本書の帯にある「自由の名のもとに力が言論を支配し、多くの人びとが絶望の淵に追いやられ、力あるものの
繁栄だけがもたらされた歴史のあやまちを、僕たちは二度と繰り返してはならない」は全くその通りと思うが、
読み進めると、結論が、消費税増税にたどり着くという財務省が喜ぶ内容でした。
まず日本の経済を中心とした歴史のおさらいから始まりますが、気になったのは国民皆年金、皆保険が始まっ
た時の首相、池田勇人は「生活困窮者の救済とか、結核病床を増すというような、いわゆる福祉行政に国費を
注ぐこと」を否定し、同じく首相経験者の大平正芳は若い頃に「社会化は国民の活力を阻むものであってはい
けない。遊んでいても喰える、病気になった責任も回避できるということになれば、これは確かに天国に違い
ないが、然しそれ丈に国民の活力と自己責任感が減退することになる」と述べているという。これは自民党の
中に脈々と流れている国民を下に見る意識の表れで、岸田政権の大企業に補助金を出して、儲けさせた後に、
少しだけ電気代やガソリン代の値下げに回してという政策の元になっている。
財政学者で慶応教授の著者の数字を多用した論理には思わず惑わされそうですが、例えば消費税の逆進性の解
説で「ぜいたくなものをより多く買っている富裕層のほうが、まずしい人たちよりも消費税の負担額はかなら
ず大きくなっている」とするが、富裕層は生活費の割合が低く、いわゆる贅沢品は頻繁に購入する訳ではない
ので前提がオカシイ。さらに、「消費税が経済成長のトレンドを低下させるという主張はまったく根拠がない」
というが、私は営業で廻っていた時に消費税増税により、多数の顧客(小売店)から何度も消費者の購入意識
に変化があったと訴えられた。教鞭をとっているだけでは分からないかもしれない。
日本の長期にわたる経済の低迷(大企業は別にして)は国民の政府に対する不信と将来に対する不安が原因と
みる。一例を挙げれば、政府のコロナ対策予算で、その効果も、政策の是非も全然検証されずに多額の税金が
使われている。これを追及せずに経済の立て直しは不可能だ。
欲望の経済を終わらせる 井手英策 インターナショナル新書