あの頃はまだ毎日が夢のように楽しくて
こんな日が来るなんて夢にも思わなかった
あなたがいない毎日なんて・・・生きていても仕方がなく思える
大きな胸に抱かれて眺めているだけで幸せだった海へも長い間行ってない
海で真っ黒に日焼けして
“女の子がこんなに日焼けしちゃだめ、いつか後悔するわよ・・・”
と、何度か母にしかられた
夏は大好きだったのに
あの夏の日から・・・あの出来事があってから私は夏がキライだ
「ねぇ~真理子何ぼんやりしてるの?さっきの話・・・聞かせてよ 何があったの?」
千秋の声にハッと我に返った
「あ~ごめん、なんだっけ?」
「いやぁねぇ~さっきのお店、もう嫌だって言ってたじゃない」
「あ~そうだっけ? 忘れたわ・・・」
「ううんっ!もうっ! 真理子ったら!あなたがあの店は嫌だって言ったからここへ来たのよ
おいしいジェラート食べ損ねちゃったじゃない~」
「ああ・・・ごめんごめん・・・えっとね、なんだっけ?
ああそうそう・・・今年はあなた、リョースケのお参り行けないって言ってたわよね?
いいわよ、妊婦が行くのはつらいでしょう?暑いし私一人で大丈夫よ」
「違うったら・・・あーそうじゃなくて違うんじゃないけど・・もういいわよぉっ!」
「何怒っているの? おかしな人ね~?」
千秋に話そうかどうしようかと思っている間に、どうでもいいことだし面倒くさくなっていた。
「不倫している男の女房が他の男と会っていて、その場に出くわした」なんて・・・
しあわせ絶頂の友人に話すべきことでもないだろう
そもそも千秋は、心配症だ。
ずい分気も使わせているはずだ
口には出さないがあの日からずっともう何年も私のことを気にしてくれている
また所帯持ちと逢瀬を重ねているだなんて・・・
前の時も泣いて“そんな人とは別れなきゃだめだ”と懇願された
妊婦となった今、あまり刺激を与えるのは胎教によくないだろう
それでも可愛い膨れっ面を見ていると可笑しくなって来て
「あのね、さっきの店でねイチロおにいちゃまに会ったのよナイショの相手と一緒だった
だから、そっとしてあげようと思って行かないって言ったのよ」
と、大ウソをついた
千秋は、目を輝かせ まるで子供のようにはしゃいだ様子で
「やるわねっ! 総一郎さん!“こっそり写真でも撮ってあげましょうか?”」
なんて・・・悪だくみを考える子供の顔になった