異形の仲間たち見聞録

私が見てきた精神疾患者たち

小説 『呆け茄子の花 その五十一』

2021年05月09日 01時55分23秒 | 小説『呆け茄子の花』
とうとう尚樹は、たった二日間で机上の荷物や他のところにあった自分のもの全てを持ち帰ってしまった。その後の部長のリアクションは別に気にしていなかったが、その後なんら言葉や手紙はなかった。そのことの方が尚樹の気を患わせることがなかったので良かった。課長から退職に当たって事務的な処理をしに少しだけ来て欲しいというので、行ったが捺印や住所、氏名の記入程度で終わった。尚樹は手続きが終わると、内密に各部署の親しくしてもらっていた人たちに極秘に「暇乞い」のあいさつをしに回った。なかには、尚樹の心情を察してか「きっと、いろいろあったんやな」と声をかけてくれる人が居た。人中ではあったが尚樹は思わず今までのことが溢れてきて涙がこぼれそうになったが、やっとの思いでこらえるのが精一杯だった。そんなこととは知らない患者さんたちは「勤務上がり」と勘違いをしてか「さよなら」といつもの言葉をかけてくれ、尚樹もその言葉に応えた。駅へ向かう途中、振り返り大きな病棟を見て「二度と来るまい」と思い駅へ急いだ。




その五十二へ続く





















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