田や麥や中にも夏のほとゝぎす(雪まろげ)
『芭蕉全発句』下巻 山本健吉著 昭和49年刊 河出書房新社
元禄二年
元禄二年 己巳(一六八九) 四六歳
四月七日、黒羽浄法寺亭に滞在中の作。『曾良書留』の前文に、
「しら川の闘やいづことおもふにも、まず秋風の心にうごきて、苗みどりに麥あからみて、粒々にからきめをする賤がしわざもめにちかく、すべて春秋のあはれ、月雪のながめより、この時はやゝ卯月のはじめになん侍れば、百景一ツをだに見ことあたはず。ただ聲をのみて、黙して筆を捨るのみなりけらし。」
この前文によれば、まもなく越えるはずの白河の闘を心に持って作った句のようだ。白河の関で能因法師が「秋風で吹く」と詠んだのに、今は四月で苗代には稲が縁に、畑には妻が赤らんで秋風の吹く白河の景色とは全く違っている。秋のあわれを今は見ることもないが、夏の景物としてほととぎすが啼き過ぎるのがせめてもの心に沁みる景色である。
まずこのような心持をこめた句であろうか。表現未熟で、この句だけでは充分に意味が汲み取れない。
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