白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

Master対棋士 第18局

2017年02月18日 22時21分06秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
本日はMasterの対局をご紹介します。
今回登場するのは中国の柯潔九段です。
世界最強とも言われる棋士が、最強のAIに立ち向かいました。



1図(実戦)
どちらが黒か、言うまでもありませんね(笑)。
全60局の中で、黒3、5の2間締まりはこの碁が初出です。
この2間締まりですが、実は元々愛用する棋士も何人かいたのです。
ただし、隅を荒らされやすいので、多くの棋士はこの構えでは勝ちにくいと判断していました。

ところが、Masterがこの構えを採用した事で棋士の対局にも変化が表れました。
国内では記録係が付く対局が週に20局ほどありますが、最近では毎週誰かが2間締まりを打っています。
上手く行くかどうかはともかく、まずは試してみようという所でしょうね。
ちなみに私の勘では、人間には使いこなすことは難しいような気がしています。

左下黒7の肩ツキは、もはやお馴染みですね。
2間締まりと合わせて、碁盤を大きく使う作戦と考えられます。





2図(実戦)
黒4と大ゲイマにカカった手がまた独特です。
左下を打つなら、黒Aのカカリを考える棋士が殆どでしょう。





3図(変化図1)
黒1には、白6までの進行を嫌ったのではないでしょうか。
将来白Aの打ち込みから、黒4子を攻められる可能性があります。





4図(変化図2)
そこで黒1と遠慮しておき、白2なら黒3あたりに開く予定でしょう。
後に黒A、白B、黒Cと白を閉じ込める手が残っており、黒△は強い石です。
黒1は周囲の石との関係性を重視した手と考えられます。





5図(実戦)
白1、3と生き、左下の戦いは一段落です。
ここで、前図と比較すると白△の3手を打たせている事に注目してください。
これは当然白にとって大きなプラスです。

しかし、左下の黒ががっちり生きており、左辺の黒も△が加わって手厚くなっています。
こちらのプラスの方がより大きいという事でしょう。

時には足早に、時には手厚くといったように、その場その場で判断しています。
Masterに棋風は無く、手の良し悪しを判断するのみです。





6図(実戦)
黒1、3とは、随分深々と踏み込むものです。
凌ぐというより、白△の連絡の薄みを衝こうとしています。
戦いになれば、左下黒の厚みが働くとみているのですね。





7図(実戦)
結局、強引に白△を取り込んでしまいました。
白はその代償に右辺を白地にして、さらに白1と、黒△に攻めかかりますが・・・。





8図(実戦)
ここで黒1、3、5の動きが、何とも軽快ですね。
黒A~Cなど、様々な手を見ています。
右上の黒を助けるかどうかは、白の打ち方に応じて柔軟に判断するつもりです。
この後大きな振り替わりはありましたが、黒の優位は動きませんでした。

棋戦のシステム

2017年02月17日 23時59分59秒 | 囲碁について(文章中心)
皆様こんばんは。
今週のTwitterの日本棋院若手棋士アカウントの担当者は、現在本因坊戦リーグでトップを走る本木克弥七段でした。
そして明日からは、一力遼七段が担当します!
凄い豪華リレーですね。

さて、本日は我々囲碁棋士の本業についてお話ししましょう。
棋士の本業は、何と言っても手合いを打つ事です。
手合いとは、つまり対局の事なのですが、その中でも棋戦の中で行われるものを指します。

<棋戦とは>
定義としては、実力を競い合う大会という事になるでしょう。
手っ取り早く言えば、ナンバーワンを決めるための争いです。
(勝ち抜き戦などもあり、必ずしもその限りではありませんが)

かつて囲碁棋士の生活は江戸幕府、あるいは裕福な武家や商家などのスポンサーによって支えられていました。
しかし、世の中の変化によって、それだけでは立ち行かなくなって来ます。
そこで、一般の囲碁ファン全体に支えて貰う必要が生じました。
そうして生まれたのが棋戦と考えられます。

例えば新聞に棋士の対局を載せ、囲碁ファンがそれを見るために新聞を買います。
そうして、間接的に囲碁ファンにお金を払って貰うのです。
かつては注目の対局を載せる事で、新聞の部数が爆発的に伸びるという事例もありました。

<頂点への道のり>
さて、我々の本業は棋戦に参加し、対局する事です。
究極的には、その中で一番になる事が目標になります。
では、どうやって一番を決めるべきでしょうか?

江戸時代のように、棋戦が無く、トップレベルの棋士が少なかった時代には、一番を決めたければ心ゆくまで対局すれば良かったのです。
しかし、現在は棋戦が多く、棋士も数百人、タイトルを取れる可能性のある棋士も数十人という時代です。
そこで、まず人数を絞る事から始まります。

<予選のシステム>

予選はトーナメントで行われます。
参加資格は様々ですが、予選を抜けて次の段階まで進める棋士は一握りです。下から順に予選C→予選B→予選A→最終予選と進み、そこを抜けると本戦またはリーグ戦に入れます。
所持タイトルや前年の結果次第でシードがあり、例えばAで1勝1敗なら次の年もAから、Aで1敗なら次はBからといった具合です。
なお、予選の段階がどれだけあるかは棋戦毎に違いますし、棋聖戦は全部まとめて1つの予選で、シードはありません。

かつて、予選は段位によって分けられていました。
初段から四段の棋士が参加する一次予選、五段から九段の棋士に加えて一次予選突破者が参加する二次予選、二次予選突破者にシード者を加えた三次予選、といった具合です。
有望な若手同士が潰し合う事も多く、低段者がいきなりリーグ戦に入るような事は極めて困難でした。
現在は入段数年の若手がいきなり活躍する事も珍しくありませんが、予選システムの変更も要因の一つに挙げられます。

<本戦のシステム>
本戦と名前が付いているとは限りませんが、予選の次の段階です。
阿含・桐山杯のように本戦トーナメントでそのまま優勝者を決める棋戦もあれば、名人戦のようにリーグの優勝者がタイトルホルダーに挑戦する形式もあります。
いずれにしても、ここまで来れば新聞等で名前や棋譜が出るので、多くの棋士が本戦出場を目標にしています。

ちなみに、NHK杯には予選がありません。
年間の賞金・対局料によって選抜されます。
前年に成績の良かった棋士が出場するという事ですね。

<棋戦の進行>
例えば私が名人戦予選Cの決勝に勝ったとすれば、次に打つ対局は名人戦予選Bと思われるかもしれません。
しかし、実際にはそうならないケースの方が多いのです。
棋士の数が多いですから、1つ1つの棋戦を順番にこなしていては、とても間に合いません。

こちらの棋戦スケジュールをご覧ください。
全ての棋戦が同時進行で行われている事がご理解頂けると思います。
中には週の数より対局数が多い棋士もいますが、パズルのように組み合わせてスケジュールを組む事によって回っているのです。
つまり、棋士にシーズンオフは殆どありません。
負けが込むとしばらく対局が無くなる事はありますが、全く嬉しくありません。

<手合い日>
現在は木曜日が手合い日、月曜日が準手合い日とされています。
基本的には木曜日に対局しますが、阿含桐山杯や竜星戦など、持ち時間の短い対局は月曜日に行われる事が多いですね。
また、対局の多い棋士は通常木曜日に行われる対局でも、月曜日などに詰め込まれる事があります。
いずれにしても、多くの棋士は対局日にいかに万全のコンディションで臨むかを考え、普段のスケジュールを組んでいるようです。


少々大雑把でしたが、棋戦のシステムについてご理解頂けたでしょうか。
現在行われている棋聖戦は、400人以上の棋士が参加した中での頂上決戦なのです。
同じプロからしても、雲の上の世界です。

Master対棋士 第17局&棋聖戦結果

2017年02月16日 23時59分59秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
本日、第41期棋聖戦(読売新聞社)第4局の2日目が行われました。
結果は河野臨挑戦者井山裕太棋聖に黒番中押し勝ち、シリーズ成績を2勝2敗としました。

各所で難解な戦いが起こりましたが、そこを乗り切っていく両者の技は、最高峰の戦いに相応しい見事なものでした。
特に河野挑戦者の持ち味である、精密な読みが光ったと思います。

ちなみに、封じ手予想は見事に外しました。
隅を捨てる発想は無かったのですが、打たれてみると流石と思いました。
碁盤全体を見た柔軟な発想でしたね。

本日は棋士の手合日なので、他にもグランドチャンピオン戦をはじめ、多くの対局が幽玄の間にて中継されました。
ぜひご覧ください。

さて、本日は昨日に引き続き、Masterと連笑七段の対局をご紹介します。
前局の直後に行われた2局目です。



1図(実戦)
連笑七段の黒番で、黒1と詰めた場面です。
白△が弱いので、まずは白Aと飛び出せば無難です。
すると黒もBあたりに進出する事になるでしょう。

しかし、Masterはその展開を選びませんでした。
その理由としては、左上は白が有利な戦場と判断している、という事が考えられます。
黒△と白△の比較では、白の石数が多いのです。
実際の判断基準はもっと複雑としても、白が有利に戦えるとの判断は理解できます。
白Aのような穏やかな手では、その優位を生かし切れないという事でしょう。





2図(実戦)
実戦は白1を一本利かし、白3と上辺から動きました。
自分の強い石から動いている嫌いもありますが、黒に目一杯迫っています。
その代わり黒6に迫られて左辺の白が弱くなりますが、黒の方が弱いので心配無いと判断しているのでしょう。





3図(実戦)
黒8までと進み、お互いの石はどちらも急には攻められなくなりました。
すると残った白△の石が、役に立つとみているのです。

さて、左上の戦いは一段落したので、他の大場に目を向ける事になります。
黒Aと押さえ込まれるのが気になりますが、それを防ぐには白Bがよく打たれる形です。





4図(実戦)
実戦は、白1以下のおまじないをしてから白7と飛びました。
これは何かというと、白Aのツケコシで黒△を分断する手を作っているのです。
黒の形を弱くする事で、間接的に白△を補強しています。





5図(実戦)
その後の白1、3も鋭い抉りです。
黒の足元をすくいながら、自分の根拠を確保しています。
黒4も白の薄みを狙ってこの一手に見えますが、結果的には空振りにさせられてしまいます。





6図(実戦)
何はともあれ、上辺が大場です。
白7までとなって、白△が役に立っている事がご理解頂けるでしょう。
黒は地合いで遅れないよう、黒8と稼ぎに行きましたが・・・。





7図(実戦)
白7までとなり、黒△が浮き上がりました。
これらの石は、お荷物以外の何物でもありません。





8図(実戦)
黒1はこの一手で、先手で白1と閉じ込められてはいけません。
しかし白2から、今後は左上の黒が攻められる事になりました。
2つのお荷物を抱えては、自由に打つ事はできません。
自然と白地が増え、碁も白勝ちになりました。

私が著書でお伝えしているように、碁は石の強弱が最も大事です。
自分の石は強く、相手の石は弱くする事ができれば理想的ですが、相手もいるのでそう簡単な事ではありません。
しかし、Masterは自然とそんな展開に持ち込んでしまいます。
中盤以降Masterの地ばかり増える碁が多く見られますが、そこに原因があるのです。

Master対棋士 第16局&封じ手予想

2017年02月15日 23時59分59秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
本日、第41期棋聖戦(読売新聞社)第4局が始まりました。
1日目から難解な戦いに突入し、驚いています。

封じ手予想は、F-5(幽玄の間座標)タケフです。
石の形からすれば、これしかないと言った所です。
他の手が打たれたらビックリですね。

さて、本日はMasterの棋譜を紹介します。
今回登場するのは連笑七段、中国でトップ10以内には入っているであろう棋士です。



1図(テーマ図)
連笑七段が黒△と打った場面です。
前例のある布石で、弱体化した白△をどう扱うかがポイントです。





2図(変化図)
3子を直接動くなら、白1でしょう。
一例として黒8までの進行が考えられます。
似たような実戦例もあったと思いますが・・・。





3図(実戦)
実戦は白1と、中央の要所を押しました。
黒2と打たれて3子が苦しそうですが、場合によっては捨てるつもりでしょう。
そして放った手は、白3のツケ!

黒Aと打たれたらどうするのかと思いますが、上手い事捌く図があるのでしょうね。
しかし、私にははっきり白良しと思える図は見えませんでした。
恐らく判断力の違いでしょう。





4図(実戦)
実戦は白の技を警戒して黒1と伸びましたが、白2と押して堂々の動き出しに成功しています。
白6、8と、2目の頭を両方ハネる事になっては、白が好調に見えます。





5図(実戦)
黒3も絶好のハネで、中央を制圧しながら白△にプレッシャーをかけています。
しかし、ここで右辺を逃げず白4とは柔軟です。
隅の黒は生きており、中央も黒3を打って強くなりました。
そこにへばりついた白△は、もはやカス石という訳です。





6図(実戦)
白4まで、上辺の白がしっかり安定しました。
黒5で右辺を取られますが、白6、8などを利かして外側で得ができます。
全体的に見ると黒石が右上に偏っており、白十分の分かれとなりました。

この後白Aに対して黒が対応を誤ったようで、形勢は一気に傾きました。
世界トップクラスと言えども、早碁では大きなミスも出ます。
本局は連笑七段としては不出来な碁となってしまいましたが、直後に再挑戦しています。
棋士は負けず嫌いなのです。

2月の情報会員向け解説

2017年02月14日 23時59分59秒 | 日本棋院情報会員のススメ
皆様こんばんは。
本日は毎月恒例、日本棋院情報会員のPRを行います。
なお過去の記事はこちらです→第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回
紹介記事は今回で10回目ですね。
棋譜再生ソフトの使い方は第4回で詳しく解説しています。

今月は趙治勲名誉名人対DeepZenGo、范廷鈺九段対朴延桓九段の2局を解説しました。
本日は范九段-朴九段戦の解説の一部をご紹介しましょう。



1図(テーマ図)
農心杯で、朴九段が范九段の連勝を止めた1局ですね。
范九段の黒番です。
白△と飛んだ場面にスポットを当ててみましょう。





2図(実戦進行)
黒1~白10までの進行となりました。
穏やかに分かれましたが、不思議な進行に見える方も多いでしょう。
この10手を詳しく解説しているので、ご紹介しましょう。





3図(実戦)
黒1「ここで飛びは、頑張った一着です。
原則からすれば、弱い石から動く所です。」

ここで参考図が入ります。





4図(参考図1)
3図黒1を打たなかった場合の変化です。

「黒1など、弱い石から動けば自然です。
しかし、白2を打たれ、黒模様の拡大を防がれる事が不満だったのでしょう。
プロは欲張りなのです。」





5図(実戦)
3図の続きです。

白1「しかし、このボウシが厳しい好手でした。」
黒2「黒は脱出を図りますが・・・。」
白3「直接触らず、柔らかくコスんだのも好手です。」

ここで参考図が入ります。





6図(参考図2)
前図白3で本図白1と押さえた場合の変化です。

「強引に止めようとすると、このように白が困ります。」





7図(実戦)
5図の続きです。

黒1「白の傷を狙いますが・・・。」
白2「冷静に繋ぎます。これで黒は手が出ません。」
黒3「結局黒は白の包囲網を破れず、凌ぎを図る事になりました。」
ここで参考図が2つ入ります。





8図(参考図3)
前図黒1で、本図黒1と打った場合の変化です。

「できれば黒1から、白の弱みを衝きたい所ですが・・・。」





9図(参考図4)
前図の続きです。

「前図の後このようになり、黒潰れてしまいます。」





10図(実戦)
7図の続きです。

「白としても、黒を取りに行くのは無謀です。
冷静に自分の弱点を守りました。」

ここで参考図が入ります。





11図(参考図)
前図白1で、本図白1と黒を取りに行く変化です。

「白1には、今度こそ黒4以下が成立します。
黒△が役立ち、白潰れです。」

黒△の効果で、本図白1と打たざるを得なくなりましたが、攻め合い黒勝ちです。
26手もの長手数ですが、ソフトでは1手ずつ並べられるのでご安心ください。





12図(実戦)
10図の続きです。

「これで黒も連絡しました。
一段落です。」

ここで参考図が入ります。
黒が連絡できている事の説明ですが、ここでは省略します。





13図(実戦)
「しかし、黒に2線を渡らせては白満足です。
この詰めが絶好点で、左辺の白模様が大きくなりました。」

以上、高度な駆け引きの末に生まれた10手でした。
このような調子で、序盤から終盤まで分かりやすく解説しています。

なお3月は、賀歳杯第1戦井山裕太九段対柯潔九段、小山栄美六段宮本千春初段の2局をご紹介します。
ご興味をお持ちになった方は、ぜひ日本棋院情報会員にご入会ください!