私が営業の仕事をしていた時の取引先の近くに本書に登場する五反田「海喜館」がありました。
駅から徒歩3分の場所に樹が生い茂った古色蒼然とした建物があり、異様な雰囲気だったのを
覚えています。そこが後に積水ハウスに55億円という被害をもたらす前代未聞の詐欺事件
(2017年)の舞台になるとは思いもしませんでした。
「地面師」という言葉を知ったのは、この事件が表沙汰になり報道されてからですが、事件の
概要はよく分からないままで、なぜ?積水ハウスほどの大企業が騙されてしまったのか、謎で
した。本書を読んで複数の人間がからんだ複雑な手口、用意周到な犯人たちの動きは驚きしか
ありません。何しろ地面師たちは不動産取引に必要な書類を偽造するというより、同じものを
作れるそうです。たとえば印影さえあれば、3Dプリンタを使い実印を作り、精巧な書類を作
成するとか、偽の実印で改印し、新たな印鑑証明を作り直すという。
犯行グループは「主犯格」、地主本人と称するなりすましの演技指導をする「教育係」、なり
すまし役を見つけてくる「手配師」、パスポートや免許証などの書類を偽造する「印刷屋」、
振込口座を用意する「銀行屋」さらには法的手続きを担う弁護士、司法書士の「法律屋」に至
るまでそれぞれに役割が分担されています。
一つの案件に何人もの人間がかかわり、複数の会社(ペーパーカンパニーも含む)を通し、例
え犯行に携わっていたとしても「自分は知らなかった」「自分は被害者だ」と供述する者たち
が多く、立証が困難になるという警察にとっても厄介な事件です。
著者は現場を歩き地道な取材を続け、関係者にもインタビューを重ね、事件をあぶりだしてい
きます。全く知らない世界をまた一つ知ることが出来ました。
地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団 森 功 講談社文庫
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