俺はバイクが好きだ。まだ250CCのバイクだが、いつかはハーレーダビットソンに乗るつもりだ。この間ハーレーがデモしていた電気ハーレーダビットソンは素晴らしかった。電気で回るモーターの音はまるでジェット機である。ガソリンエンジンでハーレー特有のポタイトポテイトと言うダサい音ではない。ハーレー好きの人達にはこの音がたまらないらしいが、俺には時代遅れに聞こえる。
休みにはかならずツーリングで遠出する。今日は何故かツーリングの途中で俺は彼女に呼び出された。彼女の家の近くのガストで待っていると、アイビーファッションで身を包んだ彼女が現われた。俺はいやな予感がした。
「どうしたんだいアイビーなんかで?」
「お母さんに借りて来たの、昔流行ったハマカジらしいけど、私はアイビーなんかに全然興味がないのよ。あなたは好きだったはわね」
「好きだね、あの昔から変わらない定番。良い物っていつの時代も変わらないんだ」、俺はますます不安になって来た。多分、俺の嫌な予感は的中する。
「ガストにはアップルサイダーはないのね、代わりにアップルティーを持って来た」ドリンクバーだけオーダーした彼女は飲み物を取りに行った。
俺の嫌な予感はほぼ100%的中だ。
「ごめんなさい、もうわかっていると思うけど、私これ飲んだら帰るけど、あなたはもう、そのツーリングとやらに行ってもいいのよ」
やはり予感が当たった。片岡義男さんの「アップルサイダーと彼女」と言う短編小説集の中に、アイビーファッションに身を包んだ彼女が別れを告げる小説がある。オートバイ好きの俺は彼女にオートバイ小説の多い片岡義男さんの本をかなり貸した事を思い出した。いつかは彼女とタンデムと思っていたが、当分また一人のツーリングとやらが続きそうだ。