- 2018年01月14日 07:00
新浪剛史が語る2018年の課題「“2025年問題”と“デジタルエコノミー”にどう対処するか」
新浪剛史が2018年の日本経済を占う
2017年は世代が分断された年だった
2017年は世代間の分断が際立った年だと感じました。
例えば、20代の人たちは、ここ数年続く好景気によって就職活動は売り手市場で、入社後も生活の満足度は高く、将来の見通しも明るいと希望を持っています。
新浪剛史 サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長
いっぽう、30代後半から40代前半は長らく続く不況とデフレで就職は困難を極め、入社以降もITバブル崩壊やリーマンショック、東日本大震災など立て続けに災厄に襲われました。
厳しいことが多かったから、将来にも悲観的です。
50代は、目前に迫る2025年問題に危機意識を高めています。
2025年問題とは、この年に団塊の世代が75歳になることで、全人口に対する75歳以上の後期高齢者の割合が18%を超え、日本が本格的に超高齢化社会に突入します。
これにより、認知症を患う高齢者の増加、医療費の増大に伴う財源確保の問題、介護を必要とする高齢者の増大に対する介護医療従事者の人手不足などの数々の問題が生じてきます。
この世代間の明確な違いは前回の衆議院選挙の結果にも現れています。
NHKが投票日に実施した出口調査では、自民党に投票したのは20代が50%と最も高く、以下、30代42%、40代36%、50代34%、60代32%、70代以上が38%となっています。
これは、自民党の選挙戦略がこれまでのシルバー世代を重視した政策から、若い世代に光を当てる方向へと明らかに転換したからでしょう。
これによって、若い世代の消費が喚起され、消費経済もプラスに動く可能性があるので、とても有意義なことだと思います。
国内はデフレスパイラルから脱却した
国内経済に関しては、2017年は日本経済が長年続いたデフレスパイラルから完全に抜け出せたことが象徴的でした。
それを如実に物語っているのがヤマト運輸の値上げです。まさかヤマトが値上げするなんて誰も思っていなかったけれど、ついに耐えられなくなった。
また、企業が継続的に賃上げに取り組み、賃金は4年連続で上がっています。
これは為替が1ドル110円前後で推移し、経済が安定していることに依拠しています。
今後もこの傾向は続くと見られているので、2018年も引き続き賃金は上がり、物価も上昇するでしょう。
GDPの実質成長率は2017年同様、1.5%を期待できると思います。
ただ、問題は2つあります。
国民の将来に向けての不安を解消するために
1つは先ほどの2025年問題。
65歳以上の高齢者の割合が30%を超える社会になった時、彼らを支えるために消費税が間違いなく15%は必要になりますし、社会保険料が現状からおそらくプラス3%ほど上がるでしょう。
そうなると可処分所得が大幅に減少するので、多くの国民は将来のために極力買い物を控え、少しでも貯金をしておかなければと考えます。
つまり消費が冷え込んでしまう。これが現在の一番の課題です。
2つ目はデジタルエコノミーの拡大です。
eコマースは全般的に商品価格を下げる傾向にあり、その価格にリアル店舗は影響を受けざるをえません。
リアル店舗では人件費が高騰しているのですが、価格に転嫁するとeコマースの価格に対抗できないのでそれもできない。
リアル店舗は価格ではなく、利便性などの付加価値で勝負する必要があります。
こうしたせめぎ合いの結果、2018年のインフレ率は1%程度になるのではないかと予想しています。
2018年は中国とアメリカの覇権争いが激しくなる
世界情勢の問題としては、世界における日本の立ち位置をどうするか。
これがすごく難しい問題となるでしょう。
2018年、アメリカと中国の間で繰り広げられている覇権争いがより激しさを増すのは間違いありません。
このような状況下において、日本はアメリカのみに軸足をおいた外交を展開していると、中国との軋轢が強くなります。
中国はASEAN諸国に莫大なインフラをベースとした“一帯一路”戦略を展開して影響力を強め、アジアに強大な支配的経済圏を構築しつつあります。
もし日本と中国の関係がおかしくなった場合、中国がアジアの経済圏から日本を追い出そうとするかもしれません。
そうなった時、日本は内向きになっているアメリカの影響力をあてにすることはできないでしょう。
また、アメリカと中国は経済的争いだけではなく、もしかしたら軍事的な衝突のリスクが高まるかもしれません。
なぜなら、2018年はアメリカが中国に対してより一層の圧力をかけると予想されるからです。
2017年の夏に報道された通り、アメリカは対中赤字削減のためスーパー301条を復活させるなど、経済制裁を行う可能性もあります。
もし本当にそんなことをやってしまったら、中国は勝手にルールを作って自分の経済圏からアメリカを追い出そうとするかもしれません。
このような緊張関係が報復合戦にエスカレートしていった場合、一歩間違えたら軍事的衝突につながるおそれがあります。
北朝鮮問題が引き金になる可能性も十分にあります。
その時日本はどうするべきか。経済の安定を追求していくために、また国家の安全保障の観点からも、隣国である中国と、同盟国であるアメリカとどう付き合っていくべきか。
非常に難しい問題ですが、2018年はそれをますます問われる年になると思います。
国内は安定だが、不安なのは社会保障
日本の政権は現在の自民党安倍政権でしばらく安定するでしょう。
加計問題や森友問題で揺らぐことはなく、少なくとも2021年までは代わることはありません。
この国内政権の盤石さは非常に重要で、世界情勢がいつ緊迫化するかわからない状況下においては非常に価値があります。
不安材料として挙げられるのが、先程話した様に社会保障の問題です。
消費税は2019年10月から10%に引き上げられる予定となっていますが、それを正式に意思決定するのは2018年10月です。
その使い道ですが、現時点の政府の方針では、2%引き上げた分の半分を財政再建に使い、もう半分を社会保障、中でも子育て支援に当てるとしています。
基本的にこの考え方自体は妥当だと思います。
しかし、これだけ世界情勢が不安定な中、果たして日本経済が2019年10月に本当に消費税を上げられるほどの好景気であるのか疑問も残ります。
また、割合についても、財政再建と社会保障を5対5にする必要があるのでしょうか。
財政再建も必要ですが、まずは社会保障への投資を優先して、財政再建を2割、社会保障を8割にすべきだと思います。
そして将来の医療・介護負担を減らすべく、医療については治療から予防に予算の配分先をシフトするべきでしょう。
例えば全国民に健康診断を義務化して、その後の丁寧なフォローアップを行う。
これによって病気が予防できると、健康な人の割合が多くなるので、社会全体の生産性が上がるんです。
また、65歳で仕事を辞めても100歳まで生きる社会がもう目の前まで来ています。
安心して老後を過ごすためには健康寿命をもっと伸ばさなければなりません。
そのために認知症や、糖尿病の様な慢性病患への予防が重要なのです。
ただ、これを実施しようとするとスタート時に莫大なお金がかかってしまいます。
国の予算は単年度ベースなので先行投資は難しいのですが、現在のような長期政権ではそれが可能になります。
また、予防に力を入れる社会に変えることによって新たな産業も生まれ、需要も創造できます。
従来のように縦割りの予算配分で無駄なところにお金を注ぎ込むのをやめて、
必要なところに使うという予算の組み換えに本気で取り組むことができれば、
日本は課題解決ができる国になるのではないでしょうか。
これも長期政権である安倍政権にしかできないことだと私は思っています。
国民の将来に向けての不安を解消するために、この先の数年でぜひ成し遂げてほしいことです。
構成:山下久猛(ライター)
新浪 剛史 サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長
1959年横浜市生まれ。81年三菱商事入社。91年ハーバード大学経営大学院修了(MBA取得)。95年ソデックスコーポレーション(現LEOC)代表取締役。2000年ローソンプロジェクト統括室長兼外食事業室長。02年ローソン代表取締役社長。14年よりサントリーホールディングス株式会社代表取締役社長。
(新浪 剛史)
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