日本において、かつては「一億総中流時代」があった。一所懸命に働けば、それなりに見返りがあり、
ある程度の生活が保障されていて、一応プライドも保つことが出来た。本書第1部 中流危機の衝撃
は日本の厳しい現実がリアルで暗い内容だ。働く人にも雇用する側にも重くのしかかる現状は打破す
ることが不可能とさえ思えてしまう。
第2部 中流再生のための処方箋は希望の光を見出すことが出来て明るい気分になることが出来る。
最近よく耳にする「リスキリング」がカギだ。リスキリングとは「いま持っているスキルをレベルア
ップさせるものとは異なり、事業環境の変化に合わせて、新たな業務に必要な職業能力を習得させる
こと」
ドイツでは「インダストリー4.0」と銘打って2011年から製造業の転換を図っている。例えば自動車
部品工場で30年働いていたマーティン・コベツキー(当時52歳)さんは工場閉鎖により解雇され、
国の職業訓練制度を使って、ビッグデータを分析する講座を半年間学び、システムエンジニアに転
身している。使用期間中は以前より収入が減るが、徐々に増えていく見込みで、体調も良くなった
という。ドイツでは「インダストリー4.0」と銘打って2011年から製造業の転換を図っている。
日本でも日立製作所がデジタル事業に先行投資して業績は絶好調だ。2022年度連結決算は、純利益
が前年度比11.3%増の6491億円となり過去最高益を更新、連結売上高10兆8811億円のうち、約1兆
9600億円はデジタル技術を使ったソリューション事業が占めている。
日本では体力のある大企業が先鞭をつけているが、9割以上を占める中小企業では暗中模索状態が続
く、ドイツのリスキリング、オランダの同一労働同一賃金のように国を挙げて取り組んでいる成功例
があるが、既得権益を守る傾向が強い自民党、公明党が中心では期待できない。おそらく気が付いた
企業が自ら変革していくことでしか、道を開くことは出来ない。
中流危機 NHKスペシャル取材班 講談社現代新書