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〇ウクライナによる反撃
ウクライナがロシア領内の空軍基地をドローンで攻撃した。
米国のジョー・バイデン大統領がロシアのウラジーミル・プーチン大統領と「会談する用意がある」と語った直後のタイミングだ。
ウクライナは交渉を拒否して、あらためて西側に「断固戦う意志」を表明した形である。
12月5、6日と2日連続で攻撃されたロシアの空軍基地は3カ所で、うち1カ所はウクライナ国境から最短でも約700キロ離れている。
逆に、別の1カ所は首都モスクワまで、わずか200キロ弱しか離れていない。
ウクライナ側は自国の攻撃だったとは、公式には認めていない。
だが、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の顧問は、攻撃の直後に「もしも、何かが別の国に発射されれば、遅かれ早かれ、その物体は発射地点に戻っていく」と謎めいた文章をSNSに投稿した。
事実上、ウクライナの報復であることを認めたも同然だ。
5日配信のニューヨーク・タイムズは「ロシア国防省と匿名のウクライナ政府高官によれば、ウクライナによる攻撃だった」と断定した。
6日配信のCNNも、問題のドローンは「ウクライナの国営軍事企業、ウクロボロンプロムが開発していたものである可能性が高い」と報じている。
同社は10月、フェイスブックに機体の一部とみられる写真を載せ「航続距離は1000キロ、戦闘用部分は75キロになる」と投稿した。
航続距離が1000キロなら、モスクワは完全に射程内に入る。
11月には「電子戦の試験段階に入った」と伝えている。
こうしてみると、ウクライナによる攻撃だったとみて、ほぼ間違いなさそうだ。
今回の攻撃で、ロシア側に与えた被害は死者3人、航空機2機損傷などと比較的、軽微だった。
だが、物理的な打撃の大きさより、ロシアに与えた心理的打撃のほうが大きいだろう。
技術的には、モスクワ攻撃も不可能ではない、と証明してみせたからだ。
先のニューヨーク・タイムズは「基地近くに侵入したウクライナの特殊部隊が、ドローン攻撃を現地で誘導した」と書いている。
事実なら、ウクライナの作戦遂行能力は、大胆にもロシア内に展開した特殊部隊の実力を含めて、かなりの水準といえる。
〇なぜ、このタイミングだったのか
私は攻撃のタイミングに注目している。
12月2日公開コラム
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「プーチンと交渉せよ」…ここにきて米国が、ウクライナを「裏切る」かもしれない22.11.25 長谷川 幸洋
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に書いたように、バイデン政権は最近、和平合意を模索する動きを強めていた。
ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は11月4日、ウクライナの首都キーウを訪れ、ゼレンスキー大統領らのチームに「クリミア半島奪還の再考を含めて、現実的な要求と交渉の優先事項を検討するよう」勧めていた。
バイデン大統領は12月1日、ワシントンで開かれたフランスのエマニュエル・マクロン大統領との首脳会談で「もしも、プーチンが真に戦争を終えるつもりがあるなら、彼と会談する用意がある」と語った。
ついに、自分自身が交渉の場に出かける用意がある、と表明したのだ。
バイデン氏は「彼には、まだその用意がなさそうだ」と付け加えたが、交渉が実現する可能性もゼロとは言えない。
なぜなら、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は10月、国営テレビのインタビューで「モスクワは西側との交渉にオープンだ」と語った。
11月にもインドネシアのバリで開かれた主要20カ国・地域首脳会議(G20)で「交渉を拒否しているのは、ウクライナの側だ」と語っている。
ロシアが交渉に関心があるのは、間違いない。
そんななかで、ウクライナが直接、ロシア領土内にある空軍基地を3度もドローン攻撃したとなると、彼らの態度は明白だ。
将来はともかく「少なくとも、いまは交渉を始めるつもりはない」と宣言した形である。
ウクライナの強い姿勢に、米国は衝撃を受けたに違いない。
「なんとかウクライナを説得して、交渉の糸口を見つけられないか」と思っていたのに、提案を全面拒否され、逆に戦線を拡大する事態になってしまったからだ。
〇米国はどう動くか
ホワイトハウスのジョン・カービー戦略広報調整官は12月7日、記者会見で「我々は『戦争のエスカレーションを懸念している』と明確にウクライナに伝えている」としながら「米国が提供した武器をどう使うかを含めて、ウクライナの主権を尊重する」と語った。
この発言はドローン攻撃の直後だ。
したがって、事実上「ドローン攻撃に関するウクライナの決定も尊重する」態度と受け止めて、間違いない。
冷静に語っているが、本音では、かなり困惑しているはずだ。
実際、NATO(北大西洋条約機構)の元最高司令官であるウェスリー・クラーク氏はCNNの番組で、司会者の「西側はドローン攻撃に神経を尖らせているか」との質問に、こう語っている。
「
〈もちろんだ。みんな心配している。
米国も西側同盟国も「これで終わりにしてほしい」と思っている。
バイデン大統領とマクロン大統領は「戦争を終わりにする条件は、ロシアの撤退」と合意した。
理想的には、ウクライナが空と砲撃の支援を受けて陸上で戦い、クリミア半島を含めて、ロシアを追い出せればいい。だが、そういう風には展開しそうにない〉
」
この発言が、いまの局面をもっとも正確に描写している。
米ロは互いに条件を付けながらも、交渉に前向きな姿勢をにじませているが、ウクライナは断固として応じない。戦場で決着を付ける構えなのだ。
〇ウクライナから学ぶべきポイント
ウクライナの姿勢は、日本にとっても示唆に富んでいる。
ウクライナは西側の武器供与を受けて戦っている身であり、その西側から和平交渉を打診されていながら、開戦から10カ月を経て、ついに長距離を飛ぶ攻撃用ドローンを自前で開発し、ロシア領土を直接、攻撃してみせた。
なんと見上げた「ファイティング・スピリット」であることか。
それに比べて、日本は沖縄のF22戦闘機巡回配備問題で、米国に真意を質すことさえできないでいる。
どういう話か、簡単に説明しよう。
米軍は嘉手納基地に常駐しているF15戦闘機が老朽化したために、今後2年間かけて、最新鋭のF22戦闘機の巡回配備に代替する計画だ。
この話は10月27日付のフィナンシャル・タイムズが最初に報じて、世界が知るところとなった。
常駐配備を巡回配備に変えれば、いくら「最新鋭戦闘機だ」とか「切れ目なく巡回する」と言っても、中国や北朝鮮に対する抑止力は低下するのではないか、という疑問が生じる。
実際、米国のマルコ・ルビオ上院議員やマイケル・T・マコール下院議員ら4人の議員(いずれも共和党)は11月1日、連名でロイド・オースチン国防長官に議会への説明会を開くよう求める公開書簡を送った。
そのなかで、議員たちは「(巡回配備は)米国の戦闘力を目に見えて弱体化させる」と懸念を表明している。
また、米インド太平洋軍の元副司令官であるダン・リーフ退役空軍中将も、米軍の準機関紙「星条旗新聞」のインタビューで「常駐の意義の1つは、日本の自衛隊との関係維持だ。
中国は「撤退」とみなすだろう。
抑止力の観点では、純損失になる」
と批判した。
にもかかわらず、日本の浜田靖一防衛相は11月1日の会見で「米国より、最終的な体制は検討中だが、より高い能力を有する恒久的な部隊に置き換えるため、さまざまなオプションを検討している、と説明があった。日米同盟の抑止力は維持・強化される」と語った。
私が見たり、聞いたりした限り、日本の「軍事ジャーナリスト」たちも米国の方針に真正面から異議を唱えた例はなく、
わずかに元自衛隊空将の織田邦男氏が11月3日付の「夕刊フジ」
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で「体のいい『撤退』にほかならず、抑止力は低下する」と批判したくらいだ。
米国で元軍人や議員たちが強い疑問と批判を投げかけているのに、肝心の日本では、ほとんど批判が出ていない。
これは、いったいどういうことか。
私には「日本は米国に守られているのだから、米国の方針に疑問を差し挟むべきではない」という姿勢が、にじみ出ているように見える。
そうであれば、まったく、情けない限りだ。
そんな卑屈な態度では、真の同盟関係は築けない。
米国に「日本はオレたちに頼り切っていて、文句も言えないのだ」と足元を見透かされるだろう。
「戦うウクライナ」の姿勢とは「雲泥の差」ではないか。
安全保障関連3文書の改定が大詰めを迎えているが、岸田文雄政権は言葉の一言一句などより、そもそも「日本を守るとは、どういう話か。
日米同盟はどうあるべきなのか」という根本に遡って見直してもらいたい。
それは政府だけでなく、国会の仕事でもある。
「12月7日に公開した「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」は、私の1人語りでF22巡回配備問題の続編と防衛費の扱いをめぐる岸田政権に対する評価、
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8日公開分ではウクライナのドローン攻撃について、お話しました。ぜひ、ご覧ください。 」