「廃炉」を目指している東京電力福島第一原発のその後を報道等では、殆ど見かけることが無い。政府では原発
再稼働が優先されるため、不都合な報道は控えたいだろうし、日本の大手メディアは目先の事件、事故を報じる
為に、過去に起きた事案を追いかけて報道することは少ない。本書は10年以上福島第一原発事故の収束を取材
し続けている著者があえて主観も大いにまじえ、その現実を国民の前にさらけ出している。
「廃炉は30年~40年で完了する」とは私たちが聞かされていた話だ。しかし、事故から10年以上経ってい
ながら、使用済み核燃料の取り出しは滞り、炉心溶融(メルトダウン)で溶けた燃料(デブリ)は取り出す方法
すら見当たらない、という。そもそも何を持って廃炉というかの定義すらない。
画像、図が豊富で非常に分かり易く、著者の丹念な取材が現在までの紆余曲折を読者に真実味をもって伝えてく
れている。そして政府、省庁、東電の右往左往ぶりが生々しく、なるべく現実を直視することを避けたい様子が
見える。「凍土壁」に関しても、当時効果がないという記事を読んだ記憶があるが、何故かごり押しされ、実際
には意味がないものになったようだ。
2020年には「福島第一原子力発電所廃炉検討委員会」が廃炉には最低でも100年かかり、その時点での廃
棄物は約780万トンになるというレポートを出した。著者の見解では、政府、経産省が、いつまでも実効性の
ない東電再生計画を振り回すべきではない、としている。
日本は過去から何も学んでいないことがよくわかる本だ。キチンと論理的に話を進めることが出来ずに、自分達
のメンツばかりを気にして、地元の将来、さらには日本の未来を危うくする政治家、官僚、大企業幹部たちばか
りが登場し、大いに失望させられる。私たちが知ることは必要だ。そしてよく考えなければいけない。改めて思
い知らされた本だ。
「廃炉」という幻想 吉野実 光文社新書
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