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宝井其角発句集 夏之部 (1) 塚本哲三 著 坎穿久臧 考訂 昭和十年刊

2024年06月20日 18時04分40秒 | 俳諧 山口素堂 松尾芭蕉

宝井其角発句集 夏之部 (1)

塚本哲三 著 坎穿久臧 考訂 昭和十年刊

 

  風光別我苫吟身

大酒におきてものうき袷かな

一つとろに袷になるや黒木うり

越後足に絹さく昔や更衣

     卯月八日母におくれて

身にとりて衣がへうき卯月哉

ぬかでやは千手観音ころもがへ

法體もしまの下着や更衣

     寄甘己

白禿もなほろばかりぞ衣がへ

     奉幣使御代参の人の家にて

としたけて伊勢まで誰か更衣

乞食哉天地を着たる夏ごろも

わか鳥やあやなき昔にも郭公

有明の面起すやほとゝぎす

淀舟や犬もこがるゝ子規

夜這星嗚きつるかたやほとゝぎす

歴々や下馬のをりふし時鳥

川むかひ誰屋敷へかほとゝぎす

鵺(ぬえ)啼くやこのあかつきを子規

あかつきの氷雨(ひょう)をさそふや郭公

     百間長屋にて

時鳥人のつら見よ下水打

ほとゝぎすこ一二橋の夜明かな

阮咸が三味線しばしほとゝぎす

   (註 阮咸は晋の七賢の一人、音律に妙にして善く琵琶を憚ず)

亦打山(まつちやま)

夜こそきけ穢多が太鼓杜鵑

きぬ/\の用意か月に杜宇

寮坊主飲まねば淋し郭公

     宰府奉納

ほとゝぎす鳥居/\と越えにけり

     林中不賣薪

せになくや山ほとゝぎす町はづれ

麓寺五加(うこぎ)が奥をほとゝぎす

  さる江といふ村にて

くらぶ山材場(きば 木場)の日蔭や子規

    (註 西行「聞かずともこゝをせにせむ時鳥山田の原の杉のむらだち)

あかつきの反吐(へど)はとなりか杜宇

     たのみなき夢のみ見る曉

夢に来る母をかへすか郭公

ほとゝぎす我や鼠にひかれけむ

子もふまず枕もふまず蜀魂

     枳風が妻を供して熱海へ行くとて

馬の間妹よびかへせほとゝぎす

     桑名にて

姶の僥かれてなくや子規

それよりして夜明烏や時鳥

點滴を硯に奇なりほとゝぎす

人間の四月にふけれほとゝぎす

     ある人の愛子にねだり申されて

ほとゝぎす幟そめよとすゝめけり

月消えて腰ぬけ風呂や子規

六阿禰陀かけて嗚くらむ杜鴎

     浅草寺樹下

虫つかぬ銀杏によらむ郭公

葉になりてかゝれぬ晦や時鳥

子規たゞ有明のきつね落

ほとゝぎす人を馳走に寝ぬ喪費

目の上に目をかく人や郭公

     夢 畫

砂は目に寝覚めをあらへ蜀魂

     姉が崎の野夫忠孝心をきこしめされて緑を給はりたるよし

   起きてきけこの時鳥市兵衛記

ほとゝぎす二聲めには出馬かな

あのこゑで崖くらふかほとゝぎす

音を守る夜寺に鬼なし子規

     山田市之丞

ちつ/\と帰すつづみや杜宇

観音で耳をほらせてほとゝぎす

我句人しらす我を嗚くものは杜鵑

鉦かん/\驚破(そよや)時鳥草の戸に

あれ/\と艪まらはづれて子規

 明方啼きすてし一こゑを

郭公中入までのばせをかな

さもこそは木兎わらへ時鳥

     須磨にて

ほとゝぎす雪も偏になる浦わ哉

     屏風に藤房卿住みすつるの所

迷ひ子の三位よぶなり郭公

草の戸や犬に初音を隠者鳥

    上行寺二句

灌佛や拾子則ち寺の兒

灌彿や墓にむかへるひとり言

     彿さへこの世間はくるしきに知らでやけふは生れ出けむ

麥飯や母に焚かせて佛生會

卯の花やいづれの御所の加茂詣

うの花や蛎がら山の道のくま

蟾(ひき)をふんで夜卯の花を憎みけり

年寒し若葉の雲の朝ぼらけ

舟歌の均(なら)しを吹くやタ若葉

     慈母茎

花水にうつしかへたる茂かな

僧正の青きひとへやわか楓

いにしへの奈良のみやこの牡丹持

     河州観心寺

楠の鎧ぬがれしぱたん裁

うかれ女や異見に凋む夕牡丹

筑前紅を

しらぬ火の鏡にうつる牡丹かな

     丹羽左京かうのとのの参勤を

黒牡丹ねるやねりその大鳥毛

     艶士にめでて

八専をうつゝに笑ふ牡丹かな

むらさめや驢山(りょざん)を名にし深見草

     肖柏の行状をあつめて集編める人に

さゝはうし角に火ともす深見草

殿つくり並べてゆゝ桐のはな

     紅毛来貢の品々奇なりとして

   桐の花新渡の鸚ものいはず

今日にかはる浄瑠璃殿や青簾  

下洛卯月の中の一日

隠岐殿のかへり見はやせ鏡山

帆をおろす舟は松魚か磯がくれ

鰹荷の跡は巳目の道者裁

タしほや客の間にあふ中ぶくら

こよろぎの名は昔にてうつは哉

     和重銭に

伊勢にても松魚なるべし酒迎

     たのみなき夢のみ見けるに

うたゝ寝の夢に見えたる鰹かな

妻鰹の卵(かいこ)の中のめぢか我

人のまことまづ新しきかつを我

     魚市涼宵

楊貴妃の夜は活きたる松魚かな

     光廣卿の歌をおもひ合せ侍

松魚かな先づまな箸を袖で拭く

     木 賀

名所は海を見ずして松魚かな

袖裏や茄よりけに白くゝり

     浅野家義士等をいたむ

澤潟の鑓を引くなりかきつばた

杜若疊へ水はこぼれても

かきつばた女雪駄(せった)のかたしあり

むらさきの妹もありけり杜若

簾まけ雨に提げ来るかきつばた

     護國寺にあそぶ

水漬になみだこほすや杜若

     奉 納

から衣御影やかけてかきつば紅た

けしの花詞精進の凋れかな

散りぎはは風も頼まじけしの花

芥子ばたけ花ちる跡の須彌いくつ

     祝産育

たかうなの皮に臍の緒つゝみけり

笋(たけのこ)よ竹よりおくに犬あらむ

笋や丈山などの鎗の鞘

     大町亭法會

法のため筍羹皿もかたみ哉

     寄幻叶長老

老僧の筍拝むなみだ哉

わか竹や鞭にわがぬる箱根山

     しなびたる法師の栴干しけるを

うめいくつ閼伽の折敷に玉あられ

傾城の夏書(げがき)やさしやかりの宿

帋合羽かろしや浮世夏念佛(なつねぶつ)

短夜や朝日まつ間の納屋の聲

     岩翁亭題送蟹

みじかよや隣へはこぶ蟹の足

秋しらぬしげりも憎し烏麦

馬士起きて馬をたづぬる麦野哉

麥にかなし薄に月を見む迄の秋

能化堂麥つく僧をけしき哉

壁の麦葎に年を笑ふとかや

     田 家

早乙女に足あらはるゝ嬉しさよ

汁鎬に笠のしづくや早苗とり

     木賀入湯のころ

しばしとや早苗よりみる寺の門

   田植まで水茶屋するか角田川

合羽着て友となるべき田植かな

早乙女のよごれぬ顔は朝ばかり

摺鉢の早苗穂に出る秋こそあらめ

     憫 農

僥鎌の背中にあつし田草取

幟網沖にはいくつ帆かけ船

ものゝふの幟甲や庫のうち

なよ竹の末葉のこして紙のぼり

幟たつ長者の夢や黒牡丹

疱瘡のあとははるかに幟哉

花あやめ幟もかをる嵐かな

     公門に入る時

あやめわく明り障子のみどりかな

銭湯を沼になしたる菖かな

     けふもけふあやめも菖かはらぬにと

伊勢大輔家の集に見え侍る

菖こそ蛙のつらにあやめかな

本つゝじゆふべをしめて菖かな

きる手元ふるひ見えけり花あやめ

根合や御池にひたす花篚

     廻 女

けさたんとのめや菖の富田酒

     此友や年を隠さず白鬚の身を忘れて

松どの太郎どののなりけりと詈(ののしれ)

今の人形の風俗殊更に小兵衛などいふ人形はなし

我むかし坊主太夫や花あやめ

蝙蝠の屎も子になれあやめ草

垣根ふきとならんで葺ける菖かな

綜かはむ驛にとめて鈴のほり

ちまきゆふはさみや蘆の葉分蟹

     相知れる女の塔澤に入りて文こしたるに

山笹の粽やせめて湯なぐさみ

くさの戸やいつまで草のかひ綜

     午の年午の月午の日午の時うけに入る

競馬埒に入る身のいさみかな

     いかにひまなき雨とおもへば

さみだれの名もこゝろせよ節句前

五月雨にやがて吉野を出ぬべし

三味線や寝衣(ねまき)にくるむ五月雨

隅に巣を鷺こそねらへ五月雨

さみだれや是にも外を通る人

燕もかわく色なしさつきあめ

顔ぬぐふ田子のもすそや五月雨

     呈露江公餞

箒木や人馬へだつる五月雨

     題江戸八景

住むべくは住まば深川の夜の雨五月

さみだれや湯の樋外山にけぶり鳧(けり)

五月雨や君がこゝろのかくれ笠

五月雨やからかさにつる小人形

さみだれや酒匂(さかわ)でくさる初茄子

     厳宥院殿(四代将軍家綱)の大法事を升み奉る

五月雨の雪もやすむか法のこゑ

     七十餘の老醫身まかりて弟子どもこぞりて泣くまゝ

予に追善の句を乞ひける。

その老醫のいまそがりける時さらに見しれる人にもあらず

     哀にも思ひよらずして古来稀なる年にこそなどいへど

     とかく許さざりけれぱ

六尺もちからおとしや五月雨

     江の島

微雨(つゆ)の窟座頭一曲聞えたまへ

何を昔にすぽん嗚くらむ五月闇

舞坂や闇の五月のめくら馬

竹の屁を折ふしきくや五月闇

雨雲や竹も酔ふ日の人あつめ

下闇や鳩根性のふくれ聲

     腰 越

篠すがき熨斗を敷寝の五月雨

     傾 廓

八兵衛や泣かざなろまい虎が雨

須磨の山うしろに伺を閑古鳥

風ふかぬ森のしづくやかんこ鳥

     僧正ケ谷

わびしらに貝ふく僧よかんこどり

     自 愧

夜あるきを母寝ざりける水雞裁

水鶏啼く夜半に遊行のつとめ哉

     和古詩

琴を僥て水雞を煮る夜酒淋し

吐ぬ鵜のほむらにもゆる箐かな

鵜につれて一里は来たり岡の松

石燈籠かやに消えゆく鵜舟哉

     杜国をいたむ

羽ぬけ烏啼く昔ばかりぞいらこ崎

     ある人の別壁にて

内川や鳰のうき巣になく蛙

朔日に七里は出たり名古屋鮓

石の枕に鮓やありける今の茶星

     永代島の荼店にやどりして

明石より神嗚はれて跡の蓋

     湖舟餞に酒たうべて

貴之の鮎のすしくふわかれ哉

飯鮮の鱧(はも)なつかしきみやこ哉

岩根こす蛙に鱗あり走鮎

     白須賀通るに

世の中を知らすかしこし小鰺(あじ)賣

更へるほど四つ手に鯔(いな)の光かな

目通りの岡の榎や簗(やな)ざかひ

夏川に蔵より仕出す簀子哉

枇杷の葉やとれば角なき蝸牛

争はぬ兎の耳やかたつぶり

かたつぶり酒の肴に這はせけり

鎌倉やむかしの角の蝸牛

文七に踏まるな庭のかたつぶり

たのめてや竹に生るゝ蝸牛

草の戸に我は蓼くふ螢かな

  宇治にて二句

柴舟にこがれてとまる螢かな

川くまや水に二重のほたる垣

蠧(しみ)しらみ窓のほたるに語る也

妾が家ほたるに小唄告げやらむ

     こまがた

此碑では江を哀まぬ螢かな

蚊ばしらに夢の浮橋かゝるなり

     愛娘子

鶏啼で玉子すふ蚊はなかりけり

     烏山へおもむく人に

青柳やつかむほどある蚊の聲に

     市の旧假屋のいぶせきに

沓つくり藁うつ術宵の蚊やり哉

夜はや寝む紙帳に凰を入るゝ音

     夜読書

蚊をうつや枕にしたる本の重(かさ)

     松賀秋帆岩城へ赴くに

かやり火に挾箱から團扁かな

蚊遣火に夕顔しろし橙は

     醉て忘る

宵の蚊も枕をわれろ八聲かな

     生死去来

鳥行く蚊はいづくより暮のこゑ

     捕虎 東坡

七つ毛の蚊にく心しむや足疾鬼(つくしつき)

かやり火や蚊帳つるかかたに老ひとり

蚊をやくや褒娰が闇の私語(ささめごと)

     佛骨表

しばらくは蝿を打ちけり韓退之

     射ル者中リ奕スル者勝

蠅打よいづれにあたる點ごころ

     信濃へまゐらるゝ人の錢に

梁の蠅をおくらむ馬のうへ

蝿なくば一花をらむ夏の菊

     土さへさけて照る日にも

蝿追ふに妹わすれめや瓜作り

     西鶴が矢數俳諧に後見たのみければ

驥の歩み二萬句の繩あふぎけり

不二の雪繩は酒星にのこり鳧

     逐歐陽公賦

蝿の子の兄に舜なき憎さ哉

     いきげさにうちはなされたるがさめて

斬られたる夢はまことか蚤の跡

   蚊は名のりけり蚤は盗人のゆかり

     採槐高處

はつ蝉や笛に袋を十文字

     一晶(芳賀)の宿坊にて

日蓮よ木ずゑに蝉の嗚くときは

空蝉に吉原ものの訴訟かな

  木戸番をあはれむ

蝉をきけ一日嗚て夜の露

     入湯の人本賀をかたりしに

蝉の聲ましらもあつき梢かな

蝉なくや木のぼりしたる團(うちわ)うり

水打ちや蝉雀もぬるゝほど

     綟子(もじ)を懐紙の表紙にして點取おこせければ

飯櫃にかけもたらぬか蝉の衣

視彼蝉貧者に衣をぬぐ事を

隣から此木にくむや蝉の聲

竹の蝉さゝらにしほる時もあり

蝙蝠に宇治のさらしや一くもり

かはほりの物書きちらす羽色かな

  うつせみの繪に

夏虫の碁にこがれたる命かな

  宗長の句をとりて

橘のひとつ二つは蚊もせゝれ

むかし匂ふ花さへ實さへ陣皮(ちんぴ)さへ

交代の葉守の神やはつ柏

夏木立哉池上の破風五寸

建長寺 無詩俗了人

爰に詩なし我に俗なし夏木立

     露(點)公溜池の高閤にはじめて涼を挽くとき當座と仰せありければ

夏山にわれは御簾とる女かな

     成人の従者参宮の餞とて

なつの夜を古次が冠者に恨かな

夏の夜は寝ぬに疝気のおこり鳧

夏の月蚊を庇にして五百雨

     日時酔ひしらけて皆迯げちりたる跡に

ひとり燈火をかゝげたる難有さよ

いつのまにお行ひとりぞ夏の月

雪に入る月やしろりと不二の山

     浅草川辺遙

富士行や網代に火なき夜の小屋

しら雪に黒き若衆や富士詣


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