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1845年創刊の英国の有力経済誌で、特に経済、国際政治に関して世界的に権威のある媒体とされる。
知識層からの信頼が厚く、歴史観と見識に富んだ鋭い分析、オピニオン記事に定評がある。
世界発行部数は約142万部。
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猛威を振るう感染症と不人気で高コストなロックダウンの板挟みになり、習近平国家主席には良い打開策がない。
新型コロナウイルス感染症の流行に際してロックダウン(都市封鎖)という対応策を生み出したのは中国だった。
パンデミックが始まると、習近平国家主席率いる政権は感染が武漢からほかの都市に広がるのを防ぐため、数千万人の住民を同市内に数週間閉じ込めた。
あれからほぼ3年が経った今、ロックダウンは中国の失敗の原因になっている。
感染者数増加と抗議行動の組み合わせは、習氏が今後、大規模なロックダウンと感染者の大量発生との間隙を縫うように進まなければならないことを意味する。
結局は、その両方に絡めとられる可能性もある。
今後数カ月の間に習政権は2012年の発足以降で最大の脅威に直面し、中国共産党の権威も1989年の天安門事件以降で最大の脅威にさらされることになる。
〇感染急増と抗議デモのダブルパンチ
中国では、地方での散発的なストライキは珍しいことではない。
だが、新疆ウイグル自治区の首府ウルムチの火事で少なくとも10人の住民が死亡した(コロナのために建物が封鎖されており、逃げられなかったと伝えられる)後、デモが全国各地で勃発した。
11月最後の週末の北京では抗議行動の参加者が「自由」を要求し、上海では習氏の退陣を求める声が上がった。
デモの規模は小さかったが、中国ほど厳しく監視されている都市では、人が集まったこと自体が驚くべきことだ。
デモ参加者だけが反対しているのであれば、治安部隊の手で秩序を回復できる。
だが、習氏はウイルスという手を緩めることを知らない敵とも対峙している。
行く手にどんな政治的、経済的混乱が待ち受けるかを理解するには、中国でこの感染症の流行がどのように悪化してきたかを先に把握しておかねばならない。
〇当初の成功から生じた驕り
一つの問題は驕りだ。
中国のゼロコロナ政策は数百万人の命を救うことで、目覚ましい成功としてスタートした。
当初は、感染者数が少ないことは経済へのダメージが少ないことも意味した。
この3年間、ほとんどの国民は普通の生活を送ってきた。
国営メディアは、これは習氏と共産党が有能で慈悲深いことの証である、多数の死者を出している退廃した西側の政治家たちとは大違いだと来る日も来る日も喧伝した。
そうした言葉は今や消え去った。習氏の政策のために、中国はますます制御しにくくなっているウイルスへの防御が弱くなっている。
現在、国民のほぼ90%がワクチンを2度接種している。
だが、人々が感染して回復または死亡する比率の予測に基づく本誌エコノミストのモデルによると、ウイルスが妨げられることなく拡散すれば、中国でのピーク時の感染者数は1日当たり4500万人に達する。
ワクチンの効力がまだ残っているうえに発症者全員が治療を受けられると仮定しても、約68万人が死亡する。
実際にはワクチンの効き目は時間とともに衰えるし、治療を受けられない人が多い。
集中治療病床は41万床必要になる見通しで、これは中国の収容力のほぼ7倍に当たる。
〇ワクチンを疑う高齢者
こうした犠牲者の多くは、習氏の政策がもたらす結果だ。
重症化や死亡に至るのを避けるのに必要な3度のワクチン接種を受けた人の割合は、80歳超の国民では40%にとどまる。
健康な80歳が新型コロナで死亡する可能性は健康な20歳のそれの100倍超であることを考えれば、これは致命的な失策だ。
中国共産党は数千万人を数週間ぶっ続けでロックダウンすることを厭わないが、高齢者の間に広がるワクチンへの疑念に対処できていない。
政府は当初、60歳未満にしかワクチン接種を認めなかった。
外国製のワクチンの安全性に疑問を投げかけながら、昔からある治療法を推奨した。
そして、地方政府の職員がワクチン接種を最優先で実行するための動機付けも行わなかった。
方針を転換しなければ、中国の新型コロナに対する抵抗力は低下していく。
最も新しい変異型ウイルスは、デルタ型より感染力の強いオミクロン型よりもさらに感染力が強い。
重症化や死亡から身体を守る力は、ワクチンを打ったうえに感染もした人に比べるとワクチンだけの人の方が速く衰える。
それにもかかわらず、中国はまだ4度目のワクチン接種を始めていない。
本誌のモデルによれば、国民の90%がブースター(追加接種)を済ませ、かつ発症者の90%が最高品質の抗ウイルス薬を利用できたとすれば、ウイルスが拡散し放題の状況であっても死者は6万8000人にとどまる。
〇膨らみ続けるコストと感染急増のジレンマ
ワクチンと抗ウイルス薬がふんだんにある世界では、習氏のゼロコロナ政策はもはや恩恵がなく、経済と社会のコスト負担ばかりが膨らみ続ける。
空では国内線の便数が前年比で45%減っており、陸では道路での貨物輸送が同33%減っている。
都市部の地下鉄の旅客輸送量も同じく32%落ち込んだ。
都市部の若者の失業率はほぼ18%で、2018年の2倍近くに達している
今年春に見られた前回の感染のピークとは対照的に、今ではすべての大都市に行動制限が導入されている。
解除を何度かはさみながら行動制限が数カ月間続くところもある。
人々が街頭に出て抗議するのも無理はない。
その結果、習氏はジレンマに直面している。
新型コロナを抑制し続けることは社会的にも経済的にも負担の大きな事業になったが、その負担を減らそうとすれば流行を引き起こす恐れが出てくるのだ。
さらに悪いことに、手に負えない新型コロナ拡大と耐えがたいロックダウンの間にある「落としどころ」は、たとえ存在するとしても、今や縮小しているように思われる。
1月19日、従来ほど厳しくない20の制限措置を発表することで中国政府が対策を緩和しようとしてから1週間ほどしか経たないうちに、中国の状況を都市ごとに追跡している調査会社ガベカルは、全国で感染が拡大して制限が急増していることを探り当てた。
〇まずいタイミングで回ってきたツケ
その影響は新型コロナよりも広い範囲に及ぶ。
習氏はゼロコロナ政策を忠誠心の踏み絵とすることにより、健康危機を政治危機に変えてしまった。
感染者の発見と行動制限の執行に用いるアプリを国民に押しつけることにより、自分のゼロコロナ政策は「国民第一」だとする考え方に背き、断固たる権威主義国家をあらゆる家庭に持ち込んだ。
そして経済への影響を顧みずにゼロコロナ政策に固執することで、中国共産党が権力を握る主たる根拠の一つ――安定と繁栄を保障できるのは共産党だけだという主張――にも疑念を投げかけた。
習氏のリーダーシップが試されるこの状況は、まずいタイミングでめぐってきた。
新型コロナのような呼吸器系の病気は、冬になると格段に広がりやすくなる。
おまけに、サッカー・ワールドカップのテレビ中継を検閲が始まる前に見た人々が気づいたように、ほかの国々では人々がマスクをつけずに自由に行動しているのに、中国の人々はロックダウンされている。
世界が見守るなかで、ゼロコロナ政策の失敗は人命を危険にさらす失策であるばかりか、国の恥にもなっている。
〇習近平と共産党の支配に疑問符
この感染症大流行から容易に抜け出せる道は、習氏の目の前にはない。
中国共産党は高齢者へのワクチン接種を推進するとしている。
その方針自体は正しいが、ワクチン接種の展開と抗ウイルス薬の調達には数カ月を要する。
ロックダウンはますます厳しくなるだろうし、それでも感染者が大発生する恐れは残る。
ベストシナリオが実現しても、中国はコロナ規制からの「出口」で生じる重症化と死亡の波と経済混乱を経験することになる。
このトレードオフにいかに対処するかによって、習氏の評価が決まる。
これまでの政策の誤りについて習氏や中央政府を中国国民がどの程度非難するのか。
中国共産党が努力して編み出した監視・制御のシステムは大衆の異議に持ちこたえられるのか。
答えは誰にも分からない。
そして、強まるナショナリズムは中国共産党への忠誠心をどの程度保証してくれるのか断言できる人は誰もいない。
権力を握ってから10年、習氏は対価を払うことなく政治経済への支配力を強めてきた。
コロナ禍はそのすべてを疑念の渦へと投げ込んだ。