新宿ゴールデン街で呑んだことはありませんが、一度新宿に遊びに行って迷い込んだこと
があります。本書では、その中の一軒「ナベサン」のマスターでこの街とともに生きてき
た著者が歴史と現在(1986年位まで)を描いています。
「新宿」新しい宿は、元禄十一年(1698年)に浅草安倍川町の名主喜兵衛らが、宿場の開
設を幕府に願い出て、権利金を上納して営業権を確保したところから始まります。宿場の
旅籠屋では、足洗い女、飯盛り女を置いていていましたが、彼女らは遊女や売春婦でもあ
りました。それで遊郭の経営者のモットーは「お上に逆らわず、従わず」。やがてこの辺
りは遊郭の色を濃くしていきます。
新宿は関東大震災以後、東京の西郊における一大中心地となり発展していきます。それが
太平洋戦後闇市が大きくなり、占領軍の露店取り払い令が出て、区画整理が始まり、新宿
ゴールデン街の歴史が始まります。
ゴールデン街は二百七十軒の呑み屋が密集することにより、文化を担う人々の憩いの「場」
を提供しました。そこには作家、詩人、評論家、映画、演劇関係者が集い、マスコミ等の
関係者も日参することで、異様なエネルギーを醸し、銀座、赤坂とは異なる文化圏が形成
されました。
新宿ゴールデン街 渡辺英綱 晶文社