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旧える天まるのブログ
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灯の果て夢の果て<回>

2018-11-30 11:09:51 | 灯の果て夢の果て


<回>

 宮古のバーの店内で、カオリママの話しをしばらく聞かされているうちにマッチ棒も酔いがまわってきた。話しの節々に隙間があると、そこでマッチ棒が東京であったことを話したくなり、何度か池袋に行った事を口にしようとするが、カオリママは『黙ってなさい』と言わんばかりに緩んだ口をカオリママの語りで塞がれた。

「おまたせ」

 エリコが着替えた衣装は、下がホットパンツに上はジャケット姿。そしてブラジャーがまざまざと見え、上下黒色に纏った出で立ちだった。それに膝上まである黒のブーツを履き、エリコはステージまで歩いていくと、ポールダンス用のポールを布で持ち上下に細かく拭き始め、柔軟体操も行っていた。

「今まで見たことある?」

「いいえ、初めてですこういうのは」

 マッチ棒はその姿に見惚れていると、カオリママがハガキサイズのポストカードをマッチ棒に手渡した。

「足の部分がエリコの足だから」

 カードに写っている写真は、背景が赤色で黒のブーツを履いた片方だけの足がエリコだと言っていて、マッチ棒はそのカードをよく見ると、前に働いていたお店のチラシ用のカードだった。
 
 カオリママはマッチ棒をそのままにし、店の隅に向かい音楽をかけ、店内はジャズが鳴り響いた。

 スポットライトがエリコがいる銀色のポールを照らすと、ミラーボールの輝きまでもが店内中を彩り、最初に入った時のイメージとは見違えるように変わった。

「ディスコ調のかける?」

「いいえ、このままでも」

「古いのよねーあたしら」

 カオリママは何を言いたかったのかは知らないが、ラテン系とユーロビートが流行るバブル景気の中で、南国から訪れたフィリピン人とは相性が悪かったとでも言いたげな様子にも伺えた。

 「4番お願いしまーす」

 エリコがそう言うと、カオリママは隅の方へ行くと色っぽく軽快なジャズが鳴り出した。
 胸はそんなに出てないが肩幅が広くお尻も広く見えるエリコが右手にポールを握り始めると、左手を垂直に開き、ブーツでコツコツ踏み歩いてポールを起点に回り始めた。

 背中を向くと、ホットパンツからはみ出る太ももとヒップライン。そして正面を向くと黒のブラジャーがむき出しに見え、目と目が合いそうになり目のやり場に困ったマッチ棒は、エリコの三角状になった下半身を想像した。

『いやらしい!』

 天井から後頭部に向けてエリコの声が聴こえたようにも思えた時、エリコの足はポールにからめ身体ごと宙に浮いていた。宙に浮いたエリコの太ももは、銀色のポールに絡み合い黒との隙間から見えるエリコの白い肌でマッチ棒は心底目が回った。

 カオリママがカウンターを隔てて背後からエリコの踊りを見ているのに気付いたマッチ棒は、手に持っていたチラシのカードに写るエリコのブーツに指をあて

「ここで働いてたんですか?」と、改めて尋ねると

「詳しいことは、あとでエリコから聞いたらいいよ」と、返事がかえってきた。

「は、はい」

(あとでって!)
(あとで聞いたらって…何?)

 マッチ棒は『あと』の事が気になり踊りから目が離せなくなった。そして、エリコの演舞に魅了し、更に酔いが回った。






ゴールドラッシュ池袋イーストヘルス: える天まるのブログ灯の果て夢の果て続編 (灯の果てノベルズ)
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灯の果て夢の果て<色>

2018-11-08 10:06:33 | 灯の果て夢の果て


<色>

 マッチ棒がトイレで用を足していると、扉の素通りする物音と「おかえなさい」という言葉が聴こえて来た。マッチ棒はパブ改め、宮古のバーのママがもどって来たと思い、急いでチャックを閉め手を洗い服装を整えトイレからカウンターにもどった。

「こんばんは」

「いらっしゃい、ええとー」

「町野さんです、今日、釜石に行ってきたんだって」
「カオリママです」

「初めまして、町野です」

「何もなかったでしょ?」

「いいえ」

「大観音見て来たんだって」

 白系のスーツにまとったエリコとは対照的に、黒のダウンジャケットを羽織り、体格は小太りで黒の髪の毛にパーマがかかり、中年の容姿とボスの貫禄。そして”トラック野郎”シリーズで”愛川欽也”の妻役を演じた”春川ますみ”似の日本のお母さんが入り混じり、そこにダークな感じも入り混じり、ダークな女は一緒いたエリコだった。

「ママのタイプでしょ」

「タイプだわー」

「お土産いただきましたー」

 エリコはマッチ棒が釜石大観音で買ったお土産の紙袋を持ち上げカオリママに見せると、マッチ棒は「中にお菓子が入ってますから」と一言。

「あら、気をつかっていただいて、あとで頂きますから」と、一言返し、ジャケットを着たままエリコと二人でカウンターの前に立った。

 店は閉店し、マッチ棒と3人で飲み始めた店内で、マッチ棒は池袋の妹さんに会ってここに訪れたことを改めて話した。

「妹はあそこじゃ、ユミコと呼んでいるようだけど、しばらく会ってなくてねー」
「それまであたしら、名古屋に居たのよ」
「母と別れた父が亡くなってねー。それで残した住居と、ここにお店を開いてね」
「前の旦那がフィリピン人集めて、ここを改装してショーパブ始めた頃に」
「妹も商売始めたいって言うから、その時ちょっと会ったぐらい」
「それから、お客さんが来なくてねー」

「それだけじゃないよ」

 エリコが店のことをかばうようなことを言い始めた。

「ここ二階でしょ」
「それで、二階で営業してると下から苦情があって」
「フィリピンから3人入って、わたし入れて四人」
「時間制で、間にちょっとしたショータイム入れると下に響いてね」
「けっこう揉めたの」

 再びカオリママが語りだした。

「あとは、前の旦那とフィリピン人が出て行って」
「その前から、あちこちでいろいろやったわ」
「ダイアルQ2がこれから儲かるとか、ウンタラカンタラって」
「まーバカみたいに、いろいろなこと言い出してね…」

「名古屋では何かやってたんですか?」

「キャバレー」

「この子ダンサーなのよ、ポールダンス?知ってる?」

 マッチ棒は名古屋でのことを聞くと、以前、エリコはキャバレーでポールダンスを踊っていて、そこでカオリママは受付をやっていて、その後に宮古へエリコとともに引っ越して来たという事情を聞いた。

「エリコ、今夜、踊って見せようか」

そういうと、エリコがカウンターから使われなくなったステージの方へ歩きだし、その後方に引かれていたカーテンを開くと中央にポールダンス用のポールが銀色に光り、天井から縦に繋がっていた。

 マッチ棒は銀色に光るポールに緊張感を覚え、ぬるくなったお湯割りを飲むと、再び尿意を感じトイレの方へ誘導された。トイレから戻るとエリコはおらず、カオリママだけがカウンターの前に立っていた。

「今、着替えに行ってるから、エリコ」

 エリコがポールダンスを踊るために着替えている最中、マッチ棒は『池袋のファッションヘルスであったことを話すべきか?』迷っていた。その迷いを打ち消すようにカオリママは、これまでいくつもの商売でうまくいかなかったことを数珠繋ぎのように話し、マッチ棒のことをふる様子にならなかった。

「今年、三陸博があるのよ」

「三陸博ですかー」

 博覧会バブルは大河ドラマ”独眼竜政宗”が放送された1987年に”東北博”をきっかけに各地で博覧会バブルが起き、宮古市では今年、”JAPAN EXPO”主催の三陸博が7月から行われる予定地となっていた。政宗ブームと東北博ブーム。バブル経済の後押しと博覧会バブル。売上税導入騒動から始まり、消費税の導入。宮城県知事と仙台市長のゼネコン汚職。『その諸悪の根幹は政宗にあるのでは?』と、二重三重に不快不信に思ってはいたが、宮古で行われるイベントを心待ちにしているカオリママたちの様子を伺うと、ブラックジョークにさえ、口にはしなかった。



高校生下宿: える天まるのブログ<高校生下宿> (ブログ文庫)
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灯の果て夢の果て<嬢>

2018-10-26 10:54:24 | 灯の果て夢の果て


<嬢>

 フランチャイズのラーメンショップで夜10時まで待ったマッチ棒。そこで二杯目のどさん娘味噌ラーメンを食べ、お腹は満腹状態。店の畳敷きのテーブルで横たわってテレビのニュースを見ていると、"伊藤みどり"の特集をやっていた。
 今年行われるアルベールビルオリンピック。目玉は”伊藤みどり”で、小学生時代からの映像が流れ、ワカメちゃんカットの”伊藤みどり”が、なんとなくそのワカメちゃんカットが彼男の面影に似てきて、大人になり女っぽくなった”伊藤みどり”と彼男との間に心の綱引きが生じ、マッチ棒が”伊藤みどり”に引っ張らてれていくのが辛くなり、畳の上で苦しい時間を待っていた。

 テレビに没頭していると、時計の時刻はあっという間に経ち、マッチ棒はラーメン屋から出て宮古駅に向かい、駐車場にレパードを置いて駅前からタクシーでパブ改め、宮古のバーのママが居る飲み屋まで送ってもらった。

「ここでしょうね」
「あそこの二階です」

「あ、はい、ありがとうございます」

 宮古市の繁華街のような場所で、飲食店や飲み屋などが並ぶエリアで、教えられた店の建物は一階も飲み屋のようで、目的のお店はその建物の二階に看板が灯ってあった。

「あの階段から登っていけるみたいですね」

「そのようですね」

 マッチ棒はタクシーから降りると、店に向かう階段を登りパブ改め、宮古のバーのママが居る店のドワを開け、中へ入った。

「カランコロン」

「いらっしゃいませー」

 店の中へ入ると挨拶してきたのは、おばさんではなく若い女性だった。店の中はやや広いフロワーになっていて赤い絨毯(じゅうたん)が印象的な店内だった。カウンターには客が四、五人座っていて満席状態の席から一斉にこちら側を振り向いていた。

「あ、あの、町野ですが」
「先程、お電話した者ですが…」

「えーとーうちのママにですか?」

「はい」

「ママはちょっと出かけていまして、飲みにいらっしゃたんですか?」

「あーはい、飲みにです」

「もう少しで戻って来ますが、ちょっと待ってます?」
「それとも他で飲んでます?」

「いや、ここで飲んで待ってます」

「すみません」

 マッチ棒は、店のママではなく従業員と初対面は会い、満席のカウンターから少し離れたソファーの席へ、釜石で買った土産の紙袋を片手に待ってポツンと座り、ママとの面会を待つことにした。

「こんばんは、エリコです」

「こんばんはー」

「何にします?」
「水割り?」

「はい」
「あ、これ、ママに渡してください」

「なんですか?」

「釜石観音に寄ってきて、そのお土産です」

「釜石に行って来たんですか?」

「はい」

「何もなかったでしょ?」

「いえいえ、立派な観音様が」

「あなたママのタイプだよ、ママが喜ぶと思う」

「そ、そうですかー」

 店の従業員のエリコとソファーで話していると、カウンターの客たちががエリコに問いかけた。

「エリちゃん、ミカちゃんまだ来ないのー」

「あの娘は他のお店なのよー」

「他のお店ってどこー?」

「ここで飲んでてください」

「なんでよーミカちゃんここの店にいるっていうから来たのにさー」

「エリちゃんタクシー呼んで、ミカちゃんのお店に行くんで」

「はいはい、しょうがないわね」

 エリコはカウンターを満席にしている団体客のほうへ戻った。マッチ棒は,その様子を眺めながら水割りをちびちびと飲み、バーのママが戻ってくるのを待ちながら、フロワーのやや広めのスペースの中でパブ時代の面影に想像を巡らしていた。
 バーのカウンターとソファーの席で一件分、残り一件分は絨毯(じゅうたん)敷きではなく、ステージがあったような床があり、そこだけが妙に無駄に空いたスペースになっていて『夢の跡』のような哀愁が漂っていた。

「あ、タクシー来たみたい」

「じゃね、エリちゃん」
「ミカちゃんはどっち?」

「階段気をつけてくださいね」

 バーのカウンターを満席にしていた団体客は一斉に店内から出て行き、エリコも客を見送りに店の外へ出て行った。ひとりポツンと残されたマッチ棒は、ポケットからタバコを出し火を付けてテーブルにタバコの箱を置いてぼんやり『夢館』で待っていた。

「カランコロン」

エリコが戻って来た。

「ママはもう少しで来るから」
「こちらにどうぞー」

「あ、はい」

 エリコがカウンターの席に呼び出すと、マッチ棒はタバコの火を消し、カウンターの席に水割りを持って移動した。

「ママとお知り合いなんですか?」

「いえ、東京の妹さんの紹介で寄ってみたんです」

 エリコを前にちょっと照れ臭くなったマッチ棒。俯き加減でエリコと会話し、二本目のタバコに火を付けたときに、エリコがマッチ棒のタバコの箱に何やらペンで書いた。

「エリコです」

 タバコの箱にピンク色の油性ペンで『ERIKO』と書いて自分のことをマッチ棒に紹介した。

「さっきのお客さん、お座敷のお客さん」

「お座敷って?」

「観光ホテルの団体さん、新年会だったらしくて」

「あー、電話したときにコンパニオンに出てるって訊いてました」

「さっきの団体さんがここの店に来てくれて」
「目当ての女の子がいないから、すぐに帰っちゃった」
「人気の女の子が居てねー、そこにお客さんが集中するから、その時、一緒に相手をしていて、ここにお客さんを呼んだの…」
「このとおり、今暇だからさー」 

「ママもコンパニオンに出てるんですか?」

「今、新年会シーズンで追加があると、お店が留守になることがあって」
「あたしが早く帰って来たから、他のところにお手伝いで店番に行ってて」
「もう少しで帰ってきますから」

 エリコの髪型は若い時代の”渡辺絵美”のような髪型で、肩幅と腰は広く、太っているわけでもなく、顔は”渡辺絵美”をヤンキーにしたような感じだった。
 『可愛い』という印象より”工藤静香”と中山美穂”を足して2で割ったような、喋ってる感じは優しく、顔を見ていると、目と目の間に引き込まれていくような感じがした。
 エリコで思い浮かぶのは”田村英里子”。かつて、若者を虜にした”小泉今日子”を彷彿させる『半尻グラビア』でトレンディーになり、柔道界では”田村亮子”がヤワラちゃんの愛称でトレンディー、そして阪神の”田村勤”がトレンディーし、『日本田村三景』がテレビ界を飾った。

「ママのタイプだよ」
「早く会わせたい」

 「エリコさんは何故?そんなことを言うんだろう?」と、不思議に感じ、池袋西武で買ったベージュのフェイクレザーのハーフコートに水色系のEDWINのジーンズ。そして、飯能のスーパーマーケットの衣料品コーナーで見つけた小豆色のセーターを着たマッチ棒は、着こなしは今年一番のお気に入り。その姿で宮古に訪れたことで功を奏したと思い、カウンターでひとり照れ笑いを浮かべた。

 エリコとふたりになり、30分もしないうちに電話がかかってきた。

「あー町野さんという方が来てるよ」
「ママが好きそうな人」
「お客さん?さっきまで居たけど今は町野さんだけよ」
「お土産まで頂きました」

「町野さん、帰りはどこのホテルか旅館ですか?」

「駅の駐車場に車を止めてて、泊まるところは決めてないです」

パブ改め、宮古のバーのママからの電話だった。

「ママがもうちょっとかかるみたい」
「伝言があって」
「今日はあと、お店をお休みにするから、3人で飲みましょうだって」
「町野さん、それでもいいですか?」

「え、あーべつに大丈夫ですけど」

エリコは、ママのことづてに従い、バーの看板を消して店のドワのカギをガチャっと閉めた。

「え!」
「ママさんはどこから?」

「ママは他のところから入ってくるから」

 マッチ棒を店に入れ、店のドワのカギをかけたエリコの顔つきは、マッチ棒を独占したような顔つきになり、緊張感が漂った。

「ちょっとトイレ」

「そちらの扉です」

 マッチ棒は恐る恐るトイレに向かい、トイレの中で間違いなく反応した尿意とその下になだれ落ちていく尿の音が、エリコにまで聴こえているんじゃないかと思うと、そのまま立ち尽くし動けなくなっていた。そして、全身を前に傾け、周囲を汚せまいと必死に硬直した身体を下になだれ落とした。
 緊張がほぐれても、エリコのもとへ帰るとその身体は硬直し、喉が乾き、唾を飲み込み水割りを飲んでも、水割りのお酒は飲んだ後に冷たく染み込み、ブルブル肩を揺らし震えが止まらなかった。

「寒い?」

「お湯割りにしてもらえますか?」

「寒いもんねー」

 エリコがお湯割りを作り「熱いから気をつけてね」と、一言添えてグラスを差し出した指先にマッチ棒は再び尿意を感じ、「ちょっとまた」と言っては、トイレの中へ閉じ込められた。




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灯の果て夢の果て<竜宮>

2018-10-14 15:41:20 | 灯の果て夢の果て


<竜宮>

 宮古市へ向かって旅に出たマッチ棒。高速道路を北上していると、左手に衣川城がちらっと見え、その先に前沢パーキングの入り口が見えた。そこで車を止め休憩所へ向かうと、大きな岩手県の地図が飾ってあった。

「盛岡はずいぶんと上だなー」

 地図を見ると盛岡は下から見ると半分より上の位置にあり、ちょうど半分ぐらいの位置に花巻市があった。そして花巻市から東へ通じる釜石線を通ると海岸沿いには釜石市があり、そこから北上しても宮古市に行けることを確認した。

「花巻かー」
「まだ降りたことないな…」

マッチ棒はまだ花巻市を通ったことがないのに気づき、花巻から釜石へ抜けるルートに変更した。

 高速道路から花巻インターで降りたマッチ棒は、市街地から釜石方面と書かれた看板に沿って車を走らせた。昼食にラーメン店に入り、ラーメンを頼んだマッチ棒。いつもながら感じることは岩手のラーメン屋はどこの店でもラーメン屋の質が高い。『普通のラーメン屋でも旨く感じる』宮城では普通のラーメン屋は旨いと思わないのが普通だが、岩手に入ると、どこの店も仙台では行列ができそうな旨さの店が普通に営業している。『さすが麺の国わんこそばの国』と思わせるほど、ラーメンでも岩手と宮城では味の質が違う気がしてならなかった。宮城では『半ライスサービス』の店が流行るが、岩手では半ライスは無用だった。その店の○○ラーメン一品を頼めばそれだけで満足をした。

 1月、花巻市内からは外は雪景色だった。そこから東に釜石線を通ると雪の山々に覆われ、いつ何時、運転するレパードが雪に包まれ動けなくなのか!という不安を過ぎらせながらも海岸に通じる難所を越え、”釜石市”と書いてある看板を通り抜け、海岸沿いの道路までレパードは走った。

「釜石と言えば新日鉄釜石だよな」
「松尾だよな」

 新日鉄釜石ラグビー部が日本選手権7連覇のときの立役者の”松尾雄治”のことを思い出していたマッチ棒。最近は”独占スポーツ情報”でへらへらしているか、ビートたけしと一緒になって悪ふざけしているイメージしかない”松尾雄治”だが、”無敵の新日鉄釜石”時代の顔は鮮烈だった。ラグビーのイメージしかない釜石市を走っていると、”釜石大観音”という案内板があちこちに見えるようになった。海岸線を北上中、右側には太平洋が見え、その手前先には”釜石大観音”の案内板が手招きをしているようにも見え、マッチ棒は吸い込まれるように”釜石大観音”の敷地内に入り観音様を拝むことにした。

 駐車場から大観音があるところまで徒歩通路があり、その通路の脇には土産物店が何軒も立ち並び、そこの店員のおばさんたちが一斉にマッチ棒を歓迎する視線を浴びせてきた。

「いらっしゃいませー」

「どうぞ、お茶」

「あ、ありがとうございます」

「お兄さん、こっちもあるよー」

「え、あ、はい」

「いらっしゃーい」

「お茶、お茶、飲んでってぇー」

「こっちも飲んでってぇー!」

「!!」

 お土産屋の前を素通りする度に浴びせられる「いっらしゃーい」とお茶の嵐。そのおばさんたちの口調は”松尾雄治”がバラエティー番組に出ているときの口調とそっくりで、前のめりになって喋る語り声とパッション。お土産屋のおばさんたちが立ちはだかる大観音への道は、一歩一歩が受難だった。
 行きで寄って買ったお土産のスルメイカと宮古のパブで会った時に渡すつもりで手にしたオシャレな感じのお菓子。そして”釜石大観音”を拝観したあとに、再びお土産屋で買った佃煮と日本酒とその他の数々。いずれにせよ、宮古のバブのママに向けて買った上納品の数々が”釜石大観音”からのお利益に繋がることを信じ、マッチ棒は釜石から宮古へと向かった。

 ”釜石大観音”から出た頃はすでに日は傾き、辺りは薄暗く太平洋の波だけがキラキラと輝いていた。マッチ棒は宮古市に入り、バブがどこにあるのかもわからずに、まず初めは宮古駅を目指した。市内をあちこち巡回していると”宮古駅”の案内板が見え、その道を辿ってレパードを走らせた。

「駅に駐車場があれば、そこで車中泊でもするか」
「駅前で夕食を食べたあと、公衆電話からお店に電話して訊いてみようかな」

 マッチ棒は”宮古駅”がある場所を確認したあと、途中で見かけたフランチャイズのラーメンショップまで走らせ夕食もラーメンにした。

「やっぱ岩手のラーメンは旨いな」
「どさん娘ラーメンも一味違う…」
「県民性かなー?ラーメン作りが上手いの…」
「岩手県人から見れば、旨いマズイもあるんだろうけど、岩手の人は知ってるのかなー基本的にラーメンが旨いの…」
「というか宮城県人がラーメン作りが下手なのか」
「ラーメン食べに山形行ったり福島行ったりするからな」
「地元のラーメンがマズイからか!そっか」

 岩手で宮城県人のラーメン作りは下手だと悟ったマッチ棒。昼、夜とラーメンを食べたあとは、バブでお酒でも飲もうとフランチャイズのラーメンショップの駐車場に止めていたレパードの中で煙草を吸い、時間が過ぎるのを待っていた。煙を外へ出すために窓を開けると、真っ暗になった外の景色から潮風の匂いが漂い、今、海辺の街にいることを実感していた。
 
「8時かー」

 ラーメンショップの駐車場で時間を潰していたマッチ棒。時計は夜8時を過ぎていて、そろそろ一度連絡してみようと宮古駅まで訪ねて行った。レパードを宮古駅の駐車場に止め、公衆電話へと歩いて向かい、大切に持っていた連絡先が書いてあるマッチ箱を手前にし、公衆電話のプッシュダイアルから宮古のバブの電話番号を押した。

「もしもし?」

「はい」

「パブ、うすけぼさんですか?」

「パブは、今はやってないんですよ」
「フィリピン人がみんな盛岡だの、仙台だの行っちゃってさー」

「もうやってないんですか?」

「バーならやってるけど…」

「あ、あのー、失礼ですが池袋の妹さんご存じですか?」

「池袋?あーあたしが姉です」

「すみません、その池袋の妹さんから紹介していただいて」
「今、宮古駅にいるんですが、場所はそこからは遠いですか?」

「駅からなら、タクシーで来るといいよ、そんなに遠くないから」

「住所は○○でよろしいでしょうか?」
「電話も今、手元にあるお店のマッチ箱に書いてあるのを見てて、かけているので…」

「住所も変わってないから、ただ、女の子が入るのが遅いよ、観光ホテルのコンパニオンで今出てるところだから」

「えっと、何時だと開いてますか?」

「あたしだけなら、10時過ぎに来たらいいよ」

「10時ですか、わかりました」

「すみません、お客さんのお名前教えてくれますか?」

「えっと、町野です」

「町野さん、はい、じゃーお待ちしてますから」

「はい」

 マッチ棒は、二時間ほど待つことにして、寒くなった宮古の夜に身体を温める為、再びフランチャイズのラーメンショップまで走らせた。

「いらっしゃい」

「何時まで開いてますか?」

「10時までかな」

「じゃーどさん娘味噌ラーメンください」

そして、今日、三杯目のラーメンを頼んだ。





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灯の果て夢の果て<年明け>

2018-10-08 06:49:22 | 灯の果て夢の果て


 <年明け>

 東京出張に出かけ、東京で仕事を辞めて帰って来たマッチ棒。正月休みから無職になって実家に帰宅するとは両親は知らず、笑顔で迎えられた。

「おかえり、どうだった?」

「あーよかったよ」

「こっちもよかったよ、あんたが居なくて」

 毎月送られていた仕送りと息子の世話をしなくてもよい気軽さは、今までどこか重たい空気が家庭内にはあった。マッチ棒が居ない間、軽い空気の家庭で両親たちは過ごしていたように思えた。

 マッチ棒が子供の頃から見ていた夫婦喧嘩。マッチ棒が成人し、数か月起きに勃発する親子喧嘩。そして、息子が東京にいる間に平和な暮らしをとりもどした両親たち。
 しかし、無職になって帰って来たマッチ棒の脳裏には、また、父親とは子供の頃にテレビでよく見た”寺内貫太郎一家”の西城秀樹と小林亜星の取っ組み合いの喧嘩が再び起きるのではないか?という不安が父親が正月番組を見ている横顔から想像してやまなかった。

「正月休みはいつまでなんだ?」

「あー…」

しばらく無言になったあとに「しばらく休みだね…」と、マッチ棒は会社を辞めたことを遠回しに伝え、二階の部屋へと逃れて行った。

 部屋に入り、コタツの中で今後どうするか?を考えていたマッチ棒。仕事を辞める度に父親からは『休むときはしっかり休め』と言われ続けていたが、いつも慌てて再就職を決めていて、そして疲労心労を積み重ねては、退職を繰り返したことに身に染みたマッチ棒は『親に合わせる顔がない』とまで、今更ながら後悔をした。
 東京に出かける前に車を親に譲ったマッチ棒は、大型車のレパードに乗り換えたあとに東京に旅立った。帰宅後、まず買わなければいけなかったのが”スタッドレスタイヤ”だった。正月3日が過ぎた頃に自動車関係の初売りが始まり、マッチ棒は個人で営んでいる暇そうなタイヤショップに”スタッドレスタイヤ”を求めた。

「中古のスタッドレスタイヤありますか?」

「中古?」

「この車に履かせるんで、次の車検で買い換えるつもりなので、中古品があれば丁度いいかなーと」

つなぎ服姿のタイヤショップのおやじは、マッチ棒のレパードの足回りをしばらくみていた。

「その大きさのならあるな」

「メーカーは何ですか?」

「ミシュラン」

「ミシュラン?」

「ミシュランは性能がいいよ、あとは新品になるがどうします?」

「あ、じゃー、そのミシュランので」

 レパードにミシュランのスタッドレスタイヤを履かせ、雪が降ってもこれで安心だと思うと無性にどこか遠くへ出かけたくなった。部屋の戻り、東京の事を思い出していたマッチ棒は、池袋のファッションヘルスのママから告げられた宮古市にあるパブのことが気になった。
 地図をひろげると、盛岡から東に向かい太平洋側に宮古市があることに気づき、まずは盛岡に行くことから考えた。

「盛岡だと、雫石か安比高原でスキーができるな」

マッチ棒はスキーのプランも考えつつ、宮古市に行く支度を始めた。
 
「会社はいつからなの?」

旅支度をしていて、正月が過ぎも会社に行く様子のないことに母親が心配しだした。

「出稼ぎ期間が終わったから、しばらくは休みだから…」
 
「毎月のお金はどうするの?」

 東京にいる間、毎月仕送りをしていたお金のことを訊かれ、銀行から二か月分の仕送り代を降ろすと母親に手渡した。「ちょっとスキーに行って泊まってくるから」と言い残し、翌日、支度を終えてレパードで宮古市へ旅立った。





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