2016.11.29
ゆがむ韓国経済、財閥偏重の「疑似資本主義」が迎えた限界
一部省略
真壁昭夫:法政大学大学院教授
ひずみ」を抱えて
成長してきた韓国経済
韓国経済は財閥企業の収益動向と表裏一体の関係にある。韓国企業全体の純利益の4割程度が10大財閥のものと言われている。
サムスン一社で、韓国GDPの約2割に達したこともあった。韓国経済は有力財閥企業の支配下にある。
過度に財閥に依存した経済構造の基礎を作ったのが、朴現大統領の父親、故朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領だ。
故朴元大統領は、“開発独裁”と呼ばれる経済政策を重視し、財閥企業の成長を軸に工業化を進めて輸出競争力の向上を図った。
1965年には、日韓基本条約が締結され、わが国からの支援を元手に韓国は財閥企業を成長のエンジンに据えた成長路線が加速した。
韓国政府は財閥企業に独占取引権を付与するなど特別扱いし、積極的に経営を支えた。これが“漢江の奇跡”と呼ばれる高成長につながった。
確かに、第2次世界大戦、朝鮮戦争の混乱によって荒廃した国土を建て直し、産業を育成するために財閥企業の存在は重要だったはずだ。
企業の資本蓄積を進めて外需を取り込む力をつけるためには、ある程度経営の整った財閥の機動力を使う必要はあったのだろう。
しかし問題は、今日まで財閥重視の経済運営が続き、官民の癒着が放置されて富や権力の偏在につながったことだ。
実際、韓国の大統領経験者やその親族が財閥企業から不正資金を受け取り、逮捕されるというスキャンダルは多い。
朴正煕暗殺の後、大統領の座に就いた全斗煥の親族に対する捜査は現政権の下でも続けられるなど、問題の根は深い。
韓国の大統領は政治経済、そして軍事を支配する独裁色の強い権限を持っている。
韓国の社会では、公的な要素よりもむしろ身内の利益が尊重される風潮があるといわれてきた。
そうしたカルチャー=文化が、歴代の大統領と財閥企業の癒着を助長した部分は大きい。それが今回の朴大統領のスキャンダルと国民の怒りの根底にある。
貿易依存度高く
不安定な韓国経済
韓国経済は国内の消費市場が小さく、相対的に貿易依存度が高い。輸出のGDPに対する割合は50%を超えている。
財閥企業が大規模に大量生産を進めて価格競争力を高め、輸出によって得られた収益をウォン安でかさ上げするのが韓国の成長プロセスだ。
この経済構造は海外経済の減速に対して脆弱だ。典型例が1997年の"アジア通貨危機"だ。
当時、韓国は急速な自国通貨(ウォン)の下落を受けてドル建ての対外債務の支払い負担に耐え切れなくなった。
韓国は、この危機を国際通貨基金(IMF)の介入、わが国からの支援などによって乗り切った。
この時、IMFや欧米の投資家は縁故を重視する韓国の企業経営などが、過剰な債務累積につながったと批判した。
これは“クローニーキャピタリズム(縁故資本主義)”と呼ばれる。IMFは韓国を救済するコンディショナリティ(条件)の一つとして財閥の解体を求め、政府も応じた。
しかし根本的な問題は是正されなかった。
リーマンショック後、韓国経済はウォン安に支えられて一時的には回復した。その後、中国の減速とともに財閥企業の経営は行き詰まり、経済は低迷している。
今年8月末、コンテナ船世界7位の韓進海運が経営破綻した。これは、サムスンの半導体などの製品、現代の自動車を韓進の海運業で輸出するという、財閥と輸出に依存した経済成長モデルの行き詰まりの象徴だ。
財閥重視の経済政策が進められた結果、韓国では実力を備えた中小企業が育ってこなかった。
技術力に関してもわが国の素材や部品に頼るところが多く、韓国が自力で技術革新を進めることは難しい。
足元のように世界経済全体を通して需要が供給を下回り始めると、どうしても韓国経済の減速懸念は高まりやすい。
それが政治スキャンダルと重なることで、国民の怒りが噴出し抗議デモの拡大に繋がっている。
明確な理念を示せない
韓国政治の問題点
今後の韓国経済を考えると、政治の役割が決定的に重要だ。中長期的な視点で、政治が構造改革などを進めないと、財閥と輸出依存の経済構造は解消されないだろう。政治が本気で産業力を引き上げない限り、韓国経済の構造的な問題を解決することは難しい。
ところが、これまでの韓国政治は、明確な理念やそれに基づいた一貫した政治姿勢を示せていない。
依然として、財閥系有力企業と有力政治家との癒着は解消されていない。それでは、財閥中心の経済構造を本格的に変革することはできない。
韓国経済の大黒柱の一つであるサムスンは、主力のスマ-トフォン分野でつまずき、今後の収益状況や事業展開には不透明な部分が増えている。
有力自動車企業でも、従業員との労使問題が燻ぶっている。
これまで貿易に依存して高成長を享受してきた韓国経済は、今、明らかにターニングポイントを迎えている。
そうした状況を乗り越えるためには、企業自身が変革に立ち向かうことに加えて、政治が、それを可能にする環境作りを行わなければならない。
重要な役割を担うべき韓国の政治の問題点が露呈している。
韓国の政治を外側から見ると、何と言っても一貫性を欠いているとしか見えない。
アジア通貨危機の時には、わが国とのスワップ協定を締結して事態の収集を図ったが、その後、わが国に対しては、幾度となく慰安婦問題を取り上げて反日感情を加速させる結果を招いた。
その一方、朴大統領は中国にすり寄る外交政策を進めた。
そこには、中国の消費市場へのアクセスを確保し、財閥企業の収益を確保する目論見があった。
中国は北朝鮮の暴発を抑えるためにも、相応に韓国とは良好な関係を持っておきたいと考えたのだろう。
しかし、中国は韓国のTHAAD(高高度ミサイル防衛)システム配備を批判するなど、自国優先の政治姿勢は明確だ。
そうした外交関係の中で中国が韓国を長期的に支えていくとは考えづらい。
そうした状況が続く限り、韓国経済が本当の意味で変革できるとは考えにくい。
国民はこれからも、一部の権力者と財閥に富が偏在する社会に不満を抱き続けるだろう。
何よりも隣国に北朝鮮という危険要素を抱える中、社会心理の悪化は政治機能の低下につながり、経済・外交・安全保障の運営に制約がつくことに注意が必要だ。
韓国の政治の現状を見る限り、そうしたリスクへの準備は十分ではないように見える。今後も韓国社会の不安定感は高まり、それが経済的にも厳しい状況につながる可能性が高いと見る。
ゆがむ韓国経済、財閥偏重の「疑似資本主義」が迎えた限界
一部省略
真壁昭夫:法政大学大学院教授
ひずみ」を抱えて
成長してきた韓国経済
韓国経済は財閥企業の収益動向と表裏一体の関係にある。韓国企業全体の純利益の4割程度が10大財閥のものと言われている。
サムスン一社で、韓国GDPの約2割に達したこともあった。韓国経済は有力財閥企業の支配下にある。
過度に財閥に依存した経済構造の基礎を作ったのが、朴現大統領の父親、故朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領だ。
故朴元大統領は、“開発独裁”と呼ばれる経済政策を重視し、財閥企業の成長を軸に工業化を進めて輸出競争力の向上を図った。
1965年には、日韓基本条約が締結され、わが国からの支援を元手に韓国は財閥企業を成長のエンジンに据えた成長路線が加速した。
韓国政府は財閥企業に独占取引権を付与するなど特別扱いし、積極的に経営を支えた。これが“漢江の奇跡”と呼ばれる高成長につながった。
確かに、第2次世界大戦、朝鮮戦争の混乱によって荒廃した国土を建て直し、産業を育成するために財閥企業の存在は重要だったはずだ。
企業の資本蓄積を進めて外需を取り込む力をつけるためには、ある程度経営の整った財閥の機動力を使う必要はあったのだろう。
しかし問題は、今日まで財閥重視の経済運営が続き、官民の癒着が放置されて富や権力の偏在につながったことだ。
実際、韓国の大統領経験者やその親族が財閥企業から不正資金を受け取り、逮捕されるというスキャンダルは多い。
朴正煕暗殺の後、大統領の座に就いた全斗煥の親族に対する捜査は現政権の下でも続けられるなど、問題の根は深い。
韓国の大統領は政治経済、そして軍事を支配する独裁色の強い権限を持っている。
韓国の社会では、公的な要素よりもむしろ身内の利益が尊重される風潮があるといわれてきた。
そうしたカルチャー=文化が、歴代の大統領と財閥企業の癒着を助長した部分は大きい。それが今回の朴大統領のスキャンダルと国民の怒りの根底にある。
貿易依存度高く
不安定な韓国経済
韓国経済は国内の消費市場が小さく、相対的に貿易依存度が高い。輸出のGDPに対する割合は50%を超えている。
財閥企業が大規模に大量生産を進めて価格競争力を高め、輸出によって得られた収益をウォン安でかさ上げするのが韓国の成長プロセスだ。
この経済構造は海外経済の減速に対して脆弱だ。典型例が1997年の"アジア通貨危機"だ。
当時、韓国は急速な自国通貨(ウォン)の下落を受けてドル建ての対外債務の支払い負担に耐え切れなくなった。
韓国は、この危機を国際通貨基金(IMF)の介入、わが国からの支援などによって乗り切った。
この時、IMFや欧米の投資家は縁故を重視する韓国の企業経営などが、過剰な債務累積につながったと批判した。
これは“クローニーキャピタリズム(縁故資本主義)”と呼ばれる。IMFは韓国を救済するコンディショナリティ(条件)の一つとして財閥の解体を求め、政府も応じた。
しかし根本的な問題は是正されなかった。
リーマンショック後、韓国経済はウォン安に支えられて一時的には回復した。その後、中国の減速とともに財閥企業の経営は行き詰まり、経済は低迷している。
今年8月末、コンテナ船世界7位の韓進海運が経営破綻した。これは、サムスンの半導体などの製品、現代の自動車を韓進の海運業で輸出するという、財閥と輸出に依存した経済成長モデルの行き詰まりの象徴だ。
財閥重視の経済政策が進められた結果、韓国では実力を備えた中小企業が育ってこなかった。
技術力に関してもわが国の素材や部品に頼るところが多く、韓国が自力で技術革新を進めることは難しい。
足元のように世界経済全体を通して需要が供給を下回り始めると、どうしても韓国経済の減速懸念は高まりやすい。
それが政治スキャンダルと重なることで、国民の怒りが噴出し抗議デモの拡大に繋がっている。
明確な理念を示せない
韓国政治の問題点
今後の韓国経済を考えると、政治の役割が決定的に重要だ。中長期的な視点で、政治が構造改革などを進めないと、財閥と輸出依存の経済構造は解消されないだろう。政治が本気で産業力を引き上げない限り、韓国経済の構造的な問題を解決することは難しい。
ところが、これまでの韓国政治は、明確な理念やそれに基づいた一貫した政治姿勢を示せていない。
依然として、財閥系有力企業と有力政治家との癒着は解消されていない。それでは、財閥中心の経済構造を本格的に変革することはできない。
韓国経済の大黒柱の一つであるサムスンは、主力のスマ-トフォン分野でつまずき、今後の収益状況や事業展開には不透明な部分が増えている。
有力自動車企業でも、従業員との労使問題が燻ぶっている。
これまで貿易に依存して高成長を享受してきた韓国経済は、今、明らかにターニングポイントを迎えている。
そうした状況を乗り越えるためには、企業自身が変革に立ち向かうことに加えて、政治が、それを可能にする環境作りを行わなければならない。
重要な役割を担うべき韓国の政治の問題点が露呈している。
韓国の政治を外側から見ると、何と言っても一貫性を欠いているとしか見えない。
アジア通貨危機の時には、わが国とのスワップ協定を締結して事態の収集を図ったが、その後、わが国に対しては、幾度となく慰安婦問題を取り上げて反日感情を加速させる結果を招いた。
その一方、朴大統領は中国にすり寄る外交政策を進めた。
そこには、中国の消費市場へのアクセスを確保し、財閥企業の収益を確保する目論見があった。
中国は北朝鮮の暴発を抑えるためにも、相応に韓国とは良好な関係を持っておきたいと考えたのだろう。
しかし、中国は韓国のTHAAD(高高度ミサイル防衛)システム配備を批判するなど、自国優先の政治姿勢は明確だ。
そうした外交関係の中で中国が韓国を長期的に支えていくとは考えづらい。
そうした状況が続く限り、韓国経済が本当の意味で変革できるとは考えにくい。
国民はこれからも、一部の権力者と財閥に富が偏在する社会に不満を抱き続けるだろう。
何よりも隣国に北朝鮮という危険要素を抱える中、社会心理の悪化は政治機能の低下につながり、経済・外交・安全保障の運営に制約がつくことに注意が必要だ。
韓国の政治の現状を見る限り、そうしたリスクへの準備は十分ではないように見える。今後も韓国社会の不安定感は高まり、それが経済的にも厳しい状況につながる可能性が高いと見る。
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