京都府宮津市小田採石場(中ノ茶屋)産。ヤフオクです。
アンティゴライト(Antigorite、葉蛇紋石)はサーペンティン=蛇紋石の一種。名前は原産地イタリア・ピエモンテのアンティゴリオ渓谷から。
和名が示すように、薄い層構造をしている。蛇紋石がこんなにキリっとしているなんて、ちょっとびっくり。
こういう石石した石(は?)は華麗さはないけど、力強くて魅力的ですねえ。
サーペンティンの主要多形には、
クリソタイル(単斜、斜方)
リザーダイト(六方)
アンティゴライト(単斜)
がある。このうちクリソタイルは中空の極めて細い繊維状で「白石綿」と呼ばれる。アンティゴライトとリザーダイトはシート状。アンティゴライトは比較的少ない。
アルミニウム欠乏環境でできる。アルミが豊富にあると緑泥石ができやすいとか。
* * *
さて、このサーペンティン主体の蛇紋岩。サーペンティナイト。
前記事で地味ーで根暗とか書いたけど、どうもけっこう重要な岩石らしい。
まず、この蛇紋岩が主体になった「海山」がある。
伊豆-小笠原-マリアナ島弧、通称IBM弧というのがあって、これは太平洋プレートがフィリピン・プレートの下に沈み込み、そこで例の「水による玄武岩マグマの生成」が起こって、たくさんの海底火山島が列になってできている。それらはプレートの移動に伴って日本列島に向かって突進してきていて、伊豆半島はすでに列島にぶつかった火山島。主に安山岩でできていると考えられている。
ところが、このIBM弧の「前弧域」には、いくつもの「非火山性の円錐台形海山」があり、これは蛇紋岩でできているらしい。は?
これらは、「初期島弧火成活動に関与した、かつてのマントル・ダイアピル(マグマ塊)が部分的に大量の水を取り込んで蛇紋岩となり上昇してきたものの名残である」という説が出されている。(石井輝秋:ダイアピル的蛇紋岩海山)
難しいですね。沈み込み帯で下側(太平洋プレート)に含まれていた水が、上側(フィリピン海プレート)の下にせり出した「マントル・ウェッジ」に移動し、玄武岩マグマが作られる。それが上昇して上側の玄武岩地殻を溶かして安山岩マグマを作り、それが上昇して火山噴火が起きる。これが「島弧火成活動」。しかし前弧海山では噴火が起こらず、発生した玄武岩マグマが水を含んで蛇紋岩になり、それが上昇して山を作った、ということでしょうか。
IBM弧の「島弧火成活動」は原始地球における大陸地殻発生のモデルと考えられています。そうやってできた島弧が集まって大陸ができたのだ、と。そこに「蛇紋岩主体の海山」が入るとどうなるのか。島弧と共に大陸地殻を作るのか。沈み込んでいって消滅するのか。それはよくわかりません。もし大陸地殻に組み込まれるなら、蛇紋岩も大陸形成にいくぶん関与しているのかも。
しかしですねえ、よくわからないのが、マントルの橄欖岩が溶けて玄武岩マグマになり、それが固まって玄武岩となって海洋地殻を作るとされているわけですけど、橄欖岩に水が混じると蛇紋岩ができる。初期海洋地殻の形成において蛇紋岩はできなかったのでしょうか。また、噴火しなかった玄武岩マグマが蛇紋岩化するのなら、地球のあちこちで蛇紋岩の巨大塊が埋もれているということになるのでしょうか。ううむ。
さて二番目。
こうした蛇紋岩海山周辺では、「湧水」現象が見られるのだそうです。
そして重要なことは、その水には橄欖岩が蛇紋岩に変化する「蛇紋岩化作用」によって、水素やメタンが含まれており、特にそこに含まれる「アセチルCoA」は、地球生命の基本的な生化学的経路に不可欠な物質である。そこから、蛇紋岩海山帯のの熱水噴出孔は地球生命誕生の候補地ではないかとも考えられている。参照:大柳良介:海亀海山の蛇紋岩研究史
すごいではないですか。蛇紋岩は生命の母?
ある科学者からは、蛇紋岩は「生命誕生に必須の6つの鉱物」の一つとも提唱されているそうです。Six 'Must-Have' Minerals for Life's Emergence: Olivine, Pyrrhotite, Bridgmanite, Serpentine, Fougerite and Mackinawite:Michael J Russell, Adrian Ponce, Life, 2020.
おまけ。蛇紋岩は二酸化炭素を含み込む能力がある。そこで現在問題になっている大気中の二酸化炭素を地下の蛇紋岩層に送り込むことで減らすことができるのではないかと検討されている、とのことです。まあこれは余計な話か。
蛇紋岩、「影の大立者」ではないですか。
地味で根暗などと言ってすまん。
〔えへん。〕
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