスクール中に初段を取得できたことは順調な仕上がりだった。大会が終わり試合会場から帰ろうとしたときだった。

「そうだ!思い出した‥‥‥」

 わたしはスマホのメッセンジャーアプリに書かれていた内容を読んでから。あの日のことを思い出した。あの日、試合会場である男性から声をかけられた。最初は武闘大会でのわたしの試合を観て、進学はどうするのか、を尋ねられた。しばらく話しをして、そして聞いてるうちにわたしのお母さんが会いたがってるという話しになった。

 試合会場から花見キャッスルパークへ行くと、お母さんとそこで会えるという話しになった。けれどわたしは疑った。そしてすぐには返事をしなかった。

 お母さんの代理人の方が熱心に話しをしてくるので、わたしは念のため大豪村の孤児院の先生にも確認をした。すると、孤児院にも連絡があったという報告があり、その後わたしは代理人の方を信用した。

 花見キャッスルパークにまもなく着く頃だった。日は落ちて暗くなったので、お母さんがわたしを迎えにくるようだという話しになった。

「すれ違っても困るので、この辺りで待ってましょうか」

「あ、はい‥‥‥」

「もうじき着ますから。ちょっとトイレに行って来ますね。ここで待っててくださいな‥‥‥」

 代理人の方がわたしを置いて行ったあとの事だった。

 バイクから降りてきた女性が、わたしに近づきじっとわたしを見つめていた。わたしはなんて声をかけていいのかわからなかった。

「お母さん?」

「‥‥‥」

「お母さんなの?」

 返事がなかった。女性の方はスマホで何かを書き込みわたしに見せた。

「えッ!‥‥‥」

 女性の方はスマホにいろいろと書き込んでわたしにスマホを手渡した。

 「わたしはベーコ。これは罠よ。お金はわたしのスマホから使って。これは護身用に持ってて。手にはめれば使えるから。バイクの鍵。ここの土に差し込んでおくから。すぐにでも逃げて‥‥‥」

 ベーコさんはメッセンジャーアプリに次々と書き込みスマホをわたしに手渡したあと、周辺をキョロキョロと見渡した。

「なに、そこでモゾモゾしてるんですか‥‥‥」

「‥‥‥」

「あ、聞こえてないのですねーー。しかも喋れない」

「きっとくると思ってました」

「‥‥‥」

「これで終わりにしましょう。ベーコさん‥‥‥」

 ベーコさんは鎌を持った何者かに襲われてしまった。

「おい!トロールだ!逃げるんだ!」

「誰かいるぞ!フラッシュライトで照らして逃げろ!‥‥‥」

「このひとは?」

「バカ!連れて行けーー!!急げ!!」

 その後はわたしは気を失い、それまでの記憶が喪失した。

 ゆるこまマンが世の中の注目を集めるようになった。自警団動画を次々とアップしてフォロワー数も増えていった。僕はスーパースターレインジワタシームで注目が集まったが、ゆるこまマンが積極的な動きを見せたのち、ゆるこまワタシームが次世代にくるとささやかれるようになった。しかし、ゆるこまマンの自警団ぶりは半ば強引で、危ない噂までささやかれた。

「ゆるこまマン大人気ですなーー」

「ん?」

 変な男が土産物屋に入ってきた。

「そちら側のコスチュームは最近冴えないですなーー」

「観光でいらしたのですか?」

 変な男は見るからに変な姿でバニーガールの衣装にアフロヘアーと、どこから見ても変な男だった。花見城の敷地内は誰かかしらなりきり衣装で歩く観光客が多いので、見るからに変な男も花見城観光でテンションが上がっているんだと、そう思った。サブカルの帝王のMJのネットドラマの影響で、サブカル族が花見城へ聖地巡礼に訪れるようにもなった。

「ぼくちゃんは雪ケンケンと言います」

「えッ。は、はい」

「ゆるこまマンの舎弟と言いますか、次のサブカル界を担う者です。こう見えてもぼくちゃんの父は野心家でしてねーー。いくつかの都市伝説があるんですよ」

「そ、そうですかーー。それは凄いですね‥‥‥」

「ぼくちゃんも都市伝説に語り継がれたい。語り継ぎタレント。継タレを熱望しています」

「ぼ、僕が今、あなたのお話しを聞いてるのも継タレの一種なのですか?」

「よくぞお気づきで!」

「えッ!」

「ぼくちゃんがここで語っているのは、次の都市伝説への序章になるのです。ぼくちゃんと都市伝説をつくりませんか?」

「な、なんの?都市伝説?」

「遺骨を盗まれたというような噂を聞きませんでしたか?」

「遺骨‥‥‥。いいえ、僕は何も‥‥‥」

「知らないのですか。ほおーー。もうすでに都市伝説になってますけどねーー」

「そ、そうなんだーー。ぼ、僕はその都市伝説は知らなかった‥‥‥」

「ドラゴン広場をご存知ですか?」

「あーー。上町地区のですね」

「難攻不落という都市伝説がある、あのドラゴン広場がぼくちゃんの縄張りなんですよ」

「縄張り?」

「最近、メルカリ族の縄張りが落ちたという都市伝説がありましてねーー。知ってます?」

「そ、その都市伝説は知ってます」

「ほおーー。そんな都市伝説は語り継がれてませんよ。まんまと引っ掛かりましたね。こう見えて謀略家なんです。ぼくちゃん。スーパースターレインジはキミでしょ?調べはついてますよ‥‥‥」

「僕は正体を明かさないんだ。ただ単に正義を貫いているだけなんだ」

「ゆるこまのアニキは義の人でしてねーー。今、正義のためならと、いっぱいいっぱいやってますよ。正直、キミが邪魔なんですって。まずは、ぼくちゃんと戦いませんか?ぼくちゃんに勝ったら、正義を譲ります。もちろん都市伝説として語り継ぎますよ‥‥‥」

「断ったらどうなるんだ?」

「メルカリ族を復活させて花見城周辺を悪党だらけにします。そしてキミの居場所も奪います」

「そうはさせない!」

「ならばドラゴン広場まで来てください」

「承知した」

「雪ケンケンがレインジたちをおびき寄せたらしいよ」

「でかした!。これであの小娘もこちらには加われまい‥‥‥」

 僕はベーコの部屋の家賃の集金と今晩集合する話しをしに行った。

「ベーコ?あれ!いない。もしや、わかってて隠れたな‥‥‥」

「ベーコちゃんなら隣に行ったよーー」

「あ、そ、そうですか。ありがとうございます」

「ベーコ。今晩集合だ!」

「集金は?」

「あ、集金だ!いや、集金と集合だ!」

「今回はどこ?」

「ドラゴン広場だ。家賃はピイピイからでもいい‥‥‥」

 わたしは胸騒ぎがした。記憶が戻ってけど笑顔(ショウガオ)男にはまだ本当のことは話してない。この状況がいつまで続けられるかもでも不安だ。今感じているストレスは、何かでスカッとさせておきたい。

「ちょっと寄り道してから行こ」

「どこへ?」

「ものほしざおを拾いに行く」

「ものほしざお?」

「スカッとしたいの」

「あゝ。洗濯してかーー」

「ぶん殴るの」

「おい!」

「あーー。あった!」

「この辺はものほしざおみたいなのが結構落ちてるなーー」

「あなた用にも。はい、これ持って‥‥‥」

「僕も!」

「竿やーー竿だけーー」

「勘違いされるだろ!急げ、ドランゴン広場だ!」

「竿やーー竿だけーー」

「ここだ‥‥‥」

「エンタシスマン。きてくれたの」

「やあーー。よくきたなーー」

「誰?」

「雪ケンケン。と、言っていた」

「招待してくれたから来たぜ」

 

 

「ぼくちゃんの縄張りは落とせるかなーー」

「もちろんよ」

「正義を貫くんだーー!!」

「いつまで攻め続づけれるかなーー」

 雪ケンケンのドランゴン使いの防御は強固だった。複数のドラゴンを呼び集め、僕たちはそのドラゴン相手に攻め落とそうしたが終わりが見えなかった。

 一方、クスのお父さんは異変に気づいたようだった。

「芭駄々さん。お話しが‥‥‥」

「坂野目君。もどってきたようだのう」

「リク君たちが大猫城で籠城戦を繰りひろげたらしいわ」

「ベチカさんはお存じでしたか」

「ベチカや。わしも聞きたいからのう。ちょっと案内してくれんかいのう」

「チリーさんのところで集まってますから。まずはそちらまで‥‥‥」

 僕たちがドラゴン広場で雪ケンケンと戦ってる間、クスのお父さんを囲ってゆるこまマンの動向を話し合っていた。

「そもそもベーコという女性が発端なんだろ?何者なんだいったい」

「ベーコちゃんに何かあっただっちゃか?」

「フルニエさん、今、話し中だから黙って聞いて」

「ベーコちゃんは何度かうちの宿に泊まりに来ただっちゃ」

「フルニエさんってば!」

「ベーコという名は、ベコニアという花の名前です。ベコニアの名はフランス人のミシェル・ベコンの名に由来し。ベコンはフランス領アンティル諸島の総監であり、プリュミエを当地における植物採集者としてフランス王ルイ14世に推薦した人物でした。フランスの植物学者シャルル・プリュミエが出版した書物の中で6種をベコニア属として紹介されました」

「それが坂野目君につながるとはのう」

「ゆるこまマン。いや、ウクは今どこにいますか?」

「ウクの活動拠点である。ヤシの実山周辺でキャンプをしているとういうことです」

「アウトドア動画でも結構荒稼ぎしてますからなーー」

「彼の狙いは何?」

「ピンクチーマーをおびき寄せて、壊滅させることが、まずは第一目的だのう」

「杉林の伐採の仕事が入ってきまして行って見たんです。すると大猫に腕利き者どもが集合するといった情報が入りました。案の定、杉林の伐採はその関係者からの発注でした。今、私は園芸職人だと言って断りましたが、追って山道に通じる道路脇の花壇の手入れを頼まれました。でも、私の手づるにすべてを頼みました。報酬は上積みで。どうも私はハイリスクの仕事をとる癖がある‥‥‥」

「ピンクチーマーだけでは人手が足りんからのう。坂野目君が戻ってくれて正解だのう。大猫城で足止めしたのもよかったよのう」

「大博打になってしまいましたが、私もキャンプを張りに行きます」

「坂野目が戻り、ヤシの実山に来るそうです」

「大猫で足止めを食らったが、これでやっと五分じゃ。それ以上にこちら側に分があるわ」

「ウク。長年の親友。ここはおいらに任せておきな」

「頼もしいかぎりじゃ」

「こまいぬワタシームでサブカル界の帝王の座に就くぜ‥‥‥」

「MJめ、どこへ消えた‥‥‥」

 


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『ヨミガエルガール・ジャスティス』➅祈りfeat.

2021-05-31 22:03:06 | ヨミガエルガール・ジャスティス

『ヨミガエルガール・ジャスティス』➄Pleasure x Newjack x Civilization

「おかん、ハンドソープそろそろ買わないといけないな」

「そろそろ‥‥‥。笑顔?この頃変な噂聞くよ、あんた」

「なんだよ」

「あんた、なんか、オカマっていうのかい、ホモっていうの?。あんたそうらしいじゃないか」

「誰がそんなことを‥‥‥」

「違うのかい。なら、いいけど。困るよ。嫁が来なくなるからねーー」

「この先のことは自分で決めるよ」

「何言ってるの。大学は今は進学してないし、花見城で俳優のバイトしてたってねーー。せめて、イケメン隊っていうのかい。城のPRとかやってるようなら別だけど。いい嫁なんてーのはこっちで選べないよーー。」

「いい大学、いい就職してれば僕だって自信はつくさーー」

「うちは一人っ子。女の子がいないからねーー。ホモとか思われても困るし、女遊びばっかりされてても困る。うちの経営にも傷がつくからねーー。アパートも建て替えないとねーー。地主のいいところの嫁が来てくれるといいんだけど。農家とかどうだい。今、余った土地にアパート建ててるらしいじゃないかい。そういうところから嫁をもらってさーー。あーいうところは道路とかが通ったりするから、自然とお金が入るんだよ。おとんもおかんもそういうので結婚した。お見合い結婚だったけどね。今になってわかったよ。おとんもおかんも真面目に暮らしてたから今があるんだよ。ホモはダメだよ。投資にならないよ」

「おかんの言ってることは差別だ!!。真面目?真面目にしながら人を差別してただけじゃないか!僕がホモだったら軽蔑したんだろ!。おとんはよく言っていた「男らしくなれ」と。酒飲みのおとんになにがわかる。いつも僕を叩いて!」

「おとんには感謝しないとダメだよ。ここの家を残してもらったんだから」

「おとんと結婚して何かいいことあったか?大酒飲みで僕を叱ってばかりで。おかんだって苦労しただろ!」

「ポックリ逝ってくれたよ。うちはこう見えても勝ち組なんだよ。我が家の考え方に差別とか言われたくないねーー」

「我が家の考え方は差別だ!」

「ベーコとかいう女の子を看うけしてて差別だとか言われたくないねーー。あの子もゆくゆくはいいところに嫁がせるよ。お家のためだろ?女はそのために生まれてきたんだよ。あの子にも感謝してもらわないと困る!」

「おかんは差別的な考えしかもってない!」

「お前みたいなバカ息子はね、うちで掛かった経費をとり戻してこい!。『やめられないとまらないアマビエえびせん』を売ってとり戻してこい!バカ息子が!。となりの息子さんは奨学金使った分は家に払ってるって聞いたよ。いい噂しかないよ。あの家はいいお嫁さんも来て、きっと奨学金もとり戻すんだよ」

「おかんは、お嫁さん、女性、そしてパートナーをなんだと思ってるんだ!」

「あんた病気じゃないのか?やだよー精神病院とか行かれたら」

「おかんのほうがイカレテル」

「どの口が言うんだい」

 ハイスクールまでは優しいおかんだと思っていた。その分、おとんのほうが厳しかった。僕は派手なこともしないでいた。おかんから聞かされた話しでは、おとんは予想以上の大酒飲みだったらしい。というか、僕の幼い時の目がから見ても大酒飲みに見えた。酒を飲んでなくても僕を叩いたり叱ったりもした。おかんも苦労したはずなのに、この家に飲まれてしまったのか、差別や偏見的な愚痴をよく耳にするようになった。特に結婚についてはそうだ。ハイスクールを出てすぐに結婚した者には「すぐに別れるから」と、決まってそういうことを言う。大抵すぐ別れてることも多いが、おかんの思い通りに世の中が動いてるようにも思えた。クスに対してもそうだった。たちまち近所の噂にもなったが言われてるパターンはいつも同じ。クスと仲が良かったためか、僕はホモだと思われてたのかもしれない。否定すれば否定したで差別を容認したことになる。質が悪い。

 話しが変わるが、クスの父親は海東に転居した。海東都近辺で仕事をしてるらしい。

 クスの父親の実家はそれなりの名を持つ旧家だと聞いた、何とか流といった剣術の免許皆伝書も持つ家柄ではあったが、その家を継がなかったらしい。廊下が血に染まったほどの家で天井には隠し階段も備えていたと、クスは言っていた。長男に生まれ、戦争時代、長男だったクスの父は身体が弱かったといった理由で、武芸を行わなかったそうだ。クスが言うには、長男に生まれたため、戦争を理由に身体が弱いと嘘をつかされたんじゃないかと言っていた。戦争時代、名のある家の長男は狙われやすいからだと。身体の弱いクスの父親をつれて外国に侵略し、そしてそこで警備の仕事までしていたそうな。クスの父は国の人質になっていたようにも感じた。

 帰国後、世の中は一変した。お手伝いに預けていたクスの父の実家の住人たちは、クスの父の土地から、その住人の土地になったという。クスもクスの父も、その家の者には決して「使用人」という言葉を使わなかったという。クスの父の家は古民家でその周辺に現代的な家が建っていたが、「実わ‥‥‥」。それ以上のことは口にしなかったらしい。

 地味で苦労人。苦労が報いたと思えばまた苦労人にもどった。今は園芸職人で生計を立ててるという。

 

「おつかれさまーー。どうぞおやすみになさってください」

「いやーありがとうございます。あなたもご一緒しませんか?」

「いいえ、まだわたしはここにいなくてはならないので。あとで行きますから」

「それでは失礼します」

「ごゆっくりどうぞ‥‥‥」

「あの時の彼と面影が似てるわ‥‥‥」

「ほおーー」

「うん‥‥‥ここの花はいつもきれいだ」

「おっちゃん、お手入れおわっただっちゃか」

「こちらのお花はきれいですなーー」

「そうでもないだっちゃ」

「フルニエさん、坂野目さんにお茶をお出しして」

「フルニエさんはどういった字を書くのですか?」

「おいらだっちゃか。ええとだっちゃ。フルニエキチ」

「ええと、布に留めると書いて布留(フル)。ニエキチは煮るに吉と書いて煮吉です。すみません、くだらなくて」

「くだらなくないだっちゃ!」

「いいえ、チリーさん。くだらなくないですよーー」

「くだらなくないだっちゃ!」

「ごしそうさまでしたーー」

「もう行くだっちゃか?」

「語り姫さん来るまでお持ちになったら?」

「すれ違いざま、お声をかけていきます」

「これからどちらに?」

「北のほうへ用事がありまして‥‥‥」

 わたしはベーコと名のついたスマホメッセンジャーアプリの一部を読んだ。そしてメッセンジャーアプリからはいくつかのメッセージが届いた。

 わたしは部屋に居なきゃならない。笑顔(ショウガオ)男が家賃の請求にくる。この時間、ネットカフェに曼陀羅ダラ男さんがいるはず‥‥‥。

「こんにちはーー」

「なんだっち?」

「ちょっといいですかーー」

 わたしは曼陀羅ダラ男さんに急ぎの用事を頼んだ。

 花見城でバイトをしているお姉さんから連絡があった。わたしはクスを駅まで迎えに行ってそのことを話した。

「お姉さんがサイドカーを譲ってくれるんだって」

「ええ!。いいのか!」

「新車を買うつもりでいるみたいで、前からわたし言ってたから‥‥‥」

「いいのかよ。ほんとにさーー」

「姉妹の利点ね。なんかいつもそう。わたしお姉ちゃんからおねだりするの‥‥‥」

「ちゃんとお礼言っておかないとな‥‥‥」

「夕食食べてから、水舎駅にまず行こうよ。あ、PCR検査受けた?‥‥‥」

「うん。また受けたよ‥‥‥」

「この時間でも日が長くなったね」

「前は真っ暗な時間帯だったもんな」

「ちょっと待ってだっち」

「誰?」

「えっとーー。こないだ会った‥‥‥」

「ジェンダーオバサンだっち」

「ああ、曼陀羅‥‥‥」

「ジェンダーオバサンだっち!」

「なんでこんな衣装に?」

「今から大猫城に行く」

「大猫城って昔の言い方で、ちょっとした城跡じゃない」

「そこに空き小屋があるだろ。僕らよく遊んだんだ。まずは行ってみよう。詳しいことは走りながら話す‥‥‥」

「体育の成績は?」

「まあまあ、かな‥‥‥」

「ウクお奉行。補導はお任せあれ」

「進めるのじゃーー」

「行くがいい、皆の者。新たなステージの始まりじゃ!!」

「何やってんのひとりで‥‥‥」

「寒くないのかなーー」

「着ぐるみ着てるから、逆に暑いんじゃない」

「キミたちうるさい!早く帰りなさい」

「あ、なんか喋った」

「うるさい」

「ゆるくないね‥‥‥」

「そういうわけで正義をなんちゃらかんちゃらってやってるんだって」

「ふーん。楽しそーっちゃ楽しそうだけどねーー」

「なんだ!」

「いやよ。クスなんとかしてーー」

「うあー!ここで足止めかよ!」

「振り切って!!」

「よし、振り切った」

「ジェンダーさん待ってるんでしょ?急ご」

「あーーいたいた」

「いたいた。いえーい!」

「あの小屋で籠城だっち。あの場所を獲られたらやっかいだっち」

「時々変な不良たちが集まるところだよね」

「今はいないだっち。けど、ここを占領されると悪事が絶えなくなるだっち」

「ここに来る情報か、何かあったのですか?」

「そこのお嬢さんのだっち。お姉さまが以前、ストーカーを追い払ってからだっち。その後、不穏な動きがあっただっち」

「えッ!うちのお姉ちゃんが!」

「あ、ここでは知り合いの話しだっち。今のは聞かなかったことにだっち」

「もう聞いたし‥‥‥」

「正義のためじゃーー。あの小屋に襲いかかれーー!!」

「わあ!!来たーー!!」

「応戦するだっち!」

「この小屋を死守するだっち」

「耐えられるかなーー」

「クス?お姉ちゃんやわたしの力ばっかり借りてないでよ!」

「ジェンダー平等だっち」

 クスはわたしたちのために不良ども相手に大猫城で耐え凌いだ。ここに勇猛な不良を集めてしまうと、その後、手がつけなくなると言っていた。わたしたちはここより先に不良たちを寄せ付けなかった。クスとわたしたちは頑張った。

「わたし黙ってたけど。ここ、ずいぶんと女性たちが男性たちに、酷い目にあった場所なのよねーー」

『ヨミガエルガール・ジャスティス』➆Stress

 


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『ヨミガエルガール・ジャスティス』➄Pleasure x Newjack x Civilization

2021-05-20 04:23:43 | ヨミガエルガール・ジャスティス

『ヨミガエルガール・ジャスティス』① OUT OF LIMITS

「わー掛軸」

「どうぞ、ごゆっくりご覧になっていってくださいーー」

「さすがは花見城のお土産屋さんねーー」

「ここの土産物は工芸品が多いんだよ。ほかにも表具とかも扱ってるし。あと、やめられないとまらないアマビエえびんせんだってあるのさ」

「何それ?」

「うちのおかんが作った土産物のお菓子さ」

「へえーー」

「うわーー。これネットで今話題の。ええとーースーパーヒーローレインジマンのコスプレ衣装」

「スーパースターレインジさ。レインジマンじゃないさ。もう、こんなレプリカ品が!」

「このコスプレでインスタグラムにアップするのが流行ってるらしいよ」

「そ、そのようだね。じ、実は‥‥‥」

「レインジマンの何か正体とか知ってるの?。懸賞金まで出てるんだよねーー」

「レインジマンじゃない。スーパースターレインジさ。実は‥‥‥。ちょっと食堂で話そう」

「あたしゲイの方とお食事するの初めてーー」

「そ、そうじゃなくて・・・・・・」

「バイトの空き時間まだあるし、そこで伺うわ」

「実はスーパースターレインジと知り合いなんだ」

「え!ほんとにーー」

「ええ、ほんとさ。動画がアップされたので驚いてるらしい。彼は正義を貫いているだけで正体はごく限られた人にしか教えてないんだ。て、いうか、聞こえてる?なんでこんなかたちでキミと話さなきゃならないんだ!‥‥‥」

「食堂のおばちゃんにこう座って。って言われたから‥‥‥」

「にしても。食堂で客ふたりが背中合わせに食事するのは不自然だよね‥‥‥」

「飛まつ対策でしょ。で、あたしの話し聞いてくれる?」

「な、なに?」

「あたしセックスセラピーの講習会に出てるの。そこの患者さんの彼がね、講習の時に気に入られて、今ストーカーっぽくされてるんだ‥‥‥」

「それは困ったことだ」

「連絡してこないでほしいだけなんだけどねーー」

「そうか。僕からスーパースターレインジに相談してみてもいいか?。その彼の住所を教えてくれないか。スーパースターレインジは正義を貫いてくれるよ」

「ありがとう。ゲイの方と、このようなお話しが出来たのは初めて」

「い、いやーー‥‥‥」

 わたしのお姉さんは花見城のバイトをしつつひとり暮らしを始めた。わたしは美容師になるために専門学校一本に絞った。

「それでは授業を始めます」

 わたしはクスに告白したあと、同棲生活を決意した。お姉さんと両親には猛反対をうけ、膠着状態でいたけど、数日後、お姉さんに花見城のバイトの知らせが入ると、急にわたしの味方になってくれた。お姉さんは人文社会学のカレッジに入り、セックス依存症のセラピー講師を学ぶ傍ら、俳優やタレント業にも興味があった。花見城でバイトがある間はそこで一人暮らをして、それ以外の日は自宅からカレッジに通うことになったことで、わたしのほうの希望がかなった。

 わたしは湧水市の美容師専門学校で同棲生活をしながら勉強を続けた。

「それでは実践に入ります。洗顔、洗髪を実践してみましょう。みなさん交代で洗顔、洗髪をしてもらいましょう」

 両親の心配もわかる。クスには何も持ってないからだ。高校に入って卒業するまでにダルマ落としのように次々と持っていたものがなくなっていった。クスを知るジュニアハイスクール時代の友達も、クスはいつも失くしてしまう人だと、わたしに教えてくれた。幼い時、幼稚園の頃から、引っ越しの繰り返しで、そこにいてはどこかへ消えて行ってしまうと、そこでまた積み上げては失くしていると言っていた。ジュニアハイスクールの3年までにクスはさまざまなことで活躍し、手に入れたものが3年の夏ですべてが消えたと言っていた友達もいた。ハイスクールも地元に残らず、他へ消えて行ったという人もいた。クスがハイスクールの時、初めて学期テストで100点をとり、生まれて初めて全校で1番になったことがあると言っていたのに、ハイスクールを卒業したあとはその成績すら生かされず無駄に消えたようだった。

 わたしたちの関係はゼロからのスタート。わたしはクスの収入を頼りに生活をしていかなければならないのだ。幸い、あの日の晩はわたしは避妊具を持っていた。

「コンドームを持って俺に会ったのか?」

「水裁は女子が多いでしょ。毎年のように保険体育でうざいくらい避妊や避妊具の授業があって。持ち歩くのがあたり前になっていたの。でも、実際に使ったのはクスが初めて。クスに使いたかった‥‥‥スキ‥‥‥」

 わたしの強みは両親が専門学校の学費は払ってくれるということだった。学生生活の間だけといった条件つきではあるが、わたしとクスとの共同生活を許してくれた。でも、クスには何かを失う怖さがあるのだろうか‥‥‥。

「おかえりーー」

「ただいま」

「そろそろその洋服違うのにしてみたら?」

「着心地がいいんだよ。これ」

「わたし、何か仕立てようか。ハイスクールで習ったし。あ、ミシン持ってこなくちゃ」

「急がなくてもいいぜ」

「ねえ。スーパーに寄っていこ」

「あーうん、わかった」

 クスが花見の街から出て行ってしまった。毎朝目が覚めるとそのことが頭を過る。

 ただ単にあの時に会っただけだから。と、着地点で落ち着くと一日が動き出す。

 花見工芸ハイスクールの登下校はハイカラな制服を着て行くが、授業になると作業着に着替える。男子より女子の割合がかなり少なかった。女子は花見工芸分校に多く入るらしい。単に普通科があるからだと聞いた。男子生徒は女子には興味はないのだろうか。わざわざ分校にまでして女子が入る割合を変える必要もないと思うけど、それがこの学校の伝統なのか。まったくわたしには理解できなかった。

 授業はやたら見学が多い。そして寡黙に生徒たちは授業をしていた。

 その日、学校が終わるとルクスが外で待っていた。

「よッ。おつかれ」

「バイトは終わったの?」

「さっきね」

「今晩出かけるところがある。着替えを持って駅前で集合だ」

 

「どこかへ行くの?」

「列車にまず乗って移動する。キミのバイクも移動できるようにしておいてくれ‥‥‥」

「ストーカーにストーカーするなと言いに行く」

「家賃取り立てに来るな!と言うものじゃない」

「そんなことはない。あ、今月の家賃お忘れなく」

「払わなかったら?」

「地の果てまで追いかける」

「居場所はわかるの?」

「ついてこい!。あ、ちょっとまって!グーグルナビをセットしてなかった」

「もう、何度も来たくないからね!」

「きみ!諏方サエさんに付き纏うな。メールを送ったりもするな!」

「誰だお前は?」

「ちょ!こっち来るなよ!来るなってば!!」

「俺は溜まってんだよ。野郎ども見てな!俺の精力絶倫パワーを!」

「ボスが動き出したら止まらないでぜ!!」

「ちょん切ってやるわ!」

「正義を貫くんだ!!」

「ぎゃーー!!この小娘が!!」

「ほーら、これでぐったりよ!!」

 ベーコの炸裂は凄まじかった。瞬時に精力絶倫野郎をぐったりとさせた。

「ボスの代わりにわしらがいただくぜ!」

「そうはさせない。正義を貫くんだ!!」

 一瞬の反撃もさせずにストーカーとその仲間たちを蹴散らせた。それにしても今日のベーコは容赦がなかった。こいつら全員単なる怪我では済まないくらいの、鋭く深くトドメを刺してしまった。

「夜明けになってしまったな。始発の列車までに戻ろう」

「そうね」

「やあーー。お見事でしたよ」

「誰だ?」

「わたしゃー。この辺をパトロールしてたものです。まさか、あの有名なレインジさんにお会いできるとは、じつにラッキーでした」

「だからあなたは誰?って訊いてるじゃない」

「申し遅れました。わたしゃーゆるこまマンと申します。正義のためならなんでもしまっせ」

「ここでただ会っただけじゃない」

「いやーー。ここで会ったのも何かの縁。わたくしとコラボしませんか」

「コラボ?」

「レインジさまに便乗させてくれませんか‥‥‥」

「スーパースターレインジだ」

「わたくしもホームページにアップしますので、ご用事のあるときにはご連絡をください」

「話だけは聞いておく。もうここには用はない。さらばじゃ、ゆるこまマン」

 それから数日後、『ゆるこまマン』のコスプレレプリカと『スーパースターレインジ』のコスプレレプリカが土産物屋に並んだ。サブカル族とサブカル業界の食いつきの速さは尋常じゃなかった。

「よういスタッ!」

「よ、淀?‥‥‥。秀頼を、た、頼むぞ‥‥‥」

「淀にお任せあれ」

「殿下様!。お身体に触ります。お布団へお戻りくださりませ!」

「黙れ三成!」

「殿下」

「わ、わしは‥‥‥ここで・・・・・」

「殿下様ーー」

「夢のまた夢‥‥‥」

「カット!。MJさんクランクアップでーす」

「おつかれさまでしたーー」

「はーい。おつかれさまー」

「MJさん、今後の予定は?」

「はーい。そうねー。次からは天狗になって旅に出ますよーー」

「天狗ですか!」

「天狗シーム。僕の夢ね、だからしばらく巣ごもりするね。客観的に仙人になるよ。はーい」

「キミたちの自由は僕の自由。それではーー天狗で会いましょう」

「おつかれさまでしたーー」

「あ!開いた!」

 わたしはまだ開けていないスマホアプリのパスワード認証の鍵を開けることが出来た。

 そのアプリはメッセンジャーアプリ。アプリが開いた時、書き込まれたメッセージがピンクチーマーのところへ届いた。

「地獄谷めぐりをしてるところだが、なんのようじゃ」

「MJ。ベーコさんをどこへやった」

「ほおー。これはこれは以前、僕をとっ捕まえたキミじゃないか。今日は同じコスチュームの連れがきているようですな‥‥‥」

「隣の彼は旦那。夫婦チーマーよ。そしてエプロン姿のは妹。すでに奥様よ」

「奥様よ。奥様は魔女よ」

「そしてエンタシスマンにMJの居場所を教えてもらったわ」

「なんの用ですか?僕は不起訴だったでしょ」

「あれから警察に話しましたよ。でもね、どう見てもあれは心中だって言うんですよ。計画を企てたことには嘘は申しませんが」

「井戸の中に隠れてて、相手を引きずり下ろすなんてどうしても無理だろってね。はじめから僕も井戸の中で待ってたわけじゃないですからね。井戸の側で隠れてて、その隙に心中したんじゃないか、と、言うもんですからね。警察の判断は、僕は不起訴ということになりました」

「心中に至るいくつもの状況証拠はありましたからね‥‥‥」

「あの幻影怪物はどうしたの?あたしたちははっきり見たわよ。奥様は魔女よ」

「あれはボーカロイドと言いますか、着ぐるみショウを行ったわけですよ。僕たちは常に最新のサブカル技術をキャッチしてはブームを仕掛けていくわけですが、まあ、なかなかヒットしないもんです。今じゃ3DAVやボーカロイドも一般的ですが、僕たちのほうがいち早く便乗してたんですがね。結局、ものになったのはスライド映写会だけでした。まあ。あれは女性限定の地下ライブ劇場で、あなた方を招待してバトルをしたわけです。かつてのヒーローショウのように、僕の師匠が考案したキャラクターを再現したまでのことです。だけど、ベーコはなぜ蘇るんでしょうねーー」

「そのベーコさんをあなたはどうしちゃったわけ?ベーコはいるんでしょ?。教えなさいよ!」

「ベーコならいるでしょ。もとのベーコに戻したいなら、あのミニチュアベーコちゃんを殺せばいいことでしょ‥‥‥」

「そんなことできないわ!もっとほんとうのことがあるんじゃないの?奥様は魔女よ」

「それはあなたたちで調べがついているでしょうよ。僕の口から言えることは、あの骨壺の中身がベーコだよ。クリスチャンの世界では土葬から生き返るってことはまあ、ありえそうなことだけどね。火葬になったものは到底生き返らないじゃないかなーー。この国は火葬が主な国。僕はそこに重きをおいたまでです」

「ベーコさんを戻して!」

「だから言ったでしょ。あ、の、こ、を」

「許さないわ!」

 

 私たちピンクチーマーと奥様は魔女そしてエンタシスマンが加わって、MJと戦ったが私たちに納得が得ることまでには至らなかった。

「わしは仙人になるのじゃーー」

「まて!MJ!」

「追うのは危険、そこはすぐ谷よ」

「MJは傘を使いながら谷底のほうへ逃げて行ったんだ」

「死体遺棄。それだけでも取り押さえる容疑はあるわ。MJを絶対探してみせる」

『ヨミガエルガール・ジャスティス』➅祈りfeat.


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『ヨミガエルガール・ジャスティス』④TROUBLE

2021-05-17 00:57:26 | ヨミガエルガール・ジャスティス

『ヨミガエルガール・ジャスティス』➂Canon x Love S.O.S.

「水道代払い終えた」

 4月になり入学式を迎えた。その入学さえ大変だった。あの笑顔(ショウガオ)男が花見工芸ハイスクールの手続きをほとんどやってなかったのだ。おかんに任せっきりとおかんもまた笑顔(ショウガオ)男に任せっきりだった。アパートの契約書だけはちゃんと書かされたが、保証人がいなかったので江川笑顔の、つまり大家である江川家の死んだおとんの姪として契約を結んだ。それが幸いしてか、花見工芸ハイスクールにも定員割れの二次募集、更に定員割れの3次募集で入学ができた。筆記試験は記憶が戻らないわたしは、ほとんど白紙に近い答案用紙で提出したけど花見工芸ハイスクールに合格した。それにしても、二次募集でも定数割れで3次募集とか、どんだけの偏差値なんだろう。学校の生徒は寡黙そうで真面目そうなのに、中身はバカなのか。笑顔(ショウガオ)男を見れば頷けるが。けれど、バイトのセリフ覚えはなぜかいい。謎だらけで4月も終わり、ゴールデンウイークに入った。

 あれからクスとは会う暇がなかった。あの日以降、わたしたちは集合していない。クスの様子を見に行く暇もなかった。というのも、わたしのスマホはパスワード認証だらけでひとつひとつ開くのが大変だった。ピイピイの残高だけは残ってあり、今月はピイピイでなんとか過ごした。他はまだ開けれないアプリが沢山ある。パスワード認証をこじ開けるだけでも何日も経った。わたしの本名、つまり漢字のフルネームが思い出せない。スマホには『ベーコ』というネームはあちこちにあるのに、本名が思い出せないから今難儀している。

 

 「クス!」

「あ、ベーコちゃん!」

「こ、こんばんはーー」

「こんばんはーー」

「今からコンビニですか?」

「いいえ。今から地元に帰る用事があって‥‥‥」

「ふーん。なんの用事ですか?」

「友達のカーナビが故障したみたいで、ちょっと見てくれと電話が入ったんだ」

「へえー。クスさん、カーナビも直せるんだーー」

「いいや、まったく素人だよ。ただ、ちょっと見てくれって言われたぐらいで、直せるかどうかもわからないんだ‥‥‥」

「ゴールデンウイークは何か予定あるのですか、ていうかここ数日何してたんですか?」

「ゴールデンウイーク初日に地元の友達とツーリングに行って。帰って来てから会社に行って。そしたらカーナビが調子悪いってさっき電話があったから。僕のせいとも思ったから、で、行くんだ」

「何度も大変ですね」

「列車が来る時間だから、行くね。じゃーー」

「あ、じゃーー」

 わたしはクスの鎖骨部分を見てキュンっとなってしまった。わたしは鎖骨フェチなのか、こないだ骨壺を持ってきたからなのか、わたしの推しは骨なのかな。部屋に戻ったら骨画像検索して見て見たくなった。

「よおーー」

「やあー。ごめんね、こんな遅くに呼び出しちゃって」

「こないだ、俺何か、いじったかな。どんなふうに調子悪くなった?」

「お姉ちゃんのに乗ってたら、動かなくなって‥‥‥」

「お姉さんの?」

「なんかヤンキーがたむろしてる。ちょっとクスの腕に抱きしめて歩かせてね」

「絡まれたらすぐ逃げるからな。目え合わすなよ‥‥‥」

「う、うん。クスくんがいるから平気」

「よくここまでこれたなーー」

「田舎のゴールデンウイークはやだやだ‥‥‥」

「余計な事‥‥‥」

「これ」

「サイドカーか!」

「これに付いてるカーナビがね、動かなくなって。ミュージックも聴けるんだけど、どうしてかなーー」

「じゃー、ちょっと見せてもらうよ」

「暗くない?違う場所のほうがよかった?」

「うん、ああ、ちょっとなんでだろ‥‥‥。電源がつかないね」

「ペンライトあるよ」

「サンキュー。ちょっと借りるね。あ、なんだ、ここのソケット抜けてるからかーー」

「ソケット?」

「どっかで引っ掛けたんじゃないのか。ここを繋げば‥‥‥。ほら、起動したよ」

「ありがとう。よかったーー。お姉ちゃんに怒られるとこだった」

「それにしてもいいサイドカーだな」

「こないだはツーリングだったからね。ねえ。明日休み?」

「祝日だから休み」

「まだ時間いいでしょ?ドライブ行こ。ひとりでサイドカーはつまんないもん」

「いいよ。俺も運転したかったんだーー」

 

「美容師専門学校は慣れたか?」

「こないだもそんなこと言ってなかった?」

「そうだっだ」

「まだね。始まったばっかりだし。そう言えばさー。お姉さんが花見城のバイトしたいんだって」

「こないだ聞いてたルクスのバイト?」

「うん」

「さあ。ルクスに聞いて見ないと‥‥‥」

「ルリさんも知ってるでしょ?。あの人に聞いてもいいかなーー」

「俺からはルクスに話しておくよ」

「お姉ちゃん。花見で一人暮らしたいんだって」

「お姉さんが‥‥‥」

「もっと飛ばしてーー」

「五月中にもバイト始めたいらしくて」

「カフェか、なんかでバイトしてなかった?」

「今のご時世厳しくて‥‥‥」

「そっか‥‥‥」

「あ、ちょっとヤバい感じの人がいる!」

「頭がヤケに尖がってる!バンドでもやってるのかなーー」

「バンドマンにしては、バイクがなんともヤバいな」

「巻いてーー」

「いぇぇーーい」

「はしゃぐなよ」

「行者渓に行こ‥‥‥」

「あそこ水しぶきが凄いんじゃ」

「いいから行こうよ」

「舟くだりやってないぜ。たぶん」

「こないだ行きそびれた場所あるでしょ?。あそこでちょっと休もうよ。喉が湧いた」

「俺もだな」

「うわー滝すごーい」

「というか、もう服がビショビショだ。ここ、カッパか雨具着て見るところだろ‥‥‥」

「誰もいないね」

「立ち入り禁止の中に入ってきたからな‥‥‥」

「ジュースで酔った」

「おい!洋服脱いでどーすんだよ!。水に入るなよ! 危ないぞ!」

「服が乾くまで‥‥‥」

ザザザザーーーーー!!!!!!!

「だーいすきーー!!」

ザザザザーーーーーーーー!!!!

「えッ!何?」

ザザザザーーーーーーーー!!!!

「クス!!」

「わあーー!!」

 わたしは諏方ココ(スカタココ)。水舎裁縫ハイスクールに通っていたときに、水舎町が地元のクスと知り合った。ハイスクール3年の冬休み、クスのジュニアハイスクール時代の友達と知り合うようになった。わたしはクスのことがひと目で気に入ってしまった。ハイスクールを卒業後、クスにはいろいろなことがあったようで、特に自慢できるような彼ではなかったが、わたしはハイスクールから美容師専門学校に入学してから、新学期を迎えたばかりでわたしはその先はまだわからない。けど、お姉さんがクスに接近していくように思えて、その前にクスにわたしの気持ちを伝えたかった。

「スキ」

「コ!‥‥‥」

「服が濡れてるから。乾くまで一緒にいて‥‥‥」

「ココ」

「寒くないか?」

「ぜんぜん‥‥‥」

 クスが友達のところへ行くと言って出かけた晩。わたしは妙な夢を見た。

 誰かと誰かが抱き合ってる夢だ。

 その男女はわたしには見覚えのないふたりだった。けれど、男性は妙に面影がクスに似ている。ふたりが抱き合ってる時、わたしはとても心地よかった。

 目が覚めて、もう一度同じ夢を見てみたいと二度寝したいくらいな朝を迎えた。そして思い出すのはクスの鎖骨だ‥‥‥。

「MJさまーー。ここにいらっしゃったのですかーー」

「ウクか。営業は捗ってるか」

「今回は釣り番組のロケに行ってまいりました」

「どうせ、餌なし設定のボウズ役だろう」

「さすがMJさま」

「ウクや、次は『こまいぬ』がくる。こまいぬシームじゃ」

「こまいぬ」

「こまいぬはいい。じつにいい」

「はいMJさま。次こそ、こまいぬシームがきますぞ」

「水ヨーヨーシームの時は熱中したなーー」

「はいMJさま。大人買い爆買いしました」

「カニシームがくると思ったのじゃがな。『二日目のカニ』に持っていかれてしまった」

「MJさま。カニシームはMJさまが巻き起こしてなんぼです」

「くやしいなーー。ウク」

「はい。くやしいでございました」

「そこのこまいぬを増やして見せてくれぬか?」

「かしこまりました。MJさま」

「おお、増えとる増えとる。こまいぬが増えとる」

「お見事お見事‥‥‥」

「見事じゃった。こまいぬ」

「MJさま‥‥‥」

「さあ、仕事に戻るぞ」

「ははーー」

 

「おぬし、有名になってるだっちよ」

「何が?」

「スーパースターレインジがネットで話題になってるだっち」

「いつ?」

「ここ最近、単独で行ったちか?」

「ゴールデンウイークの夜の街を歩いて見ただけだけど。これは以前からしてたことだけど」

「動画がアップされてるだっち。人助けしただっちか?」

「つい最近、道端で襲われてる人がいたから。でもいつの間に‥‥‥」

DQX 撮影動画 KAWAGANI DQX 紙芝居magNET 演目アイテム

この動画は株式会社スクウェア・エニックスを代表とする共同著作者が権利を所有する著作物を利用しております。また、動画に使用されている楽曲はスギヤマ工房有限会社が権利を所有する著作物です。当該動画の転載・配布は禁止いたします。 (C)2012-2016 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved. (C)SUGIYAMA KOBO (P)SUGIYAMA KOBO

「被害者に名前教えただっちか?」

「訊かれたのでスーパースターレインジと」

「スーパーヒーローになってるだっちよ」

「えーー。でも、僕はヒーローじゃなくてスーパースターさ」

「おつかれさまですーー」

「誰だっち」

「新入りの諏方サエと申します。よろしくお願いします」

「クスとルリさんの知り合いで、こちらはバイトの先輩の曼陀羅ダラ男さんです」

「よろしくだっち」

「僕はルクスです」

「かねがね伺ってます。この頃は有名だそうで」

「えッ!」

「それでは、おつかれさまでした」

「おつかれだっち」

「おつかれさまでしたーー。きれいな方だなーー。もう僕のことも知ってるんだ」

「ルクスは楽屋では、ゲイで有名だっちからな」

「なんだって!!」

「ジェンダー平等だっち。偏見はないだっち。気にするなだっち」

『ヨミガエルガール・ジャスティス』➄Pleasure x Newjack x Civilization

 


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『ヨミガエルガール・ジャスティス』➂Canon x Love S.O.S.

2021-05-13 07:06:22 | ヨミガエルガール・ジャスティス

『ヨミガエルガール・ジャスティス』① OUT OF LIMITS

『ヨミガエルガール・ジャスティス』②LOOK AT ME!

「今朝は大変だったねーー」

「夕べのお客はんが身投げするとはおもわかったどすーー」

「夕べ、こころあたりあったの?」

「妙なこと申してるとは思ってたどすけど、元旦早々にとは思わなかったどすーー。それでも気にしていたのどすから。今朝お部屋に朝食をご一緒にと、どないと思いましてどすなーー。お顔を出しに行ったらもうおれへんで!もう、たまげたどすーー」

「おつつ殿?」

「はいどす?」

「あまり自分を責めんようになーー。お客さまが待ってるで、今日もよろしく頼みますわーー」

「おおきに。では参りまっせどすなーー」

「お待たせいたしましたどす。おつつでござりまするどすーー」

「おつつさま。しばらくぶりでございますーー」

「相変わらずお綺麗ですなーー」

「きゃっ!!」

「Mッ!MJ!なッ!なんのようじゃ!」

「そんなに!(ビックリ)フェイスしなくともよいではないですかーー」

「なんのようじゃMJ」

「おつつさまの自由は僕の自由。MJ断崖。お芸者というものを見物したかったのですよ」

「悪いがチェンジしてくれどす。今日はそのような気分ではないどす」

「僕のことをまだ恨んでおるんですかーー。あれは師匠の命令だったのですよ」

「そのような気分ではないどすと申したではないか。MJ断崖だからこそ、正直に言っておる。許せどす」

「申し訳ございませぬ。あのときは何度も申し上げたのでございますが、おつつさまの旦那さまがなんとも強情なお方で、お救いあげられませんでしたーー」

「追い詰めたのはおまえじゃろ‥‥‥」

「そのようなことはございませぬ。ただ、師匠がお怒りになったまでに。あのときは申し訳なかったと今日お詫びにきたのです」

「グルメなコピーどすでなーー。あれで大量に宣伝されたらどす、一溜りもなかったどすわーー」

「師匠の悪知恵でございまする。しかし、おつつさまの旦那さまも悪人でございますぞ。なぜ、師匠を裏切るようなことをしたのでございます。師匠のほうがあのとき先にお命が危なかったでございますぞ」

「兄も死におったでどす」

「あの時、僕が師匠の事務所をほぼ助けあげました」

「MJ?おまえどすには礼を言う‥‥‥」

「お礼はこのMJ断崖と夫婦(めおと)になっていただけませんか?師匠&旦那さまの分までラブをいたしまから‥‥‥」

「おまえどすの童貞を奪った者がいるどすではないか」

「もうフラれましたーー」

「あはははーー。これは良きことを申し上げますどすえ」

「な、なんでございますか?」

「おつつは芭駄々(バダダ)と夫婦(めおと)になるのどすえーー」

「芭駄々と!」

「ヒーローコスチューム生産。ヒーロー興業。ヒーローアパレル界では芭駄々に敵う者はないどすえーー。兄もあの電飾コスチュームで芭駄々がいなかったらあれだけのヒット作にはならなかったどすわ。MJ?おまえもあの時がなかったら兄の下働きもできなかったどすであろう。あははは。芭駄々の童貞はこのおつつが奪ったどす。夫婦になってどすもよかろうなMJ断崖?」

「おつつさまーー。堪忍ですわ。堪忍してくださいなーー」

「チェンジどすな。ほな、おいとましますどす‥‥‥」

「クソー!!芭駄々めえーー!!」

「チェンジですなーー」

「あのーー。巨乳にしてください」

「巨乳?聞いたことないなーー」

「ワタシームなんです」

「ワタシーム?聞いたことないなーー」

 

「MJがゆるドール攻勢かけおった。ワタシームまで流行らしおって」

「ヒーロー興業はどないしはりますどす?」

「ヒーローコスチュームはゆる人形化してしまった。ヒーローイベントの催事も下火だ。コスチュームアパレルも不渡りを出してしまった。興業事務所もだ」

「MJに断崖とつけたどす。兄が悪いどすよ」

「追い詰められたなーー。一度、巨乳に行くと見せかけてこれだ。成長したなMJも‥‥‥」

「ゲームでもするか‥‥‥」

「ゲームどす?」

「子猫ちゃんを乗せてゲームだ。大河が眺める崖まで行こう」

「飼い主はMJじゃないどすえ。芭駄々、あなたどす」

「このまま突っ込めば大河にふわーと落ちて一巻の終わりだ」

「よーし!突っ込むぞ!」

「もうひとりは手遅れだった。気の毒に‥‥‥」

「ね…こ…が…乗っ…て…なか…った…」

「はーい。おつかれさーん」

「いらっさいませーー」

「お部屋、どこかなーー」

「二階のサクラ餠の間でございます」

「はーい」

「いいの?あのお部屋で・・・・・」

「この頃、あの部屋出るって聞いたよーー」

「いいわ。いつものことだから。お客さまがお疲れになって不機嫌なときはいつも言われてることだから。逆に商売がうまくいったとかも聞くし」

「あのお客さま有名人だし、福の神かもね‥‥‥」

「この服でいい?」

「行くの?」

「うん」

「‥‥‥」

「やあーー」

「ねえ、ココ行かなかった?」

「来たよ。なんで?」

「ほんとに行ったんだーー」

「なに失笑してるんだよ」

「わたしあんたのこと昔からわかってるけど‥‥‥」

「最近ココたちとボーリング行ったり、この辺をウロウロしてたし、ココはあんたの幼馴染のことも気にしてたけどさーー」

「なんでもないのはわかってるだろ」

「あはは。おかしいーー」

「いいだろ。じゃな‥‥‥」

「先輩、今晩泊めてくれます?」

「何かあった?」

「先輩とわたしのお姉さん同級生でしょ。お姉さん、クスに目つけてて。クス、先輩のことも知ってるって言ってたから。それで意気投合して、地元でボーリング行ったりもしてたんだけど、お姉さんにも紹介するのもいいし、わたしも獲っちゃおうかと思って」

「大胆ねーー」

「くじみたいなもんだし、捨ててもいいかなってね」

「それで花見城まで来たんだーー」

 お姉さんの分の品物買ったあとに、自宅まで一緒におくってもらうことで会ったんだけど。

「カーテンとかないんだ。外からだとまる見えじゃん」

「まだ引っ越したばかりで何もないんだ。荷物どこまで運ぶんだ?」

「わたしんち。お姉さんも自宅暮らしだから」

「夕方になるとあれだな、急がないと」

「お腹すいたーー。これ、食べていい?」

「あゝいいけど」

「食べてからね」

 時間延ばして泊まっていこうかと思ってて‥‥‥

「食べた食べた。ちょっと寝っ転がるね」

「床掃除してないから服が汚れるよ」

「気にするほど汚れてもないよ」

 そうこうしてるうちになんとなくいいムードになってたんだけど‥‥‥

「おい、クス。なにしてる?暇だーー」

 クスくんの友達のルクスくんが遊びに来てさーー。

 飛んだお邪魔虫だった。

「で、そのあとあたしのところに来たってわけ?」

「クスくんとルクスくんとで荷物運んで届けてもらうことにした」

「おい返せばよかったのに」

「もうやだ!PCR検査までして来たんだよ!」

「さっきまでクスとか言ってて、途中でクスくんとか言っちゃってさ。『くん』つけるぐらいの距離でいいんじゃないの」

「先輩泊めてください」

「朝の始発で帰るんだよ」

「はあーー。もうやだ‥‥‥」

「今日の撮影はもうないだっちな」

「おつかれーー」

「おつつさんのお墓知ってるだっちか?」

「ああ、前に見に行ったことはあるよ」

「わっち見たんだっちよ」

「何が?」

「おつつさんのお墓で人影をだっち」

「えッ!こわ!マジ?亡霊か、もしかして‥‥‥」

「‥‥‥」

「ルクスさんまだバイト終わってないかな。ん?‥‥‥」

「ここだけの話しだっち。人影を追って見ただっち」

「そ、それでーー?」

「ルクスが子供の頃に遊んでたとか言ってただっち、カッパが出るって言ってたそのカッパ池があるところまで行ったのだっち」

「あの辺は悪党どもがたむろしてるから。最近はあまり行けてないや」

「わっちはその日、カッパ池まで行って見たらだっちよ。池に木像が縛られて浮かんでたんだっち」

「木像が縛られてただって!」

「その下にはなんとだっち。かんおけが見えたんだっち!!」

「かんおけ!」

「おつつさんは、誰かに沈められたんだっちよ」

「おつつさんは川で水死したと聞いてるから。沈んだのは間違いないと思うよ」

「そのあとだっち。墓に埋葬されずに池にかんおけごと沈められたのだっち。縛った木像まで置かれて、ありゃーいかんだっち」

「ここ最近、見たこと?」

「わっちは最近見たばかりだっち」

「誰かが墓を掘り起こしてまで、そんなことをしたのかなーー」

「おつつさんはだっち。元々花見の人ではないだっちよな?」

「なんか聞いた話しだと、お兄さんが著名な人だったけど、亡くなってしまってから芸者をしてたって聞いたことがある。何らかの理由で花見まで来て死んだんだと聞いている」

「せめてだっち。お骨のひとつでもおつつさんの実家にでも届けてあげたいだっちなーー」

「よくホテルにはおつつさんが出た!とか聞くからね。うちもアパート経営だし、変な噂が立つと嫌だなーー」

「ちょっと。ココ?ここで居眠りしないで」

「あゝ。クスはまだ帰ってこないかなーー」

「帰って来てもまたお邪魔虫と遭遇しちゃうんじゃない。今日はお風呂入って着替えて寝たら?花見じゃなくて、あなたの地元で会いなさいよ。今度はね」

「めんどくさい。もう寝る‥‥‥」

「最終列車には間に合ったなーー」

「ルクス。今日はありがとな。俺コンビニに寄ってから帰るよ」

「じゃなークス」

「じゃなールクス」

 クスは、ええと、本名は坂野目陸(さかのめりく)リクがいつのまにかクスと呼ばれるようになったらしい。幼い頃からクスと言われてきたらしく。僕と初対面のときも、クスの方が先であとから本名まで聞かされた。ココという名の女性は、クスの地元のハイスクール時代に知り合った仲だったらしい。ハイスクールが冬休みのときに地元で帰省中にジュニアハイスクール時代の友達を通じて知り合ったと言っていた。今日はココという友達と買い物をして自宅までおくって行く予定だったらしいが、僕がクスの部屋に訪ねてから急遽、僕が荷物運びを手伝った。今思えばなぜなんだろう‥‥‥。

「なんでだろう・なんでだろう。ななな、なんでだろうーー。古いか」

「ルクスさん、あッ通り過ぎちゃった」

 わたしはコンビニで買い物をし終えたときに、ルクスさんとすれ違った。何かふたりで立ち話ししてるのが聴こえきた。『クス』ってお友達かなーー。ちょっとコンビニの外で待って聞いて見ることにした。

 クスさんがコンビニから出で来た。

「こんばんはーー」

「こ!こんばんはーー」

「あの、ルクスさんのお友達ですか?偶然さっきそちらで見かけたので」

「え、あ、はい。何か?」

「わたし、ルクスさんにお世話になってる者で、ベーコと言います。ルクスさんに聞けばわかると思いますが、気になったのでお声をかけました」

「家はどちらですか?」

「そこの角を曲がったところです」

「じゃ、近くまでおくりますので、お話しは歩きながらで」

「はい。なんか続きはWebで、みたいだね」

「えッ!」

「今日はここで撮影か‥‥‥」

「ルクス。おつつさんの亡霊が気になるだっちな」

「ダラ男?僕、今隠してることがあるんだ」

「なんだっち」

「ヤッホー。今日もバイト?」

「そうだよ。なんだ?。入学式の衣装はこれでいいって言っただろ」

「クスさんってルクスさんの仲間?」

「なんだよ急に!」

「クスをわたしにくれ!」

「クスをおまえに紹介した覚えはないぞ!」

「カッパ池に行く!」

「もしかしておまえ!」

「今晩集合ね」

 

「わたしたち、コンビニで知り合ったの。正確にはコンビニの前だけど」

「なんでこのようなコスチュームを着なきゃならないのさ」

「もうひとつの顔でしょ。ねえ、スーパースターレインジ?」

「正義を貫くためさ。というか、もうひとりの顔もいるんだけど」

「ジェンダーオバサンだっち」

「ジェンダーオバサンは男女の性区別もなく。ジェンダー平等へと正義を貫くそうだ」

「心強いわね」

「おつつさんの亡霊に会いに行ってだっち。おつつさんの遺骨を拾うだっち。そして実家に帰してやるだっち」

「怖くないのか、ルクス」

「ここではスーパースターレインジだ。キミはラバーズレディとでも名付けよう」

「ジェンダー平等だっち」

「わたしはまだ名無し」

「名前早く考えろ!」

「こないだそっちが考えるって言ってたじゃない!」

「生意気ガール」

「何それ、そんなの嫌やよ」

「思ったまま言ったのさ!」

「言い争いしてる場合じゃないだっちよ」

「まずは行って見て、おつつさんの姿を見ようぜ」

「それからまた言い争いだな!生意気ガール!」

「何よ!ちょっと今不機嫌なの?」

「まってだっち!。わっちが考えるだっち!」

「おつつさんの黄泉の国を見に行くツアー記念だっち。ヨミガエルガールでどうだっち?」

「ヨミガエルガール」

「いいわ。ヨミガエルガールで。記念日だからね。なんか買ってよ」

「それは正義を貫いてからだ」

「出張ツアーでお土産もないんだ!」

「おまえ反抗期か?」

「反抗期よ!だってまだ15歳だもん」

「はいはい、行くだっちよ。ついてくるだっち」

「うわーー。ほんとに木像が縛られてる」

「何かじっと見てるね」

「で、出たー!!!!!」

 とんでもない大きな蜘蛛が僕らの目の前に現れた。僕たちは手に持っていた武器で周辺を振り回した。

 確かに池に浮かんで見える縛られた木像は、杭で打ったように水中を突き刺していた。そしてその周りは蜘蛛の巣だらけになっていた。そこにはかんおけのような物まで池に浮いていた。

 かんおけを引き寄せ、蜘蛛と蜘蛛の巣を追い払うと。かんおけではなく木製の箱と中には骨壺が入っていた。棺桶と言ってもいいだろうやはり。

 あまりに悪質な悪戯だ。骨壺の中身はおつつさんの遺骨であろうか。僕たちは骨壺を持って帰り、『ヨミガエルガール』こと、ベーコのアパートにしばらくしまって隠して置くことにした。

『ヨミガエルガール・ジャスティス』④TROUBLE

 


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