巨人サムスン失速、半導体不振 日本の輸出規制火種
2019/7/9 4:30情報元日本経済新聞 電子版
日本経済新聞社がまとめた2018年の「主要商品・サービスシェア調査」によると、半導体や薄型テレビなどハイテク分野で、サムスン電子を筆頭に韓国企業の失速がみられた。首位品目が減り、首位でも軒並みシェアを落とした。輸出型が多い韓国企業は、米中貿易戦争など海外情勢の影響を受けやすい。日本の対韓輸出規制も始まった。19年は大きなシェア変動が起きそうだ。
調査した18年の世界シェア全74品のうち、韓国が首位は7品目と17年より2品目減った。テレビなどディスプレー材料である偏光板は、LG化学が日本の住友化学グループに抜かれて2位に転落した。中国開拓を進めた住化が需要を取り込んだ格好だ。
仮想現実(VR)ヘッドセットはソニーが17年比3.7ポイント増の24.0%で首位となる一方、サムスン電子は同23.3ポイント減の8.4%となり首位から4位に順位を落とした。サムスンは同社製スマホの購入に併せてVRヘッドセットを無料で付属するキャンペーンをやめてシェアが下落した。
■「在庫3カ月分」
ただ韓国勢の変調は一部の商品に限った話ではなさそうだ。主力の半導体でも苦戦が目立ってきた。
「サムスンのメモリー在庫量が3カ月分に達した。通常の3倍だ」――。世界の半導体関係者の間ではそんな話が広まっている。
半導体市況が急速に冷え込んだのは昨年秋以降。それまで我先とメモリーを買いあさっていた世界のクラウドサービス大手などが、サーバー投資を控えている。将来の技術革新や値下がりを見越して半導体を買い控えているほか、ハードよりソフトの機能強化に注力しているためだ。
18年のDRAMの世界シェアはサムスンが首位を維持したが、17年に比べて1.7ポイント減の42.8%となった。NAND型フラッシュメモリーでもサムスンは同0.3ポイント減の38.4%だった。東芝メモリなどが追い上げている。
サムスン幹部は「半導体市況は19年4~6月に下げ止まるとみていたが、7~9月にずれ込みそうだ」と話す。5日に発表したサムスンの19年4~6月期の連結決算(速報値)は、営業利益が6兆5千億ウォン(約6千億円)と、前年同期比56%減った。60%減益の1~3月期に続く大幅マイナスだった。
韓国有進投資証券は、DRAMの4~6月の平均単価が前年同期の半分近い水準に落ち込んだ上、単価の下落は10~12月まで続くと予想する。サムスンは17年に米インテルから半導体世界首位の座を奪ったが、19年はインテルが首位に返り咲く公算が大きい。
追い打ちをかけるように、新たな火種も出てきた。日本による対韓輸出規制の強化だ。
韓国企業は当面の間、半導体や有機ELパネルの生産に欠かせないレジスト(感光材)、エッチングガス(フッ化水素)、フッ化ポリイミドの3品目について、日本から調達することが難しくなる可能性がある。
3品目の在庫はサムスンが「約1カ月」(韓国メディア)、SKハイニックスが「3カ月未満」(関係者)しか無い。SK関係者は「工場が操業停止になりかねない厳しい状況だ」と吐露する。
サムスンとSKで合計5~7割の世界シェアを握る半導体メモリーの工場が止まればどうなるか。両社はメーカーとしての供給責任を果たせなくなり、顧客である米中のIT(情報技術)大手から信頼を失う。DRAMは米マイクロン、NAND型フラッシュメモリーは東芝メモリが漁夫の利を得る可能性が高い。
半導体以上に、ディスプレーやテレビの苦戦はより深刻かもしれない。中国勢が急速に台頭しているからだ。
■65型などで劣勢
薄型テレビに使う大型液晶パネルは、首位のLGディスプレーが17年に比べ1.7ポイント低い26.2%にとどまった。
LGは19年1~3月の連結営業損益が1320億ウォンの赤字。需要の閑散期にあたる1~3月の赤字は過去にもあるが、赤字幅が前年同期より340億ウォン拡大した。同社は「19年は忍耐の年になる」と話す。通期の業績も「市場が期待する水準に及ばない可能性を排除できない」と説明する。
一方、中国の京東方科技集団(BOE)は17年の5位から2位に一気に躍進した。中国の地方政府から補助金を得て工場投資を進めてきた。出荷枚数ベースのシェアではすでにLGを超え、2年連続で首位に立った。
薄型テレビのシェアも、TCL集団やハイセンスといった中国メーカーが台頭。現地パネルメーカーの安価なパネルを使った低価格のテレビで攻勢をかけている。
サムスンは中国メーカーの安い65型テレビなどとの競争でシェアの低下に見舞われた。LG電子は自社グループのパネルを使った有機ELテレビが健闘したが、液晶テレビの苦戦などでわずかにシェアを落とした。
ディスプレー産業は中国勢が韓国と遜色ない実力をつけつつある。韓国勢は次世代技術の開発を進めているものの、かつて日本が韓国に追いやられたように今度は韓国勢が二の舞いを演じる可能性が出てきた。
(ソウル=山田健一、企業報道部 志賀優一、龍元秀明)
[日経産業新聞 2019年7月8日付]
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