Aくんは30歳「双極性障害」との診断を受けており、本人も自分の行いを振り返って「そうなんだろうな」と淡く思っていたらしい。私自身は「Dr.による『刷り込み』」もあるのではないかと話していて感じた。彼は他の患者同様に「季節の移り変わり」、「気圧の変化」、「過去の嫌な記憶」に影響されて度々寝込んでいて、寝込むどころか「寝ていられない症状」というのも出てきて非常に精神的に追い詰められている様子が近くに居てよく分かった。ある時から顔を見なくなり、「どうやら自宅に引き籠もっているらしい」という患者間の情報で伝わってきた。症状は激烈であったらしくよってストレスはいかばかりか想像もつかなかった。その後、時々病院周辺に顔を出すようになり「以前の様に」とは行かないまでも会話は出来たが長い時間は疲れるらしく昼過ぎには自宅に帰っていった。
・・・数日経って、思い詰めた様子で話しかけてきた。「返せないくらい『借金』してしまって、どうにもならない。どうしようか…」という話しだった。私は「とりあえず、主治医に相談してみて」としか答えられなかったが、主治医は「診断書を後で書くから、まずは『法テラス』にいって弁護士に相談しなさい」と。Aくんは予約を取って町中にあるビルのワンフロアーにある「法テラス」で当番で来ていた女性弁護士に病気の事、それが元で「偽の出会い系」に引っかかってしまい、銀行・カード会社からそれぞれ限度額を引き出して、自分の「生活保護費」では返済できない事、それが元で病状が悪化している事などを「堰を切った」様に休む間もなく語った。弁護士は「そういうことなら、今後も無料で私の事務所で対応できますが、どうしますか?」と聞かれて、Aくんは話しをしていて自分に真摯に向き合ってくれる女性弁護士に好感が持てたので「お願いします」と今後のことは弁護士が所属する「✕✕第一法律事務所」にカード、請求の書面、通帳などを見せて借金の総額を弾き出してもらい、後はもうAくんは主治医にこのことを相談し「診断書」を書いてもらい、弁護士に提出、続けて生活保護課の担当者に決死の思いでいきさつを話したのだが、役所の担当者は難なく「そういう人は珍しくないので気になさらにでください。生活保護も引き続き給付しますので」とのことで、やや拍子抜けしたがAくんは「今後は『出会い系』に取り憑かれる前の生活に戻れるのではないか?」と徐々に気が楽になりつつあった。後日、弁護士から「自己破産が認められてAさんの債務は支払う必要が無くなりました。今後、請求があっても払わないでください。返すと『返済能力あり』と評価されてしまう可能性もありますので」とのことだった。Aくんはひとときの「悪夢」、「地獄」から解放された。
Aくんはとある会社に「障がい者雇用」で働いていて、やはり体調が悪い日は出勤が難しい。上司や経営者に理解があり、Aくんを責めたりはしなかった。それがAくんが自分を自分で責めてしまう原因の一つでもあったが、幾ばくかの収入はあった。月々4万~6万ほど。生活保護は14万認定されていたが、生活保護の制度上、彼の基準である14万を越えた収入分は生活保護費からカットされる。よって、月々の収入は14万を越えた事がない。そんな事もあって未来への不安、病気の不安、金銭の不安が相まって今回の「自己破産の顛末」になったわけで、生活保護課の担当に「よくあることです。」と、言われたことを思い出して「あぁ、似たような人が居るんだな」とようやく周りを見渡せる気持ちになったようであった。Aくんの今後の課題は「14万との付き合い方」だろう。
・・・次回に続く