本書が取り上げているのは江戸時代・寛永から承応の頃(1624~54年)、三代将軍徳川家光の
時代の萩藩(長州藩、毛利家)留守居役の活動です。留守居役とは江戸藩邸に詰めて、幕府や
他藩などと折衝にあたる藩の外交官で、本書の主人公、福間彦衛門尉就辰(ひこえもんのじょ
うなりたつ)の活躍ぶりが詳細に書かれています。
就辰は江戸表常駐で、寛永五年、家督を継いで十一年におよぶ御側奉公と江戸勤務の褒美とし
て、御役を免除され、いったん休息し、同九年に再び任命され百石の加増されるほどに藩主の
厚い信頼を受けています。
留守居役としての彦衛門(就辰)の日常は藩主の秘書として、藩主の登城時には、さきに城に
到着し、落ち度がないよう気を配り、藩主が老中宅を訪問するときも先行します。勿論、日本
的根回しが最重要で幕府の有力者やその家臣、下目付、御城坊主への挨拶、彼らとの関係性を
保つために日々努力しなければなりません。
江戸においての藩中の者の関わる事件、他藩との様々な軋轢でも幕府の実力者による協力、斡
旋、指示は重要で彦衛門はその度に老中、旗本、奉行と連絡を取り、訪問をし、事件解決に動
きます。本書中、最大の事件「由井正雪の乱」では正雪の弟子が毛利家に多数いるとの報せを
老中から内々に受け、彦衛門が大活躍します。
彦衛門は六十歳をこえる、ほぼ二十年間留守居役を務め退きますが、役目を退いた後も頼りに
され、引継ぎの活動を続けたほどです。この後にはいいかげんな情報を流すとか、主君の金で
贅沢な寄合を行う評判の悪い留守居役が現れますが、彦衛門が知ったら激怒したことでしょう。
江戸お留守居役の日記 山本博文 講談社学術文庫
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