アメリカで、兵士とロボットを融合させる技術開発がすさまじいスピートで進んでいる。重装備でも長時間の行軍が可能な「ロボット兵士」。コンピューターの力を借りて、敵の存在を潜在意識で感知する「エスパー兵士」。NHKスペシャル「NEXT WORLD」取材班は、アメリカの陸軍研究所を訪ね、その最前線を追った。
人とロボットが合体するテクノロジー研究は、何も日本だけの専売特許ではない。アメリカでは、パワードスーツを軍事目的で利用する研究が盛んに行われている。
元来、米軍は軍事ロボット研究で世界をリードしてきた。たとえばボストン・ダイナミクス社と共同開発した、強力なパワーで生き物のように動く軍事用ロボット「LS3」や、人間の兵士の代わりに危険な場所に飛び込むためのヒト型ロボット「ATLAS」。戦闘を人間の手からロボットに委ねることがその目標だった。
しかし、現在の科学技術では、その移行はいまだ時期尚早であることがわかってきた。兵士のあらゆる能力を再現するには限界がある。そこで、新たに力を入れつつあるのが、人間とロボットを合体させた「スーパー兵士」の開発だ。
「ウォリアー・ウェブ・プロジェクト」(Warrior Web Project)。アメリカ国防総省で軍事技術のイノヴェイションを担うDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency/アメリカ国防高等研究計画局)が推し進めるこのプロジェクトの目的は、「ウェアラブル・ロボット」技術によって兵士のパフォーマンスを高めることにある。そして、ハーヴァード大学など全米9つの研究機関がDARPAから資金援助を受け、日夜研究を重ねている。
疲れを感じない兵士
同プロジェクトのもと、スタンフォード研究所(SRI)とアメリカ陸軍が共同開発したウェアラブル・ロボット「SuperFlex」は、その1つの成果だ。
クツに取り付けた高性能センサーが、足の動きを1,000分の1秒単位の正確さで捉えて、そのデータを兵士の背負ったリュックの中にあるコンピューターに送信する。次に、コンピューターは、足が地面を蹴る次のタイミングを予測し、ふくらはぎの駆動装置に指示。装置は、中にあるワイヤーをモーターで引っ張りあげ、地面を蹴り出す力を強力にアシストする。
40kgの荷物を背負って1時間歩き続けても、兵士は疲れを感じないという。研究者の1人はこう話す。
「システムは主に足首に働きかけます。踵が上がって地面から離れる時に足首を少し持ち上げ、歩行の動作をサポートするのです。兵士は普段より、負担を感じないでしょう。地面に接しているほうの足が補助されているからです。テストに参加した兵士の感想の大半は、非常にポジティヴなものでした」
防弾衣、リュックサック、ヘルメット、武器…、任務によってはPCなどの情報機器。歩兵が携行しなければならない装備は、最大で55kgほどにも達する。そこで足首や膝、腰などの関節をアシストして、エネルギー代謝を減らし、足にかかる力を軽減しようというわけだ。
小柄な女性兵士から男性兵士まで確実にフィットするようにシステムをつくり、いずれは陸軍兵士のおよそ90%にフィットさせることを目指しているが、それもこれも、軍事ロボット開発で培ってきた、最先端のセンサー技術や駆動システム、運動制御アルゴリズムがあってのことだ。