名家俳句集 宝井其角
其角発句集 秋之部 一
塚本哲三 著 坎穿久臧 考訂 昭和十年刊
文月や陰を感すろ蚊屋の中
詞書略
空や秋蚊屋を明れば七多羅樹
身にしむや宵曉の舟じめり
父の煩はしきを心もとなくまもり居たるにいなみがたき會に
呼びたてられて此句を申出たれば一折過るほどに
快しを告けたり妙感のあまりこゝにしるす
秋といふ風は身にしむくすり裁
格枝亭柱かくしに
乾ヤ坎震離ス艮坤巽
空や秋水ゆりはなす山嵐と御よみ候へ下の字
自然にまはり候こそ彌三互郎にて候
秋夜隠林
雨冷(あまびえ)に羽織や夜の簑ならむ
文月やひとりはほしき娘の子
七夕や暮露(ぼろ)よび入れて笛をきく
星合やいかに痩地の瓜つくり
ほしあひや山里もちし霧のひま
ほし合や女の手にて歌は見む
星あひやあかつきになろ高燈籠
ほしあひや大のこゝろの爪はじき
比叡にのぼりて
ほしあひやそう雙林塔の鈴のおと
丸腰の冶郎笠とれ星むかへ
筒の菓に枕つけてやほし迎ヘ
二星うらむ隣のむすめ年十五
雨 後
鵲(かささぎ)や石をおもしの橋もあり
はしとなる烏はいづれ夕がらす
露橋やまつとは宇治の星姫も
かさゝぎや丸太のうへに天の川
新 居
塀梢かけてかよへや銀河
あまの川けふのさらしや一しぼり
弄化生
あひろの子孚(かえ)るといなや天の川
樽買がひとつ流すやあまの河
大切の夜は明けにけり天の川
素堂が母七十七歳の賀 題 秋七草
星の夜よ花火紐とく藤ばかま
妻星よあふに一くせある女か
けふ星の賀にあふ花や女郎花
葛花や角豆も星の玉かづら
明星や額に落ちる鞠(まり)ぼくろ
二挺立帰棹
畳をやくまくらつれなし星の露
女わらべの心ばへして籠に
露かひ侍るを七夕の手向草にせしかば
露まつや味噌こしふせて蟋蟀
七夕盡しなどいふ草紙
行く水に倣かくよりも鴛に傘
三遷のをしへに貰ひて七つになりける姪を
寺へのぼせたれば二日ありて七夕に歌を感じ奉りて
あさがほは仙洞様をいのちかな
朝顔にしをれし人や鬢帽子
あさ顔やとれぎはに咲く猪口の物
朝顔に立ちかへれとや水のもの
あさがほやよし見む人は竹格子
すゝきを書けるかけ物の讃
朝顔や穂に出るまで這ひあがる
蕣(あさがお)にきのふの瓜の二葉かな
あさ顔にいつ宿出し御使
殊に晴れて雷朝にいさぎよし
あさがほの日陰まだあり中老女
墓蕣といふ題を
あさがほに花なき年の夕かな
道心の妻しをれて恨む槿垣
市 隅
西側に燈籠なかれや三日の月
美女美男燈籠にてらす迷ひかな
増上寺晩景
馬老ぬ燈籠使の道しるべ
見る人もまり燈籠に廻りけり
遊山火を蘆の葉わけやたま迎
かへらずにかのなき魂の夕ベかな
たらちねに借金乞はなかりけり
右二句文有略
魂まつり門の乞食の親とはむ
棚経よみに参られし僧の袖よりおじねりを
落しけるかの授記品の有無價宝珠と説せ給ふ心かおもひて
衣な心賤ともいざやたままつり
棚経やこのあかつきのあかい水
棚経や聲のたかきは弟子坊主
送り火や定家のけぶり十文字
淵明が隣あつめや生身たま
生霊(いきみたま)酒の下らぬ親父かな
侍 坐
さし鯖も廣間に羽をかはしけり
文月をかねて刺鯖(さば)を獵領し
世の人はいはす草とすと
鯖切のかくてもへけり大赦迄
親も子もきよき心や蓮うり
阿羅尼品
銀を罪のはかりや墓参り
分郊原
みぞはぎや分限にみゆら骸髏
小娘の生ひさきし心しかけ踊
一長屋錠をおろしてをどり哉
青山邊にて
躍子を馬でいづくへ星は北
誦召して番の太郎に酒れうべけむ
伊勢の鬼見うしなひたる踊かな
千之と黄檗にあそぶ
盆前をのがれし山の二人かな
玉川の水筋かれたるとし
水汲の曉起やすまふぶれ
投げられて坊主なりけり辻角力
よき衣の殊にいやしや相撲とり
ト石やしとどにぬれて辻ずまふ
上手ほど名も優美なり角力取
相撲気を髪月代(さかやき)のゆふべかな
紙のため女もうらや角力札
壹両が花火まもなきひかり裁
扇的花火紅てねろ扈従かな
小屋涼し花火の筒のわるゝ音
鵜さばきも逆櫓もやるや花火賣
稲妻やきのふは東けふは西
齊院の此の戸さしけむ露なれや
船ばりをまくらの露や閨の外
殊に晴れて雷朝顔にいさぎよし
周信が瓢の畫に
しら露も一升入りの恵みかな
石蔵寺對僧
手に掲げし茶瓶やさめて苔の露
露の間や浅茅が原へ客草履
霧汐烟行くすゑかけて須磨の浦
宇治山水
川霧や茶立ぶくさののし加減
中の郷にて
幸清が霧のまがきやむかし松
遠里小野の忠守にまかりて
霧雨は尾花がものよ朝ぼらけ
あさぎりに一の鳥居や波の音
宵闇や霧のけしきに鳴海がた
笠取れよ富士の霧笠しぐれ笠
朝ぎりや空飛ぶ夢を不二颪
彌陀のりさうをかうむらずばとこそ
たのしみにこれらが結縁は
夏の内に杓子をかぶる鼠かな
杓子のうせけるをとぶらひけるなり
蕾ともみえず露あり庭の萩
ことば書 略
萩もがな菩薩にて見し上童
萩な苅りそ西瓜に枕借す男
文はこゝ略
はぎの露絵貝にくすり哉
切悠亭にて
日盛を御傘と申せ萩に汗
曉松亭
獅子舞の胸分にすな庭の萩
ねだり込は誰の内儀ぞ萩に鹿
仙石玉芙公御加番に餞別
萩すりや傘すかすむかし鞍
専吟庵
萩すゝきむすび分けばやササ?
二間茶屋にて
白馬の足髪吹きとる薄かな
召すことになれし子方や花すゝき
在原寺にて
僧ワキのしづかにむかふ芒かな
井筒を略したる畫に
いそのかみ竹輪にむすぶ薄かな
角文字や伊勢の野飼の花すゝき
ぜにかけ松
蛛のいや薄をかけて小松原
二見にて
岩のうへに神風寒しはな芒
水間沾徳 餞別
點せがむ人の宿かれ花すゝき
牛にのる嫁御落すな女郎花
遍昭の讃
僧正よ鞍がかへつて女郎花
一夜前栽といふ事を
御城へは何に成るやらをみなへし
短冊かゝせらるゝ迷惑さ
葛の葉のあかい色紙をうらみかな
悲しとや見猿のためのまんじゆさげ
茶筌もて蠅の掃除や白芙蓉蔘
あまがへる芭蕉にのりてそよぎけり
ばせを葉に雀も角をかくし鳧
醤油くむ小屋の堺や蓼のはな
花もうし佐野のわかりの蓼屋敷
酢を乞ふあり隣の蓼のはなざかり
鶏頭や松にならひの清閑寺
たばこ干す山田の畔の夕日かな
取る日よりかけてながむる烟草かな
夢となりし骸骨をどる荻の聲
奴山昆のながれけり
西瓜くふ奴の髭のながれけり
西瓜喰ふ跡は安達が原なれや
山城がまだ鑄ぬ形や鈷西瓜
芋植えて雨を聞く風のやどり哉
やま畑の芋ほるあとに伏猪かな
松倉嵐蘭一子孤愁をあはれむ
芋の子もばせをの秋をちから哉
浅茅が原
仇し野や焼きもろこしの骨ばかり
吉田氏
唐秬(からきび)も糸をたれたる手向かな
唐秬を流るゝ沓や水見舞
蘆の穂や蟹をやとひて折りもせむ
妓子萬三郎を悼て
折釘にかづらやのこる秋のせみ
鬼灯のからを見つゝや蝉のから
工齊をいたむ
其人鼾(いびき)さへなしあきの蝉
亡父葬送場にて
一鍬に蝉も木の葉も脱(もぬけ)かな
頬摺やおもはぬ人にむしやまで
元結のねるまはかなし虫の聲
柴雫と伊勢をかたりて
故郷もとなり長屋か虫のこゑ
松むしに狐を見れば友もなし
すむ月や髭をれてたるきりぎりす
まくり手に松虫さがす浅茅かな
猫にくはれしを蛼(いとど)の妻はすだくらむ
すずむしや松明さきへ荷はせて
蜉蝣やくるひしづまる三日の月
山の瑞をやんまかへすや破れ笠
遇さびて盃やく野の草もみぢ
酒買にゆくか雨夜の雁孤つ
一しほの妻もあるらむ天つ雁
翁にともなはれて来る人の珍らしきに
おちつきに荷兮が文や天津雁
題湯豆腐
あとの湯か雁を濁さぬ豆腐哉
隣家に元結に落つる鴈
雁の腹見送る雲やふねの上
しら雪に聲の遠さよ數は雁
冠里公御わたまし祝い奉りて
初鴈や臺は場はれて百足持
品川も連にめずらし鴈のこゑ
自 畫
片足はやつしゟ也小田の雁
詞書を略す
陣中の飛脚もなくや鴈の聲
鴫(しぎ)たちてさびしきものを鴫をらば
泥亀の鴫に這ひよろゆふべかな
順検に問はずがたりや百舌の聲
.むすめ喰いぞめに
鵙(もず)啼くや赤子の頬を吸ふときに
感微和尚に對す
そば打つや鶉衣に玉だすき
錢秋航
諸鶉駒はまかせぬ脇目かな
平家の衰を語る心に
かへり来て福原さびし鶉たつ
鵂(みみずく)の頭巾は人に縫はせけり
木兎や百會にはかり巾りもの
仁兵衛の片山かけやわらひ菟
秋葉禅定下山
かし烏に杖を授けたるふもと哉
山雀の戸にも窓にもなら柏
春澄にとへ稲負烏といへるあり
小烏盡長歌
四十から小夜の中山五十から
中村少長夫婦連にて上京せし時
山鳥も人をうらやむ旅寝かな
つばくらもお寺のつゝみかへりうて
鹿の一聲といふ小歌のさんに
更けかたを誰か御意得て鹿のこ八
さをじかや細分こゑより此ながれ
木辻にて
門だちの袂くはへる男鹿かな
小原女や紅菓でたゞく鹿の尻
合羽着て鹿にすがるや秋葉道
暮の山遠きを牡鹿のすがた哉
白画賛
さを鹿やばせをに夢の待ちあはせ
苅りのけよそれを繩なへ小田の鮭
鍬(かじか)此夕愁人は猿の聲を釣る
さちほこに箭をかます心鱸(すずき)かな
遠州二股川を河ふねにて下り侍るに
推河脇といふ所逆水大切所を超えて
打つ櫂に鱸(すずき)はねたり淵の鋳いろ
小鰯や一口茄子藤の門
ほのぼのと朝飯匂ふ根釣りかな
高雄にて
此秋暮れ文覚覚我をころせかし
岡釣のうしりろ姿や秋のくれ
ない山の不二竝ぶや秋の暮
木兎のひとり笑や秋のくれ
あきのくれ祖父(オホジ)のふぐり見てのみぞ
青海や浅黄になりてあきの暮
寂 蓮
和歌の骨(こつ)槇たつ山のゆふべ哉
あきの空尾上の杉をはなれたり
鑑素堂秋池
風秋の荷葉二扇をくゝるなり
背面の達摩を畫て
武帝には留守とこたへよ秋の風
秋山や駒もゆるがぬ鞍のうへ
相模川洪水落水接天
狼の浮木にのるやあきの水
あきの心法師は俗の寝覚め哉
野田玉川に西行上人の堀井あるよし
濁る井を名にな語りそ秋のあめ
工齊三回忌に智海師をともなひて
三人の聲にこたへよ秋のこえ
子々等には猫もかまはず夜寒裁
酒もる詞を切題にして問を
あびせばや夜寒さこその空寝入
悼朝叟
此人に二百十日はあれずして
春目法楽
今幾日あきの夜結を春日やま
砧の待ち妻吼ゆ心犬あはれ也
芭蕉廬の夜
墨染を鉦鼓に隣るきぬた哉
點取におこせたる懐紙のおくに
二巻に目をさましたる砧かな
みの路に人て
きぬたきかむ孫六屋敷志津屋敷
ある長者のもとにて
中の間に寝ぬ子幾人さよぎぬた
和水新宅
さい槌の昔を仕舞へば砧かな
銭青流難波
蘆刈のうらを喰せてきぬた哉
雪の下にて
きぬたうつ宿の庭子や荼の給仕
奥好きの殿やうつらむ唐ごころ
駒曳や岩ふみたてゝもと筥根
こまひきの題にて
甲斐駒や江戸へ/\と柿葡萄
眺めやる凾谷やけふ驢馬(ろば)迎
盃と椀を畳て
中桐の黒いも御意に三日の月
紀川いくせもあり
たつか弓矢に行く水や三日の月
池水も七分にあり胃の月
雲井にかけれの査に
傘持は月に後ろすがた也
小くらがり故郷の月や明石潟
水想観の繪に
我書てよめぬものあり水の月
夢かとよ時宗起きて月の色
熱田にて
更々と禰宜の鼾や杉の月
月出て座頭かたむく小舟かな
宿とりて束をとぶやくれの月
維摩の讃
山のはは大衆なりけり床の月
張良国
讐中の兵いでよ千々の月
布袋の月を掬ろ繪に
有てなき水の月とや爪はじき
閉倚橋
猿這ひに我とらんとや橋のつき
寺の月葡萄膾は葉にもらむ
小野川検校に錢
入る月や琵琶を帒にをさめけむ
聲かれて猿の歯白し峯の月
契不逢戀
閨の火にひかる座頭や袖のつき
病中制禁好
橋桁の串海鼠(くしこ)はづすや月の友
遊 子
いねぶるな松のあらしも江戸の月
鴈啼くや弓弛をみれば暮の月
玉津島帰望
わかはみつ更井の月を夜道かな
燃杭に火のつきやすき月夜裁
包丁の片袖くらし月の雲
月のさそふ詩の舟加山市か川武か
長柄文臺之記
もろ月も打かしの橋に朽目かな
仲麿画賛
月影や匹を帆にまく三笠やま
月をかたれ越路の小者木曾の下女
月になりぬ波に米守る高瀬歌
満 百
ありあけの月になりけり母の影
有明や時夜ながらの君と伯父
所 思
いざよひも公づくしや十四日
待ち宵や明日は二見へ道者われ
木母寺に歌の會ありけふの月
烏帽子屋はゑほしきて見よけふの月
雨
駒とめて釜買ひとりけふの月
川すぢの關屋はいくつけふの月
納屋に何雨吹きはれてけふの月
含秀亭
富士に入る日を空蝉やけふの月
琵琶行をよむ
北ハ角我句猿
十五から酒をのみ出てけふの月
所思 京にて
いはぬ事三つ心に名ありけふの月
汐汲をかゝヘて見ばやけふの月
鯛は花は江戸に生れてけふの月
ましらふに飲まざるもありけふの月
文 略
信濃にも老子はありけふの月
酒くさき鼓うちけり今日のつき
(註 其角の弟信濃にあり、老父の看病の為に江戸に来た折の句)
湯妻舟の檜に
おもふ事なげぶしは誰月見舟
得蟹無酒
蟹を畫て座敷這はする月見哉
人音や月見と明かすふしみ草
風 雨
雷に楫はばひきそ月見船
平家落ちの屏風に
宿無しのとられて行きし月見哉
てっぺんに丸盆おいて月見かな
一休の狂歌自畫を寫して
律師沙羅相剃りをして月見かな
上交語上
平家なり太平記には月も見ず
娘には丸き柱を月見かな
僧と咄あかして
少便に起きては月を見ざり鳧
名月や畳の上に松のかげ
名月やこゝに住吉の佃島
名月や居酒呑まむと頬かぶり
名月や竹を定むるむら雀
名月や金くらひ子の雨の友
名月や輝くまゝに袖几帳
三日糧を包むといふに
名月や十歩に錢を握りけり
柴ふるひ荷へる人に
名月や皺ふるびとの心世話
名月や人を抱く手を膝がしら
鐘聲客船
名月や御堂の太鼓かねて聞く
名月や今年も筆にへらず口
新月や何時を昔の男山
閏十五夜 前の十五夜江戸雨降りければ
御番衆は照る月を見て駿河舞
待乳山
今宵満てり棹の蒲団にのる烏
松前の君に申しおくろ
こさ吹かば大根でけさむ秋の月
宗囚がまづ月をうるの句をとりて
芋は/\は凡そ僧都の二百貫
君が云いけむと云すてゝ出たるあした
物かはと青豆うりが袖のつき
いざよひや龍眼肉のからごろも
十六宿は儒者と名乗りし姿なり
あたかの童に扁とらする畫に
關守の心ゆるすや栗かます
山川やこずゑに毬はありながら
いが栗に袖なき猿のおもひ哉
栗賣の玄闘へかゝる閑居かな
あふひの上の後花子喜太郎に
三栗のうはなりうちや角被(つのかずき)
生栗を握りつめたる山路かな
如是果の心を
二子山双子ひろはむ栗のから
泊瀬女に柿のしぶさを忍びけり
嵯峨遊吟
清瀧やしぶ柿さはす我心
霧香月灯を憐む
古寺や澁紙ふまむところだに
駿府御番に旅立給へる人に
たがうへに賤機ごろも木澁桶
御所柿やわが歯にきゆるけさの霜
問ひ来かし椎いる里の松葉より
月日の栗鼠葡萄かつらの甘露あり
千籠の柚の葉にのりし匂ひかな
南天やおのが實ほどの山の奥
南天の實をつゝめとや雁の聾
南天や秋をかまへる小倉山
子なきことをな嘆く夫婦に
おもふ葉は思ふ葉にそへ秋菓
種竹三竿
竹のこゑ許由がひさごまだ青し
茸(くさびら)や御幸のあとの眉つくり
茸狩や山のあなたに虚勞病
たけがりや鼻の先なる歌がるた
松吟尾の庭に嵯峨野の土を掘り移して
薄に松などそのまゝにもてなす中にしめじ初茸あり
行かずして都の土や木の子狩
松の香は花と咲くなり桜蕈
鳳来寺の山の邊を過ぎる時
冷泉の珠数につなげる茸かな
松の葉にその火先づたけ蒜醤油
川芎の香にながるゝや谷の水
稲葉見に女待らそへすみだ川
いねこくや鷇(ひよこ)をにぎら藁の中
敷臺に稲干す窓は手織かな
いつしかに稲を干す瀬や大井川
稲塚の戸塚につづく田守かな
にはとりの卵うみすてし落穂哉
早稲酒や稲荷よび出す姥がもと
足あぶる亭主にとへば新酒かな
太郎二郎の貝をとりて
かけ出の貝にもてなす新酒裁
横几追悼
一鍬を手向にとるや新麴(こうじ)
よこ雲やはなれ離れの蕎麦畠
種茄子北斗をねらふひかり哉
茶のけしき咄しむころや新豆腐
生綿とる雨雲たちぬ生駒山
あほうとは鹿もみるらむ鳴子曳
七十の腰もそらすか鳴子引
雛の下葉つみけり宿のきく
いきぬけの庭や鐙摺菊の花
手のうちのひよここぼれて菊の宿
駕にぬれて山肺の菊を三島かな
しほらしき道具何ある菊の宿
荷兮が従者短冊ほしがるに
土器の手ぎは見せばやけふの菊
けふの菊小僧で知ろやさらさ好
きくの香や瓶よりあまろ水に迄
白雞の碁石になりぬ菊の露
雨重し地に這ふ菊をまづ折らむ
こは誰に雨ののこりの袋ぎく
畫 菊
きく白く莟(つぼみ)は後にかゝれけり
素堂残菊の會に
此きくに十日の酒の亭主あり
菜 苑
菊をきる跡まばらにもなかり鳧
病 起 千山より菊を得て
大母衣のうしろを押すや瓶の菊
三島にて重陽
門酒や馬星のわきの菊を折る
宮川のほとりに酒送らせられて
重箱に花なきときの野菊かな
みととせの桃の名におふとよみけるに
いかで我七百の師走菊にへむ
竹苑のやごとなき種を移して
出世者一もとゆかし作り花
時服蔵菊に菊の笆(まがき)かな
千々のきく歌人の名字しのばしく
袖の浦といふ貝づくしに
白菊を貝の實にせむ袖のうら
笠きたる西行の圖に
菊を着てわらぢさながら芳しや
女の子をねがひてまうけたる人に
かに屎にうっらふ花の妹かな
観世殿十日の菊をかねてより
宸宴の残りもがもな菊鱠
未曉唫
鐘つきよ階子に立つて見る菊は
翁さび菊の交(つる)に任せたり
籠鳥のゆるすにうとし園の菊
千家の騒人百菊の餘情
菊うりや菊に詩人の質(かたぎ)をうる
柚の色や起きあがりたる菊の露
きくの酒葡萄のからにしたみけり
あほうとは鹿もみるらむ鳴子曳
七十の腰もそらすか鳴子引
鷄の下葉つみけり宿のきく
いきぬけの庭や鐙摺菊の花
手のうちの雛こぼれて菊の露
駕にぬれて山路の菊を三島かな
しほらしき道具何ある菊の宿
荷兮が従者短冊欲しがるに
土器の手ぎは見せばやけふの菊
けふの菊小僧で知るやさらさ好
きくの香や瓶よりあまる水に迄
白雞の碁石になりぬ菊の露
雨重し地に這ふ菊をまづ折らむ
こは誰に雨ののこりの袋ぎく
畫 菊
きく白く莟は後にかゝれけり
素堂残菊の會に
此きくに十目の酒の亭主あり
菜 苑
菊をきる跡まばらにもなかり鳧(けり)
病 起 千山(紀伊国屋文左衛門)より菊を得て
大母衣のうしろを押すや瓶の菊
三島にて重陽
門酒や馬星のわきの菊を析る
宮川のほとりに酒送らせられて
重箱に花なきときの野菊かな
みちとせの桃の名におふとよみけるに
いかで我七百の師走菊にへむ
竹苑のやごとなきたねをうつして
出世者の一もとゆかし作り菊
時服蔵菊にはきくの笆(まがき)かな
千々のきく歌人の名字しのばしく
袖の浦といふ貝づくしに
白菊を貝の實にせむ袖のうら
笠きたる西行の圖に
菊を着てわらぢさながら芳しや
内藤風虎公十三回忌
菊の香やたぶさよごれぬ箙(えびら)さし
九月九日偏を拾ひける人に
きくや名も星に輝く鐙あふぎ
菜花餞別
友成は菊の使いに播磨まで
手入かなよしある賤がむかし菊
産寧坂くだりて
菊紅葉鳥邊野としもなかり鳧(けり)
菊もみぢ水やはじけて流るめり
水鼻にくさめなりけり菊椛(もみじ)
母と月見けるに
寝られねばこ雨元政の十三夜
うれしさや江尻で三穂の十三夜
しかぞ住む茶師は旅寝の十三夜
薬研では粉炊(こがし)おろすか後の月
後の月上の太子の雨夜かな
のちの月躍りかけたり日傘
白鷺の蓑ぬぐやうに後の月
いづれも古郷をかたるに
後の月松やさながら江戸の庭
はらゝ子を千々にくだくや後の月
家こぼつ木立も寒しのちの月
樽むしの身を栗に嗚く今宵かな
住の江や夜芝居過ぎて浦の月
白玉に芋を交(かへ)ばや瀧のつき
観匿殿十日の菊をかねてより
宸宴の残りもがもな菊檜
やよや月夜は物なき木挽町
漬け蓼の穂に出る月を名残かな
笈の菓子古郷さむき月見哉
御遷宮の良材ども拝奉りて
大工達の久しき顔や神の秋
御齊詣で奉りて
御穂をとりて髪ある真似のかざし哉
内宮法體の遠拝なるに
身の秋や赤子も参る神路山
外 宮
日は晴れて古殿は霧の鏡かな
太々や小判並べて菊の花
雲津川にて
花薄祭主の神輿送りけり
二月堂に参りけるに
七日断食の僧堂のかたはらに行ふ聲を聞きて
日の目見ぬ紙帳もてらす栬(もみじ)かな
かつちりて翠簾に掃(はか)るゝ紅葉哉
戸越山庄
むら紅葉荏(え)の實をはたく匂かな
谷へつけ鹿のまたきの紅葉がり
三條橋上
片腕はみやこにのこす紅葉かな
紅葉にはたが教へける酒のかん
山姫の染がら流すもみぢかな
筥 根
杉のうへに馬ぞ見え来る村紅葉
もみぢ見る公家の子遠か初瀬山
道役に紅葉はくなり佐夜の山
もみぢして朝熊の柘といはれけり
大 山
腰押やかゝる岩根の下もみぢ
山ふさぐこなた面や初もみぢ
新殿六開港
水つかぬ塵のはじめや下紅葉
気のつまろ世やさだまりで岩に蔦
木葉の食蘿を狄(えびす)秋のにしき哉
この風情狂言にせよ蔦のみち
うつの山の檜に
笈の角梢の蔦にしられけり
鶴が岡古樹のもとにて
ありし代の供奉の扇やちる銀杏
道弘福寺
木犀や六尺四人唐めかす
うら枯や馬も餅くふ宇津の山
餞(はなむけ)少長上京
うらがれに花の袂や女ぼれ
白扇倒懸東海天といへる句をつねに此頂に対して
手に握りたる心ちせらる
白雲の西に行くへや普賢不二
洞房の茶屋孚兄生前笛を好みけるが失せたるを悼て
とぶらへや笛のためには塗足履
見し月や大方晴れて九月盡
吉野山ぶみせし頃
頼政の小唄は悲し九月盡
怨閨離
傾城の小歌は悲し九月盡
雁鹿蟲とばかり思うて暮けり暮
九月盡
寝ぬ夜松風身のうき秋を師走哉
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