武士道とは何か?その⑤
その④に続き、新渡戸稲造と「武士道」について
「武士道と日本人の心」 山本博文[監修] 青春出版社 より抜粋
第二章 武士道の精神
礼 其の二 大老・井伊直弼が育んだ「茶の湯」の精神
◇礼儀が己を高みへと導く
武士特有の徳として賞賛された礼は、細心の注意をもって教えられ、広く学ばれた。
そこにはじつに細々とした規律があるが、新渡戸はそれをまったくつまらないとは思わない
とする。
なぜならそれは、ある目的に到達するための最良の道であり、もっとも優雅な道だからと
いう。
イギリスの哲学者スペンサーはこの「優雅」を、もっとも効率的な運動の仕方であると
定義する。
このことを説明するために、新渡戸が例に引いたのが茶の湯である。
日本における茶の湯の歴史は、平安時代末期、臨済宗の僧・栄西(1141~1215)が
中国・宋から喫茶法(きっさほう)を持ち帰ったことに始まると伝わる。
その後、室町時代から戦国時代になると、武将たちの間で茶の湯が流行し、茶の湯の
たしなみがない者は相手にされないほどだった。
茶の湯の作法には、茶碗や茶杓、茶巾などの取り扱い方に明確な手順が定められている。
初心者からすると、それらの作法は難しく、退屈なものにしか過ぎないが、
規定されている手順通りに行うことにより、時間や労力はもっとも節約される。
つまりは無駄のない動きが、一番優雅な所作(しょさ)を生み出すのである。
これについて新渡戸は、「正しい礼儀作法を絶えず修練すれば、身体のあらゆる部分、
あらゆる機能に完全な秩序がもたらされるようになり、身体そのものとそれを取り巻く
環境とが調和し、肉体と精神が統御されるようになる」と解説した。
礼儀作法を遵守すれば、高い精神的境地に達することができるのである。
◇一期一会の精神
そして新渡戸は、茶の湯はまた、このような精神修養には欠かせない儀式の一つでもある
とした。
幕末期における江戸幕府の大老で、日本を開国に導いた井伊直助(いいなおすけ)
(1815~60)は茶人としても名高く、自ら茶会を開き、門弟を育成するなど、終生茶の湯に
心を傾けた人物である。
その井伊が大切にしたのが、「一期一会(いちごいちえ)」の精神だった。
たとえ同じ顔ぶれであったとしても、今日このときの茶会は一生に一度しかない。
そのように考えると、何事もなおざりにすることなく、相手にも礼を尽くし、真剣な気持ちで
臨むことが肝要である。これが一期一会であり、その根底には、相手の気持ちを思いやる
礼の精神が表出しているのである。
たんに茶をすするという行為であるが、心の平静、気持ちの静穏(せいおん)、振る舞いの
静けさと落ち着きが正しい思考と感情を喚起する。
茶室という静寂境にあっては心の不安を引き離し、室内に平和と友情をもたらす。
ここに、茶の湯は儀式以上のもの、一つの芸術へと昇華したと新渡戸は語る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
礼儀作法のできた方は、見ていても気持ちが良いものであり、その人の相手への
気遣いが出来ている証拠でもあります。
日本の礼儀作法は、時代が変わろうとも、おもてなしの心として残っていってほしいもの
です。
また、茶の湯は女性の趣味と考えている方も多いと思いますが、むしろ多くの男性が
習得して芯の通った精神を培っていってほしいです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます