勝又壽良
2018年11月15日
文在寅氏は政治家向きでない
大統領府に元学生運動家終結
労働貴族を生んだ「主体思想」
最賃大幅引き上げはどうなる
反企業主義が韓国の落日招く
北朝鮮支援で国内景気を犠牲
韓国第19代大統領の文在寅(ムン・ジェイン)氏は、1953年1月24日生まれの65歳です。
両親が、朝鮮戦争の際に北朝鮮から韓国へ逃れてきました。先祖は北朝鮮の地に眠っています。
こういう経歴が、文氏の政治行動に大きく影響を与えていると思います。南北統一が、最大の政治目標になっていることは疑いないでしょう。
文氏は、社会派弁護士として活躍しました。
絶えず、社会の底辺で陽の当らない人たちの立場で、弱者を支援する弁護活動をしてきました。
このことが示すように、「義憤」という感情が文氏を支配してきたように感じるのです。
これが、大統領になって「最低賃金の大幅引き上げ」という政策として登場した背景でしょう。
文在寅氏は政治家向きでない
以上の二点が、文大統領の政治行動のバックボーンになっていると見て間違いないでしょう。
人間誰しも、身近な経験から社会全体の動きを眺めています。
この狭い限られた経験から、自らを大きく解き放つには、一段の努力が必要です。
残念ながら、文大統領にはそれが感じられないのです。
北朝鮮問題について言えば、祖先墳墓の地だから北朝鮮が特別の存在という前に、北朝鮮の核保有は東アジアの安全保障にどのような悪影響を与えるか。
核抜きを実現するには、一時的な「同胞意識」に封印して、冷酷に対応する政治家としての「非情」さが求められるのです。
できるだけ高い最低賃金引き上げも、その必要性を否定する人は誰もいません。
問題は、生産性上昇に見合った最賃引上であるべきです。
労働組合は、自らの利益優先でいくら大幅な引上げ要求を突き付けても、それを「経済合理性」という視点から拒否する「非情」さが必要なのです。
文氏には、そういう勇気がなく「情」に流されてしまいました。
文氏は、もともと政治家志望でありませんでした。「涙もろい」が、氏のトレードマークで人情家です。
悲しい映画を見ると、映画が終わっても泣き続け、席を立てなかったというエピソードが報じられています。
盧武鉉大統領(当時)に請われ、大統領府に秘書官として入っても、「政治は性格に向かない」と辞任。ヒマラヤへトレッキングに出かけるという「純粋」な性格です。
大統領府に元学生運動家終結
この文氏が、冷酷さが求められる政治判断で、誤りなきを期せられるのか。
性格的に見て大きな疑問符がつくのです。
文大統領の側近は、「86世代」と言われる層です。
1960年代生まれ1980年代に学生時代を送り、光州事件(1980年)の騒乱事件で火焔瓶闘争を闘った「元学生運動家」です。
文氏から見れば、7歳以上離れた「後輩」に当ります。彼らが、側近として大統領府の秘書官を務め、政権を動かしています。
大統領府の秘書官の6割が「86世代」と指摘されています。
「86世代」は、北朝鮮・金日成の「主体思想」(チュチェ思想)に深く傾倒している人たちです。
この思想は、「自国の革命と建設に対して主人らしい態度を取る」考え方とされています。
そのためには、「金日成と金正日の指導を仰ぐ」という個人崇拝のオチがつくのですが、民族主義へつながっています。
チュチェ思想は、韓国の労働組合を中心とする進歩派の「身内の論理」として、大きな影響力を持っています。
韓国では、公然と北朝鮮の「主体思想」を支持することは、利敵行為として禁じられています。
「禁教」という魅力も手伝い、革新派政治家全体の支持を得ていると見ても間違いないでしょう。
韓国与党「共に民主党」議員が、文大統領訪朝で随行しましたが、北の金正恩氏らに媚びへつらい「忠誠」を誓うような発言をして問題になりました。
それは、次のような発言でした。南北関係悪化は、すべて韓国の歴代保守政権が行なった妨害行為である。
「共に民主党」は、永久に保守党に政権を渡さない努力をする、とまでご機嫌取りの発言をしたのです。
これは、「主体思想」にどっぷり浸かってきたから、初めて言える言葉でしょう。民主主義国の国会議員が、独裁国家の首領へ誓約書を出すような醜態です。
韓国で民族主義が根強いのは、南北の分断の影響があります。第二次世界大戦で朝鮮半島は南北に分断されました。
韓国の革新派は、この分断の責任は第一に日本の日韓併合。第二は、米国にあると見ています。
朝鮮戦争で北朝鮮が韓国を攻め込み、あと一歩で統一可能な所までゆきました。
ここで、マッカーサーによる仁川の奇襲作戦が敢行され、北朝鮮軍を撃退し退勢を挽回したのです。
仁川にはマッカーサーの銅像があります。韓国革新派は、マッカーサーを恨んでおり、今も銅像に火を付けて嫌がらせしています。
韓国の反日は根が深いのです。民族主義は革新派に共通の特色です。
保守派は、日本との接近を図りますが、革新派は真逆です。
革新派政権が登場する限り、必ず「過去」を蒸し返すのが宿命でしょう。このことから、安定した日韓関係は生まれないと見るべきです。
労働貴族を生んだ「主体思想」
韓国革新派の本質は、北の「主体思想」に共鳴する民族主義であるこが分ります。民族主義は古代に遡れば、氏族制と強いかかわりがあります。
韓国は現在でも、地域間の対立が激しいことで知られています。氏族制意識が牢固として残っているからです。
朝鮮半島の歴史では、「三国時代」(5世紀~7世紀)の高句麗・百済・新羅の対立抗争が有名です。
この時代の氏族制は、他の氏族に対して協力するよりも、敵対意識で臨むことが多いのです。
中国では最近まで「械闘」(かいとう)といって、氏族間、間の揉めごとで暴力沙汰が頻発していました。
儒教社会の韓国でもこういう、氏族間における不寛容な慣習が何百年も続いてきたと見るべきでしょう。現在、民族主義となって引き継がれても不思議ではありません。
韓国は、近代化されたと言っても表面的なこと。社会の底流は、氏族意識が形を変えて生き続けているのです。
すべては、「敵か」「味方か」で区別されます。両者をつなぐ共通の価値観が存在しません。
だから、妥協することがなく互いに憎しみあって戦います。
大統領が交代するたびに、過去の政権の「あら探し」を始めて刑事事件化していきます。
過去二代の保守党大統領が刑務所につながれる事態は、「復讐」という色彩もあります。近代政治では、珍しい現象です。
以上のような氏族意識の流れから見ると、韓国では企業と国民が次のような関係となります。
大企業が、庶民の敵として位置づけられます。
企業が存在するから雇用が生まれる。そういう認識にはないのです。
企業は労働者を搾取するもの。古典的な労使関係論に立っています。
労働者が、企業から搾取されないためにどうするのか。ここに登場するのが、先の「主体思想」(チュチェ思想)です。
「主体思想」では、「自国の革命と建設に対して主人らしい態度を取る」となっています。
企業において労働者は、「主人らしい態度を取る」ことが原則になるのでしょう。
労働条件改善や賃上げ闘争では、「絶対」と言ってよいほど妥協しません。なぜなら、労働者は「企業の主人」であるからです。
韓国の大企業労組は、「労働貴族」とも揶揄されるほどです。
韓国の労働組織率は約10%です。全労働者の10%しか労働組合に加入していないという意味です。残り90%は、未組織労働者です。
その一握りの組織労働者が、企業の主人として振る舞い、労働貴族になっているのです。
最賃大幅引き上げはどうなる
文政権は、この「労働貴族」の要望にそって、今年の最低賃金を16.4%引き上げました。
来年はさらに10.9%引き上げます。
この結果、今年と来年の2年間で、最低賃金は約30%引き上げられます。
これだけ、大幅な最低賃金引き上げに応じられる中小・零細の企業は限られています。
韓国の最低賃金法では、引き上げない企業主が告発される制度です。
法に触れないためには、従業員を解雇するほかありません。現在、失業者が急増し就業者が増えない背景には、最低賃金の大幅引き上げが壁になっています。
文大統領は、最低賃金大幅引上げが雇用悪化をもたらしているという認識はないのでしょうか。
文氏は、「雇用政権」という看板を掲げて就任しました。
大統領執務室には、景気データ関連パネルを設置したと記者団に公開したほどです。
月々の失業率悪化のデータを嫌になるほど見ているはずです。その原因がどこにあるのか。真の原因を突き止めず、大統領府政策室長の「虚言」を信じてきたようです。
前記の政策室長は、「前政権(朴槿惠政権)の誤った政策によって失業率が高まっている」と発言していました。
この室長は、11月に入って更迭されました。
文大統領は高失業率の原因が、最低賃金の大幅引き上げにあることを認めたわけありません。
さらに、最低賃金大幅引き上げによる経済成長を実現に向けて努力する、と発表しています。これでは、景気の落勢を強めるばかりで、見当違いも甚だしいと言わざるを得ません。
韓国統計庁の発表によると、昨年4~6月期が景気のピークでした。
そして、公式発表でないが、データ上では今年10月から不況局面へ転換したと見られています。
景気が、不況局面に入りながら、来年の最低賃金引き上げ率を予定通り10.9%にするのでしょうか。
当然、その是非が問われるべきです。現状は、「所得主導経済成長」を謳っていますので、最賃引き上幅を引き下げないでしょう。傷を深めるばかりです。
「所得主導経済成長」とは、所得を引き上げることで消費を増やして景気を押上げるという考え方です。
この言葉だけを聞いていると、「なるほど」という気持ちになりますが、生産性を引き上げるという前段を無視しています。
生産性を上回る賃上げはあり得ません。生産性を上げて、賃金を引き上げる。これが、オーソドックスな考え方です。文政権はこれを拒否しています。なぜでしょうか。
前述の「反企業意識」が強いからです。
企業は規制を緩和して自由に経営させると、利益を労働者に分配せず、内部留保に回すだけであると信じているのです。
だから、大企業の法人税率を25%に引き上げるという世界の流れと逆行した決定をしたのです。この増収分を労働者に配分するという触れ込みでした。だが、法人税率の引上げは設備投資へ悪影響を与え、雇用増加を減少に向かわせました。
反企業主義が韓国の落日招く
ここで、文政権は二つの相反する政策決定をしました。
1.所得主導経済成長=最低賃金大幅引き上げ=労働者保護
2.法人税率引上げ=反企業意識=大企業抑制
労働者を保護して、大企業に足かせをはめる。この極端な政策思想の淵源を求めていくと、先に取り上げた「氏族意識」にたどり着くように思えます。
「敵」「味方」をはっきりと分けて争うのです。
仲間は守るが、仲間以外に敵対する素朴な感情です。
「主体思想」も、人間(労働者)は主人であると規定しています。
「主人」がいれば、「従者」が存在するはずです。主体思想に基づけば、企業の「主人」は労働者。「従者」は経営者になります。
現代自動車では、労働組合が主導権を握っています。
機械の導入も労組の承認が必要です。この倒錯した関係において、現代自動車の経営は傾き続けています。
自動車企業にとって営業利益率の5%は、絶対に維持すべきラインです。ところが、今年上半期は3.8%で20年前の水準に逆戻りです。経営危機に向かっています。
文政権は、労働組合を守っても企業規制を緩和する期待は持てません。こうなると、韓国経済はどうなるのでしょうか。
すでに景気は下降局面です。来年の最低賃金引き上げは、すでに決定通りの10.9%で実施すれば、雇用状況はさらに悪化します。
それを糊塗すべく財政支出でカバーする。文政権は、大幅な財政赤字を出し続けます。
北朝鮮支援で国内景気を犠牲
もう一つ、財政赤字要因が加わって来ました。北朝鮮への支援です。
先に指摘した「氏族制」の残滓を抱える文政権は、北朝鮮は「仲間」と認めています。
韓国の企業は、仲間でなく「敵」の存在です。北朝鮮を仲間として扱うために、諸々の支援を検討中です。
宝くじの収益のうち、他の基金に配分される割合は現在35%です。
韓国与党は、これを40%に引き上げ、その一部を北朝鮮支援に振り向ける議案を国会へ提出しました。この宝くじで分配金が、約80~90億円も北朝鮮へ流れる仕組みができます。
また今年、韓国国内の道路や鉄道整備に使われる予算のうち、これまで使われず残ったか、残る見通しの予算が約1兆2000億円もあるそうです。
この使い残し予算も北朝鮮への支援に使われるという話です。
おそらく、最初から北朝鮮に振り向ける意図で、予算が編成されていたと思われます
。とすれば、完全に国民を欺いたことになると、朝鮮日報は批判しています。度の過ぎた北朝鮮支援姿勢の中に、文政権の北朝鮮に対する「仲間意識」が感じられます。
2018年11月15日
文在寅氏は政治家向きでない
大統領府に元学生運動家終結
労働貴族を生んだ「主体思想」
最賃大幅引き上げはどうなる
反企業主義が韓国の落日招く
北朝鮮支援で国内景気を犠牲
韓国第19代大統領の文在寅(ムン・ジェイン)氏は、1953年1月24日生まれの65歳です。
両親が、朝鮮戦争の際に北朝鮮から韓国へ逃れてきました。先祖は北朝鮮の地に眠っています。
こういう経歴が、文氏の政治行動に大きく影響を与えていると思います。南北統一が、最大の政治目標になっていることは疑いないでしょう。
文氏は、社会派弁護士として活躍しました。
絶えず、社会の底辺で陽の当らない人たちの立場で、弱者を支援する弁護活動をしてきました。
このことが示すように、「義憤」という感情が文氏を支配してきたように感じるのです。
これが、大統領になって「最低賃金の大幅引き上げ」という政策として登場した背景でしょう。
文在寅氏は政治家向きでない
以上の二点が、文大統領の政治行動のバックボーンになっていると見て間違いないでしょう。
人間誰しも、身近な経験から社会全体の動きを眺めています。
この狭い限られた経験から、自らを大きく解き放つには、一段の努力が必要です。
残念ながら、文大統領にはそれが感じられないのです。
北朝鮮問題について言えば、祖先墳墓の地だから北朝鮮が特別の存在という前に、北朝鮮の核保有は東アジアの安全保障にどのような悪影響を与えるか。
核抜きを実現するには、一時的な「同胞意識」に封印して、冷酷に対応する政治家としての「非情」さが求められるのです。
できるだけ高い最低賃金引き上げも、その必要性を否定する人は誰もいません。
問題は、生産性上昇に見合った最賃引上であるべきです。
労働組合は、自らの利益優先でいくら大幅な引上げ要求を突き付けても、それを「経済合理性」という視点から拒否する「非情」さが必要なのです。
文氏には、そういう勇気がなく「情」に流されてしまいました。
文氏は、もともと政治家志望でありませんでした。「涙もろい」が、氏のトレードマークで人情家です。
悲しい映画を見ると、映画が終わっても泣き続け、席を立てなかったというエピソードが報じられています。
盧武鉉大統領(当時)に請われ、大統領府に秘書官として入っても、「政治は性格に向かない」と辞任。ヒマラヤへトレッキングに出かけるという「純粋」な性格です。
大統領府に元学生運動家終結
この文氏が、冷酷さが求められる政治判断で、誤りなきを期せられるのか。
性格的に見て大きな疑問符がつくのです。
文大統領の側近は、「86世代」と言われる層です。
1960年代生まれ1980年代に学生時代を送り、光州事件(1980年)の騒乱事件で火焔瓶闘争を闘った「元学生運動家」です。
文氏から見れば、7歳以上離れた「後輩」に当ります。彼らが、側近として大統領府の秘書官を務め、政権を動かしています。
大統領府の秘書官の6割が「86世代」と指摘されています。
「86世代」は、北朝鮮・金日成の「主体思想」(チュチェ思想)に深く傾倒している人たちです。
この思想は、「自国の革命と建設に対して主人らしい態度を取る」考え方とされています。
そのためには、「金日成と金正日の指導を仰ぐ」という個人崇拝のオチがつくのですが、民族主義へつながっています。
チュチェ思想は、韓国の労働組合を中心とする進歩派の「身内の論理」として、大きな影響力を持っています。
韓国では、公然と北朝鮮の「主体思想」を支持することは、利敵行為として禁じられています。
「禁教」という魅力も手伝い、革新派政治家全体の支持を得ていると見ても間違いないでしょう。
韓国与党「共に民主党」議員が、文大統領訪朝で随行しましたが、北の金正恩氏らに媚びへつらい「忠誠」を誓うような発言をして問題になりました。
それは、次のような発言でした。南北関係悪化は、すべて韓国の歴代保守政権が行なった妨害行為である。
「共に民主党」は、永久に保守党に政権を渡さない努力をする、とまでご機嫌取りの発言をしたのです。
これは、「主体思想」にどっぷり浸かってきたから、初めて言える言葉でしょう。民主主義国の国会議員が、独裁国家の首領へ誓約書を出すような醜態です。
韓国で民族主義が根強いのは、南北の分断の影響があります。第二次世界大戦で朝鮮半島は南北に分断されました。
韓国の革新派は、この分断の責任は第一に日本の日韓併合。第二は、米国にあると見ています。
朝鮮戦争で北朝鮮が韓国を攻め込み、あと一歩で統一可能な所までゆきました。
ここで、マッカーサーによる仁川の奇襲作戦が敢行され、北朝鮮軍を撃退し退勢を挽回したのです。
仁川にはマッカーサーの銅像があります。韓国革新派は、マッカーサーを恨んでおり、今も銅像に火を付けて嫌がらせしています。
韓国の反日は根が深いのです。民族主義は革新派に共通の特色です。
保守派は、日本との接近を図りますが、革新派は真逆です。
革新派政権が登場する限り、必ず「過去」を蒸し返すのが宿命でしょう。このことから、安定した日韓関係は生まれないと見るべきです。
労働貴族を生んだ「主体思想」
韓国革新派の本質は、北の「主体思想」に共鳴する民族主義であるこが分ります。民族主義は古代に遡れば、氏族制と強いかかわりがあります。
韓国は現在でも、地域間の対立が激しいことで知られています。氏族制意識が牢固として残っているからです。
朝鮮半島の歴史では、「三国時代」(5世紀~7世紀)の高句麗・百済・新羅の対立抗争が有名です。
この時代の氏族制は、他の氏族に対して協力するよりも、敵対意識で臨むことが多いのです。
中国では最近まで「械闘」(かいとう)といって、氏族間、間の揉めごとで暴力沙汰が頻発していました。
儒教社会の韓国でもこういう、氏族間における不寛容な慣習が何百年も続いてきたと見るべきでしょう。現在、民族主義となって引き継がれても不思議ではありません。
韓国は、近代化されたと言っても表面的なこと。社会の底流は、氏族意識が形を変えて生き続けているのです。
すべては、「敵か」「味方か」で区別されます。両者をつなぐ共通の価値観が存在しません。
だから、妥協することがなく互いに憎しみあって戦います。
大統領が交代するたびに、過去の政権の「あら探し」を始めて刑事事件化していきます。
過去二代の保守党大統領が刑務所につながれる事態は、「復讐」という色彩もあります。近代政治では、珍しい現象です。
以上のような氏族意識の流れから見ると、韓国では企業と国民が次のような関係となります。
大企業が、庶民の敵として位置づけられます。
企業が存在するから雇用が生まれる。そういう認識にはないのです。
企業は労働者を搾取するもの。古典的な労使関係論に立っています。
労働者が、企業から搾取されないためにどうするのか。ここに登場するのが、先の「主体思想」(チュチェ思想)です。
「主体思想」では、「自国の革命と建設に対して主人らしい態度を取る」となっています。
企業において労働者は、「主人らしい態度を取る」ことが原則になるのでしょう。
労働条件改善や賃上げ闘争では、「絶対」と言ってよいほど妥協しません。なぜなら、労働者は「企業の主人」であるからです。
韓国の大企業労組は、「労働貴族」とも揶揄されるほどです。
韓国の労働組織率は約10%です。全労働者の10%しか労働組合に加入していないという意味です。残り90%は、未組織労働者です。
その一握りの組織労働者が、企業の主人として振る舞い、労働貴族になっているのです。
最賃大幅引き上げはどうなる
文政権は、この「労働貴族」の要望にそって、今年の最低賃金を16.4%引き上げました。
来年はさらに10.9%引き上げます。
この結果、今年と来年の2年間で、最低賃金は約30%引き上げられます。
これだけ、大幅な最低賃金引き上げに応じられる中小・零細の企業は限られています。
韓国の最低賃金法では、引き上げない企業主が告発される制度です。
法に触れないためには、従業員を解雇するほかありません。現在、失業者が急増し就業者が増えない背景には、最低賃金の大幅引き上げが壁になっています。
文大統領は、最低賃金大幅引上げが雇用悪化をもたらしているという認識はないのでしょうか。
文氏は、「雇用政権」という看板を掲げて就任しました。
大統領執務室には、景気データ関連パネルを設置したと記者団に公開したほどです。
月々の失業率悪化のデータを嫌になるほど見ているはずです。その原因がどこにあるのか。真の原因を突き止めず、大統領府政策室長の「虚言」を信じてきたようです。
前記の政策室長は、「前政権(朴槿惠政権)の誤った政策によって失業率が高まっている」と発言していました。
この室長は、11月に入って更迭されました。
文大統領は高失業率の原因が、最低賃金の大幅引き上げにあることを認めたわけありません。
さらに、最低賃金大幅引き上げによる経済成長を実現に向けて努力する、と発表しています。これでは、景気の落勢を強めるばかりで、見当違いも甚だしいと言わざるを得ません。
韓国統計庁の発表によると、昨年4~6月期が景気のピークでした。
そして、公式発表でないが、データ上では今年10月から不況局面へ転換したと見られています。
景気が、不況局面に入りながら、来年の最低賃金引き上げ率を予定通り10.9%にするのでしょうか。
当然、その是非が問われるべきです。現状は、「所得主導経済成長」を謳っていますので、最賃引き上幅を引き下げないでしょう。傷を深めるばかりです。
「所得主導経済成長」とは、所得を引き上げることで消費を増やして景気を押上げるという考え方です。
この言葉だけを聞いていると、「なるほど」という気持ちになりますが、生産性を引き上げるという前段を無視しています。
生産性を上回る賃上げはあり得ません。生産性を上げて、賃金を引き上げる。これが、オーソドックスな考え方です。文政権はこれを拒否しています。なぜでしょうか。
前述の「反企業意識」が強いからです。
企業は規制を緩和して自由に経営させると、利益を労働者に分配せず、内部留保に回すだけであると信じているのです。
だから、大企業の法人税率を25%に引き上げるという世界の流れと逆行した決定をしたのです。この増収分を労働者に配分するという触れ込みでした。だが、法人税率の引上げは設備投資へ悪影響を与え、雇用増加を減少に向かわせました。
反企業主義が韓国の落日招く
ここで、文政権は二つの相反する政策決定をしました。
1.所得主導経済成長=最低賃金大幅引き上げ=労働者保護
2.法人税率引上げ=反企業意識=大企業抑制
労働者を保護して、大企業に足かせをはめる。この極端な政策思想の淵源を求めていくと、先に取り上げた「氏族意識」にたどり着くように思えます。
「敵」「味方」をはっきりと分けて争うのです。
仲間は守るが、仲間以外に敵対する素朴な感情です。
「主体思想」も、人間(労働者)は主人であると規定しています。
「主人」がいれば、「従者」が存在するはずです。主体思想に基づけば、企業の「主人」は労働者。「従者」は経営者になります。
現代自動車では、労働組合が主導権を握っています。
機械の導入も労組の承認が必要です。この倒錯した関係において、現代自動車の経営は傾き続けています。
自動車企業にとって営業利益率の5%は、絶対に維持すべきラインです。ところが、今年上半期は3.8%で20年前の水準に逆戻りです。経営危機に向かっています。
文政権は、労働組合を守っても企業規制を緩和する期待は持てません。こうなると、韓国経済はどうなるのでしょうか。
すでに景気は下降局面です。来年の最低賃金引き上げは、すでに決定通りの10.9%で実施すれば、雇用状況はさらに悪化します。
それを糊塗すべく財政支出でカバーする。文政権は、大幅な財政赤字を出し続けます。
北朝鮮支援で国内景気を犠牲
もう一つ、財政赤字要因が加わって来ました。北朝鮮への支援です。
先に指摘した「氏族制」の残滓を抱える文政権は、北朝鮮は「仲間」と認めています。
韓国の企業は、仲間でなく「敵」の存在です。北朝鮮を仲間として扱うために、諸々の支援を検討中です。
宝くじの収益のうち、他の基金に配分される割合は現在35%です。
韓国与党は、これを40%に引き上げ、その一部を北朝鮮支援に振り向ける議案を国会へ提出しました。この宝くじで分配金が、約80~90億円も北朝鮮へ流れる仕組みができます。
また今年、韓国国内の道路や鉄道整備に使われる予算のうち、これまで使われず残ったか、残る見通しの予算が約1兆2000億円もあるそうです。
この使い残し予算も北朝鮮への支援に使われるという話です。
おそらく、最初から北朝鮮に振り向ける意図で、予算が編成されていたと思われます
。とすれば、完全に国民を欺いたことになると、朝鮮日報は批判しています。度の過ぎた北朝鮮支援姿勢の中に、文政権の北朝鮮に対する「仲間意識」が感じられます。
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