異形の仲間たち見聞録

私が見てきた精神疾患者たち

小説 『呆け茄子の花 その四十六』

2019年08月08日 16時00分50秒 | 小説『呆け茄子の花』

尚樹の「恋愛事情」を書いてみたい。

尚樹自身はおくてな方でかと言って女性と話せないわけでは無い。

どちらかというと相手を笑わすのが得意な方なのであるが、

それ以上は踏み込めない性格である。

そんな尚樹が人の紹介で知り合った女性Yさんと出会ったのは事故の前。

Yからのプッシュが猛烈でズルズルと半同棲状態になった。

その中で尚樹は労災事故に遭い、右足を失った。

T大学病院の集中治療室にYを呼び、尚樹の方から「別れよう」と切り出した。

事故に遭う前、Yからの話しで離婚したばかりだと言うこと、

また、夫と姑の関係が良くなかったことと言えばまだ聞こえは良いが、

尚樹の前で前の夫親子のことを散々に非難し、誹謗中傷とも言うべきことを言いつのった。

そのことが頭の片隅にあり、

尚樹は「このYには右足を失った自分の人生を共にするには彼女には荷が重すぎる」

と感じたからである。

いわば「キャパオーバー(容量以上)」だと思ったのである。

しかし、彼女は別れることを拒否して尚樹の病室に通い続けた。

Yは時折、上手に笑えていない笑顔をするのが特徴で尚樹はこの付き合いが「長く続かないな」

と思っていた。

尚樹が数ヶ月の入院生活を終え、尚樹は自宅に戻ろうとしたがなにかと不便だろう

ということで、Yの部屋で生活することとなった。

その後の生活は、順調なように見えのだが尚樹が二回目の手術のため

再度入院することになって、以前の手術で出来なかった部分の手術を行ったのだが

手術は難航を極め、4時間の手術予定が9時間に及び、術後も「絶対安静」となり

10日間ベッドから出ることはもちろん、寝返りを打つことさえも許されなかった。

そのような状態になってから、3日目の昼食後、ベッドの横にあるサイドテーブルで

携帯電話が震えているのに気付いた。

制限された範囲の中でなんとか身を動かして携帯を取った。

電話はYからであった。

Yは手術後に病院に駆けつけてくれていて、麻酔でもうろうとしている尚樹と二、三会話を

交わして尚樹はまた眠りについた。

それ依頼のYの声だった。

唐突にYは「もうこれ以上つきあえない。」とだけ言ってあとは何も言わなかった。

尚樹は「あっそうか」としか言えなかった。

今の尚樹の身体状態からいってそれ以上言う余力は無かった

というのが正直なところだったのであろう。

尚樹の「絶対安静」が解けて歩行訓練もほどほどに済まし、

タクシーを走らせて、ファーストフード店に行き、Yに電話した。

尚樹は率直に「なぜ、そういう風に思ったのか。直に話は出来ないのか。」と

Yに言ったのだが、Yは黙りを決め込んで話そうとしなかった。

病室に戻り、尚樹は冷静になって考え

「事故に遭ったときから、すでにYの中で無理をしていたのだろう」と思った。

そのように思ったものの、それから数年は女性に対して疑心暗鬼になってしまった。

 

 

 

その四十七につづく

 

 

 

 

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小説 『呆け茄子の花 その四十五』

2019年08月04日 01時20分09秒 | 小説『呆け茄子の花』

勤務先の病院の最寄り駅で降りた尚樹の心はすでに怒りに変わっていた。

病院に着くと部長はいつもの軽い調子で

「あ~、すみませんこの書類をスキャンしてもらってメモリーに移してください。

もらったらすぐにメールに添付して送りたいので」ということであったが、

尚樹は返事もせず、首肯したのみで書類を受け取った。

内心、「自分でやって」という思いが強かった。

作業自体は10分もかからず、USBにデータを移し部長に手渡し、

「それでは失礼します。」といってすぐさま駅に向かった。

事故に遭って精神に傷を負ってからというもの尚樹はストレス耐性が弱くなって

感情の起伏を抑えきれなくなることが多く、過去に部長と口論したこともあったし、

また、自分で怒りを上手く消化できず、寝込んで翌日欠勤することも少なくなかった。

そのようなわけであるから、今回の事に関しても怒りを消化できずにいて、

怒りの反面、来週の出勤に影響しないか心配であった。

だが、心配は悪い方に傾き月曜、火曜と寝込み欠勤してしまった。

水曜には出勤したものの勤務先で心許すことが出来る職員に不満を漏らしてしまうのである。

それで済めば良かったのだが、その矛先は組織上、部長の上司に当たる

尚樹の主治医にも不満を「漏らす」のではなく「爆発」させてしまったのである。

主治医に尚樹は、「先週、こんな事がありまして・・・」と話していく中で

尚樹はヒートアップしてしまい、思わぬ事に主治医が尚樹に対して

「謝罪」せざるを得ないほどになってしまったのである。

この事は尚樹自身にとって後悔が残る出来事であった。

 

 

 

その四十六につづく

 

 

 

 

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