「かかれーー!!」
僕らがドラゴン広場で雪ケンケンと戦い続けて夜明けになった。そのとき、もうひとつの火蓋が切られた。
「先に行くだっちゃ!!」
フルニエさんがいの一番で缶詰屋原に走り出した。
「ケリー殿、総大将をよろしく頼みます」
「ウク殿にはアンモニア烏骨鶏をつけておいただろ‥‥‥」
「それではマニアック過ぎますがな」
「マニアックがキミの専売特許ではないか‥‥‥」
「‥‥‥」
「バッタの大群を送り込め!」
「ブ、ラジャー!」
「そこはラジャーでいいだろ‥‥‥」
「キャミソウル」
「アイムソーリーだろ!」
「マニアックでごめんね」
「バッタの大群で坂野目のキャンプ場周辺を混乱に貶めてやる‥‥‥」
「バッタだっちゃ!」
「ふッ!邪魔が入ってたか!‥‥‥」
「食い尽くせ!」
「そうはさせないだっちゃ!」
「フルニエ殿、頼みましたよ」
「草花や木をまもるだっちゃ!」
「バッタを送り込みましたねーー」
「缶詰屋原にバッタを放つとな‥‥‥」
「キャンプ場まできたら騒ぎになる‥‥‥」
「缶詰屋原もきっと大騒ぎよ」
「そこまでしてフォロワーを増やしたいのか!」
「イナゴではなくバッタか。お金にもならんなーー。イナゴの佃煮食いてぇなーー」
「あんた高い所にいるんだから、ちゃんと見てなさいよ‥‥‥」
「今は中央で攻防を繰りひろげてる。こちら側の花配り山キャンプ場に入ったことも想定しておかんとならんな‥‥‥」
キャンプ場は坂野目さんがいる花配り山キャンプ場とうるこまマンがいるヤシの実原生キャンプ場の中央に缶詰屋原があった。キャンプ場では缶詰が重宝される。平地に缶詰屋さんがあることでキャンプ民にとって重要拠点だった。その缶詰屋原で攻防戦が行われた。
「キャンプには寝袋が必需品。その寝袋も『ゆるこま寝袋』でワタシームキャンプが世にひろがれば、MJのサブカル統一が継承される。ウシパジャマもすでに統一されたし。そして時は今!。思い起こせば‥‥‥」
思い起こせばMJとの出会いはヤシの実の下からだった。
MJは『ないブームの作り方』で各地を巡っていた。
「クッキングワタシームになる材料はないか‥‥‥。ん?ヤシの木。そしてヤシの実にウシがいる‥‥‥」
「ウシはいいなーー。ウシでなにか仕掛けよう‥‥‥」
MJがヤシの実にウシがいるのを見ている側で、僕はタレントになるための修行をしていた。指先だけは器用だった僕はその指先を生かして俳優からお笑いまでこなせるタレントを目指していた。
「そこのキミ?なぜヤシの実にウシがいるんだ?‥‥‥」
ヤシの実にウシがいるという。雲をつかむような投げかけが僕の耳に届いた。あのとき、あの場所で僕が修行をしてなければサブカル統一といった道すらもなかった。
「ヤシの実にウシがいるとはマニアック過ぎますねーー」
「キミは知らんのか?キミはここで何をしてたんだ?」
「僕はタレントになるために修行をしてました‥‥‥」
「タレントだと。名はあるのか?」
「いいえ。まだ何も考えてません。ただ、指先だけは器用なのでその指先で修行をしてました」
「指先でか。‥‥‥‥喉が渇いたなーー。何か飲ませてもらえぬか?できればそのヤシの実にちなんだ飲み物がいいな‥‥‥」
「少々お待ちを‥‥‥」
僕は始めに冷蔵庫でキンキンに冷えたヤシの実炭酸水を駆け足で持ってきてはMJに差し出した。僕はバトンを持って走るように炭酸水の瓶を握りながら腕をふり動かしたヤシの実炭酸水をMJに手渡しすと、栓を抜いた途端、ヤシの実炭酸水が噴出した。
「ヌオォォーー!!‥‥‥」
「あッりゃーー!!‥‥‥」
あっという間にヤシの実炭酸水はちょっとだけになった。そのちょっとだけ残ったヤシの実炭酸水をMJは飲み干した。そして、次の要求をしてきた‥‥‥。
「この辺にエロ本は落ちてないかなーー?」
MJは少しモヤモヤしてたのか、エロ本を僕に要求してきた。
「少々お待ちください」
「あッあるんだ‥‥‥」
僕はよく落ちていたのを拾って読んだ、パパイヤ通信をMJに差し出した。
「なんだ、ワンワン倶楽部じゃないのか‥‥‥」
「はい‥‥‥」
しばらく僕が拾ったぬるいエロ雑誌を読むと、次の要求がされた。
「もう一度、ヤシの実炭酸水を飲ませてくれないか。キミの分もだ、一緒に飲もう‥‥‥」
「かしこまりました」
僕は急いでヤシの実炭酸水をとりに行った。キンキンに冷えたのではなく、冷房も入らない押し入れから買い置きしていたヤシの実炭酸水取り出した。生温かいヤシの実炭酸水を両手に持って、MJと僕とで一本づつ手に持ち栓を抜いた。
「ヌオォォーー!!‥‥‥」
「あッりゃーー!!‥‥‥」
案の定、ヤシの実炭酸水は噴出した。キンキンに冷えてるよりも噴出し方が半端なくあふれ出て、手と瓶の周りは生温い液体まみれになった。MJはキンキンに冷えたヤシの実炭酸水は一気に飲み干したが、生温かいヤシの実炭酸水はためらいながらチビチビと飲み、そして手の周りがベタベタした感じになって、ハエが手にとまっても逃げられなくなっていた‥‥‥」
「僕の手がハエ取り紙のようになった」
「凄いですねーー」
「キミはないねーー‥‥‥」
「もう一本、ちゃんとしたのを持ってきましょうか」
「その前に濡れたおしぼりを持って来てくれ」
「雑巾でもいいですか?」
「キミはないねーー‥‥‥。『ないブームの作り方』。よかろう。今日から僕についてきなさい。名前は『木ノ上ウク痔ろう』。じろうの『じ』は痔の『痔』だ。痔ろうの『ろう』はひらがなだ。ないだろ?」
「えッ。はい。ありがとうございます」
こうして僕は漢字とカタカナとひらがなが入った『木ノ上ウク痔ろう』としてタレントになった。そして『木ノ上』がなくなり、『痔ろう』もなくなり、『ウク』となり、サブカル界、天下分け目のワタシームの戦場に立ったのだ。‥‥‥
「ゆるこまマンことウクを生け捕りにするわ。ウクがきっとMJの居場所、そしてベーコさんの真相も知っているはず。それにしても缶詰屋原のバッタの大群にはまいったね」
「フルニエさんが中央でバッタ退治に応戦してくれたから、なんとか先に進めた‥‥‥」
「ウクのいるヤシの実原生場まで行きましょ」
「花配り山から缶詰屋原の商店街まで行くのはそもそも難所だから。初心者は結構ぜいぜい息切れる場所なのさ。フルニエさんは慣れていたから助かった」
「坂野目さんは缶詰屋原の宿屋から、ウクのいるヤシの実原生場に行けばいいのに‥‥‥」
「ウクに籠城されて持久戦になると、缶詰屋原の缶詰も尽きてしまう。そうなると撤退も余儀なくされる。だから、坂野目さんは花配り山にキャンプをして缶詰屋原の攻防戦に持ち込んだ」
「こうしちゃいられないわ。相手からもどんどんと入り込んでいるわ」
ピンクチーマーが缶詰屋原に入った。ウクを捕まえるためだった。しかし、ウクはバッタの次に爬虫類系を放り込んでいた。
昆虫の次は爬虫類。キャンプ場に現れると厄介なものだ。
僕とベーコは昆虫のように硬く、爬虫類のようにしつこいドラゴンと戦い、埒が明かなくなった。
「ここは撤退したほうがいいんじゃない?」
「さすがにここは一度では落ちないなーー」
「今、雪ケンケンがエンタシスマンのほうに行ったよ。その隙に逃げましょ」
「勝ち負けの都市伝説を語られる前に逃げるか!」
「また申し込まれたら受ければいいよ。今のうちにここから逃げましょ。あっち側見てる間に早く!」
僕らたちは雪ケンケンに都市伝説を語られる前にこの場から脱出した。逃げたと言われるかもしれないが中止にしただけだ。「戦いを中止にした」。ただそれだけの都市伝説だということにして、ドラゴン広場から去った。逆に雪ケンケンに縄を張らせて次のチャンスを待つことにした。
「むこうも都合があるだろうけど、こっちにも都合があるんだ」
「ねむい‥‥‥。今日、学校休む‥‥‥」
「よかった。バイトは今日は休みだ。ベーコはこうして不良になっていくんだな‥‥‥」
「なーんも聞こえない‥‥‥」
「生意気ガール」
「うるさい!」
「ピンクチーマーが合流したそうよ」
「うん。なんとか花配り山に侵入される前に缶詰屋原に入ったか」
「芭駄々さんのアドバイス?」
「むかーし、ヒーローショウのバイトをやっててな。衣装の管理も結構大変で。虫食いで穴が開くとそれだけでショウが台無しになってな。繊維を食べる虫とかのウンチクをよく聞かされたものだ。芭駄々さんは、あーいった害虫駆除にも貢献した人だった。その辺の評価はあまりされてなかったが、やるとなると、とことんな人だった。それは私の園芸の管理にも生かされている。芭駄々さんに耳を傾けない人も多かったが、私は芭駄々さんを頼りにしていた‥‥‥」
「一網打尽にする陣を張ったってわけね」
「それはまだわからん‥‥‥」
「ピンクチーマーがむかってるようだ。ウッキーこの辺で頼む」
「あたいの毒牙でいちころにしてやる!」
「何?あれは‥‥‥」
「ウッキーたちよ。奥様は魔女よ」
「フルニエさんも来てくれたのね」
「バッタをイナゴだと言ったら、周囲が間違って獲り始めたのよ」
「嘘はダメだっちゃ。バッタは食べられないだっちゃ」
「みなさんバッタの大量発生だと思ってるよ」
「フルニエさんは、もしかしてって思ったんじゃないの?」
「食べる気だったんですか?」
「そんなことないだっちゃ。奥様もピンクさんもひどいだっちゃ!」
「奥様は魔女よ」
「合流できてよかった。ピンク夫婦だけだったら、敵う相手じゃなかった‥‥‥」
「おいらが退治してやるだっちゃ!」
「フルニエさん!!‥‥‥」
わたしたちピンクチーマーはウッキー率いるコスプレイヤーたちと戦った。ここで跳ね返さないと缶詰屋原で崩壊してしまう。爬虫類は縁起が良いとされることもあるが、実物はグロテスク。グロテスク好きのマニアたちを相手にわたしたちは覇権を争った。