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旧える天まるのブログ
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『毛皮を着たヴィーナス』大鏡

2019-10-31 00:11:48 | DQX毛皮を着たヴィーナス

初回

DQX毛皮を着たヴィーナス

前回

『毛皮を着たヴィーナス』給仕

 <大鏡>

 今朝が早くわたしはひとりでメディチのヴィーナス像をたずねた。

 美術館のなかの小さな八角形の部屋は、神殿の内部のように燈明が光っていた。わたしは、深く沈黙したヴィーナスの裸像の前に立って崇厳の念をこめて拝んだ。

 回廊には人影ひとつなかった。わたしは身をかがめてひざまずき、この女神像の愛らしいすらりとしたからだ、ふくらみかけた胸、処女らしい、だが豊満な顔、小さな角でも隠しているように見える、匂うような巻き髪をじっと見あげた。

 深い祈りをこめてから、帰宅して、しばらくすると正午であった。

 ヴァンダはまだ両腕を首の下に組んでベッドの中に横たわっていた。わたしを呼ぶベルが鳴った。

「わたし水浴びをしたいわ、おまえそばにいてちょうだい。ドアに鍵をかけて!」

 わたしは命じられとおりにして、彼女の寝室へ通じる曲がり階段をおりた。

 鉄のてすりにつかまって身を支えながら一段ずつおりていって、途中いくつかのドアに鍵がかかっているかどうかをよくたしかめてもどってくると、彼女はベッドのうえで髪をほぐしていた。緑のビロードのついた毛皮の下は白い素肌であることが、わたしには直感され、悩ましかった。

「ここへ来て、グレゴール。わたしをだいていって!」 

 わたしは絞首台を見てふるえている死刑囚のようにわなわなしながら、彼女に近づいて毛皮ごと彼女のからだを抱いた。彼女の両腕はわたしの首まわりにからみついた。

一歩一歩、慎重に階段をおりるたびに、彼女の乱れ髪はゆれて、わたしの頬を打った。

 浴室は赤いガラスの円天井の室で柔らかに光が射し込んでいた。二本の棕櫚の木がビロードのクッションのあるベッドのうえに、大きな広い葉をさしのべていた。わたしがベッドに彼女のからだをおろすと、

「階段うえの、わたしの化粧台に緑のリボンがあるから持ってきておくれ、それにムチも」と命じた。

 わたしは階段をかけあがって、それらを持ってきてから、彼女の水浴の用意にかかったが、彼女のすばらしい玉の肌のあちこちが毛皮の下から見えて光るのに気をとられて、どうにも手足がうまく動かず、ドジばかりふんでいた。

 そしてようやくのことで水槽に水が満たされると、彼女はさっと毛皮を脱ぎすてて全課になって、わたしの目の前に立った。

 わたしはそのこうごうしさに目がくらむばかりだった。神聖、清純、そして豊艶、わたしは思わずその場の伏して彼女の足に接吻した。

 彼女は一瞬のためらいもなく、静かな足どりで水槽に近づくと、水晶のような水のなかへさっと飛び込んだ。美しい小波が彼女の肌のまわりにたわむれているようであった。

 水からあがった彼女のつやつやした肌から銀色の水滴がしたたり、バラ色の光が放射された。わたしは言葉もなく歓喜した。そして乾いたリネンの白布で、彼女の輝かしいからだをぐるぐると巻いて水をぬぐい去ってやった。

 やがて彼女は大きなビロードの外衣にくるまってクッションのうえにゆったりと横たわって休み、清潔なかわいい無頓着そうにムチでもてあそんでいた。その様子は、黒い貂の毛皮を背景にして白馬がくつろいでいる姿に似ていた。

 わたしはその情景をほれぼれと眺めていたが、ふと振り向いて反対側の壁を見ると、思わずあっとおどろいた。そこには金色の額縁の大鏡のなかに、わたしと彼女の姿が豪華な絵のようにうつっていたからである。それがあまりにも美しく、あまりに空想的な絵画に思われ、しかもいつ消えてしまうかもしれないみごとな情景だったので、わたしはにわかに深い悲しみに襲われて顔をしかめた。

「どうしたの?」

「あれだっち、生きた絵だっち」

 わたしは鏡のなかを指さした。

「ほんと、美しいわねえ。この瞬間の情景をとらえて、永遠の画面に残すことのできる絵かきさんがいたらいいんだけど、残念だわね」

「できないはずはありませんだっち。もしあなたが画家に思うぞんぶん絵筆をふるわせるようにしたらだっち、あなたの美しい姿は永遠不滅のものとして残りますだっち。あなたの美は死を超えて、永遠に勝ち残りますだっち」

「そうね」

 と彼女は微笑して、

「でもいまのイタリアには、ティチアーノとかラファエルとかいうほどの天才画家がいないので、残念よ。天才のいない穴埋めは、恋の心がやってくれる。そうかもしれないわ。あのドイツ人の画家だったら、それができるかしら?」

「あの画家ならば、たしかにだっち、愛の神が絵具をまぜるのをやってくれますだっち」

 これがきっかけで若い画家が呼ばれて、彼女の別荘の一隅に画室を設けて、赤い髪と緑の目をしたマドンナ像の製作にとりかかった。

 画室のなかでモデルとして横たわった彼女は、横柄な音楽的な笑い声を盛んにたてた。開けっ放しの窓の下に身をよせて、わたしは猛烈に嫉妬しながら、じっと耳をすませて一語一句も聞きもらすまいとした。

 彼女は嬌声を(きょうせい)をあげていった____

「絵かきさん、あなた気でも狂ったんじゃないの、わたしを救世主の母マリアのモデルにするなんて!おかしいわよ。ちょっと待ってね、わたしの絵をお見せするわ。わたしが描いたものよ。それを模写していただきたいわ」

 彼女は窓から首を出した。太陽の強烈な光にあたって、頭の毛が焔のように輝いた。

「グレゴール!用事よ!」

 呼ばれてわたしは、大急ぎで階段をのぼって柱廊を通り抜けて、画室にはいった。

「この絵かきさんを浴室へ案内して」

 わたしは命じられたとおりに画家を案内して行く間に、彼女はちょっと姿を消したが、数分後に浴室に現れたときには、玉の素肌に貂の毛皮だけをはおって、ムチをもてあそびながらビロードのクッションのうえに横たわり、片足で床に身を投げ出したわたしのからだを、ぐっとふみつけた。

「あれを見てちょうだい、どう?お気に召して?」

 と彼女は大鏡のなかを指さして、画家をかえりみた。

 画家は驚きのあまり顔を真っ青にして、唇をわなわなとふるわせて、

「わたしも、あんなふうにあなた様を描きたいと思っていたのですが・・・・」

 と答えたが、あとは痛切な呻(うめ)きになってしまった。

 

 次回

『毛皮を着たヴィーナス』画家

 


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『毛皮を着たヴィーナス』給仕

2019-10-28 03:27:53 | DQX毛皮を着たヴィーナス

初回

DQX毛皮を着たヴィーナス

前回

『毛皮を着たヴィーナス』慄然

 <給仕>

 憂鬱な愛の飢えと重労働の一ヵ月がすぎた。わたしがじりじりした気分でいると、彼女からつぎのような命令書がきた。

___奴隷グレゴールは今後は主人の身近の用向きに従うべきこと。ヴァンダ

 翌朝早く、わたしは胸をどきどきさせながら、緞子のカーテンをかきわけて彼女のベッドの近くの暖炉にたき木を入れた。そこにはまた快いほの暗さがただよっていた。ベッドはたれ絹のむこう側に隠れていた。

「グレゴール、おまえなの?」

 と彼女の声。

「いま、何時ころ?」

「九時をまわりましただっち」

「では、朝の食事を」

 わたしは急いで食事を盆にのせてはこんできた。彼女は垂れ絹を引いて、裸の肩に黒い毛皮をひっかけた豊麗な半身をあらわにした。その魅力にわたしの頭は狂いそうだった。盆を支えたわたしの手は、わなわなふるえた。

「だらしがないわね、奴隷!」

 彼女はそばの化粧台のうえのムチに手をかけた。わたしは懸命になってふるえをとめようとした。

 食事がすんでしばらくして、わたしがつぎの間でひかえていると、ベルが鳴った。

「この手紙をコルシニ王子さまのもとへ届けてちょうだい」

 わたしは急いで町に行って、王子にその手紙を渡した。王子は黒い目をした美貌の青年であった。わたしは嫉妬に燃え、憔悴しきった様子で、彼女に返事をとりついだ。

「とても顔色が悪いわね。どうしたの?」

 と彼女は意地悪さをおさえて、わたしをからかった。昼の食事は、王子と彼女のさしむかいで、わたしは給仕を命じられた。ふたりの愉快そうな軽口のかわし合いに、わたしは目がくらんでしまった。

 王子の酒杯にボルドー酒をそそぐとき、思わず手がふるえて、彼女のガウンのうえにまでブドウ酒をこぼしてしまった。

「なんて不作法な!」

 彼女はわたしの顔をびしゃりと打った。

 昼食後、彼女は馬車を駆ってカシスへ行った。馬車への乗り降りのとき、彼女はわたしの腕に軽くもたれかかった。それだけの接触でもわたしのからだには電流が走るような衝撃が感じられた。

 午後の六時の正餐には、彼女は数名の男女を招待した。

 わたしは給仕役であった。晩餐後は、バーゴラ劇場へ観測に出かけ、夜中近くに帰宅した。

 数日後、わたしは、コーヒー盆を捧げて彼女のベッドのそばにひざまずいた。すると、彼女はとつぜん、わたしの肩に手をかけて、深々とわたしの目のなかをのぞきながら、

「なんと美しい目をしているのでしょう」

 とやさしくささやいて、

「いまは特別に美しいわね、でも、おまえは非常に不しあわせだと思っている?」

「・・・・・」

 わたしは黙ってうなずいた。

「ゼフェリン、まだわたしを愛していて?」

 彼女は急に情熱的になって、はげしくわたしをひきよせた。コーヒー盆はひっくりかえり、壺やコップが床のうえにころがった。

「ヴァンダ!ヴァンダ!ヴァンダ!」

 わたしは熱狂的に彼女に抱きついて、彼女の口といわず、頬といわず、ノドといわず、胸といわず噛みつくように接吻した。乳首をもぎっとってやりたいほどだった。

「あなたがボクを手ひどく扱えば扱うほど、ボクを裏切れば裏切るほど、ボクはますます狂いたって、あなたを恋し、嫉妬し、苦しみ悶えて死ぬかもしれません」

「わたしがあなたを裏切った?そんなこと一度もないわ。わたしは絶対にあなたに忠実だったわ。誤解しないでね。わたしの愛するただ一人のゼフェリンさんにね。あなたの服は、実は大切にタンスの奥にしまってあるのよ。さア、行って着がえてらっしゃい。いままでに起きたかずかずの事件は、みんな忘れてね。きっと忘れてくれるわね。あなたの苦しみは、わたしの接吻で、みんな吹き飛ばしてあげる!」

 彼女は若い日のカテリーナ二世のように、部屋の中央に立って、タイヤの浮輪を腰にまいた。

 それからふたりで長い間、長椅子にならんで恋を語り合った。彼女は、いまはまったく立派な淑女であり、わたしの優しい愛人になっていた。

「あなた、幸福?」

「いや、まだ・・・・」

「そーお、では」

 彼女は柔らかいクッションによりかかって、仰向けになり、静かにジャケットのホックをはずして、半裸になって、貂の毛皮でふんわりと胸を隠しながら、

「いらっしゃいナ」

 わたしは彼女の胸に抱かれた。彼女は蛇のような舌でわたしの唇の中までキッスした。

「幸福?」

「かぎりなく!」

「ホホホ!」

 彼女は高らかに笑った。

 わたしは長椅子のうえから彼女の足もとにおりて、両膝の間に身を沈めた。

 わたしのかわりに給仕役を勤めた黒人女ハイデェは、上品で黒大理石で彫刻された美女のようなすばらしい胸をしていた。わたしがそれに気づいて、ちょっとうっとりしていると、この黒い悪魔は白い歯をむき出して、ほがらかに笑った。

 それを横目で見ていたヴァンダは、黒人女が部屋から出て行くと、にわかに激高してわたしに飛びかかって、

「どうして、おまえはわたしの目の前で、ほかの女をじろじろ見るの!わたしをさしおいてあんな黒い悪魔を!」

 と叫んで、悪魔のかぎりをわたしに投げつけた。

 わたしはビックリした。彼女は唇まで真っ青にしてぶるぶるふるえている。激しい嫉妬だ!

 彼女は壁の掛け針からムチを取ると、いきなりわたしの顔面をびしりと打ちすえた。それから黒人たちを呼んで、わたしを縛りあげて、暗い地下室にほうり込んだ。

 鍵がかけられ、鉄のカンヌキがかけられ、また鍵がかけられて、わたしは完全に囚人になってしまった。何時間、何日経ったか、わたしにはわからなかった。餓死か、凍死か、わたしは悪寒(おかん)でふるえた。

「憎いヴァンダ!」

 わたしはたしかに彼女を憎みはじめた。

 ふと気がつくと、血汐のように赤い一筋が床を横切って流れた。押し開かれたドアから差し込む灯火の光であった。

 彼女は貂の毛皮をまとい、たいまつの灯火を手にしてあらわれた。

「まだ生きているの?」

「ボクを殺しにきたのですか?」

 わたしは低いしわがれ声でうめいた。

 彼女は二足、三足、大股でわたしのそばへ歩みよると、しめった床に膝をついて、股の間にわたしの頭を抱え、

「病気になったの?あんたの目は病気みたいに光わよ。まだわたしを愛していてくださるの?わたし、わたし、わたしは、愛してもらいたいのよ」

 彼女は懐中から短剣を出して鞘をふり払った。鋭い刃が赤い灯にきらりと光った。わたしはおどろいて飛びあがった。

____殺される? ?

 だが彼女は、わたしを縛っている綱をぶつぶつと切って、

「ホホホ!」

 とあやしく笑った。

 次回

『毛皮を着たヴィーナス』大鏡

 


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『毛皮を着たヴィーナス』慄然

2019-10-24 23:00:21 | DQX毛皮を着たヴィーナス

初回

DQX毛皮を着たヴィーナス

前回

『毛皮を着たヴィーナス』誓約同意書

 <慄然>

 わたしは読み終わって慄然(りつぜん)とした。まだ取り消す時間の余裕はあったのだが、情熱による狂気と、わたしの肩にしなだれかかっている女性ヴァンダを見ては、夢中になって同意するばかりであった。わたしは彼女の強力な魔術的なまなざしによって、自由自在にひきまわされるかのように、ふるえる手でペンを握って、それに署名してしまった。

「それでは、あなたの旅券とお金を全部、お出し!」

 わたしは命じられたままに財布と旅券を渡して、彼女の前にひざまづいて、その胸に顔を押しあてて甘美な陶酔にふけった。

 するととつぜん、彼女は足でわたしを払いのけてさっさと立ちあがり、ベルの紐を引いた。

 その音に応じて二人の若い黒人女が、手に綱をもってうやうやしくはいってきた。

わたしは床から起きあがろうとすると、たちまち二人の黒人たちの手で押し倒され、

手足をきりきりと縛りあげられてしまった。

「ムチをちょうだい、ハイデェ」

 ヴァンダはいともの静かな調子で命じた。黒人女はひざまずいて、うやうやしくムチを捧げた。ヴァンダは黒人女たちに手伝わせて、重い毛皮を脱いでジャケットを着てから、

「この男を、そこの柱にくくりつけるのよ」と命じた。

 わたしはイタリア風のベッドの大きな柱のひとつに、うしろむきにくくりつけられた。黒人女たちは、さっさと姿を消してしまった。

 ヴァンダは左手を腰にあてがい、右手にムチを握ってわたしの前に立ち、背後からあでやかな嘲笑の声をたててから、冷酷な調子で、

「さア、これで今までのお遊び事は終わったのよ。これからは、死のまじめさで新しく始まるのよ。おバカさん。わたしはおまえを笑ってあげるわ、軽蔑してやる。わたしのような移り気の女に狂って、わたしの玩具になってしまった愚かなおまえは、わたしの愛する男ではなくて、奴隷なんだよ。今度こそ、このわたしというものを真剣に知らせてやる。まずムチの味を!」

 荒々しい優美さで、彼女は貂の毛皮の袖をまくりあげると、白い肌の腕を上げてびゅーんとムチをふって、わたしの背中をめがけてばしっとうちおろした。

 わたしは歯ぎしりしてちぢみあがった。ムチがナイフのように背の肉に食い込んだからだ。

「どう?いい気持ち?」

「・・・・・」

「それなら、こんどは、きっと犬みたいにあわれっぽい音をださせてあげるから!」

 彼女は威嚇の言葉と共に、わたしを打ちはじめた。恐ろしい力で、つづけさまにわたしの背や腕や首にムチ打ちの雨をふらせた。わたしは歯を食いしばってたえた。彼女はわたしの頬を狙いうちした。なまあたたかい鮮血がたらたらと流れ落ちた。彼女は笑いながら、わたしを打ちつづけた。

「今になって、やっとおまえというものがわかった!」

 彼女はあえぎながら叫んだ____

「こんなに完全に、わたしの力で支配できる人間を持つことは、たしかにひとつの喜びだわ。おまえはまだ、わたしを愛してるの?違う?ええつ!打てば打つほど、わたしの喜びは大きくなる!おまえのからだに切り裂いてやる!そら、芋虫みたいに身をねじれ!悲鳴を上げろ、泣き出せ!まだか!畜生!わたしに慈悲も情けもないってことが、わかったか!」

 彼女は疲れたらしく、ムチを放り出して、長椅子の上に横になって、ほーっと長い呼吸をすると、またベルの紐を引いた。

「といておやり」

 黒人たちはニヤリとして白い歯を見せながら、わたしの縄目をといて、そそくさとその場を去ったが、わたしはしばらく床のうえに倒れたままであった。

「ここへおいでグレゴール」

 ヴァンダの魅力的な美しい声にひきつられて、わたしははうようにして彼女のそばへ近寄った。

「さあ、ひざまづいて、わたしの足に接吻して」

 わたしは、白繻子の衣のすそから出された美しい素足に熱烈な接吻をした。

「グレゴール」

 と彼女は、急におごそかな口調で、

「これからまる一ヵ月は、おまえはわたしを見ることはなりません。おまえは庭で園丁として働いて、静かにわたしの命令を待っておいで、さあ、出て行け!奴隷!」

 次回

『毛皮を着たヴィーナス』給仕

 


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古本屋はどう楽しめばいいのか?

2019-10-21 15:18:57 | 雑記の宿
小説すばる 2019年 11 月号 [雑誌]
集英社
集英社

 小説すばる11月号『じゅんくどう書店へようこそ』で<古本屋はどう楽しめばいいのか?>を読みました。

 僕も古本屋さんで買った本はないか?探してみました。

 今は閉店し跡形もなくなってしまいましたが、復活書房で購入した本がありました。

『オートバイ操縦法』という本を買っていました。

 もう一冊ありましたでので・・・・

『米長邦雄 将棋奇襲②新鬼殺し戦法』がありました。

 <古本屋はどう楽しめばいいのか?>は、

小説すばる 2019年 11 月号 [雑誌]
集英社
集英社

 小説すばる11月号に書いてあります。

 


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『毛皮を着たヴィーナス』誓約同意書

2019-10-17 02:31:55 | DQX毛皮を着たヴィーナス

初回

DQX毛皮を着たヴィーナス

前回

『毛皮を着たヴィーナス』召使い

<誓約同意書>

 その夜わたしは悪魔に襲われどおしだった。

 大きな白いメス熊に抱かれて、鋭い爪をからじゅうに突き立てられるように感じて、わたしは絶望の叫びをあげて目をさました。

 わたしの耳の奥には、彼女の悪魔的な嘲笑がいつまでも残っていた。

 朝を迎えるとわたしは、はやばやとベッドを離れて、彼女の部屋のドアの前に立った。

「グレゴール、こちらへきてご飯をおあがり」

「はいだっち」

「ご飯がすんだら、わたしたちは家をさがしに出ましょう。ここのホテルでは困ることが起きるからよ。おまえと一分以上話していようものなら、すぐに人の噂にのぼってしまうからよ」

 わたしたちは、それから半時間後にはホテルを出て、家を探し歩いた。

 そして彼女が見つけた快適な小さな別荘は、カシタ市のむこう側の、アルイ河の左岸の愛らしい丘の上に立っていた。

 美しい庭園にかこまれた二階建ての家で、可憐な小道、草地、椿の咲く牧場もあった。古代の彫刻の石膏像をならべた柱廊もあって、そこから大理石造りの浴室に通じていた。

 彼女は二階の部屋を自分のものにし、廊下の一室をわたしにふり当てた。わたしの部屋には美しい暖炉がさえついていた。

 次女がわたしを迎えにきた。わたしは大理石の階段をのぼり、壮麗なサロンを通りぬけて、彼女の寝室の前に立ってドアをノックした。

だがなかなか応答がなかった。わたしはまたノックして、じっと待っていた。

 そのうちふとドアが開いて、

「おそいわね、どうしたの?」

 と彼女は軽くわたしをたしなめた。

「さっきから、たびたびノックしたのだっちですが、お耳にははいらなかったのだっちでしょう」

 わたしはおずおずしていると、彼女はわたしの腕をつかんで、ぐいとなかへ引き入れ、ドアを閉め、わたしに抱きついてグレーの緞子(どんす)の長椅子のところへ連れて行った。

 彼女は、見る人をうっとりとさせる着流し姿であった。白い緞子の服は、すらりとしたからだから、優雅にすべり落ちた。

 緑色のビロードの裏のついた貂の毛皮の黒い色で無造作につつまれた腕や胸がむき出しになった。赤い髪の毛は背中から臀部のあたりまで垂れさがっていた。

「たしかに、毛皮を着たヴィーナス!」

 と、わたしは思わずつぶやいた。

 彼女は、ふくよかな、あらわな胸にわたしを抱きよせて、何度も接吻をくり返した。その激しさに、わたしは窒息しそうになった。わたしの心は、想像を絶した幸福の大洋のなかへ押し流された。

「あなたはまだ、わたしを愛していらっしゃる?」

 彼女はあだっぽい目つきで、激情をとけ込ませるように、わたしをじーっと見つめながら、甘ったるい口調でたずねた。

「いまさら、そんなことを!」

 とわたしには呼んだ。

「あの誓いを、まだおぼえていらっしゃるわね?」

 と彼女は誘惑的に微笑を浮かべて、

「さあ、これで準備は万端ととのったわ、わたし、もう一度ききますが、あなたはいまでもほんとうにわたしの奴隷になっていたいと望んでいらっしゃるの?」

「そのつもりでいるではありませんか」

「でも、まだあの書類に署名していなかったわね?」

「書類?なんの書類ですか?」

「いつかの誓約の書類よ。でもいいわ、わかったわよ。あなたは、もうおやめになるつもりないのね。それじゃ、そうしましょう」

「しかしヴァンダ、ボクにはあなたにつかえて、あなたの奴隷になる以上に大きな幸福はないことをご存じでしょう。ボクは、完全にあなたの支配のもとにあれば、どんなものでも支払えます。たとえ死でも!」

「それでわたし、第二の同意書をこしらえてあるのよ」

「書類を見せてください」

 彼女は、文庫のなかから二通の書類を取り出した。

 第一のものにはこう書いてあった___

 ヴァンダ・フォン・ジュナウ夫人とゼフェリン・フォン・クジムスキーとの間の同意書。

 ゼフェリン・フォン・クリムスキーは今日をもって、ヴァンダ・フォン・ジュナウの婚約者たることを取りやめ、それに関するいっさいの権利を放棄する。今後、彼は一人の男性として、高貴な紳士としての名誉の言葉にかけて、彼女の奴隷となり、彼女が彼を自由にもどすときまで、継続することを誓約する。

 フォン・ジュナウ夫人の奴隷として彼はグレゴールの名を持ち、無条件で彼女の要求のいっさいに応じ、彼女の命令いっさいに従うべきこと、彼はつねに主人に従順であり、主人の恩恵のいっさいの指示を絶大な慈悲と考えるべきこと。

 フォン・ジュナウ夫人は、その奴隷のもっとも軽微な怠慢、または過失にたいしてすら、彼女自身が最善と考えるところに従って、罰する資格があるばかりでなく、彼女自身の気分の動くままに、または単にときを過ごす手段として彼を拷問にかける権利を有する。彼女が望むかぎりは、いつでも好むままに、彼を殺してもさしつかえない。要するに、彼は彼女の制約なき財産である。

 ゼフェリン・フォン・クレムスキーは、彼女の奴隷として経験し、こうむったいっさいのものをすべて忘れることに同意し、いかなる事情のもとでも、けっして復讐、または報復を考えないことを約束する。

 フォン・ジュナウ夫人は、その利益のために、女主人としてできるかぎり、しばしば毛皮を着て、彼の前にあらわれることに同意する。彼女の奴隷にたいしてなんらかの残虐を加えようと思う場合には、特にしかりである。

 第二の書類には____

 わたしは長年にわたって生存と幻影に飽きてきたので、自分の無価値の生命に、みずから週末をあたえる意志の自由を有する。

 次回

『毛皮を着たヴィーナス』慄然

 


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