アートを言葉で表現することは困難だ。著者のように豊富な知識と実際に観に行き、体験し、それを
文章化できるボキャブラリーが必要だ。本書ではグローバルなモダンアートを、その風土に絡めて語
った「芸術風土記」エッセイであると帯にもある。
著者の言う、放浪の味のする絵画、明媚な港町を描いた亀山全吉という画家の話から始まる。著書の
郷里「絵のまち」として知られる尾道は不思議芸術都市であった。そして著者の母は亀山全吉の印象
を変人として記憶していたようだ。アートにとても近い環境にある尾道は私もいつか訪れたいと密か
に思っていた。
イサム・ノグチは以前から大変興味のあるアーティストで、確か現代美術館に作品を観に行った記憶
があるが、あの巨大なエナジーボイドはやはりあるべき場所で観るべきもので、香川高松にも行きた
いし、札幌市モエレ沼公園も訪れたい。
アメリカのジョセフ・コーネルの話も大変興味をひかれた。コーネルは箱師で、一抱え位の大きさの
木の箱にガラス窓をはめ込んで、その中にマンハッタンのガラクタ屋で見つけてきた他愛のないおも
ちゃの如きものを詰め込んだ作品を作り続けたという。この作品、ウォーホルにもポロックにも比肩
するぐらい市場での価値が高いそうだ。彼がマリリン・モンローに自作の作品を送りつけたが気味悪
がられて棄てられたというエピソードは面白い。
ガウディなど建築についても紹介しているが、やはり実際に現場に赴き、実物を目にして書いている
モノは伝わってくる内容に迫真を感じる。本書を読み、アーティストや作品を知って出かけていくの
も一興だ。
時を超える美術 新見隆 光文社新書