異形の仲間たち見聞録

私が見てきた精神疾患者たち

小説『呆け茄子の花 その十九』

2016年08月26日 21時36分33秒 | 小説『呆け茄子の花』

「西都第一法律事務所」は、繁華なビル街のひとつにあった。

いわゆる「合同事務所」であって、「個人事務所」では無かった。

事務所の立地の良さとしては、歩いて10分以内に地方裁判所があることだ。

季節は徐々に夏の盛りから、足抜けするような季節の狭間であった。

尚樹は、もはや自分の能力では裁ききれない「請求書」を

何度かに分けて、事務所に持ち込み「破産手続き」に

必要な書類、私文書、公文書を言われるがままに用意し、持ち込んだ。

しかし、その間毎度のように、『複雑性PTSD及びうつ病』から来る

「倦怠感」が容赦なく訪れ、尚樹をベッドに釘付けにして

法律事務所に行けなくなり、また「行けなかったことの罪悪感」が

そのことがまた、自分を苛むことになった。

数々の書類を見ながら、弁護士は慌てることなく言い放った。

「やはり、自己破産しかないと思いますが、心配することはないですよ。」と。

 

 

 


小説『呆け茄子の花 その十八』

2016年08月19日 21時46分54秒 | 小説『呆け茄子の花』

街中のビルの六階にある「事務所」へ向かった。

「無料弁護士相談会」へ足を向けた尚樹は女性弁護士と向き合うことになった。

国が運営する『法テラス』は、弁護士会が各事務所の輪番で回っていて、

尚樹は「切れそうな」眼差しの女性弁護士だった。

会話すると、人の当たりはやはり女性らしい穏やかなものだった。

弁「だいたい、いくらぐらいだと把握していますか?ザックリとで良いですよ」

尚「目算ですが、500万位だと思います。」

弁「主に何に使っていましたか?」

尚「出会い系のポイント代です。」

弁「それはどのような切っ掛けからですか?」

尚「・・・、寂しさからでしょうか?」

弁「なるほど、何が原因だとお思いですか?」

尚「私は『精神疾患』を抱えているので、

『同調している人が居ないという寂しさ』でしょうか?

弁「なるほど、おおよそは解りました。今後のご相談はどういたしましょう?」

尚「どういうことですか?」

弁「順番で各事務所の人間がここで相談を受けているので、

継続的にここで相談は出来ないのです。私で良ければ次回からは私の事務所で

相談に応じますが・・・」

尚「是非今後もお願いします。」

別に尚樹にこだわりがあったわけではない。

単に新たな弁護士に始めから同じ話をするのが苦痛だったのだ。

弁「解りました。次回からここへお出でください。

次の相談の時には、今来ている未返済の請求書を持ってきてください。

それと、これからは簡単なもので良いので『家計簿』付けてください。」

尚「ハイ解りました。」

名刺には「西都第一法律事務所」裏を見ると西都のど真ん中に立地していた。

 

その十九へと続く

 

 

 


小説『呆け茄子の花 その十七』

2016年08月07日 00時04分55秒 | 小説『呆け茄子の花』

「希死念慮」から逃れた尚樹であったが、

だからといって全てが解決したわけではない。

全身を覆う「倦怠感」、それに伴う昼夜逆転。

もう、普通の生活ではなくなっていた。

異常な飲酒量、出会い系を続けるため、カード会社からの借金

事は、尚樹の知らないところで進んでいた。

障害者である尚樹には到底返済できない額に膨らんでいた。

そうして、尚樹は生活できないレベルになり、

「無料弁護士相談会」へと、足を向けざるを得ず、

一歩一歩進むごとに現実を痛いほどに感じてきた。

「どうなるんだ!?」と・・・

 

 

その十八につづく