スケッチブック

しずかに、のんびり、ゆるやかに

ノンフィクション3

2017-10-19 20:43:22 | small talk
清潔で
断捨離のゆきとどいた故人の家で
長年だいじにしまわれてきた、
「恋文」のメモの束を
持ち帰ることにしました

往復書簡
・・の、ようなもの



帰りの電車に揺れながら
母のおしゃべりに、うわのそら

どう処分したものか・・



悩んだ末
いま、目の前で焼いております

うちには
ドラム缶もないし
庭も狭いし

どう焼いたものか・・

悩んだ末
捨てる予定のフライパンで
焼いております

ちぎり、ちぎり、
ライターで火をつけては
5片くらいづつ

カチ、めらめら
くしゃくしゃ・・

炎を見てると、不安になってくる

わたし、なにやってるのかしら・・
正気かしら?
魔女かしら?



でも、これは
故人のだいじなもの

迂闊に、生ゴミと一緒には
捨てれない
誰の目にもふれずに
天の故人へ届けたい

誓って、わたしも、読んでいません



捨てたほうがよい、とわかっていても
捨てられなかった思い出
ちらり、今年の日付も見えました

帰ってきたかっただろうな、自宅に・・
まさか、退院できなくなるなんて・・
きっと思ってなかったのです



火がついて、めらめら
小さな黒い炭がくしゃ、とくずれる

きもちが沈んでいくし
わたしまで、炭になっていくような気になるし

ああ、間違ったことをしてたらどうしよう
ごめんなさい

カチ、めらめら
くしゃくしゃ・・



でもこれは
故人をしあわせにしていた紙片たちだもの

ありがとうございます
なむなむ


あとかたもなく
消えて、煙になりました

なむなむ・・






ノンフィクション2

2017-10-19 18:27:43 | small talk
ひとりぐらしだった故人の家

アクセサリーを作っていた伯父は
5年前に、仕事を納めたので
バーナーや、作業台はすがたを消してました

さっぱりかたづいた仕事部屋のすみっこに
なつかしい書類引き出しがふたつだけ

母が
「古くて、だれも使わないから処分するのよ」
というので

引き出しを8つ
おごそかに開けていくと
まるで、ハモニコ事務箱のよう・・

それもまた、なみだの素でした

アクセサリー製造の名刺、領収書
納品伝票、ヤマト便の送り状
文房具、ルーペに・・
手描きのアイディア覚え書き



母が、ペラペラめくりながら
「わあ、古い伝票、とってある」

断捨離派の叔父さんが
何十年も前からの伝票を・・?

たぶん、それは
いつものお仕事以外の
オーダー品の領収書(控)

わたしも、宝物と思って
とってあります

捨てられなかったに違いなく・・
(ほろり)

黒光りの道具たち
いぶし銀の工具たち

母が
「やだわ、なにこれ」

突如、故人の歴史の中から
細かな文字の書かれたメモ書きが
眠っていたのを起こされたように、
不機嫌に、なんだなんだと、こぼれ出てきました

文字の羅列を見て、あ、と思い
母の手から、黒革のケースを奪う

「やだわ、なにこれ」

こぼれたメモを
黒革のケースに、おしこみながら
ち、と、故人の舌打ちが聞こえる・・

おかあさん、見ちゃいけないよ
深くかんがえちゃだめ
こんなこともあるよ
(じぶんでも、なにを言ってるのか、よくわかっていない・・)
これはわたしが
処分しておきます

「う、うん、わかった、おねがいね
こんなのひとにみられたくないわね・・」

いえいえ
男子の常識みたいなものだから、だいじょうぶ
(てきとうに言ってみる・・)
おかあさん、もう3時半・・

「たいへん、帰らないと。ごみをまとめましょ」
母は、時間を気にして
けろりと動き出しました


黒革のケースの中のそれらを
とりあえず
恋文、としておきましょう
目を通さずに、目につかないように
はやく処分しないといけません


つづく