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日韓関係悪化で「普通の韓国市民」は本当に〈反日〉になったのか

2020-02-26 18:11:09 | 日記
日韓関係悪化で「普通の韓国市民」は本当に〈反日〉になったのか

むしろ日本が心配だ


伊東 順子

編集者・翻訳家


プロフィール

今回の不買運動の「過去との大きな違い」 

「うちは政治の話はタブーなんです。特に日韓問題は夫婦で話さないことになっている。だから、今回の問題で夫がどう思っているかわかりません」

こう話すのは、結婚28年の在韓日本人妻だ。二重国籍の長男は日本の大学院に進学したが、今は兵役のために韓国に戻り、休戦ライン近くの部隊にいる。

夫婦は手作りの弁当などを抱えて、ちょくちょく面会に出かける。

「古参兵からのいじめは大丈夫か」「北朝鮮との間に不測の事態がなければいいけど」――そんなことが今は心配だという。

「結婚した頃はね、日韓で何かあるたびに大げんかになったんですよ。

日本が悪い、いや韓国の方が変だよって。夫は大声を上げることもあって、その時は本気で離婚しよう思いました。

でも、もう今はもうそこにはふれない。

長女の結婚問題もあるし、そういう話をしている場合じゃない。そっちの方が大切。

というか、日韓問題はどれだけ話しても、わかり合えないと思いますから」

こういう夫婦を他にも知っている。知り合いの在韓日本人男性はこう話す。

「妻と意見が合わないのはわかっています。だから、その話題は出さない。

日韓夫婦は、みんなそうじゃないかな。歴史認識が一致しなくても、夫婦はやっていけますから」

なるほど、政治問題は棚上げして、国民同士は仲良くすればいいのかなと、単純に考えることもできる。男性が続ける。

「日本製品不買とテレビでは言ってるけど、普通に売っているし、買っています。回転寿司チェーンだって、相変わらず行列ですよ。メディアが騒ぎすぎだと思います」

それはわかる。私自身、1990年に韓国で暮らし始めて以来、何度も日韓関係の悪化を経験し、今回のような日本製品不買運動にも遭遇してきた。


90年代、日本大使館前で大量のマイルドセブンが燃やされた日、副流煙をたっぷり吸ったあと、ためしに近所のスーパーを回ったら、笑顔で隠してあったブツを出してくれたのを思いだす。

今回も同じで、スーパーから消えたはずの日本製ビールが、よく見ると棚の隅っこに置いてあったりする。

日本製のビールを棚に並べているのをスマホで撮影されて晒されたら面倒だ。面倒は回避する――。生活者の知恵だ。

8月13日にソウルで行われた、「ホワイト国除外」に反対する集会〔PHOTO〕Gettyimages

とはいえ、今回の不買運動は、これまでとは少し違っている。

最大の違いは不買運動のきっかけが、歴史問題でも領土問題でもなく「経済的圧力」にあったことだ。背景には、「豊かになった韓国」がある。


今や大企業の賃金は日本より高いと言われ、日本旅行は国内旅行よりも割安と言われる。

掲載者コメント こは記者は社会保障に触れてない。韓国の高齢者の生活は悲惨である。

それがどういうことだ。豊かになったはずの韓国が、いまだ経済的には日本の従属下にある?! 

しかも日本政府はそこの部分で韓国に圧迫をかけてくる?! ――昔のことを知らない世代ほど、衝撃は大きかったかもしれない。 

「盲目的な反日ではない」

片っ端から、韓国の意見を聞いてみた。「(徴用工の問題は)もう解決済みでいいと思う」とか「今、日本と揉めている場合じゃない」という人も中にはいたが、やはり「今回の日本政府のやり方はひどい」と怒っているという人が多かった。

「過去に不幸な時期がありました。日本は加害者ですよね。それなのに、またもや韓国に圧力をかけるとは許せません」(40代女性)

「徴用工への補償問題は裁判所の判断です。それに経済的報復というのは間違っていますよ」(50代男性)

「しばらくは日本製品を使わないようにと思っています。あ、でも捨てはしません。お気に入りもあるから…。使わないのが意思表示!」(30代女性)

「夫はね、ユニクロの服を全部捨てろって言うんですよ。でも、どうせ(不買運動は)一過性だから、しまってあります。日本製が嫌だというなら、私が作ったご飯だって食べるなと言ってやりたい、うん言おうかな」(40代、日本人妻)

ユニクロはたしかにどこも閑散としているようだ。発表はしないが、売り上げに影響は出ていると思う。


韓国のユニクロ〔PHOTO〕Gettyimages

7月には売上高が3割減という日本系チェーン店もあったし、客数は変わらないが日本酒の注文が減ったと話す和食店もある。

「普段なら日本酒を頼むお客さんが、まあ、こういう時だからと韓国製の焼酎を頼むんですよ。輸入の日本酒と国産焼酎では価格差がけっこうありますからね。お小遣いの節約にはなるでしょう」(和食店の日本人オーナー)

和食店のオーナーの言うとおり、日本製品を買わないことは「お小遣いの節約」になる。日本の酒、日本の文房具、日本製の健康食品、そしてユニクロと無印……。1980年代のウォークマンや1990年代のノートパソコンのように、絶対日本製が必要だった時代とは違う。

今の韓国の一般市民にとって、日本製品は代替可能な小さな暮らしのアクセント。裏を返せば「絶対に不可欠なもの」ではない。その意味では不買運動は誰でも参加できる手軽な「市民運動」である。各種アンケートによる不買運動への参加者は6割強。8月末から新学期が始まり、学生らの同調ムードが高まると、さらに増えるかもしれない。

「ただ、盲目的な反日ではないんです。それは日本の人たちに理解してほしい」(30代女性)

「相手がどんな国でも、こういうことをされたら私たちは戦います」(40代女性)

日本や日本人が嫌いなわけではなく、日本政府のやり方に怒りをもつのだという。

だから日本大使館前は行われる抗議集会も、正式名称が「安倍糾弾キャンドル文化祭」となっている。

「キャンドル文化祭」というのは、あの朴槿恵前大統領を退陣にも追い込んだキャンドルデモのことだ。

今は韓国民主主義を象徴する大衆運動のスタイルとなっている。

「反米デモ」を参考に考える

韓国の市民デモは天を震わせ、地を揺るがす。前大統領を退陣に追い込んだキャンドルデモは初回で2万人、2回目で20万人、3回目で100万人を動員した。

ところで、今回の「反安倍デモ」の参加者は3回目でも1万5000人ということで、かなり規模が小さい。

これまでも日本関係のデモは、だいたいがそうだった。

日本大使館前では、従軍慰安婦問題や竹島領有権問題での集会はひんぱんに行われているが、一般市民を巻き込んだ大規模なものは少ない。

それよりも、1990年代以降の大衆デモといえば、「反米デモ」の方がイメージとしては強かった。

そもそも、キャンドルデモの起源となったのは2002年、米軍の装甲車に轢かれて亡くなった女子中学生を追悼する集会だった。

装甲車を運転していた米兵に、まさかの無罪判決。

韓国人みんなが驚き、悔しい思いをした。人々は手に手にろうそくを持ち、韓国全土で抗議の意志表示をした。

さらに、2008年にも大規模な反米デモが起きた。

この時はBSE(いわゆる「狂牛病」)のために輸入禁止だった米国産牛肉を、政府が米国との取り決めで解禁してしまったのが発端だった。

この時は中高生や主婦が中心となり、「キャンドル文化祭」の名前で連日のように集会が開かれた。ピークには100万人が参加し、ついに李明博大統領(当時)の謝罪を引き出すまで、なんと3ヶ月以上も続いた。

なぜ、ここでは反米デモのことを書いたのか、理由は3つある。

【1】日本には「韓国=反日」と思い込んでいる人がいるが、そんなことはないということ。むしろ反米運動の方が大規模なものが起きている。

【2】韓国の大衆デモは組織動員ではなく、一般市民の自発的な参加が鍵となる。

【3】もし、今回の反安倍デモが大型キャンドルデモとなれば、日本を対象としたものでは「初」の事態になること。つまり過去にないほど、今回の日本政府の措置は隣国の人々を刺激したことになる。

現在、予告されているのは8月15日の集会だ。

日本からの解放記念の日のデモには、おそらく市民の自発的参加もあるだろう。問題はその後も続くかどうか。それによって韓国政府の出方も変わってくるだろう。韓国の政治の動きは、一般市民の行動を見て決められている節がある。ある意味、素晴らしく透明であるといえる。

「日本人観光客に親切に」と呼びかけるニュース

もう一つ、今回のことで再認識したのは、一般の韓国人の成熟した様子だ。

今、日韓ともにメディアが熱くなっており、特に韓国のテレビメディアの日本政府に対する口調はとても激しい。冒頭でふれたように、日本製品の不買運動なども、メディアが四六時中煽っている感もある。

また、ドラえもんの映画の上映が延期されたり、日本人タレントのデビューが見合わせられるなどの動きもある。業界や自治体の勇み足に比べると、一般市民は冷静である。

たとえばソウル市中区が用意した「ボイコットジャパン」のバナー、あるいは堤川(チェチョン)国際音楽映画祭での日本映画の上映を巡る問題。

前者では、区が「NO ボイコットジャパン 行きません 買いません」と書かれた旗(バナー)を掲げ、後者では、堤川市議会が日本映画上映の取り消しを求めた。

しかしフタを開けてみると、公務員が考える「昔ながらの反日」に、一般市民が待ったをかける形となっている(前者では市民から批判が出ているし、後者では、映画祭の主催者が自治体の主張を退けた)。

ついつい忖度してしまう公務員の悪い癖は、長年の習慣のようなものだと、韓国の政治学教授が言っていた。

一部には過剰とも思えるパフォーマンスもある。でも、市井には冷静な人たちがいる。それを知っているから、在韓日本人は安心して暮らせるし、「韓国に旅行に行きたいけど大丈夫?」と聞く日本人にも、「普段と変わらないよ」と答えることができる。

日本で嫌がらせされる訪日韓国人・在日韓国人たち

そこで思うのは、果たして逆はどうだろうかということ。はっきりいえば、今は日本の「嫌韓」の方が予想不能だ。

ネット上はヘイトスピーチや脅迫があふれており、在日韓国人の友人たちの多くが、身も知らぬ他人から嫌がらせにあっている。

それでSNS(特にツイッター)をやめてしまった友人たちもいる。

その中には個人や民族に対する侮辱に加え、「従軍慰安婦問題は捏造だ」など本人に関係ないことを言ってくるケースもある。

韓国では政府も一般の人も、「これは日本政府への抗議であって、日本国民に向けたものではない」と言ってくれるが、でも、「日本国民」にもいろいろな人がいるのだ。

それは、ネット上だけでない。

つい最近も、日本に来ていた韓国人観光客が飲食店で暴言を吐かれ、店から追い出す様子が写っている動画を見た。

また、地下鉄で韓国語で話していて、日本人から「うるさい、帰れ」と言われた若い女性も知っている。

さらに、職場の上司や取引先の日本人から、「韓国さあ、どうかならないの? 文在寅って何でああなの?」とか、仕事と関係ない韓国の話をしょっちゅうされるという話を、在日韓国人の友人から聞いた。

過去には在韓日本人も同じような経験した。

でも、最近は本当に少なくなった。韓国の人々の対人マナーはとても洗練されたし、テレビニュースなども、日本政府批判をさんざん流した最後には、「それでも皆さん、日本人観光客には親切にしましょうね」とアンカーがまとめる。

日本でも、ひとこと言ってくれたらいいと思う。「韓国の皆さん、安心してくださいね」と。


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