<魔箪笥>
ある村に 娘がおりまして
その娘、草花を集めては煎じ、薬などを作ったりして、お医者さんごっこをするのが好きな娘でした。
「今日は お熱あるみたいですねー タンポポで作ったお薬、これを飲んだら治るわ・・・」
などど、いったふうに外で摘んできた草花や、山菜などを見つけては摘んでは煎じ薬にして、お人形さんなどに飲ませていました。
ある日、お地蔵さんの周りに見かけない 草花が生えてました。
それを見た娘は、さっそく摘んで煎じてみると甘ーい香りがして、自分でもちょっと飲んでみたくなりました。
するとなんと まあー 娘はたちまち大きくなり、大人の女に変わってしまいました。
「え、え、着物が小さい ど、どうしよう」
娘は考えました。
甘い香りはお花の部分だと思い、今度は茎の部分だけを煎じて薬にして、飲んでみました。
予想は的中し、再び元の子供の娘に変わり、「これは面白い」とお地蔵の周りに生えていた草花を摘み、花と茎に分け、大人になる薬、子供に戻る薬を作って竹の筒二つ分を、大人用と子供用の薬として入れて持ち歩くようになりました。
大人になる薬は便利でした。
子供のうちは持てない重たいものや、届かないところにも手が届く。
しかし、大人の女で村の外を歩くと、大人の男が寄ってくる。
大人の男に声かけらると、男の嫁の女が現れて
「あんた!なに!そこの女とイチャイチャしてるんだい!」
「あんたも!あたしの旦那に色目つかわないでほしいね! 」
「なに!もしかしてあたしを追い出そうとしてるのかい?!」
「そうはいかないよ!ギャ―――――」
と、男のほうの嫁の女が娘に怖い顔で追いかけ、大人になった娘もそこから逃げる
逃げれたと思ったら、またまた他の大人の男が追いかけてくる。
通常の女性は追いかけられると怖がるものだが、娘は身体は大人でも中身は子供、まるで鬼ごっこをしてるようなスリリングな感覚が楽しくなり、次第に大人に変身しては悪戯をし、追いかけられることを遊びにしてしまいました。
「わあー 子供より早く走れる 大人ってなんて楽しいんだろう」
「さあ そろそろ子供に戻って知らないふりでもするか」
と、いうふうに娘は薬を使い分け、大人になったり子供になったりするようになっていました。
そして、いつものようにお地蔵の側にある水車小屋で大人になる薬を飲み、変身した姿で外に出かけました。
その後、再び水車小屋に戻ると
「あれ! 子供に戻る薬の竹筒がない!あれどこいっちゃんたんだろ!」
娘はあれこれ子供に戻る薬の事を考え、お地蔵の周りを見ても草花はもう生えてはなく
「なくてもいい もう大人のままでいい 家に戻っても お父さんお母さんも誤魔化せる、あたしあたし詐欺で誤魔化せる」
誤魔化す発想だけは子供のままで、娘は家に戻りました。
「お父さん、お母さん、ただいまー あたしよ あたし」
「あれ?誰もいないのかなー・・・」
「おぎゃーおぎゃー」
「あッ弟が泣いている」
娘の弟は、まだ赤ん坊で母親の母乳が頼りでした。
「弟が泣いている きっとお腹すいたんだ どうしよ」
「あ!そうだ 弟を大人にしてしまえばいいんだ」
「大人になる薬は持ってるし、これを飲ませて大人にすれば」
「食べ物も一緒の物が食べれる」
娘は赤ん坊の弟に薬を飲ませ、まずは自分が子供だったくらいの背丈に大きくしました。
「大きくなっても可愛いね」
「なにこっちむいて大きな目あけちゃってさー」
「姉さんだよ わかる? あーなんか可愛いー」
「このままでもいいけど、このままだとあたしが食事を作らないといけないし、弟にも作らせないと」
「もう一杯 この薬を飲んでもらってと」
娘は赤ん坊から子供になった弟に、もう一杯薬を飲ませ、弟を大人の姿に変えました。
「わー素敵ー」
素敵に見えたのは、なんと箪笥。
弟の身体は箪笥に変わってしまいました。
箪笥になった弟は、箪笥として他のことができません。
弟は娘の前で箪笥として、娘の都合のいいように働きます。
娘は箪笥を都合よく愛し、箪笥も娘の都合のいいように仕舞い込んでいきました。
箪笥には娘の都合をよくする以外の手段はありませんでした。
ところで娘の両親はと言いますと
娘が水車小屋で大人になり、外に出かけた際に、娘は子供に戻る薬を置き忘れていました。
水車小屋へ働きに訪れた両親は、娘の作った薬の入った竹筒とも知らず、両親は水車がまわる沢を両足で跨ぎ、沢の水を薬の入った竹筒で汲み、その水を父親と母親は一緒に飲んでしまい、子供に身体になってしまいました。
大人の身体だと沢を両足で跨げたが、子供の身体の大きさでは沢は跨げなくなり、子供の大きさになった両親は、流れの速い沢に落ちて溺れ死んでしまいました。
そのことを知らずに家に戻った娘は弟に薬を飲ませ、箪笥の形に変えた娘は、気づかないまま都合のいいように箪笥と暮らし、都合のいい日々を過ごしました。
やがて 娘の両親がいないことに気づいた村の人々は、水車の沢で亡くなった子供も、娘の両親が居なくなったことも、悪戯が絶えないあの娘の仕業だということになりました。
子供から急に大人になった娘では、村人には悪戯に覚えた言葉を並べることしかできず、ちゃんとした釈明もできないまま、村人に捕まり牢屋に入れられました。
娘は弟も一緒に牢屋に入ることを村人に頼みます。
村人から見れば、娘の側にあるのは箪笥。
箪笥のひとつくらいはと思い、箪笥に変わった弟も一緒に牢屋に入れました。
娘は牢屋の中でも箪笥と暮らすことで、自分の罪と大人の気持ちがわからないまま、牢屋でも都合がいいように過ごし、娘は老いて死にました。
娘の罪は、破滅しかありません。
弟の箪笥も 破壊する方法しかありませんでしたが、村人は箪笥を牢屋に置くいておくことで時代は過ぎ、やがて国を追われた姫が箪笥がある牢屋に入りました。
その姫の犯した罪は、父である殿様を洋風のライトスタンドに変えてしまい
姫はライトスタンドしか相手にしなくなり、やがて殿様の国は崩壊し、姫は国を追われ、村の牢屋に入れられたのです。
牢屋に置かれた箪笥は、牢屋の中でさまざまな罪人と暮らしていました。
罪人は牢屋の中で自分の犯した罪を悔い改める姿を見てきました。
箪笥の姉であった娘は、一度も悔い改めることなく牢屋の中で死に絶えましたが、他の罪人は箪笥の側で罪を悔い改め、牢屋から出ていきました。
残された箪笥と国を追われた姫ができることは、罪を悔い改め牢屋から出ることしかありません。
箪笥は元の人間に戻るしか、牢屋からは出ることができません。
姫もまた、国元であったような洋風のライトスタンドに心を許すような暮らしを牢屋の中ではできません。
そこにいる箪笥に心を奪われては、姫もまた牢屋の中で老いて死ぬだけでした。
やがて箪笥と暮らした姫は箪笥を人間に戻し、人間を愛することで牢屋から出られないか考えつくようになります。
姫は箪笥にかけられた魔の知恵の輪があることを知り、ざまざまな想いを巡らせ、ついに箪笥の魔の知恵の輪が外れ、箪笥を人間に変えることができました。
そして牢屋から出たふたりではあったが、それは許されない牢屋からの逃亡でした。
姫が人間と思っていた箪笥は、箪笥のままで、姫は箪笥を連れ牢屋から脱獄したのでした。
箪笥はやがて壊れ、姫は悲しみつつも、逃亡を続けます。
逃亡の果てに現れた、ひとりの男性が姫を逃亡から救います。
「姫は箪笥に恋し、箪笥と牢屋から逃げたのではないか?」
「国の形は壊れ、箪笥もまた形ごと壊れた。」
「ここに残ったのは、人間の姿あるのみ」
「姫を愛せるのは、親元でもなく家具でもない」
「人間である わたしだ!」
「姫 わたしを愛してくれませぬか?」
「愛してくれるのですか?」
「わたくしが 愛します」
「しかたねーな」
「村人の許しをもらったぞ姫、これから村人とわたしと一緒に暮らしましょう」
「壊れた箪笥からはこういうものが出て来た!」
「村人よ 見てくだされ」
箪笥から出て来たものは、箪笥の姉が大人と子供になれる薬を作ったこと、その薬を飲んで箪笥になってしまったこと、姉が大人の姿で村の外で悪戯をしてたこと、姉が亡くなるまでのことを牢屋に入った罪人たちが、箪笥から学んでいたことを書き残し語り合い、罪を悔い改めては箪笥にしまい、牢屋から出て行ってたのだった。