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2017年06月28日(水) 加谷 珪一
アメリカが「世界最強の資源国」になる日
シェールガスが国際政治を変える
これまで世界最大のエネルギー消費国だった米国が、資源大国に変わろうとしている。
従来、主要先進国は基本的に資源を消費する一方であり、資源国がこれを支えるという図式だった。
こうした持ちつ持たれつの関係が国家間における適切なパワーバランスを形作ってきたとも言える。
ところが主要先進国の中で唯一、米国だけが資源国としてのパワーも持ち始めた。これは極めて大きな地政学的変化を国際社会にもたらすことになるだろう。
「資源国家アメリカ」の衝撃
米中両国は5月、貿易不均衡の是正に向けた「100日計画」について公表した。
これは4月の米中首脳会談における合意に基づき、米中間の貿易不均衡是正措置として両国が協議を重ねてきたものである。
アメリカ・ファーストを掲げ、貿易戦争も辞さないというトランプ政権の強硬姿勢に対して、中国側はかなりの譲歩を余儀なくされたといわれる。
100日計画の中には、中国による米国産牛肉の輸入や金融分野における規制緩和などが盛り込まれたが、地政学的にもっとも重要なのは、やはり米国による液化天然ガス(LNG)の輸出拡大だろう。
米国は以前から天然ガス資源に恵まれた国だったが、国益上の理由から輸出については厳しく制限を加えてきた。
根拠法となっている天然ガス法は1938年に制定されたものなので、規制は80年近く続いてきたことになる。
同法によると、天然ガスの輸出入についてはエネルギー省の許可が必要となっており、その是非については「公共の利益」という観点で判断される。
実は、今回の中国への輸出拡大に先立ち、日本への輸出についても規制緩和が進められてきた。
2013年にはエネルギー省が日本に対する輸出を許可しており、今年の年初には、初の米国産LNGが日本に到着している。
今回、中国との合意内容に天然ガスの輸出が正式に盛り込まれたということは、米国は今後、天然ガスの輸出をさらに本格化させていくことを意味している。
実は米国は石油についても同じような規制を設けている。
米国は1975年に制定されたエネルギー政策・保存法によって、国家利益に合致しない原油の輸出を禁止してきた。
だが天然ガスと同様、原油についても輸出を解禁する動きが進んでおり、2015年以降は原油の輸出も可能となっている。
近い将来「全エネルギー自給」が可能に
米国のエネルギー政策が大きく変わったのは、ここ10年の間にシェールガス/シェールオイルの開発が急激に進んだからである。
シェールガスは頁岩(けつがん)と呼ばれる堆積岩の地層から採取される天然ガスである。
頁岩層にガスが存在することは以前から確認されていたが、低コストで採掘する技術がなく、ほとんど顧みられることはなかった。
ところが1990年代の後半に水圧破砕法という新しい技術が開発され、比較的低コストで天然ガスの採掘を行うメドが付いたことから一気に開発が進んだ。
シェールオイルも、シェールガスと同様、頁岩層から採取することが可能だ。
頁岩層は米国内に広く分布していることから全米各地で採掘が進み、天然ガスおよび原油の生産量は急増。
2012年には世界トップの生産量だったロシアを追い抜き、世界最大の天然ガス生産国となった。
さらに2014年にはサウジアラビアを抜き原油の分野でも米国は世界最大の生産国となっている(日量ベース)。
これまで米国は、基本的に自国で産出したエネルギーを自ら消費し、足りない分については輸入していたが、米国は近い将来、すべてのエネルギーを自給できる見通しとなっている。
エネルギーがダブつくことはほぼ確実であり、米国にとっては余剰エネルギーを輸出に回したほうがむしろ国益にかなう状況となってきた。
日本や中国に対する輸出を相次いで許可していることにはこうした背景がある。
パワーバランスが変わる
米国はエネルギーの消費国から資源国に変わりつつあるわけだが、これは地政学的な状況を一変させる可能性が高い。
米国がエネルギーを自給できるようになると、理論上、サウジアラビアなど中東の産油国に依存する必要がなくなる。
米国が「世界の警察官」として振る舞ってきた理由の一つは、石油の安定確保のためだが、こうした制約がなくなった以上、過剰に中東情勢にコミットする必然性は薄くなった。
中東各国はこうした地政学的変化に極めて敏感である。特に、米国を後ろ盾に中東の盟主として振る舞ってきたサウジアラビアの危機感は大きい。
サウジアラビアを訪問したトランプ大統領
トランプ大統領は、就任早々サウジアラビアを訪問し、友好関係をアピールしたが、その後、サウジが取った行動はカタールとの断交であった。
サウジがここまで強硬姿勢に出た理由は、トランプ大統領からの支持を得た安心感というよりも、米国の後ろ盾はいつなくなるか分からないという不安要因のほうが大きいと思われる。
一方、米国はエネルギーの安全保障を考慮することなく、フリーハンドで経済政策や外交政策を立案できるようになった。
トランプ氏が掲げるアメリカ・ファーストは、決して、机上のスローガンではなく、現実的に選択可能な政策といえる(国際社会における米国の評価とは別に)。
トランプ政権は、地球温暖化の国際的枠組みであるパリ協定からの離脱を宣言したが、こうした決断も簡単にできてしまうのが現在の米国である。
一部の国にとっては、米国の変容は脅威かもしれないが、日本にとってはそれほど悪い話ではない。
実際、これまで不可能だった米国産の安価な天然ガスを輸入することが可能となった。
これまで日本にとっては、中東一極からエネルギー調達の多様化を進めようと思ってもロシアくらいしか選択肢はなく、政治的リスクが大きかった。
米国が積極的に安価なエネルギーを輸出してくれれば、日本はもっと機動的に動くことが可能となる。
カタールとサウジの断交も、カタールとの天然ガス取引を見直す絶好のチャンスとなるかもしれない。
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2017年06月28日(水) 加谷 珪一
アメリカが「世界最強の資源国」になる日
シェールガスが国際政治を変える
これまで世界最大のエネルギー消費国だった米国が、資源大国に変わろうとしている。
従来、主要先進国は基本的に資源を消費する一方であり、資源国がこれを支えるという図式だった。
こうした持ちつ持たれつの関係が国家間における適切なパワーバランスを形作ってきたとも言える。
ところが主要先進国の中で唯一、米国だけが資源国としてのパワーも持ち始めた。これは極めて大きな地政学的変化を国際社会にもたらすことになるだろう。
「資源国家アメリカ」の衝撃
米中両国は5月、貿易不均衡の是正に向けた「100日計画」について公表した。
これは4月の米中首脳会談における合意に基づき、米中間の貿易不均衡是正措置として両国が協議を重ねてきたものである。
アメリカ・ファーストを掲げ、貿易戦争も辞さないというトランプ政権の強硬姿勢に対して、中国側はかなりの譲歩を余儀なくされたといわれる。
100日計画の中には、中国による米国産牛肉の輸入や金融分野における規制緩和などが盛り込まれたが、地政学的にもっとも重要なのは、やはり米国による液化天然ガス(LNG)の輸出拡大だろう。
米国は以前から天然ガス資源に恵まれた国だったが、国益上の理由から輸出については厳しく制限を加えてきた。
根拠法となっている天然ガス法は1938年に制定されたものなので、規制は80年近く続いてきたことになる。
同法によると、天然ガスの輸出入についてはエネルギー省の許可が必要となっており、その是非については「公共の利益」という観点で判断される。
実は、今回の中国への輸出拡大に先立ち、日本への輸出についても規制緩和が進められてきた。
2013年にはエネルギー省が日本に対する輸出を許可しており、今年の年初には、初の米国産LNGが日本に到着している。
今回、中国との合意内容に天然ガスの輸出が正式に盛り込まれたということは、米国は今後、天然ガスの輸出をさらに本格化させていくことを意味している。
実は米国は石油についても同じような規制を設けている。
米国は1975年に制定されたエネルギー政策・保存法によって、国家利益に合致しない原油の輸出を禁止してきた。
だが天然ガスと同様、原油についても輸出を解禁する動きが進んでおり、2015年以降は原油の輸出も可能となっている。
近い将来「全エネルギー自給」が可能に
米国のエネルギー政策が大きく変わったのは、ここ10年の間にシェールガス/シェールオイルの開発が急激に進んだからである。
シェールガスは頁岩(けつがん)と呼ばれる堆積岩の地層から採取される天然ガスである。
頁岩層にガスが存在することは以前から確認されていたが、低コストで採掘する技術がなく、ほとんど顧みられることはなかった。
ところが1990年代の後半に水圧破砕法という新しい技術が開発され、比較的低コストで天然ガスの採掘を行うメドが付いたことから一気に開発が進んだ。
シェールオイルも、シェールガスと同様、頁岩層から採取することが可能だ。
頁岩層は米国内に広く分布していることから全米各地で採掘が進み、天然ガスおよび原油の生産量は急増。
2012年には世界トップの生産量だったロシアを追い抜き、世界最大の天然ガス生産国となった。
さらに2014年にはサウジアラビアを抜き原油の分野でも米国は世界最大の生産国となっている(日量ベース)。
これまで米国は、基本的に自国で産出したエネルギーを自ら消費し、足りない分については輸入していたが、米国は近い将来、すべてのエネルギーを自給できる見通しとなっている。
エネルギーがダブつくことはほぼ確実であり、米国にとっては余剰エネルギーを輸出に回したほうがむしろ国益にかなう状況となってきた。
日本や中国に対する輸出を相次いで許可していることにはこうした背景がある。
パワーバランスが変わる
米国はエネルギーの消費国から資源国に変わりつつあるわけだが、これは地政学的な状況を一変させる可能性が高い。
米国がエネルギーを自給できるようになると、理論上、サウジアラビアなど中東の産油国に依存する必要がなくなる。
米国が「世界の警察官」として振る舞ってきた理由の一つは、石油の安定確保のためだが、こうした制約がなくなった以上、過剰に中東情勢にコミットする必然性は薄くなった。
中東各国はこうした地政学的変化に極めて敏感である。特に、米国を後ろ盾に中東の盟主として振る舞ってきたサウジアラビアの危機感は大きい。
サウジアラビアを訪問したトランプ大統領
トランプ大統領は、就任早々サウジアラビアを訪問し、友好関係をアピールしたが、その後、サウジが取った行動はカタールとの断交であった。
サウジがここまで強硬姿勢に出た理由は、トランプ大統領からの支持を得た安心感というよりも、米国の後ろ盾はいつなくなるか分からないという不安要因のほうが大きいと思われる。
一方、米国はエネルギーの安全保障を考慮することなく、フリーハンドで経済政策や外交政策を立案できるようになった。
トランプ氏が掲げるアメリカ・ファーストは、決して、机上のスローガンではなく、現実的に選択可能な政策といえる(国際社会における米国の評価とは別に)。
トランプ政権は、地球温暖化の国際的枠組みであるパリ協定からの離脱を宣言したが、こうした決断も簡単にできてしまうのが現在の米国である。
一部の国にとっては、米国の変容は脅威かもしれないが、日本にとってはそれほど悪い話ではない。
実際、これまで不可能だった米国産の安価な天然ガスを輸入することが可能となった。
これまで日本にとっては、中東一極からエネルギー調達の多様化を進めようと思ってもロシアくらいしか選択肢はなく、政治的リスクが大きかった。
米国が積極的に安価なエネルギーを輸出してくれれば、日本はもっと機動的に動くことが可能となる。
カタールとサウジの断交も、カタールとの天然ガス取引を見直す絶好のチャンスとなるかもしれない。
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