日本人が16年連続受賞!「イグ・ノーベル賞」 笑える研究の中に好奇心の種
安原和貴
EduA より221011
① 新しい人と出会って互いに魅力を感じると心拍数が●●することを証明(応用心臓学賞)
※ヒント:ただ心拍数が上がるだけではないのがポイントです
② 化学療法の副作用を●●で軽減できることを証明(医学賞)
※ヒント:子どもが大好きなあのおやつです
③ ●●が編隊を組んで泳ぐ方法を理解しようとした研究(物理学賞)
※ヒント:池などで泳いでいるあの生き物です
2022年9月15日(日本時間16日)、サイエンスに関するある授賞式が開かれました。
ノーベル賞と答えた人、惜しいです……! 開かれたのはもっとユニークな授賞式。
そう、「イグ・ノーベル賞」。
今年は日本人が16年連続で受賞したことでも話題になりました。
今回のテーマはイグ・ノーベル賞について。
ただ笑えるだけの研究と侮ることなかれ。実はイグ・ノーベル賞には公式の選考基準があるのです。選考基準とともに、ユニークな過去の受賞研究を一緒に見てみましょう。
(今年イグ・ノーベル賞を受賞した千葉工業大学の松崎元教授=千葉県習志野市)
⚫︎人を笑わせ、考えさせた研究に授与
イグ・ノーベル賞とは1991年から始まった、面白いが埋もれた研究業績を知ってもらうための賞のこと。「イグ(ig)」という否定を表す英語と「ノーベル賞」を組み合わせた造語で、英語の「ignoble(不名誉な)」にもかけています。
今年、日本人で受賞したのが、千葉工業大学の松崎元教授らの「円柱形のつまみを回すときの指の使い方」についての研究でした。
⚫︎人を笑わせ、考えさせた研究に授与
イグ・ノーベル賞とは1991年から始まった、面白いが埋もれた研究業績を知ってもらうための賞のこと。「イグ(ig)」という否定を表す英語と「ノーベル賞」を組み合わせた造語で、英語の「ignoble(不名誉な)」にもかけています。
今年、日本人で受賞したのが、千葉工業大学の松崎元教授らの「円柱形のつまみを回すときの指の使い方」についての研究でした。
こちら、つまみをつかむときの指の本数が、つまみの直径に応じて変わるという研究なのです。
これだけだと、イメージが湧かない人も多いかもしれません。実際にご家庭にある円柱形のものを使って実験してみるのがオススメです。
これだけだと、イメージが湧かない人も多いかもしれません。実際にご家庭にある円柱形のものを使って実験してみるのがオススメです。
ペットボトルのふたをつかむとき。調味料のふたをつかむとき。水筒のふたをつかむとき。果たして、皆さんは何本の指でつかんでいますか。
実際に、松崎教授らの結果によれば、多くの人が直径10~11ミリで2本から3本に、直径23~26ミリで3本から4本に、直径45~50ミリで4本から5本に変えているといいます。
無意識に指の本数を使い分けていることが多いので、実験してみると、「たしかに!」と気づきが多いと思います。この結果は、使いやすい製品デザインの開発に応用することができるようです。
これまでの日本人が受賞した研究もユニークなものばかり。
実際に、松崎教授らの結果によれば、多くの人が直径10~11ミリで2本から3本に、直径23~26ミリで3本から4本に、直径45~50ミリで4本から5本に変えているといいます。
無意識に指の本数を使い分けていることが多いので、実験してみると、「たしかに!」と気づきが多いと思います。この結果は、使いやすい製品デザインの開発に応用することができるようです。
これまでの日本人が受賞した研究もユニークなものばかり。
2012年の受賞研究が、日本人の研究者が開発した「Speech Jammer」。直訳すると、「発話妨害器」。なんとこちら、「話が長い人を黙らせるための機械」なのです。
他にも、14年には「バナナの皮を踏んだときの滑りやすさ」について本気で研究したなんて例も。
このようにクスッと笑ってしまうような研究だらけなのがイグ・ノーベル賞の特徴。
では、このイグ・ノーベル賞。ただ人を笑わせるだけの研究に授与されるのでしょうか。実はイグ・ノーベル賞には公式の選考基準があるのです。
では、このイグ・ノーベル賞。ただ人を笑わせるだけの研究に授与されるのでしょうか。実はイグ・ノーベル賞には公式の選考基準があるのです。
ずばり、「make people laugh, then think」。つまり、人を笑わせて、その後に「考えさせた」研究に授与されるのです。考えさせる、とはどういうことでしょうか。
⚫︎研究が固定観念を壊すきっかけに
例えば、20年。「ワニにヘリウムガスを吸わせると声が変わる」という研究で、京都大学の西村剛さんらがイグ・ノーベル賞を受賞しました。
⚫︎研究が固定観念を壊すきっかけに
例えば、20年。「ワニにヘリウムガスを吸わせると声が変わる」という研究で、京都大学の西村剛さんらがイグ・ノーベル賞を受賞しました。
「ヘリウムガスを吸うとヒトの声が高くなる」という現象をテレビやYouTubeで見たことがある人も多いと思います。それをなんとワニに応用させたのです。
では、皆さん、この研究を聞いてみて、どんな疑問が浮かびますか。例えば、こんな疑問が浮かぶのではないでしょうか。
・そもそもヒトはどうやって声を発しているのか。
・なぜヘリウムガスを用いると声が変わるのか。
・声を出すメカニズムはヒトとワニで異なるのか。
・ヘリウムガスで声が変わる動物は一部の哺乳類や爬虫類(はちゅうるい)だけなのか。
もちろんこれは疑問の一例に過ぎません。中にはもっとマニアックな部分が気になった方もいるでしょう。いずれにせよ、ワニとヘリウムガスというユニークな組み合わせによって、好奇心が少しくすぐられる感じがしませんか。
では、皆さん、この研究を聞いてみて、どんな疑問が浮かびますか。例えば、こんな疑問が浮かぶのではないでしょうか。
・そもそもヒトはどうやって声を発しているのか。
・なぜヘリウムガスを用いると声が変わるのか。
・声を出すメカニズムはヒトとワニで異なるのか。
・ヘリウムガスで声が変わる動物は一部の哺乳類や爬虫類(はちゅうるい)だけなのか。
もちろんこれは疑問の一例に過ぎません。中にはもっとマニアックな部分が気になった方もいるでしょう。いずれにせよ、ワニとヘリウムガスというユニークな組み合わせによって、好奇心が少しくすぐられる感じがしませんか。
その結果、今まで当たり前だと考えていた現象を「そもそもこれってなんでだっけ」と考える機会になったり、固定観念を壊すきっかけになったりするわけです。それこそがイグ・ノーベル賞の狙いなのです。
ちなみに、そもそもなんでヘリウムガスでヒトの声は高くなるのでしょうか。ヒトの声はまず、肺から出る空気の流れによって、のどの声帯が振動することで発生します。その後、声帯で生じた振動は、口を出るまでに声道という空間で共鳴することで、声として聞こえるようになります。
また、ヘリウムは地球上で2番目に軽い気体で、音を伝えやすいという特徴を持ちます。理科の授業などで、空気中を音が伝わる速さは、秒速約340メートルと聞いたことがある人も多いと思います。
ちなみに、そもそもなんでヘリウムガスでヒトの声は高くなるのでしょうか。ヒトの声はまず、肺から出る空気の流れによって、のどの声帯が振動することで発生します。その後、声帯で生じた振動は、口を出るまでに声道という空間で共鳴することで、声として聞こえるようになります。
また、ヘリウムは地球上で2番目に軽い気体で、音を伝えやすいという特徴を持ちます。理科の授業などで、空気中を音が伝わる速さは、秒速約340メートルと聞いたことがある人も多いと思います。
それに対して、ヘリウム中を音が伝わる速さは秒速約1000メートル。なんと3倍ほどにもなるのです。そのため、ヘリウムガスを吸って肺から空気を出すと、声道中を伝わる音の速さも3倍ほどになります。その結果、共鳴する音の振動数が高くなり、音が高く聞こえるという原理なのです。
先ほどの研究では、結果的に、ワニの鳴き声の出し方は、哺乳類の声の出し方と同じだと明らかにしました。これは、「鳴き声」というものが、どのように進化してきたかを解き明かす成果だともいわれています。
今年の受賞研究もユニークなものばかり。一部を紹介するので、●●に入る言葉をぜひ予想してみてください。(●●は2文字とは限りません)
実際に正解を見てみましょう。
一つ目は、新しい人と出会って互いに魅力を感じると心拍数が「シンクロ」することを証明した研究でした。魅力的な相手に出会うと心拍数が一致していく、という漫画の世界のような出来事が現実で起こっていることを明らかにしたのです。
二つ目は、化学療法の副作用を「アイスクリーム」で軽減できることを証明した研究でした。白血病などの治療で抗がん剤を用いて化学療法を行う際に、粘膜炎が口の中にできることがあります。その際に、アイスクリームを用いたところ、氷と比べて粘膜炎を抑える効果が見られたそうです。
そして三つ目。「子ガモ」がどのように編隊を組んで泳ぐかについて明らかにした研究でした。子ガモが親ガモの後ろを一列に並んで泳いでいる姿、一度は見たことがあるのではないでしょうか。なんと、親ガモが先頭を泳いでいるのには大切な理由があるのです。実は親ガモが先頭を泳ぐことで生じる波に、うまく子ガモが乗ることで、子ガモがエネルギーを節約しながら泳ぐことができるのだといいます。
今年の研究も考えさせられるものばかりですよね。
本日のお話はここまで。イグ・ノーベル賞、いかがでしたか? ノーベル賞のような権威はないかもしれませんが、研究という遠い存在を身近に感じる賞のように思えます。
先ほどの研究では、結果的に、ワニの鳴き声の出し方は、哺乳類の声の出し方と同じだと明らかにしました。これは、「鳴き声」というものが、どのように進化してきたかを解き明かす成果だともいわれています。
今年の受賞研究もユニークなものばかり。一部を紹介するので、●●に入る言葉をぜひ予想してみてください。(●●は2文字とは限りません)
実際に正解を見てみましょう。
一つ目は、新しい人と出会って互いに魅力を感じると心拍数が「シンクロ」することを証明した研究でした。魅力的な相手に出会うと心拍数が一致していく、という漫画の世界のような出来事が現実で起こっていることを明らかにしたのです。
二つ目は、化学療法の副作用を「アイスクリーム」で軽減できることを証明した研究でした。白血病などの治療で抗がん剤を用いて化学療法を行う際に、粘膜炎が口の中にできることがあります。その際に、アイスクリームを用いたところ、氷と比べて粘膜炎を抑える効果が見られたそうです。
そして三つ目。「子ガモ」がどのように編隊を組んで泳ぐかについて明らかにした研究でした。子ガモが親ガモの後ろを一列に並んで泳いでいる姿、一度は見たことがあるのではないでしょうか。なんと、親ガモが先頭を泳いでいるのには大切な理由があるのです。実は親ガモが先頭を泳ぐことで生じる波に、うまく子ガモが乗ることで、子ガモがエネルギーを節約しながら泳ぐことができるのだといいます。
今年の研究も考えさせられるものばかりですよね。
本日のお話はここまで。イグ・ノーベル賞、いかがでしたか? ノーベル賞のような権威はないかもしれませんが、研究という遠い存在を身近に感じる賞のように思えます。
笑ってしまう研究の中に、自身の好奇心の種が埋まっていることに気がついた方もいるのではないでしょうか。興味を持った方は、今後の受賞研究はもちろん、ぜひ過去の研究も調べてみてください。
(プラスティー教育研究所執行役員、理科科主任/安原和貴)
(プラスティー教育研究所執行役員、理科科主任/安原和貴)