チャットGPTの開発者が次に狙う、人間に寿命200年もたらす新薬
JBpress より 230415 堀田 佳男
⚫︎若さを取り戻したいという人間の願いが叶うかもしれない
いま話題のチャットGPT。米新興企業オープンAI社が開発した対話型AI(人工知能)サービスである。
開発者のサム・アルトマン氏(37)が4月10日に来日し、岸田文雄首相と会談した。
日本国内での利用者数はすでに1日100万を超えていると言われ、今後は日本での事務所開設と同時に、日本語でのAI精度をさらに高めていく予定だ。
注目が集まるアルトマン氏だが、実は同氏が関心を寄せているのはAIだけではない。
同氏は以前から「人間の平均寿命を10年延ばす」というミッションを掲げており、すでに多額の資金を投資している。
本稿ではこの平均寿命を延ばす課題に焦点を当てたい。
アルトマン氏は2022年半ば、サンフランシスコ郊外に本社を置くレトロ・バイオレンス社という新興企業に、1億8000万ドル(約240億円)を投資したといわれている。
同社は人間の老化を食い止め、寿命を延ばすことをミッションにした組織で、欧米メディアの中には、同社の事業がうまくいけば「200歳まで生きることが夢ではなくなる」といった煽ったタイトルを掲げる記事もみられるほどだ。
さらに人間の老化を逆転させる錠剤が今後5年以内に出されるという話もある。
アルトマン氏だけでなく、いまシリコンバレーの億万長者たちの間で新たなブームになっているのが、この「不老不死」というテーマなのだ。
これまでは神話の域を出なかったが、単なる神話的なものではなく、現実的に老化を防止する方策に数百億円という資金が投資され始めている。
彼らが共有して抱くのが「死を治療する」という考え方なのだという。
無限の生命を手に入れるために、遺伝子工学と新しい生物医学の技術を駆使して老いのリスクを解放しようというのだ。
アルトマン氏はこれまでよりも大きい目標を掲げることで、優秀な科学者を惹きつけることができると述べている。
ある意味で楽観的と言えなくもないが、いまは実現不可能にみえる技術であっても近い将来、実際に使えるようになる可能性がある以上、その分野に多額の投資をし続けるという。
同氏の最近のツイートに、こんな言葉がある。
「小さな計画を立てるな。小さな計画には人の血を騒がせるような魔法はないのだから」
アンチエイジングに力を入れているのはアルトマン氏だけではない。
アマゾン・ドットコムの創業者ジェフ・ベゾス氏も2022年に延命治療の新興企業アルトス・ラボに30億ドル(約4000億円)という巨費を投資している。
さらにペイパルの創業者ピーター・ティール氏やグーグルの共同創業者ラリー・ペイジ氏、オラクルの創業者ラリー・エリソン氏、メタ(元フェイスブック)創業者のマーク・ザッカーバーグ氏などもアンチエイジングに強い関心を示している。
2022年11月に日本でも出版された「Ageless(エイジレス):「老いない」科学の最前線」の著者、アンドリュー・スティール氏は「老化は史上最大の人道的課題である」と述べ、アンチエイジングを喫緊の課題であると捉えている。
いま注目が集まっているのは、「セノリティクス」といわれる老化細胞除去薬で、世界で20社以上が新薬として開発中であるといわれている。
年老いても心臓や脳、体のあちこちを若返らせることができたら──。
これは長寿研究に寄せられる熱い期待であり、ラボの実験では、このセノリティクスによって突然年老いたマウスが生き生きと動き出したという報告もある。
さらに老化細胞を分解することで知られるダサニチブやケルセチンといった化合物の期待も高まっている。
この2つを併用することで若さを保てるかもしれないという。
取材をしていくと、アンチエンジングを推進する上で重要なのは、優れたバイオベンチャー企業の育成であることが分かってくる。
そのためには科学の叡智と大企業の資本、そして物事を成就させようというスタートアップ精神の複合が必要になる。
アルトマン氏は現時点で、この分野で最前線に立っている。
それではオープンAIを主導するサム・アルトマン氏とはいったいどういった人物なのか。
米中部ミズーリ州セントルイスで育った同氏は、8歳でマッキントッシュのパソコンでプログラミングを学んでいる。
スタンフォード大学に進学してコンピューター・サイエンスを専攻したが、2年次(2005年)に中退。
友人とLoopt(ループ)というスマートフォン向けの位置情報サービス企業を起ち上げ、共同創業者兼最高経営責任者(CEO)に就いている。
2012年になってLooptを4300万ドル(約57億円)で売却。
その後も複数の投資と経営に携わった後、2015年に現在CEOを務めるオープンAIを起ち上げている。
実は、同社は電気自動車大手テスラや航空宇宙メーカー、スペースXのCEOであるイーロン・マスク氏と共同で設立した企業でもある。
オープンAIは営利企業ではあるが、親会社は非営利にしており、「営利と非営利のハイブリッド」の団体と言われている。
200歳は無理にしても、多くの方は長寿を望まれているだろう。
そうした中でアルトマン氏が目指しているのは、病気の発生を抑えると同時に老化のプロセスを遅らせ、エピジェネティクスの研究を通じて細胞を初期化することだと言われている。
重要なことは、加齢に伴う諸般の事情を考慮して、健康や生活の質を維持していくことであり、薬剤と生活習慣の改善を組み合わせることで、晩年に遭遇する病気に総合的に対処することであろう。
ペイパルのティール氏は、「人間の任務は死と闘うこと」としてトランスヒューマニズムという考え方を提唱している。
超人間主義と訳されるこの概念は、新しい科学技術を駆使して、体と認知能力を向上させ、人間の状況をこれまでにないレベルに昇華させようというものだ。
平均寿命を10年延ばすだけでなく、病気も死もない不老不死が本当に手にできれば素晴らしいことであるが・・・。