認知症や糖尿病…「虫歯」は万病のもと 削らず修復、初期対策が肝心
産経新聞 - 2014年03月14日 11:26
写真 歯茎との境目の近くにできた初期虫歯。ミネラル分が溶け出して白く見える |
「痛くなったら歯医者に行けばいいか」。こんな具合に“たかが虫歯”と侮るのは禁物だ。虫歯は全身のさまざまな病気につながるといわれる。たとえ治療しても一度削った歯はもう元通りに戻せない。このため削らずに修復を促す『初期虫歯対策』が肝心という。(中山忠夫)
「虫歯になると、口の中にいる細菌が虫歯の穴から血管に直接入り込んでしまい、血液を通じ全身に運ばれて影響を及ぼすのです」
虫歯の“怖さ”をこう語るのは、鶴見大学歯学部の花田信弘教授。人の口の中にすみつく細菌は700種以上にもなるといい、「このうち虫歯や歯周病を起こす“悪玉菌”は血管を傷つけて動脈硬化の原因となり、脳に侵入すればアルツハイマー型認知症を引き起こす可能性も」。関節リウマチや糖尿病、早産なども密接な関係があるという。
◆悪玉菌の侵入路
虫歯は口の中の悪玉菌が食べかすなどから酸を作り、酸が歯を溶かすことで起きる。まず歯の表面の硬いエナメル質に穴が開き、さらに下の象牙質に達すると痛みを感じるようになり、悪玉菌が簡単に血管まで入り込める“侵入路”もできてしまう。象牙質は細い管で歯髄と直接つながっていて、歯髄には神経や血管が通っているためだ。
こうなると「開いた傷口をバイ菌だらけの状態にさらすのと同じ」と花田教授。通常なら削って詰めるといった治療も必要だが、治療してから時間がたつと詰め物の下に再び虫歯ができたり、歯の根の部分に膿(うみ)がたまったりして、同じ歯の治療を繰り返すことも少なくない。「エナメル質に穴が開けば“落城”したも同然。健康な歯を維持するには、穴が開く前のまだ修復可能な『初期虫歯』の段階で必ず食い止めること」と強調する。
初期虫歯とは、エナメル質の表面は滑らかでも内部のミネラル分(カルシウムやリン)が酸によって溶け出した状態で、痛みはないが表面に透明感がなくなり、白くなることから始まる。一方で唾液にはミネラル分が含まれ、エナメル質の溶け出た部分を補う働き(再石灰化作用)がある。初期虫歯対策では正しい歯磨きと歯の定期検診に加え、ミネラル分を補って虫歯が進行しないうちに早期修復を促すことが大切という。
再石灰化作用を高めるには、ガムをかんでカルシウムなどを補給することも効果的だ。
◆ガムに再結晶化効果
たとえば江崎グリコの「POs-Ca(ポスカ)」は、カルシウムを唾液に溶けやすい形にした「リン酸化オリゴ糖カルシウム」を配合。もろくなったエナメル質表面の結晶構造を元通りに硬く戻す働き(再結晶化効果)がある特定保健用食品だ。
同社によると、この種のガムで初めて再石灰化だけでなく再結晶化も促すことを実証。日本歯科医師会の推薦商品として認定された。より硬くて丈夫な結晶構造ができるフッ素を配合した「POs-Ca F(ポスカ・エフ)」も歯科医院を通じて販売中だ。
同社健康科学研究所の栗木隆所長は「虫歯予防ガムの中でも酸を作らせない代替甘味料を使ったものは第1世代。続く第2世代はカルシウムなどを補って再石灰化を促す。『POs-Ca』と『POs-Ca F』はさらに進んだ第3世代。再結晶化や再硬化(硬い歯を取り戻す)の機能も併せ持つ」と説明する。
花田教授は「欧米では虫歯の初期症状をより明確に定義する新しい診断基準が導入され、再石灰化できる状態であればフッ素を塗る方法などで積極的に健全な歯に戻す治療も進んでいます。虫歯は万病のもとともいえる怖い“病気”。予防や早期発見が何よりも大切です」と話している。