「世界最高齢」という93歳の指揮者がタクトを振る。教師生活のかたわら、自ら結成した楽団を長年率いた井手章夫さん(92)=京都市左京区=。彼の指揮でベートーベン交響曲第2番を大阪交響楽団が演奏する公演が来年1月9日、京都コンサートホール(左京区)である。舞台に立つのは12年ぶりという。企画したのはクラシック通の落語家、桂米團治さん(60)。2人の不思議な縁で今回の大舞台が決まった。

 「せっかくの機会を楽しみたい」。来年の元日で93歳となる井手さんは意気込みを語る。音楽への思いや来歴を振り返る語り口は、卒寿を超えているとはとても思えない。

 京都市生まれの井手さんは戦時中、京都第二中(現・鳥羽高)で学び、音楽部でクラリネットや指揮を担当した。戦後の47年、京都薬学専門学校(現・京都薬科大)を卒業後、府内の中高で化学を教えた。

 教師のかたわら49年に京都市内の高校生による「新制高等学校連合交響楽団」を結成。のちに、弦楽団「コンツェルティノ・ディ・キョート」も発足させ、指揮を担当した。87年に石原高(現・府立工業高)の校長として定年退職した。

 交響曲第2番は、ベートーベン作品の中でもあまり演奏されない曲という。「終戦直後の物資が何もない頃に聴いた思い出の曲。青年期のベートーベンが抱えていた未来への不安や、自分の音楽を創ろうとする情熱など、彼のいろいろな面が表現されている」と井手さんは評する。

 そんな井手さんと米團治さんは、実は親類だった。しかし、つい最近まで会ったことはなかったという。

 それが昨年1月、親類の葬儀で会い、米團治さんが井手さんの経歴を知った。ベートーベン交響曲第2番への思いにも触れた。クラシックに詳しい米團治さんは、最高齢の現役指揮者として知られ、01年に93歳で亡くなった朝比奈隆さんに通じるものを感じたといい、ベートーベンの生誕250年と井手さんの指揮者活動70周年を記念して公演を企画した。「世界最高齢の指揮者として、第2番の魅力を紹介してほしい」と米團治さんは期待する。

 井手さんが指揮するるのは2008年の記念演奏会以来。「再び舞台に立つとは夢にも思わなかった。不安もあるが楽しみ」と語る。公演では第2番以外の交響曲も演奏する。ナビゲーターを米團治さんが務める。公演は1月9日午後7時から、京都コンサートホールの小ホール。5500円。問い合わせは米朝事務所06(6365)8281(平日午前10時〜午後6時)。