2018年12月28日
たそがれる韓国自動車産業
宇佐美 喜昭
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
韓国の自動車産業に暗雲が垂れ込めている。
世界の自動車生産台数が増加している中、韓国国内での生産台数は2015年の456万台から2016年は423万台、2017年は411万台まで減少した。
当初、韓国自動車工業協会は2018年の展望を前年並みの410万台としていたが、自動車部品メ-カーを束ねる韓国自動車産業協同組合の幹部は400万台割れもありえるとし、苦境を吐露している。
四面楚歌に直面する自動車産業
韓国での自動車生産は、2011年の466万台をピークに、暫くはほぼ横ばいで推移していたが、ここ3年は減少速度が加速している(表1)。
韓国の自動車産業は、現在、四面楚歌に直面している。
海外では通商問題、国内では輸入車との競合、完成車メーカーは活動的な労働組合を抱え、部品メーカーには最低賃金の急激な引き上げという政策圧力が加わっている。
韓国車の国内販売は2015年159万台、2016年160万台、2017年156万台とほぼ横ばいだが、輸出は2015年の297万台から2017年には253万台に減少した。
先ず、通商問題を見てみよう。
中国との関係では2016年に、米国のミサイル迎撃システムTHAADの韓国配備計画を端緒として中国政府による韓国への冷遇が起きた。
これは中国の消費者行動にも影響し、自動車だけでなく広く韓国産品や韓国ブランドの中国での販売に大きな影響が出た。
対中関係は未だ改善せず、韓国車(中国での生産分を含む)の販売台数は、2015年比で半減以下のペースとなっている。
2017年には米国とも通商摩擦が生じた。
米国は米韓自由貿易協定(米韓FTA)について改定交渉の申し入れを行い、結果、2018年9月25日に、両首脳による文書への調印で妥結に至った。
自動車分野では、韓国製ピックアップトラックの非関税化を2021年から2041年に延期した他、米国仕様車の韓国への輸出枠を2万台から5万台に引き上げた。
これらは米国に工場を持つ日系自動車メーカーにとっては朗報だろう。
米国では、ピックアップトラックは自動車販売台数の過半を占め、今後も販売の増加が見込まれる車種だ。非関税化先送りが決まった後、現代・起亜グループは米国向け新型ピックアップトラックをアラバマ工場で生産する方向で検討に入ったことを明らかにした。
韓国自動車業界がさらに懸念しているのは、日EU経済連携協定の影響だ。
発効すると現行の日本車の関税10%が段階的に引き下げられ、8年後には撤廃される。
このため、日本車の価格競争力向上により韓国車の欧州輸出に陰りが出ることが見込まれている。
韓国の国内市場は輸入車が韓国車の市場をじわじわと蚕食している。
韓国での輸入自動車販売台数は、2017年は23万台で国内市場の13%を占める。
10年前と比較するとシェアは倍増した。
日本の輸入車販売台数のシェアが5.9%であることと比較すると、韓国の完成車メーカーへの影響の大きさが推察できる。
ひきずる労働組合問題
韓国最大の完成車メーカーである現代・起亜グループは、労働争議が多いことでも知られる。
相次ぐ賃上げ闘争により、正規社員の平均年収は円価換算で900万円を超え、日本や欧米メーカーを凌ぐ世界のトップクラスにあるとされる。
労働組合専従者は500人超。
2013年の賃上げでは実質的な年収倍増を要求した。
2018年の要求には、基本給の5.3%アップ、純利益の30%を原資とした成果給支給などが並ぶ。
一方で従業員一人当たりの自動車生産台数は、自社の海外工場を下回るとされる。
経営側としては、韓国での生産を抑制して海外で生産した方が利に適う状況だ。
事実、現代自動車は国内工場を20年間増設せず、その間に米国、中国、インド、チェコ、ロシア、トルコ、ブラジルに生産拠点を立ち上げてきた。
2017年の海外生産台数は284万台と、国内の165万台を大きく上回る。
韓国GMでも労働争議が相次ぐ。
韓国GMは2002年にGMが政府系の韓国産業銀行から83%の株式買収で得た大宇自動車を前身とする。
韓国産業銀行は17%の株を保有、金融危機でGMが破綻したのを機に、2010年から2017年まで特別決議拒否権を保持していた。
ロイターによると、GMは韓国リスク(政策、労組、コスト)の低減が不可避との判断を踏まえ、2013年頃から韓国事業の縮小に踏み切ったとされる。
それでも労働組合の賃上げ闘争は経営側を圧倒し、韓国GMの平均給与も現代・起亜グループに続く水準にあった。
韓国GMの2016年までの3年間の純損失累計は2,000億円前後にのぼった。
さらに2017年には欧州市場を丸ごと失った。
GM本社が欧州市場からの撤退を決め、傘下のオペルをプジョー・シトロエンに売却したためだ。主要輸出先を欧州とし、オペルに欧州における販売網を依存していた韓国GMは、経営に大きな打撃を受けた。
それでも労組は基本給の7.2%アップ、成果給の5カ月分支給などを求め、交渉は2018年に越年して決着した。
結局、2017年の純損失は1,000億円を超え、韓国GMは2018年2月に4か所の生産拠点のひとつ、群山工場の閉鎖を決めた。これに労組は激しく抵抗した。
4月に経営側が成果給の支給見送りを表明すると労使対立がさらに先鋭化した。
そして一部の労組員が社長室を占拠した直後、GM本社はグループ会社の役員や従業員の韓国出張を事実上禁じた。
群山工場閉鎖に伴う配置転換や退職者の処遇、成果給見送りなどをめぐる労使交渉は、経営側が法定管理も厭わない姿勢で臨んだことから4月末に妥結した。
5月には韓国政府が、韓国GMが新たに発行する優先株のうち約1,300億円分を韓国産業銀行が引き受けることを認めた。
GMも保有株比率に応じた優先株との交換で、韓国GMに資金を供給する。
これにより資金繰りは一時的な改善を見たが、根本的な再建策は不透明なままだ。
部品メーカーの困窮もアキレス腱に
韓国GM騒動が決着をみた後、今度は一次ベンダーの経営破たんが複数続いた。
資金繰りに余裕がないため部品のリコールに対応できず、破たんを選択した企業もある。
一次ベンダーの資金繰り悪化の要因は複合的だ。
先ず、完成車メーカーの生産拡大を支えるために借りた設備投資資金の返済が、生産台数の減少の影響で滞りかねなくなった。
完成車メーカーによる部品の買い叩きも深刻だ。
これは、完成車メーカーが、自社のコスト上昇分を部品企業に転嫁して輸入車と競争する価格を維持してきた悪弊だ。
さらに部品メーカーが窮したのは、最低賃金の急激な上昇だ。
韓国では最低賃金は全国一律だ。2013年以降、最低賃金は物価上昇率を大きく上回る6.0%~8.1%で推移してきた。
これが文在寅大統領自らの肝いりで、2018年1月1日に16.4%引き上げられ、1時間あたりの最低賃金は7,530ウォン(2018年1月1日の為替レートで約794円)となった。
これにより韓国の最低賃金は、日本の東北6県、群馬、山梨、新潟、石川、福井、奈良、和歌山、中国4県(広島以外)、四国4県、九州・沖縄8県を上回る水準となった。
その後、ウォン安で円換算の韓国の最低賃金は750円を割り込み、10月初旬の日本の最低賃金改定後は全ての都道府県を下回ることとなった。
しかし韓国では2019年も1月1日に8,350ウォンへ、率にして10.9%の引き上げを予定している。
ルノー・日産アライアンスの軋みも不安要因に
韓国では、日産でのゴーン会長解任にも関心が寄せられている。
三星グループの自動車部門として創業したサムスン自動車は、日産の協力を得て1998年から自動車生産を開始した。
バブル崩壊で自動車需要が落ち込む中、サムスンからの技術指導の受託は、日産に好都合だったとされる。
この折、日産はサムスン自動車への出資には踏み込まなかった。
しかし、日産は1999年にルノーの出資を仰ぎ、サムスン自動車も生産開始から2年という速さで、2000年に経営破たんした。
サムスン自動車はその後、ルノーが株式の8割を取得しルノー・サムスン自動車となった。
経営再建に当たりルノー・サムスンは車種の独自開発をやめ、ルノーや日産の車種をベースにした共同開発に切り替えた。
さらにルノー・日産アライアンスは、米国日産が2013年からテネシーの工場で生産し北米向けに投入した小型SUV「ローグ」を、2014年からルノー・サムスンにも生産委託した。
これは米韓FTAの締結も踏まえたものとされる。
2017年のルノー・サムスンによるローグの生産は12万台余りで、同社の生産台数の45%を占める。
この事業の中心人物こそ、ルノー・日産アライアンスのゴーン会長だった。
一方、日産は、12カ国がTPPに署名した2016年から九州工場でもローグの生産を開始し、年間10万台程を北米に輸出している。ローグのルノー・サムスンへの委託生産契約は2019年9月までだ。またルノーとサムスンの合弁契約は2020年6月に期限を迎える。
日産とルノー・サムスンの間では現在も直接の資本関係はない。
ゴーン会長逮捕を受けて韓国のベンダー企業の間では、ルノー・日産アライアンスが軋み、ルノー・サムスンの経営を直撃しかねないという懸念が出た。
結局、11月30日、ルノー関係者はローグの生産委託を延長しない旨を明かした。
ルノーは別の車種の委託生産を検討中としているが、新車種の生産を受託できたとしても、ローグの穴を埋めることは難しいとみられている。
危機感を募らせる自動車部品業界
一次ベンダー約800社を対象に資金需要調査を行った韓国自動車産業組合は、10月22日、産業通商資源部に対して、3兆1,000億ウォン(約3,000億円)相当の緊急資金支援を要請したことを明らかにした。
内訳は、銀行からの借入金の満期一括返済分が1兆7,000億ウォン、設備投資が1兆ウォン、研究開発費が4,000億ウォンとされている。
満期一括返済への支援要請は、現在の自動車部品業界の事業環境を鑑みて、銀行からの借入金の満期借り換えが難しいことを織り込んだものだ。
韓国自動車産業協同組合の幹部は韓国経済新聞のインタビューに対し、
2018年上半期の上場部品メ-カーの利益率は2%に落ち込み、年間の生産台数は395万台にとどまるだろうとし、
資金繰り支援に加えて、最低賃金引き上げについての対応や週52時間労働制限の柔軟な運用も求める必要があるとしている。
週52時間労働制限は2018年7月から罰則付きで導入された政策だが、部品の納期厳守を困難にしていると評されている。
最低賃金引き上げも週52時間労働制限も、雇用拡大と労働者の収入増を図る文在寅政権の目玉政策だが、かえって経済情勢を悪化させるという指摘が政策立案当初からあった。
政府系シンクタンクの韓国開発研究院は10月23日、
「2014年以降の失業率上昇についての要因分析」というレポートを公表、
2014年から2017年までの失業率上昇は産業間での人材の需要・供給のミスマッチの影響が強いとしつつ、
2018年の失業率上昇については最低賃金の大幅引き上げに伴う企業の構造調整で、労働需要が全般的に縮小していると指摘した。
政府系シンクタンクが政府の政策を正面から批判したことは異例のことだ。
果たして韓国の自動車業界は四面楚歌を乗り切れるか。
業界関係者の間で危機感が共有される中、識者の間では、経済に疎く労働組合に親和的な現政権の下では、
自動車業界も金融支援で延命している造船業界の二の舞になりかねないという雰囲気が広がりつつある。
たそがれる韓国自動車産業
宇佐美 喜昭
(一財)国際貿易投資研究所 客員研究員
韓国の自動車産業に暗雲が垂れ込めている。
世界の自動車生産台数が増加している中、韓国国内での生産台数は2015年の456万台から2016年は423万台、2017年は411万台まで減少した。
当初、韓国自動車工業協会は2018年の展望を前年並みの410万台としていたが、自動車部品メ-カーを束ねる韓国自動車産業協同組合の幹部は400万台割れもありえるとし、苦境を吐露している。
四面楚歌に直面する自動車産業
韓国での自動車生産は、2011年の466万台をピークに、暫くはほぼ横ばいで推移していたが、ここ3年は減少速度が加速している(表1)。
韓国の自動車産業は、現在、四面楚歌に直面している。
海外では通商問題、国内では輸入車との競合、完成車メーカーは活動的な労働組合を抱え、部品メーカーには最低賃金の急激な引き上げという政策圧力が加わっている。
韓国車の国内販売は2015年159万台、2016年160万台、2017年156万台とほぼ横ばいだが、輸出は2015年の297万台から2017年には253万台に減少した。
先ず、通商問題を見てみよう。
中国との関係では2016年に、米国のミサイル迎撃システムTHAADの韓国配備計画を端緒として中国政府による韓国への冷遇が起きた。
これは中国の消費者行動にも影響し、自動車だけでなく広く韓国産品や韓国ブランドの中国での販売に大きな影響が出た。
対中関係は未だ改善せず、韓国車(中国での生産分を含む)の販売台数は、2015年比で半減以下のペースとなっている。
2017年には米国とも通商摩擦が生じた。
米国は米韓自由貿易協定(米韓FTA)について改定交渉の申し入れを行い、結果、2018年9月25日に、両首脳による文書への調印で妥結に至った。
自動車分野では、韓国製ピックアップトラックの非関税化を2021年から2041年に延期した他、米国仕様車の韓国への輸出枠を2万台から5万台に引き上げた。
これらは米国に工場を持つ日系自動車メーカーにとっては朗報だろう。
米国では、ピックアップトラックは自動車販売台数の過半を占め、今後も販売の増加が見込まれる車種だ。非関税化先送りが決まった後、現代・起亜グループは米国向け新型ピックアップトラックをアラバマ工場で生産する方向で検討に入ったことを明らかにした。
韓国自動車業界がさらに懸念しているのは、日EU経済連携協定の影響だ。
発効すると現行の日本車の関税10%が段階的に引き下げられ、8年後には撤廃される。
このため、日本車の価格競争力向上により韓国車の欧州輸出に陰りが出ることが見込まれている。
韓国の国内市場は輸入車が韓国車の市場をじわじわと蚕食している。
韓国での輸入自動車販売台数は、2017年は23万台で国内市場の13%を占める。
10年前と比較するとシェアは倍増した。
日本の輸入車販売台数のシェアが5.9%であることと比較すると、韓国の完成車メーカーへの影響の大きさが推察できる。
ひきずる労働組合問題
韓国最大の完成車メーカーである現代・起亜グループは、労働争議が多いことでも知られる。
相次ぐ賃上げ闘争により、正規社員の平均年収は円価換算で900万円を超え、日本や欧米メーカーを凌ぐ世界のトップクラスにあるとされる。
労働組合専従者は500人超。
2013年の賃上げでは実質的な年収倍増を要求した。
2018年の要求には、基本給の5.3%アップ、純利益の30%を原資とした成果給支給などが並ぶ。
一方で従業員一人当たりの自動車生産台数は、自社の海外工場を下回るとされる。
経営側としては、韓国での生産を抑制して海外で生産した方が利に適う状況だ。
事実、現代自動車は国内工場を20年間増設せず、その間に米国、中国、インド、チェコ、ロシア、トルコ、ブラジルに生産拠点を立ち上げてきた。
2017年の海外生産台数は284万台と、国内の165万台を大きく上回る。
韓国GMでも労働争議が相次ぐ。
韓国GMは2002年にGMが政府系の韓国産業銀行から83%の株式買収で得た大宇自動車を前身とする。
韓国産業銀行は17%の株を保有、金融危機でGMが破綻したのを機に、2010年から2017年まで特別決議拒否権を保持していた。
ロイターによると、GMは韓国リスク(政策、労組、コスト)の低減が不可避との判断を踏まえ、2013年頃から韓国事業の縮小に踏み切ったとされる。
それでも労働組合の賃上げ闘争は経営側を圧倒し、韓国GMの平均給与も現代・起亜グループに続く水準にあった。
韓国GMの2016年までの3年間の純損失累計は2,000億円前後にのぼった。
さらに2017年には欧州市場を丸ごと失った。
GM本社が欧州市場からの撤退を決め、傘下のオペルをプジョー・シトロエンに売却したためだ。主要輸出先を欧州とし、オペルに欧州における販売網を依存していた韓国GMは、経営に大きな打撃を受けた。
それでも労組は基本給の7.2%アップ、成果給の5カ月分支給などを求め、交渉は2018年に越年して決着した。
結局、2017年の純損失は1,000億円を超え、韓国GMは2018年2月に4か所の生産拠点のひとつ、群山工場の閉鎖を決めた。これに労組は激しく抵抗した。
4月に経営側が成果給の支給見送りを表明すると労使対立がさらに先鋭化した。
そして一部の労組員が社長室を占拠した直後、GM本社はグループ会社の役員や従業員の韓国出張を事実上禁じた。
群山工場閉鎖に伴う配置転換や退職者の処遇、成果給見送りなどをめぐる労使交渉は、経営側が法定管理も厭わない姿勢で臨んだことから4月末に妥結した。
5月には韓国政府が、韓国GMが新たに発行する優先株のうち約1,300億円分を韓国産業銀行が引き受けることを認めた。
GMも保有株比率に応じた優先株との交換で、韓国GMに資金を供給する。
これにより資金繰りは一時的な改善を見たが、根本的な再建策は不透明なままだ。
部品メーカーの困窮もアキレス腱に
韓国GM騒動が決着をみた後、今度は一次ベンダーの経営破たんが複数続いた。
資金繰りに余裕がないため部品のリコールに対応できず、破たんを選択した企業もある。
一次ベンダーの資金繰り悪化の要因は複合的だ。
先ず、完成車メーカーの生産拡大を支えるために借りた設備投資資金の返済が、生産台数の減少の影響で滞りかねなくなった。
完成車メーカーによる部品の買い叩きも深刻だ。
これは、完成車メーカーが、自社のコスト上昇分を部品企業に転嫁して輸入車と競争する価格を維持してきた悪弊だ。
さらに部品メーカーが窮したのは、最低賃金の急激な上昇だ。
韓国では最低賃金は全国一律だ。2013年以降、最低賃金は物価上昇率を大きく上回る6.0%~8.1%で推移してきた。
これが文在寅大統領自らの肝いりで、2018年1月1日に16.4%引き上げられ、1時間あたりの最低賃金は7,530ウォン(2018年1月1日の為替レートで約794円)となった。
これにより韓国の最低賃金は、日本の東北6県、群馬、山梨、新潟、石川、福井、奈良、和歌山、中国4県(広島以外)、四国4県、九州・沖縄8県を上回る水準となった。
その後、ウォン安で円換算の韓国の最低賃金は750円を割り込み、10月初旬の日本の最低賃金改定後は全ての都道府県を下回ることとなった。
しかし韓国では2019年も1月1日に8,350ウォンへ、率にして10.9%の引き上げを予定している。
ルノー・日産アライアンスの軋みも不安要因に
韓国では、日産でのゴーン会長解任にも関心が寄せられている。
三星グループの自動車部門として創業したサムスン自動車は、日産の協力を得て1998年から自動車生産を開始した。
バブル崩壊で自動車需要が落ち込む中、サムスンからの技術指導の受託は、日産に好都合だったとされる。
この折、日産はサムスン自動車への出資には踏み込まなかった。
しかし、日産は1999年にルノーの出資を仰ぎ、サムスン自動車も生産開始から2年という速さで、2000年に経営破たんした。
サムスン自動車はその後、ルノーが株式の8割を取得しルノー・サムスン自動車となった。
経営再建に当たりルノー・サムスンは車種の独自開発をやめ、ルノーや日産の車種をベースにした共同開発に切り替えた。
さらにルノー・日産アライアンスは、米国日産が2013年からテネシーの工場で生産し北米向けに投入した小型SUV「ローグ」を、2014年からルノー・サムスンにも生産委託した。
これは米韓FTAの締結も踏まえたものとされる。
2017年のルノー・サムスンによるローグの生産は12万台余りで、同社の生産台数の45%を占める。
この事業の中心人物こそ、ルノー・日産アライアンスのゴーン会長だった。
一方、日産は、12カ国がTPPに署名した2016年から九州工場でもローグの生産を開始し、年間10万台程を北米に輸出している。ローグのルノー・サムスンへの委託生産契約は2019年9月までだ。またルノーとサムスンの合弁契約は2020年6月に期限を迎える。
日産とルノー・サムスンの間では現在も直接の資本関係はない。
ゴーン会長逮捕を受けて韓国のベンダー企業の間では、ルノー・日産アライアンスが軋み、ルノー・サムスンの経営を直撃しかねないという懸念が出た。
結局、11月30日、ルノー関係者はローグの生産委託を延長しない旨を明かした。
ルノーは別の車種の委託生産を検討中としているが、新車種の生産を受託できたとしても、ローグの穴を埋めることは難しいとみられている。
危機感を募らせる自動車部品業界
一次ベンダー約800社を対象に資金需要調査を行った韓国自動車産業組合は、10月22日、産業通商資源部に対して、3兆1,000億ウォン(約3,000億円)相当の緊急資金支援を要請したことを明らかにした。
内訳は、銀行からの借入金の満期一括返済分が1兆7,000億ウォン、設備投資が1兆ウォン、研究開発費が4,000億ウォンとされている。
満期一括返済への支援要請は、現在の自動車部品業界の事業環境を鑑みて、銀行からの借入金の満期借り換えが難しいことを織り込んだものだ。
韓国自動車産業協同組合の幹部は韓国経済新聞のインタビューに対し、
2018年上半期の上場部品メ-カーの利益率は2%に落ち込み、年間の生産台数は395万台にとどまるだろうとし、
資金繰り支援に加えて、最低賃金引き上げについての対応や週52時間労働制限の柔軟な運用も求める必要があるとしている。
週52時間労働制限は2018年7月から罰則付きで導入された政策だが、部品の納期厳守を困難にしていると評されている。
最低賃金引き上げも週52時間労働制限も、雇用拡大と労働者の収入増を図る文在寅政権の目玉政策だが、かえって経済情勢を悪化させるという指摘が政策立案当初からあった。
政府系シンクタンクの韓国開発研究院は10月23日、
「2014年以降の失業率上昇についての要因分析」というレポートを公表、
2014年から2017年までの失業率上昇は産業間での人材の需要・供給のミスマッチの影響が強いとしつつ、
2018年の失業率上昇については最低賃金の大幅引き上げに伴う企業の構造調整で、労働需要が全般的に縮小していると指摘した。
政府系シンクタンクが政府の政策を正面から批判したことは異例のことだ。
果たして韓国の自動車業界は四面楚歌を乗り切れるか。
業界関係者の間で危機感が共有される中、識者の間では、経済に疎く労働組合に親和的な現政権の下では、
自動車業界も金融支援で延命している造船業界の二の舞になりかねないという雰囲気が広がりつつある。
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