白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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囲碁アイドル&書評・第14回 どん底名人

2017年11月11日 22時09分38秒 | 書評

皆様こんばんは。
本日は永代塾囲碁サロンにて、講座と指導碁を行いました。
毎月第2土曜日が指導日となっています。

最近、永代塾では囲碁アイドルなる企画を始めたようですね。
囲碁初心者のアイドルが毎週成長していく様を、ファンが見守るというものです。
ある意味では、NHKの囲碁フォーカスに似ている気もしますね。
あちらも聞き手にはあまり強い人は採用しておらず、読者と一緒に学んでいくような形になっています。
前任の戸島花さんは、最終的には見事初段になって卒業していきましたね。

ただ、囲碁フォーカスは講座なので視聴者が主体ですが、囲碁アイドル企画においてはアイドルが主体です。
早い話、碁のルールを全く知らない方でも、まず視聴から入る可能性があるわけですね。
従来は囲碁のルールを覚える→番組を楽しむ、という流れが基本でしたが、逆の流れも期待できます。
企画の名前だけ見ると軽いイメージを受けますが、講師陣も囲碁に打ち込んできた方ばかりなので、囲碁自体を軽く扱うことは無いでしょう。

新しい試みだけに、成功するかどうかは未知数です。
正直なところ、商業的には厳しいのではないかとも思っていますが・・・。
しかし、意欲的な試みは応援したいですね。
成功するか分からないチャレンジは、なかなか我々の組織ではできないことです。



さて、本日は発売されたばかりのどん底名人をご紹介しましょう。
タイトル獲得数35の大棋士、依田紀基九段がこれまでの人生を自らの手で振り返る、一種の自伝のようなものかもしれません。
ただ、ゴーストライターを使わず、依田九段自身が文章を書いていることもあって、深い所まで踏み込んだ内容となっています。
自身の欠点や失敗がこれでもかというぐらい書かれており、依田九段の本気度が伺えます。
本書を遺言と称するだけありますね。
本日購入して、一息に読み終えました。

囲碁界は極端に実力重視の世界であり、そこに生きる棋士は世間一般の人々とは違った常識や感覚を持っています。
近年は加藤一二三九段を筆頭に、将棋界の方に突き抜けた方が多い印象ですが、かつては囲碁界も負けて(?)いませんでした。
古くは呉清源九段や藤沢秀行名誉棋聖など、そして現役の棋士なら例えば・・・おっと、それはやめておきましょう(笑)。

ともかく、破天荒と言われる棋士は多かったのです。
しかし、それはあるいは依田九段が最後になるかもしれません。
その下の世代では、一見すると普通に見える棋士が多くなりました。
囲碁界だけでなく、世の中全体が変わったのでしょう。

ところで、依田九段は物凄い記憶力を持っていることでも有名です。
子供の頃の会話や食事メニューなどを、何故克明に思い出せるのでしょうか・・・。
碁以上に才能の差を感じます。
依田九段の記憶力は、本書の執筆にも存分に生かされたようです。
自身のことはもちろん、他の棋士などのエピソードも語られており、興味深いところです。
例えば、先に挙げた藤沢名誉棋聖は数々の逸話を残していますが、多少は尾ひれがついているだろうと思っていました。
しかし、依田九段が語ることで、真実味を帯びてきますね・・・。

依田九段は、本書を通して自身の子供たちに語りかけています。
自身の経験を次世代の役に立てたいということで、これは確かに「遺言」です。
成功体験も失敗体験もとてつもなく大きく、読者は人生にはこんなこともあるのかと驚かされるでしょう。
こればかりは、普通の人には決して語れないことですね。

ただ、1つだけ突っ込みたいのですが・・・。
本書は、子供に読ませるには手加減の無い表現が多くありませんか?
そこもまた依田九段らしいですね。