平成を迎える頃、アパレルはすでに厳しい状況に陥っていた。原価を下げるために海外生産が異常に
増加し、供給が需要を上回り、在庫が積み上がり、セールはドンドン前倒しで、正価で購入すること
が馬鹿馬鹿しいと思えるようになった消費者が増え、販売価格は下がり続け、ユニクロが高いという
若年層が増えたことで、全体の価格は引き下げられた。元々高い利益率があらゆる問題をスルーして
きたが、コロナ禍はその全てを一気に吹き飛ばす威力があった。
コロナによる緊急事態宣言は百貨店、小売店を直撃し、軒並み休業を余儀なくされ、売り上げは激減
し、重くのしかかる運営費、人件費にアパレルは瀕死状態に陥った。地方百貨店は閉店が相次ぎ、ブ
ランドは廃止され、街中にあった小売店も減少傾向にある。
2020年に書かれた本書で著者はリモートワークが定着して都心に出かけることも少なくなり、ラ
イフスタイルも仕事軸から生活軸に変わって人生観まで変わっていくと予想しているが、確かに人々
の意識に変化の兆しは見られるが、大企業を中心にリモートワークは減り、通勤電車は混雑している。
ただ、人から見られる服装に対する意識は相当変わってしまい、物価高に追いつかない低賃金に服装
まで手が回らない実情がある。
著者はアパレル業界が顧客を見ていないと警告する。一方的な発信で感性の需給ギャップを、過大供
給で量の需給ギャップを引き起こすのは「顧客を見ない見切り発車だ」と断じている。そこから「需
給一致デフレ・サステナブルシステム」への転換を提唱している。これは日本の大企業偏重主義への
提言でもある。普段着としてのファッションは大企業が製造販売すれば事足りるが、物足りない思い
を抱く人々は必ず居る。製造販売業が必ずしも、大きな売り上げを目指さないくてもいいと考える。
アパレルの終焉と再生 小島健輔 朝日新書