みたり*よんだり*きいたり*ぼぉっとしたり

映画のこと、本のこと、おもったこと。

ミッシャ・マイスキー「わが真実」

2005-11-19 23:21:18 | よむ
わたしがとりわけチェロの音を好きなのは、初めて聴いたチェロのCDがマイスキーの演奏だったからなのだと思います。幸運な出会いでした。マイスキーのCDが少しずつわたしの手元に増えていくにつれて、他のチェリストへの興味もほんの少し広がっていき、そこで改めて、マイスキーの音の独自さに惹かれていきました。

『ミシャ・マイスキー「わが真実」』(伊熊よし子著・小学館)
まるで言葉で音楽を奏でているかのような美しい印象を受けましたが、それがマイスキーという演奏家名が形づくるイメージと寸分違わないのです。欲をいえば、少しこのイメージが裏切られる部分があってもさらに本の奥行きが増したのではないかと思います。音楽人物辞典としてもわたしにとっては貴重な一冊となりました。


『大人の友情』(河合隼雄著・朝日新聞社)
著者の易しいことばでの語り口に数年前まではどことなく居心地の落ち着かない気持ちにさせられたのですが、このごろはこの独特の”平易な言葉の凄み”のようなものを納得できるようになりました。ちょうど映画『ヴェニスの商人』を観たばかりでしたので、アントニオとバサーニオの男の友情が男と女の関係に影を落とす可能性に言及した部分は興味深かったです。異なる展開となるものの小林秀雄と中原中也とその恋人の心の綾をひも解いた白洲正子の視点も紹介されていましたが、これも面白く、中也の恋人を奪う小林秀雄の行為は実は中原中也に同一視した極みとしての事、と捉えると、中也に自己を奪われたという側面も見えるので、軸のブレない小林秀雄というわたしの勝手なイメージが少し変わりました。

「この恋を爆発する炎の強さよりも、永続する深く輝く関係へと導いていったことに心を打たれるのである。夫婦であれ、恋人であれ、それが永続するためには友情を支えとするものであるし、その背後に何らかの断念の構図があると思う。」
『田辺元・野上弥生子往復書簡』を取り上げたところでの著者はこのような言葉で結んでいました。あの分厚い本、一度手にして読みきらないままでしたが、「断念の構図」をバックボーンにした関係の美しさに触れたくなったので、もう一度読んでみようと思います。